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分子の話
-第一原理計算-


カーネル/VM 勉強会
  懇親会LT
  @cosmo__
自己紹介

●
    コスモ
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●   Blog(Wordpress):cosmo0920
●
    Pixiv、SoundCloudにも生息しています
●
    ソフトウェアエンジニア見習い
●
    この間までラボ畜。専攻は化学でした
    (分子の計算をしていました)
カーネル/VMと
言えば…
低レイヤー
低レイヤーの定義

●
    低レイヤーはどこから低レイヤー?
     ユーザランド


              ↓
      カーネル        下に行く程レ
     ハードウェア       イヤーが低い
                  (はず?)
       ・
       ・
       ・
●
    半導体の性質はその上で動くカーネルからみ
    ると低レイヤー

      ↓ 一段降りてみる

    半導体の性質を決めるもの is

    何
           A.分子(の中の電子)
分子の中の電子の話をしよう。

●
    分子の中の電子は…
     ●
       分子の中の電子は物質の性
       質を決める最小単位
     ●
       分子の大きさは周りを回る
       電子の動ける空間の大き
       さ
分子の概念
 ●
     分子の概念が西洋科学で検証され始めたのは
     それ程古くない
     →1920年代に提唱された量子力学の貢献




           ニールス・ボーア                            ポール・ディラック
出典:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Niels_Bohr.jpg
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Dirac_4.jpg
物理の道具を用いますよ

ハミルトニアン・・・系の特徴を記述



波動関数・・・量子的な粒子を記述
量子力学の基本方程式
時間に依存するシュレディンガー方程
式



時間に依存しないシュレディンガー方程
式
厳密なハミルトニアン




これは厳密には解けない
シュレディンガー方程式

●
    大変美しい方程式
    →しかし、厳密に解けるの
    は水素原子まで!
     あれ?分子の計算はどうなるの…
Hartree-Fock法

●
    シュレディンガー方程式
    →厳密…でも解けない
●
    ハートリー・フォック方程式
    →厳密ではない…しかし解く方
    法が存在する(近似解)
問題を読み替える

●
    よろしい、解けない部分を解
    けるように変えてしまえ
    →とりあえず相互作用しないものとして計算
●
    ハートリー・フォック方程式
第一原理計算(ab initio計算)

 第一原理ハミルトニアン



解けない項をとりあえず無視すると
   最後の項だけが問題
Hartree-Fock方程式

●
    対角化と固有値問題に帰着する


    フォック演算子
SCF(Self Consistent Field)
  原子軌道関数ρ(r,0)、一電子のルーチン

   n-1回目電子密度 ρ(r,n-1) 、二電子のルーチン

   電子密度からポテンシャルを計算

  波動方程式を解く Hψ=Eψ → ρ(r,n)が求まる
違った場合は戻る
      ρ(r,n) = ρ(r,n-1)なら終了
計算量の話

●
    ハートリーフォックのSCF計算ではO(N^4)の
    ルーチン(二電子のルーチン)があります
●
    しかもそのルーチンはSCFのサイクル毎に呼
    ばれます

      計算コストが高い!!
          HPC!!
最小のプログラム(C++版)
cosmo SCF% wc -l *.h
    9 collect.h
    9 hfcalc.h
    9 integral.h
    10 one_integral.h
    30 param.h
    9 scf.h
                               水素分子を計算するだけでも…


                               >787行<
    8 two_integral.h
    15 util.h
    99 total
cosmo SCF% wc -l *.cpp
    68 collect.cpp
    20 hfcalc.cpp
   140 integral.cpp
    19 main.cpp
    56 one_integral.cpp
    30 param.cpp
   127 scf.cpp
    24 two_integral.cpp
   160 util.cpp
   644 total
cosmo SCF% wc -l **/*.hpp
    44 include/FixMatrix.hpp
つらい
流石に実装するのはきつかった…

●
    第一原理計算でどんな性質がわかる?
     ●
         分子構造
     ●
         イオン化ポテンシャル
     ●
         双極子モーメント
     ●
         振動エネルギー
     ●
         反応性、溶媒効果
         等々…の分子の性質が計算出来る
第一原理計算のソフトウェア
         ―特に分子軌道計算が出来るもの
●
    多くはプロプラのソフトウェア
     ●   Gaussian
     ●   Jager
     ●   GAMESS-UK
●
    学術使用は自由
     ●   GAMESS-US
     ●   SIESTA
●
    中にはオープンソースも
     ●   PSI3(PSI4が開発中)
     ●   NWChem(North West Chem)
フリーな第一原理計算ソフトウェア
●   NWChem
    NWChem: Delivering High-Performance Computational
    Chemistry to Science
    http://www.nwchem-sw.org/index.php/Main_Page
●
    PSI4(まだβ版)
    PSI4: ab initio quantum chemistry
    https://github.com/psi4

         お家でab initio計算ができる時代
>ただし言語はFortran<

   …たまにC++製もあります
つらい
今どの程度まで計算が可能か

●
    第一原理計算は最低O(N^4)なので数百原子が
    限界
●
    微細な構造も含めて半定量的な議論まではで
    きる
     ●
         磁性はまぁまぁ予測できる
     ●
         反応経路もまぁまぁ予測できる
     ●
         半導体のバンドも計算により再現出来ます
    →が、まだまだ定量性に欠ける
まとめ

●
    ここで解説したものはまだ基本的な第一原理
    計算の理論のさわりです
    →なので実際の計算に入るにはまだ知識不足
●
    ハートリーフォック法は電子の相互作用を無
    視している部分があるので…

      正しく間違った計算をする
      ことができます!!

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