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第2回・フォーラム 仙台湾/海岸エコトーンの復興を考える
—2011年南蒲生/砂浜海岸エコトーン調査報告,そしてこれから—       東北学院大学土樋キャンパス




          郷右近勝夫(東北学院大学・工学部)
          五十嵐由里・斎藤勝雄・高橋雄一(宮城昆虫地理研究会)
                                   仙台市深沼海岸,2011年6月15日撮影
調査目的
◆仙台湾沿岸の砂浜海岸における巨大津波襲来の昆虫類
 への影響を調べる。


1) 果たして,どんな虫が生き残ったか,または消滅したか?

2) 虫たちの回復の現状。

3) 砂浜海岸の虫たちの生存を脅かす要因は何か?
ライトトラップ




   調査対象区域および調査期間と方法
・2011年7月9日~10月16日 延べ26日間
・任意採集,ライトトラップ(灯火採集),砂ふるい,
 ベイトトラップ(誘引剤を用いた落とし穴採集)など。
                             松林に設置したベイトトラップ
                             (主に地表を歩く虫が対象)
調査結果
      12目92科307種が記録された!!

                      種数(%)
       3.9                      n=307
                7.5
                                        チョウ目
         6.2
                         32.6           コウチュウ目
                                        カメムシ目
       11.4                             ハチ目
                                        バッタ目
                                        トンボ目
         14.3
                      24.1              その他6目




図1. 巨大津波襲来後の仙台湾砂浜海岸で採集された昆虫の目別種数割合
被害状況

◆砂浜特有の海浜性昆虫は、盛夏以前では種数・個体数
 ともに激減 →その後徐々に種数は回復傾向にあった。

◆内陸側(砂浜後背地)でも,地表付近で生活するゴミムシ
 類、ヒシバッタなどの普通種は皆無。

◆砂地にすり鉢状の巣を作る「アリジゴク」(ウスバカゲロ
 ウ、クロコウスバカゲロウの幼虫)も、皆無。


地表付近や淡水にいた昆虫は、一度はほぼ姿を消した…
回復状況 1

◆がら空きになった環境(ニッチ)に、
              いち早く進出した種の繁栄

■食草とするマツヨイグサ類の繁茂につ
 れて、セスジスズメの幼虫が増えた。

■水溜まりにわいたボウフラやミジンコを
 えさに、ゲンゴロウ類やトンボ類が爆発
 的に増えた。
 海岸林隣接の窪地水溜まりにギンヤンマの
 ヤゴが多数見られた(9月)


◆次第に上位の捕食者も現れて種類数
 が増加(全体で約300種を記録)。
表1. 仙台湾砂浜海岸調査区で得られた海浜・準海浜性の昆虫類1)
目 名           科 名              種 名                   海浜性種 準海浜性種
バッタ目          コオロギ科            ハマスズ                   ○
              バッタ科             ヤマトマダラバッタ              ○
ハサミムシ目        ハサミムシ科           オオハサミムシ                      ○
カメムシ目         ウンカ科             フタスジオオウンカ              ○
              ナガカメムシ科          ヒメオオメカメムシ                    ○
                                                                    ヤマトマダラバッタ
アミメカゲロウ目      ウスバカゲロウ科         クロコウスバカゲロウ                   ○
コウチュウ目        オサムシ科            ヒョウタンゴミムシ              ○
              ガムシ科             フチトリケシガムシ              ○
              エンマムシ科           ハマベエンマムシ               ○
                               ニセハマベエンマムシ             ○
                               ニセドウガネエンマムシ            ○
              ハネカクシ科           アバタウミベハネカクシ            ○
                               ツヤケシヒゲブトハネカクシ          ○             ヒョウタンゴミムシ
              コガネムシ科           シロスジコガネ                      ○
                               チビサクラコガネ                     ○
                               ヤマトアオドウガネ                    ○
              コメツキムシ科          アカアシコハナコメツキ            ○
              シジョウカイモドキ科       クロキオビシジョウカイモドキ         ○
              ゴミムシダマシ科         ヒメホソハマベゴミムシダマシ         ○
              カミキリモドキ科         ハイイロカミキリモドキ                  ○     スナムグリヒョウタンゾウムシ
              ゾウムシ科            スナムグリヒョウタンゾウムシ         ○
ハチ目           ツチバチ科            オオモンツチバチ                     ○
                               コモンツチバチ                      ○
              ベッコウバチ科          アカゴシベッコウ               ○
                               チシマシロフベッコウ             ○
              ドロバチモドキ科         ヤマトスナハキバチ              ○
                               ニッポンハナダカバチ             ○            ニッポンハナダカバチ
              フシダカバチ科          キスジツチスガリ                     ○
              コハナバチ科           シモフチチビコハナバチ            ○
                               アマクサハラアカハナバチ           ○
              ハキリバチ科           キヌゲハキリバチ               ○
              コシブトハナバチ科        シロスジヒゲナガハナバチ                 ○
         6目              23科                   32種    21種   11種
                                                                  シモフリチビコハナバチ
1)2011年7月上旬〜10月中旬にわたり延べ26日間の調査によった。
回復状況 2

◆海浜性有剣ハチ類の生息状況

 1) 海浜性有剣ハチ類の生態的分布特性

 2) 巨大津波後の仙台湾砂浜海岸における
  有剣ハチ類の生息状況
(バリアー)
      海浜性生息種(12種)

                          準海浜性生息種(10種)
                                                        海浜外生息種(6種+α)


                                      *ヒメハラナガツチバチ
シモフリチビコハナバチ    ナミコナフキベッコウ   マツムラメンハナバチ                 キバナヒメハナバチ
キヌゲハキリバチ                                オオモンツチバチ       ミツクリフシダカヒメハナバチ
               アカゴシベッコウ     ヨーロッパハナバチ
ノウメンハナバチ                                               シロスジヒゲナガハナバチ
                                        コモンツチバチ
ホソメンハナバチ      チシマシロフベッコウ    *ネジロハキリバチ                  ニッポンヒゲナガハナバチ
チビトガリハナバチ      サクラトゲアナバチ    *キバラハキリバチ                  トラマルハナハナバチ
                                        キオビベッコウ
               ヤマトスナハキバチ                               キオビチビドロバチ
アマクサハラアカハナバチ                *シロスジコシブトハナバチ

              ニッポンハナダカバチ                キスジツチスガリ




                      砂浜(後浜)                                後背地



       図2. 砂浜海岸における有剣ハチ類の生態分布概念図
     郷右近(2010)を一部修正して示す。黒字は「ハナバチ群」,青字は「カリバチ群」
     を表し,*印は西日本に生息する種を区別して示した。
05-08 蒲生干潟砂浜
                    60                                                                  011-浦戸2島
                                       43                                           n
                    40                                                         60

                                                                               40
                    20                               北上川                                       18
                                                                               20
                     0
      04-09 仙台湾統合          科数        種数                                         0
                92                                                                      科数    種数
100                                         鳴瀬川
 80
                                                            女川町
 60                                                 石巻市
                                            松島町                                     011-湊浜(七ヶ浜)
 40
                                                                              60
 20                        七北田川       塩釜市
                                     多賀城市         七ヶ浜町
  0                            仙台市                                            40
                                                                                               28
       科数      種数
                         名取川                                                  20
                                                      調査区域
                                                    仙台湾
                                 名取市
                                                                               0
                               岩沼市
                                                                                        科数     種数
                           亘理町
                                                  011-調査地全域            011-モニタリング区域
                         角田市
                                             60            55     60
                                 山元町
                         阿武隈川
                                             40                   40
                                                                                   29
                                             20                   20

                                              0                    0
                                                    科数     種数            科数    種数


       図3. 巨大津波後の仙台湾砂浜海岸における有剣ハチ類の生息状況
            参考までに,津波襲来以前の科数および種数を左上図に示した。
2011年9月11日 荒浜

海浜性植物群落の生育基盤が
仮設防潮堤の建設で破壊された。
〈七北田川河口~荒浜の約3kmの区間〉

    津波にえぐられた砂浜で小規模のハマニガナ
    群落の花に訪花したシモフリチビコハナバチ
                               2011年8月7日 南蒲生
まとめ

■仙台湾沿岸の砂浜海岸から,津波後に12目92科307種の昆虫が記録さ
 れ,上位3目で全種数の約71%を占めているのが特徴。

■海浜性昆虫は,夏場までは種数・個体数とも激減。

■砂浜後背地でも,地表生活者は皆無であった。
 →津波の際一度姿を消した?

■がら空きになったニッチで,特定の種(必ずしも普通種に限らない)の爆発
 的な増殖が認められた。

■有剣ハチ類に注目すると,調査地全域では55種が得られ,モニタリング区
 域では約半分の29種にとどまることが分かった。

■仮設防潮堤の工事に伴う砂浜の荒廃が,砂浜の虫たちの生存を脅かす要
 因の一つに上げられる。

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巨大津波後の仙台湾砂浜海岸エコトーンの虫たちのゆくえ

  • 1. 第2回・フォーラム 仙台湾/海岸エコトーンの復興を考える —2011年南蒲生/砂浜海岸エコトーン調査報告,そしてこれから— 東北学院大学土樋キャンパス 郷右近勝夫(東北学院大学・工学部) 五十嵐由里・斎藤勝雄・高橋雄一(宮城昆虫地理研究会) 仙台市深沼海岸,2011年6月15日撮影
  • 3. ライトトラップ 調査対象区域および調査期間と方法 ・2011年7月9日~10月16日 延べ26日間 ・任意採集,ライトトラップ(灯火採集),砂ふるい, ベイトトラップ(誘引剤を用いた落とし穴採集)など。 松林に設置したベイトトラップ (主に地表を歩く虫が対象)
  • 4. 調査結果 12目92科307種が記録された!! 種数(%) 3.9 n=307 7.5 チョウ目 6.2 32.6 コウチュウ目 カメムシ目 11.4 ハチ目 バッタ目 トンボ目 14.3 24.1 その他6目 図1. 巨大津波襲来後の仙台湾砂浜海岸で採集された昆虫の目別種数割合
  • 5. 被害状況 ◆砂浜特有の海浜性昆虫は、盛夏以前では種数・個体数 ともに激減 →その後徐々に種数は回復傾向にあった。 ◆内陸側(砂浜後背地)でも,地表付近で生活するゴミムシ 類、ヒシバッタなどの普通種は皆無。 ◆砂地にすり鉢状の巣を作る「アリジゴク」(ウスバカゲロ ウ、クロコウスバカゲロウの幼虫)も、皆無。 地表付近や淡水にいた昆虫は、一度はほぼ姿を消した…
  • 6. 回復状況 1 ◆がら空きになった環境(ニッチ)に、 いち早く進出した種の繁栄 ■食草とするマツヨイグサ類の繁茂につ れて、セスジスズメの幼虫が増えた。 ■水溜まりにわいたボウフラやミジンコを えさに、ゲンゴロウ類やトンボ類が爆発 的に増えた。 海岸林隣接の窪地水溜まりにギンヤンマの ヤゴが多数見られた(9月) ◆次第に上位の捕食者も現れて種類数 が増加(全体で約300種を記録)。
  • 7. 表1. 仙台湾砂浜海岸調査区で得られた海浜・準海浜性の昆虫類1) 目 名 科 名 種 名 海浜性種 準海浜性種 バッタ目 コオロギ科 ハマスズ ○ バッタ科 ヤマトマダラバッタ ○ ハサミムシ目 ハサミムシ科 オオハサミムシ ○ カメムシ目 ウンカ科 フタスジオオウンカ ○ ナガカメムシ科 ヒメオオメカメムシ ○ ヤマトマダラバッタ アミメカゲロウ目 ウスバカゲロウ科 クロコウスバカゲロウ ○ コウチュウ目 オサムシ科 ヒョウタンゴミムシ ○ ガムシ科 フチトリケシガムシ ○ エンマムシ科 ハマベエンマムシ ○ ニセハマベエンマムシ ○ ニセドウガネエンマムシ ○ ハネカクシ科 アバタウミベハネカクシ ○ ツヤケシヒゲブトハネカクシ ○ ヒョウタンゴミムシ コガネムシ科 シロスジコガネ ○ チビサクラコガネ ○ ヤマトアオドウガネ ○ コメツキムシ科 アカアシコハナコメツキ ○ シジョウカイモドキ科 クロキオビシジョウカイモドキ ○ ゴミムシダマシ科 ヒメホソハマベゴミムシダマシ ○ カミキリモドキ科 ハイイロカミキリモドキ ○ スナムグリヒョウタンゾウムシ ゾウムシ科 スナムグリヒョウタンゾウムシ ○ ハチ目 ツチバチ科 オオモンツチバチ ○ コモンツチバチ ○ ベッコウバチ科 アカゴシベッコウ ○ チシマシロフベッコウ ○ ドロバチモドキ科 ヤマトスナハキバチ ○ ニッポンハナダカバチ ○ ニッポンハナダカバチ フシダカバチ科 キスジツチスガリ ○ コハナバチ科 シモフチチビコハナバチ ○ アマクサハラアカハナバチ ○ ハキリバチ科 キヌゲハキリバチ ○ コシブトハナバチ科 シロスジヒゲナガハナバチ ○ 6目 23科 32種 21種 11種 シモフリチビコハナバチ 1)2011年7月上旬〜10月中旬にわたり延べ26日間の調査によった。
  • 8. 回復状況 2 ◆海浜性有剣ハチ類の生息状況 1) 海浜性有剣ハチ類の生態的分布特性 2) 巨大津波後の仙台湾砂浜海岸における 有剣ハチ類の生息状況
  • 9. (バリアー) 海浜性生息種(12種) 準海浜性生息種(10種) 海浜外生息種(6種+α) *ヒメハラナガツチバチ シモフリチビコハナバチ ナミコナフキベッコウ マツムラメンハナバチ キバナヒメハナバチ キヌゲハキリバチ オオモンツチバチ ミツクリフシダカヒメハナバチ アカゴシベッコウ ヨーロッパハナバチ ノウメンハナバチ シロスジヒゲナガハナバチ コモンツチバチ ホソメンハナバチ チシマシロフベッコウ *ネジロハキリバチ ニッポンヒゲナガハナバチ チビトガリハナバチ サクラトゲアナバチ *キバラハキリバチ トラマルハナハナバチ キオビベッコウ ヤマトスナハキバチ キオビチビドロバチ アマクサハラアカハナバチ *シロスジコシブトハナバチ ニッポンハナダカバチ キスジツチスガリ 砂浜(後浜) 後背地 図2. 砂浜海岸における有剣ハチ類の生態分布概念図 郷右近(2010)を一部修正して示す。黒字は「ハナバチ群」,青字は「カリバチ群」 を表し,*印は西日本に生息する種を区別して示した。
  • 10. 05-08 蒲生干潟砂浜 60 011-浦戸2島 43 n 40 60 40 20 北上川 18 20 0 04-09 仙台湾統合 科数 種数 0 92 科数 種数 100 鳴瀬川 80 女川町 60 石巻市 松島町 011-湊浜(七ヶ浜) 40 60 20 七北田川 塩釜市 多賀城市 七ヶ浜町 0 仙台市 40 28 科数 種数 名取川 20 調査区域 仙台湾 名取市 0 岩沼市 科数 種数 亘理町 011-調査地全域 011-モニタリング区域 角田市 60 55 60 山元町 阿武隈川 40 40 29 20 20 0 0 科数 種数 科数 種数 図3. 巨大津波後の仙台湾砂浜海岸における有剣ハチ類の生息状況 参考までに,津波襲来以前の科数および種数を左上図に示した。
  • 11. 2011年9月11日 荒浜 海浜性植物群落の生育基盤が 仮設防潮堤の建設で破壊された。 〈七北田川河口~荒浜の約3kmの区間〉 津波にえぐられた砂浜で小規模のハマニガナ 群落の花に訪花したシモフリチビコハナバチ 2011年8月7日 南蒲生
  • 12. まとめ ■仙台湾沿岸の砂浜海岸から,津波後に12目92科307種の昆虫が記録さ れ,上位3目で全種数の約71%を占めているのが特徴。 ■海浜性昆虫は,夏場までは種数・個体数とも激減。 ■砂浜後背地でも,地表生活者は皆無であった。 →津波の際一度姿を消した? ■がら空きになったニッチで,特定の種(必ずしも普通種に限らない)の爆発 的な増殖が認められた。 ■有剣ハチ類に注目すると,調査地全域では55種が得られ,モニタリング区 域では約半分の29種にとどまることが分かった。 ■仮設防潮堤の工事に伴う砂浜の荒廃が,砂浜の虫たちの生存を脅かす要 因の一つに上げられる。