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折り紙の数理と形状設計
鶴田直也
東京工科大学
2015.10.9 数理人
自己紹介 (1/2)
• 名前: 鶴田直也
• 研究内容:
– コンピュータグラフィックス
– インタラクティブアプリケーション
– 形状モデリング
– 計算折紙
• 略歴:
– 2012.4-2015.3: 筑波大学博士課程
– 2015.3-:東京工科大学 助手
2
自己紹介 (2/2)
• 出没する学会、研究会
– 折紙の科学・数学・教育研究集会
• 東京、年2回
– 日本図学会大会
– 応用数理学会年会
• 折紙工学の研究部会
– 情報処理学会GCAD研究会
3
今日のお話
• 折り紙の研究とは
– 計算機による折紙設計
– 折り紙研究の紹介
• 最近の話題
• 鶴田の取り組み
– 折りたたみパターンの列挙
– 立体的な曲げ形状設計
4
計算機上での形状設計
• CG(コンピュータグラフィックス)
– 視覚的な画像、映像用途
– 自由なモデリングが可能
• CAD(コンピュータ支援設計)
– 現実の物体をモデリング
– 物理的な制約を考える
必要がある
Autodesk, Inc.
Blender Foundation
5
計算機上での折紙の形状設計
• 紙の折り曲げによる形のデザイン
• 計算機上で扱う利点:
– 手作業による試行錯誤の軽減
– 平坦に折り畳めるように形状を自動修正
– 折り畳み方のシミュレーション
[Mitani 2011] 6
計算機によって設計された折紙
[Tachi 2008] [Mitani 2009][Lang 2004]
Air bag simulation
[Lang 1999] [Mitani, Issey Miyake 2010]Solar sail [JAXA]
7
「折紙の形状設計」の課題
• 設計可能な領域が制限される
– 設計可能な世界の解明
– 埋没しているであろう価値ある形状の発見
CG
CAD
設計可能な領域の包含関係
ペーパークラフト
折り紙
8
本研究の目的
• これまで知られてこなかった折紙でできる
新しい形状を見つけ出す
– 計算機による設計支援
• 作品創作や工学応用の起点となりうる
折紙の資産の積み上げ
9
関連分野 - 折紙の世界
2D
平坦に折り畳み可能
1D
細長い紐や帯の折り畳み
3D
立体的な形状
[Douglas et al.] ユニット折り紙
[Huffman]
テセレーション[Gjerde]
一般的な折り紙作品
剛体折り [Tachi]
[Umesato et al.]
10
切り起こしによるコアパネル製造
• 切り込みを許容し、
折り工程のみで製造
– 従来必要だった接着
作業が不要に
11
従来手法(左)と折紙式製造法(右) [Saito et al. 2014]
本発表の「折紙」の指す範囲について
• 糊付けによる接着は不可
– ペーパクラフトは含まない
• 切り込みの可否は?
– まだ十分に議論されていない新しい領域
切り込みなし 切り込みあり 複数部品の接着あり
古典折紙 切り起こし 折り紙建築 ポップアップ・カード 紙工作
12
最近の話題 (1/2)
• 2方向に折りたたみ可能な構造
– 建築物や構造物への応用
13
世界のORIGAMIはすごい。超頑丈で伸縮自在の折り紙構造物 : ギズモード・
ジャパン http://www.gizmodo.jp/2015/09/origami.html @gizmodojapanさんから
最近の話題 (2/2)
• 衣類のデザインやトラスコアへの応用
14
“Origami” から生まれる世界的な技術革新 | nippon.com:
http://www.nippon.com/ja/currents/d00161/#.Vhdfo-Ozec4.twitter
後半の内容
• 折り畳みパターンの列挙
– 膨大な山折り谷折りの組み合わせが存在
• 最適化による立体的な折紙形状の設計
– 幾何的な拘束を満たす形状を自動的に計算
15
折り畳みパターンの列挙
16
Stamp Folding と Map Folding
• Stamp Folding (1D)
– 等間隔に配置された山谷の折り線
– 紙の重なり順が異なる折り方は何通りあるか
• Map Folding (2D)
– グリッド上に配置された山谷の折り線
– 平坦に折り畳めるかどうかの判定はNP完全
[Arkin et al. 2004]
Map Folding のイメージ 17
折り畳み形状列挙 [Tsuruta et al. 2012]
• 本研究の貢献
– 紙を折る操作や折る回数を制限することで、
4回以下の折りで可能な形状を列挙
– 紙を折り畳んだ形状を自動生成する
アルゴリズムの考案
– 得られた形状群からコンピュータで自動生成され
た新しい折紙作品を発見
自動生成した形状のリストと発見した鳥のモデル 18
列挙アルゴリズム概要
• 全7通りの折り紙の公理 (折り紙のカドや辺を
参照要素とする折り方)のうち3つを使用
– 残りの折り方は一般に用いられないため除外
• 3通りの折り方について、可能な参照要素の
組み合わせをすべて試行
19(A) 2点を通る (B) 2点を重ねる (C) 2辺を重ねる
折紙の公理 [Justin 91, Huzita 91]
• 点と直線の組み合わせ
– 注: 現在は折りたたみが成立しない条件がある
ことがわかっている
20
列挙された形状 [Tsuruta et al. 2012]
1回折り
2回折り
3回折り 4回折り
21PDF is available on my web -> http://grusfield.com/tsuruta/origami/lists/
スリットを含む平板素材の
曲げ形状設計
22
背景
• 平板素材を用いた
設計の利点
 素材の無駄を減らす
 接続部材が少ない
 設計の自由度が低い
[Flux Furniture B.V. 2010]
[FUCHS+FUNKE Industrial Design 2007]
23
対話的な可展面の設計
平面曲線での折り曲げ
[Mitani and Igarashi 11]
帯状の曲げ
[Bo and Wang 08]
展開図と立体形状の同時編集
[Solomon et al. 12]
折りの鋭さの調整
[Zhu et al. 13]
24
折り曲げの幾何的なモデリング
• 平面四辺形メッシュによる可展面の
離散表現 [Liu et al. 06]
• 平板の集合による形状モデリング [Pottmann 08]
可展面の離散表現
[Liu et al. 08]
平板の折り曲げによる実際の建築物と
それを模したCG [Pottmann et al. 08] 25
平面四辺形メッシュ
• 平面四辺形(Planar Quads)メッシュ
– 4つの頂点が同一平面に乗るような四辺形集合
• 各頂点座標が満たすべき拘束条件の関数を
Gauss-Newton法(など)で最小化
– 行列の大きさはメッシュサイズに依存
𝑓𝑝𝑞 ≔ 𝑑𝑖𝑠𝑡 𝑠𝑒𝑔 𝑎0, 𝑏1 , 𝑠𝑒𝑔 𝑎1, 𝑏0
2
= 0
𝑠𝑒𝑔 𝑎, 𝑏 : 𝑎𝑏 間の線分
𝑑𝑖𝑠𝑡 𝑠, 𝑣 : 𝑠𝑣 間の距離
26
スリット入り素材の折り曲げ [Tsuruta
et al. 2013]
• 本手法の貢献
– スリットを含む素材の折り曲げに着目
– 対話的な設計システムを提案
– 幾何拘束を自動的に満たすための最適化手法
の実現
開発したシステムの実行画面 27
概要
• 対象とする形状:
複数のスリットを含む左右対称な長方形素材
• 曲げ形状を対話的に編集するシステムの提案
– 幾何的な拘束は最適化によって自動的に満たされる
対称平面
素材の展開図と曲げ形状のイメージ
28
デモ
29
対象とする展開図
• 展開図は L1 から L4 の数値とストリップの
本数N で定義
– スリット幅は等間隔
展開図の定義
30
ストリップの折り曲げ
• ストリップは 𝑀 + 1 個の折り線E を持つ
• 折り線E は平面上の位置と角度からなる
𝑬= { 𝒙 𝑳, 𝒙 𝑹, 𝜽}
平面上の折り線 逐次的に曲げることで
3次元形状を計算
31
幾何的な制約
• ストリップの始点はユーザによって定義
• 終端は対称平面上に乗らなければならない
32
最適化
• 勾配法で 𝐹𝑝𝑒𝑛𝑎𝑙𝑡𝑦 を最小化
𝐹𝑝𝑒𝑛𝑎𝑙𝑡𝑦 = 𝑤1 𝐹𝑛𝑜_𝑔𝑎𝑝 + 𝑤2 𝐹𝑠𝑚𝑜𝑜𝑡ℎ
+ 𝑤3 𝐹𝑓𝑎𝑖𝑟 + 𝑤4 𝐹𝑢𝑠𝑒𝑟_𝑐𝑜𝑛𝑡𝑟𝑜𝑙
1. 素材の位置拘束 2. 曲げの滑らかさ
3. 四辺形の縮退 4. ユーザ指定の位置拘束
初期状態の折り線と最適化後の折り線 33
1. 終端の位置拘束
• 全体形状が左右対称であり、鏡像と連結する
ことで得られるため、対称平面との距離
𝐹𝑛𝑜_𝑔𝑎𝑝 ≔ (𝑣 𝐿,𝑛) 𝑥
2
+ (𝑣 𝑅,𝑛) 𝑥
2
をゼロにする
終端と対称平面との距離
34
2. 曲げの滑らかさ
• 折り角度の差分を少なくし、対称面と直交するように
𝐹𝑠𝑚𝑜𝑜𝑡ℎ ≔ −𝜃𝑖−1 + 2𝜃𝑖 − 𝜃𝑖+1
2 + 𝐹𝑒𝑛𝑑_𝑎𝑛𝑔𝑙𝑒
𝐹𝑒𝑛𝑑_𝑎𝑛𝑔𝑙𝑒 ≔ 𝑣 𝐿,𝑛−1 − 𝑣 𝐿,𝑛 ∙ 𝑣 𝑝𝑙𝑎𝑛𝑒_𝑜𝑓_𝑠𝑦𝑚𝑚𝑒𝑡𝑟𝑦
2
隣接する折り線の角度差と対称平面に接する角度を制御 35
3. 四辺形の縮退排除
• ストリップの四辺形が三角形に縮退する
(折り線が交差する)ことを防ぐ
𝐹𝑓𝑎𝑖𝑟 ≔
1
𝑥 𝐿,𝑖 − 𝑥 𝐿,𝑖−1
+
1
𝑥 𝑅,𝑖 − 𝑥 𝑅,𝑖−1
36
4. ユーザ指定の頂点位置拘束
• 対称面上の位置と各頂点の位置を指定
𝐹𝑢𝑠𝑒𝑟_𝑐𝑜𝑛𝑡𝑟𝑜𝑙 ≔ 𝑣 𝐿,𝑖 − 𝑣′
𝐿,𝑖
2
+ 𝑣 𝑅,𝑖 − 𝑣′
𝑅,𝑖
2
+ 𝑑𝑖𝑠𝑡 𝑣 𝐿,𝑛, 𝑐 𝑠𝑦𝑚𝑚𝑒𝑡𝑟𝑦 + 𝑑𝑖𝑠𝑡 𝑣 𝑅,𝑛, 𝑐 𝑠𝑦𝑚𝑚𝑒𝑡𝑟𝑦
ユーザによる位置指定 37
ストリップの細分割
• より滑らかな曲面と詳細な編集
– 折り線の数を増加
– 細分割後に最適化を実行
Subdivide optimize
細分割と最適化による滑らかな曲面
38
結果 (1/2)
• ストリップ 6本 と 10本 の椅子モデル
39
結果 (2/2)
• ストリップ 9本のモニュメント
40
誤差
• 最適化のため微小な誤差が含まれる
• 誤差E は鏡像とのズレの最大値G から計算
𝐸 = 𝐺/(𝐿2 + 𝐿3)
誤差: 0.15% (全体形状に
対するズレの大きさ)
41
測定点群への近似
• 紙で制作したモデルを3次元測定
– 得られた点群に近づけるような拘束条件を追加
3次元測定データ 出力測定データを部分的に抽出
したものと編集中の形状
42
妥当性の検証
• 伸縮しない紙を設計した形状に一致させられ
ることの確認
– 厚みの考慮をしていないため、長さがわずかに
足りなかった
43
3Dプリントした型と画用紙を張り合わせた様子
寸法(W/H/D): 247 × 233 × 179mm
実制作
• 紙のみで目的の形を保持することは難しい
– 折り目がなく、力学的な平衡点に落ち着くため
• 部分的なサポートが必要
44建築家らによる紙を用いた試作
まとめ
• 折紙研究の概説
– 幅広い折紙の世界と工学的な応用
• 折り畳みパターンの列挙
– 紙の重なりが生み出す膨大なパターン
• 最適化による立体的な折紙形状の設計
– 平面四辺形で構成された幾何モデル
45

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