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高層マンションコミュニティ防災活動
デザイン手法を活用した住人参加型の災害対策作り
概要説明 	



港区高輪の某高層マンション
防災対策プロジェクトメンバー
岩佐 智宏
2012年12月2日(更新)
大規模マンションの防災対策策定
           デザイン手法を活用する試み

はじめに
 
 一般的に、マンションにおける避難誘導手順や防災グッズは、種々の事情により公的
なガイドラインのみを意識して準備されることが多い。そのため、個々の災害の実情に
対応できず、期待されたほど役にたたない可能性がある(形骸化)。とりわけ、大規模
かつ超高層マンションでは、家族構成や生活スタイルが多様であり、かつ建物および住
戸の物理構造が各箇所によって大きく異なるという特殊事情から、より汎用性ある避難
誘導手順の策定や効果的な防災グッズの選定はなかなか難しい(実情からの乖離)。
 また、住人全体への防災意識の啓蒙と維持はチラシによる呼びかけや防災イベントへ
の参加を促す程度では限界がある(無関心)。
 これらの課題をふまえ、より実効性がある防災対策の策定作業をどうやって進めれば
よいだろうか。この課題への一つのアプローチとして、「デザイン手法を活用した住人
参加型の災害対策作り」を提案する。
大規模マンションの防災対策策定
            デザイン手法を活用する試み

「デザイン手法を活用した住人参加型の災害対策作り」の手順(提案)

1.  実情をうまく把握するために、想定した災害ケースにもとづいて特徴的な住人(家
    族)の行動モデル(家族構成や生活スタイル毎に複数)を作成する。この作成作業は、
    複数の住人に参加・協力いただき、自らとその家族を主人公とした災害発生時の
    「物語」として、現実的な範囲でその家族にとっての最悪の状況を想像しながら創作
    することを前提とする。
2.  創作された(複数の)「物語」から(共通する、または個別に重要な)「対策すべき
    ポイント」を抽出する。抽出した個々の「対策すべきポイント」に対して「対策の手
    段」と「対策の目的」を具体的な語彙で表現しカード化する。そのカードを一元的
    に集めて、(俯瞰的に)共通する特徴(「対策の手段」を優先)でグループ化する。
3.  グループ毎に、人命や影響の大きさなどの指標でその対策実行の優先順位を付け、各
    対策を講じるために必要な人材、知識・技能、他必要条件を検討して整理し、それを
    もとに、対策全体を効率的に進めるためのプロジェクト計画を作成する。
大規模マンションの防災対策策定
             デザイン手法を活用する試み

 この提案における「物語」の作成には、次の利点があると考える。

ü  住人(家族)の行動モデルである「物語」を出来る限り多くの住人自身に作成してい
    ただく(またはインタビュー形式で作成する)ことにより、実環境における具体的な
    行動を把握することができる(エスノグラフィ調査の代用)。
 (実情からの乖離を解消)
ü  また、住人自身が「物語」を創作する協力を通して、自ずからの防災意識を喚起し、
    いっしょに災害対策を進めている共同作業の意識をもち(価値共創)、マンション
    (ひいてはその属するコミュニティ全体)への貢献を実感することになる。
 (無関心をなくす)
ü  さらに、「物語」を長期的に多くの住人と共有し、実情の変化に合わせて更新してく
    ことにより、長期的視点にて、実情に合わせた改善の継続実施と、防災意識の維持
    が期待できると考える。
 (形骸化の回避)
「物語」を作成するための、想定する災害ケースの例

準直下型地震、房総沖地震発生ケース(相模トラフ震源)の想定(例)
 2月13日12:32、房総沖でマグネチュード8の地震発生、すぐに津波の心配はないと気象庁が発表、
しかし港区品川地区を含む殆どの沿岸部で液状化と鉄道・道路破断で5日以上交通が機能マヒ、国道
1号線は 回のため2日間は渋滞で物資輸送が滞り、高輪地区は物流が孤立化。白金地区から目黒の
住宅街に掛けて民家火災発生が点在的に発生。
 一方、マンション内では、昼食時であったため、コンロ落下等によるボヤがタワー棟の3F、35F、
46F、および店舗等で4件発生、その内、35F北東部屋の火災は家具などに引火し、大量の煙が発生、
廊下および換気口に煙が充満。また、家具や丁度品の落下により、複数のけが人が発生したもよう。
 全エレベーターは終日停止、1日後に非常用エレベーター動作、2日後に低層階エレベーター作動、
4日後に全エレベーター稼働。
 東電設備が故障、停電となり、自家発電機で共用設備のみ電源供給。電気供給再開は見通しなし。
 その日、外気は5℃曇り、夜間は0℃、週間予報は翌日以降、数日は雨または雪になる予報。


他、以下の災害ケースの準備が必要と思われる。(要検討)
•  都心直下型地震による、建物大規模損傷および重度の人的被害発生ケース
•  ガス爆発などによる広範囲影響火災発生、特にタワー棟低層階住戸での発生
•  マンション内住人に感染者が続出する、感染源が高い伝染病の発生
手段の例(アイデア)を記述
                                             目的(効果・結果)を記述

 その時の「物語」作成と、そこから「手段・目的」を抽出
起きうる状況の周知や体験イベント    親睦イベントや声掛運動        部屋の常日頃の整理整頓・導線の確保
  動揺せず落ち着いて行動         孤立化の不安解消           余計な怪我防止、迅速な避難


「高層階住戸、会社員の夫と娘4歳の3人暮らし、専業主婦A子さんの場合」(例)
 その時は突然やってきた。夫と4歳になる娘と35Fのフロアー中央に引っ越して3ヶ月になろうとい
う日であった。昼食を調理中、自動車事故のようなバンという音とともに、経験したことがない床の
突き上げを感じ、1分以上の激しい横揺れとともに、床が上下に波打った。足がすくむ揺れの中、
とっさにコンロの火を消し、娘の様子を見に隣の部屋に移動した。完全に停電した。とっさにスマホ
でWebのニュースを見た。速報で房総沖でM8の地震発生、とのことだった。それ以上の情報はない。
地震発生から10分くらいたっただろうか、ある異変に気がついた。換気口から焦げ臭いにおいがして
いる。さらに玄関のドアの下からは明らかに白い煙が入り込もうとしている。不安を感じながら、娘
とベランダに移動した。ベランダは寒く、娘は泣き出した。どうすればいいのか分からない....(略)
 その時、夫は丸の内のオフィスにいた。マンションの状況・妻娘の安否が気になっていた。(略)


      防災放送設備の増強        地震発生直後のマンション内      マンション全体の被災状況共有
      どこでも聞ける安心        行動ガイドライン作成・周知       無秩序行動による混乱回避
                        2次災害・被害拡大の防止


震災時で火災発生時の避難指針策定                          マンション設備の状況情報提供
  2次災害・被害拡大の防止     外部連絡用独自防災SNSの立ち上げ       不安解消と適切な行動判断
                   安心と平静心で落ち着いて帰宅行動
手段の分野を記述
                                            考慮すべきことを記述


「手段」でグループ化、各グループ実現方法、優先度検討
  それぞれの「物語」から抽出した「手段・目的」を分類する

                                       適切な情報の選別方法
 震災時で火災発生時の避難指針策定                     正確さ、理解され易さの工夫
   2次災害・被害拡大の防止

                    災害対策計画    マンション設備の状況情報提供
地震発生直後のマンション内                  不安解消と適切な行動判断
行動ガイドライン作成・周知       行動指針指示
 2次災害・被害拡大の防止       分かり易さ工夫                    役に立つ情報
                              マンション全体の被災状況共有    提供・共有
                               無秩序行動による混乱回避



部屋の常日頃の整理整頓・導線の確保
  余計な怪我防止、迅速な避難                              設備・技術の活用
                              防災放送設備の増強         使い易さ工夫
                              どこでも聞ける安心        可用性維持工夫
                    防災の習慣
起きうる状況の周知や体験イベント
  動揺せず落ち着いて行動       心理的準備
                    (心構え)     外部連絡用独自防災SNSの立ち上げ
                              安心と平静心で落ち着いて帰宅行動
親睦イベントや声掛運動     日頃の防災啓蒙活動
 孤立化の不安解消        防災意識維持工夫         情報提供・共有の技術的仕組み
実施した災害訓練ふりかえりとの関連性の整理(参考)


                     設備・技術活用
                      使い易さ工夫
                     可用性維持工夫




                      行動指針指示
                      分かり易さ工夫




                   適切な情報の選別方法
                   正確さ、理解され易さの工夫



                    日頃の防災啓蒙活動
                     防災意識維持工夫
必要な人材、知識技能、条件の整理とすべきことを検討
     現実的な目線で「すべきこと」の実現方法を検討・整理

                      高度専門性


                                             人材の育成
                              適切な情報の選別方法     情報ツールの充実
                             正確さ、理解され易さの工夫
                                             過去事例の研究
 技術専門家の活用                                    判断指針作成
   現状設備把握
活用技術製品の精査
            設備・技術活用
 導入コストの把握    使い易さ工夫          行動指針指示
            可用性維持工夫          分かり易さ工夫    防災対策専門家の活用
 運用コストの把握
                                        公的指針をテンプレートに
運用管理の体制確立
                                        他マンションの事例の活用
使う人の能力を考慮
                                        検証・改善のサイクル導入
  使う環境を考慮
                                        恒久運用の定着化
                         日頃の防災啓蒙活動      住人の参加(自治自衛意識)
                          防災意識維持工夫




                      住人目線
(参考)作成した防災対策(手順・モノ活用)の検証
      想定行動を書き直してみる(机上シミュレーション)
「高層階住戸、会社員の夫と娘4歳の3人暮らし、専業主婦A子さんの場合」(例)
 その時は突然やってきた。夫と4歳になる娘と35Fのフロアー中央に引っ越して3ヶ月になろうという日であった。
昼食を調理中、自動車事故のようなバンという音とともに、経験したことがない床の突き上げを感じ、1分以上の激し
い横揺れとともに、床が上下に波打った。その瞬間、直下型の地震がついに起きた、と感じた。震災時に大切なこと
は、まず落ち着いて、状況を把握し、適切な行動を判断することが重要ということを思い出し、まずお落ち着くよう
自分に言い聞かせた。足がすくむ揺れの中、とっさにコンロの火を消し、幸い部屋はひどい揺れにもかかかわらず家
具や日常品などの落下で移動を妨げる状態にはなっておらず、娘の様子を見に隣の部屋にすぐさま移動した。こんな時
のためにも揺れを意識した家具の固定対策や日頃から部屋の整理をしておいて良かったと思った。完全に停電した。
とっさにスマホでWebのニュースを見た。速報で房総沖でM8の地震発生、とのことだった。それ以上の情報はない。
廊下で緊急放送がながれているようだ。今必要なのは身の回りの情報だ。すかさずインターフォンを押し、廊下の放送
がよく聞こえるようにした。どうやら、マンション自体への地震の被害はないようだが、35Fで火災が発生した住戸
があるとの情報を得た。続いて、すぐに非常階段を使って2Fロビーまで降りるよう指示があり、幸い、廊下は焦げ臭
さを感じたが幸いまだ煙は充満していなかったので、娘と階段を降り、無事避難することができた。地震発生から10
分くらいたっただろうか、ある異変に気がついた。換気口から焦げ臭いにおいがしている。さらに玄関のドアの下か
らは明らかに白い煙が入り込もうとしている。不安を感じながら、娘とベランダに移動した。ベランダは寒く、娘は
泣き出した。どうすればいいのか分からない....(略)(ベランダに避難のケース)消防隊が助けにくる旨の放送をベ
ランダでも聞けたので、落ち着いてそこに留まることができ、救助を待つ事ができた。
 その時、夫は丸の内のオフィスにいた。マンションの状況・妻娘の安否が気になっていた。しかし、マンションの対
策チームがtwitterなどのSNSでマンションの被災状況と安否情報を配信してくれていて、妻娘の無事が確認できたの
で、焦って帰宅するのではく、オフィスにとどっていることをSNSで伝え、状況をみて帰宅を判断することにした。
(略)

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  • 2. 大規模マンションの防災対策策定 デザイン手法を活用する試み はじめに    一般的に、マンションにおける避難誘導手順や防災グッズは、種々の事情により公的 なガイドラインのみを意識して準備されることが多い。そのため、個々の災害の実情に 対応できず、期待されたほど役にたたない可能性がある(形骸化)。とりわけ、大規模 かつ超高層マンションでは、家族構成や生活スタイルが多様であり、かつ建物および住 戸の物理構造が各箇所によって大きく異なるという特殊事情から、より汎用性ある避難 誘導手順の策定や効果的な防災グッズの選定はなかなか難しい(実情からの乖離)。  また、住人全体への防災意識の啓蒙と維持はチラシによる呼びかけや防災イベントへ の参加を促す程度では限界がある(無関心)。  これらの課題をふまえ、より実効性がある防災対策の策定作業をどうやって進めれば よいだろうか。この課題への一つのアプローチとして、「デザイン手法を活用した住人 参加型の災害対策作り」を提案する。
  • 3. 大規模マンションの防災対策策定 デザイン手法を活用する試み 「デザイン手法を活用した住人参加型の災害対策作り」の手順(提案) 1.  実情をうまく把握するために、想定した災害ケースにもとづいて特徴的な住人(家 族)の行動モデル(家族構成や生活スタイル毎に複数)を作成する。この作成作業は、 複数の住人に参加・協力いただき、自らとその家族を主人公とした災害発生時の 「物語」として、現実的な範囲でその家族にとっての最悪の状況を想像しながら創作 することを前提とする。 2.  創作された(複数の)「物語」から(共通する、または個別に重要な)「対策すべき ポイント」を抽出する。抽出した個々の「対策すべきポイント」に対して「対策の手 段」と「対策の目的」を具体的な語彙で表現しカード化する。そのカードを一元的 に集めて、(俯瞰的に)共通する特徴(「対策の手段」を優先)でグループ化する。 3.  グループ毎に、人命や影響の大きさなどの指標でその対策実行の優先順位を付け、各 対策を講じるために必要な人材、知識・技能、他必要条件を検討して整理し、それを もとに、対策全体を効率的に進めるためのプロジェクト計画を作成する。
  • 4. 大規模マンションの防災対策策定 デザイン手法を活用する試み  この提案における「物語」の作成には、次の利点があると考える。 ü  住人(家族)の行動モデルである「物語」を出来る限り多くの住人自身に作成してい ただく(またはインタビュー形式で作成する)ことにより、実環境における具体的な 行動を把握することができる(エスノグラフィ調査の代用)。  (実情からの乖離を解消) ü  また、住人自身が「物語」を創作する協力を通して、自ずからの防災意識を喚起し、 いっしょに災害対策を進めている共同作業の意識をもち(価値共創)、マンション (ひいてはその属するコミュニティ全体)への貢献を実感することになる。  (無関心をなくす) ü  さらに、「物語」を長期的に多くの住人と共有し、実情の変化に合わせて更新してく ことにより、長期的視点にて、実情に合わせた改善の継続実施と、防災意識の維持 が期待できると考える。  (形骸化の回避)
  • 5. 「物語」を作成するための、想定する災害ケースの例 準直下型地震、房総沖地震発生ケース(相模トラフ震源)の想定(例)  2月13日12:32、房総沖でマグネチュード8の地震発生、すぐに津波の心配はないと気象庁が発表、 しかし港区品川地区を含む殆どの沿岸部で液状化と鉄道・道路破断で5日以上交通が機能マヒ、国道 1号線は 回のため2日間は渋滞で物資輸送が滞り、高輪地区は物流が孤立化。白金地区から目黒の 住宅街に掛けて民家火災発生が点在的に発生。  一方、マンション内では、昼食時であったため、コンロ落下等によるボヤがタワー棟の3F、35F、 46F、および店舗等で4件発生、その内、35F北東部屋の火災は家具などに引火し、大量の煙が発生、 廊下および換気口に煙が充満。また、家具や丁度品の落下により、複数のけが人が発生したもよう。  全エレベーターは終日停止、1日後に非常用エレベーター動作、2日後に低層階エレベーター作動、 4日後に全エレベーター稼働。  東電設備が故障、停電となり、自家発電機で共用設備のみ電源供給。電気供給再開は見通しなし。  その日、外気は5℃曇り、夜間は0℃、週間予報は翌日以降、数日は雨または雪になる予報。 他、以下の災害ケースの準備が必要と思われる。(要検討) •  都心直下型地震による、建物大規模損傷および重度の人的被害発生ケース •  ガス爆発などによる広範囲影響火災発生、特にタワー棟低層階住戸での発生 •  マンション内住人に感染者が続出する、感染源が高い伝染病の発生
  • 6. 手段の例(アイデア)を記述 目的(効果・結果)を記述 その時の「物語」作成と、そこから「手段・目的」を抽出 起きうる状況の周知や体験イベント 親睦イベントや声掛運動 部屋の常日頃の整理整頓・導線の確保 動揺せず落ち着いて行動 孤立化の不安解消 余計な怪我防止、迅速な避難 「高層階住戸、会社員の夫と娘4歳の3人暮らし、専業主婦A子さんの場合」(例)  その時は突然やってきた。夫と4歳になる娘と35Fのフロアー中央に引っ越して3ヶ月になろうとい う日であった。昼食を調理中、自動車事故のようなバンという音とともに、経験したことがない床の 突き上げを感じ、1分以上の激しい横揺れとともに、床が上下に波打った。足がすくむ揺れの中、 とっさにコンロの火を消し、娘の様子を見に隣の部屋に移動した。完全に停電した。とっさにスマホ でWebのニュースを見た。速報で房総沖でM8の地震発生、とのことだった。それ以上の情報はない。 地震発生から10分くらいたっただろうか、ある異変に気がついた。換気口から焦げ臭いにおいがして いる。さらに玄関のドアの下からは明らかに白い煙が入り込もうとしている。不安を感じながら、娘 とベランダに移動した。ベランダは寒く、娘は泣き出した。どうすればいいのか分からない....(略)  その時、夫は丸の内のオフィスにいた。マンションの状況・妻娘の安否が気になっていた。(略) 防災放送設備の増強 地震発生直後のマンション内 マンション全体の被災状況共有 どこでも聞ける安心 行動ガイドライン作成・周知 無秩序行動による混乱回避 2次災害・被害拡大の防止 震災時で火災発生時の避難指針策定 マンション設備の状況情報提供 2次災害・被害拡大の防止 外部連絡用独自防災SNSの立ち上げ 不安解消と適切な行動判断 安心と平静心で落ち着いて帰宅行動
  • 7. 手段の分野を記述 考慮すべきことを記述 「手段」でグループ化、各グループ実現方法、優先度検討 それぞれの「物語」から抽出した「手段・目的」を分類する 適切な情報の選別方法 震災時で火災発生時の避難指針策定 正確さ、理解され易さの工夫 2次災害・被害拡大の防止 災害対策計画 マンション設備の状況情報提供 地震発生直後のマンション内 不安解消と適切な行動判断 行動ガイドライン作成・周知 行動指針指示 2次災害・被害拡大の防止 分かり易さ工夫 役に立つ情報 マンション全体の被災状況共有 提供・共有 無秩序行動による混乱回避 部屋の常日頃の整理整頓・導線の確保 余計な怪我防止、迅速な避難 設備・技術の活用 防災放送設備の増強 使い易さ工夫 どこでも聞ける安心 可用性維持工夫 防災の習慣 起きうる状況の周知や体験イベント 動揺せず落ち着いて行動 心理的準備 (心構え) 外部連絡用独自防災SNSの立ち上げ 安心と平静心で落ち着いて帰宅行動 親睦イベントや声掛運動 日頃の防災啓蒙活動 孤立化の不安解消 防災意識維持工夫 情報提供・共有の技術的仕組み
  • 8. 実施した災害訓練ふりかえりとの関連性の整理(参考) 設備・技術活用 使い易さ工夫 可用性維持工夫 行動指針指示 分かり易さ工夫 適切な情報の選別方法 正確さ、理解され易さの工夫 日頃の防災啓蒙活動 防災意識維持工夫
  • 9. 必要な人材、知識技能、条件の整理とすべきことを検討 現実的な目線で「すべきこと」の実現方法を検討・整理 高度専門性 人材の育成 適切な情報の選別方法 情報ツールの充実 正確さ、理解され易さの工夫 過去事例の研究 技術専門家の活用 判断指針作成 現状設備把握 活用技術製品の精査 設備・技術活用 導入コストの把握 使い易さ工夫 行動指針指示 可用性維持工夫 分かり易さ工夫 防災対策専門家の活用 運用コストの把握 公的指針をテンプレートに 運用管理の体制確立 他マンションの事例の活用 使う人の能力を考慮 検証・改善のサイクル導入 使う環境を考慮 恒久運用の定着化 日頃の防災啓蒙活動 住人の参加(自治自衛意識) 防災意識維持工夫 住人目線
  • 10. (参考)作成した防災対策(手順・モノ活用)の検証 想定行動を書き直してみる(机上シミュレーション) 「高層階住戸、会社員の夫と娘4歳の3人暮らし、専業主婦A子さんの場合」(例)  その時は突然やってきた。夫と4歳になる娘と35Fのフロアー中央に引っ越して3ヶ月になろうという日であった。 昼食を調理中、自動車事故のようなバンという音とともに、経験したことがない床の突き上げを感じ、1分以上の激し い横揺れとともに、床が上下に波打った。その瞬間、直下型の地震がついに起きた、と感じた。震災時に大切なこと は、まず落ち着いて、状況を把握し、適切な行動を判断することが重要ということを思い出し、まずお落ち着くよう 自分に言い聞かせた。足がすくむ揺れの中、とっさにコンロの火を消し、幸い部屋はひどい揺れにもかかかわらず家 具や日常品などの落下で移動を妨げる状態にはなっておらず、娘の様子を見に隣の部屋にすぐさま移動した。こんな時 のためにも揺れを意識した家具の固定対策や日頃から部屋の整理をしておいて良かったと思った。完全に停電した。 とっさにスマホでWebのニュースを見た。速報で房総沖でM8の地震発生、とのことだった。それ以上の情報はない。 廊下で緊急放送がながれているようだ。今必要なのは身の回りの情報だ。すかさずインターフォンを押し、廊下の放送 がよく聞こえるようにした。どうやら、マンション自体への地震の被害はないようだが、35Fで火災が発生した住戸 があるとの情報を得た。続いて、すぐに非常階段を使って2Fロビーまで降りるよう指示があり、幸い、廊下は焦げ臭 さを感じたが幸いまだ煙は充満していなかったので、娘と階段を降り、無事避難することができた。地震発生から10 分くらいたっただろうか、ある異変に気がついた。換気口から焦げ臭いにおいがしている。さらに玄関のドアの下か らは明らかに白い煙が入り込もうとしている。不安を感じながら、娘とベランダに移動した。ベランダは寒く、娘は 泣き出した。どうすればいいのか分からない....(略)(ベランダに避難のケース)消防隊が助けにくる旨の放送をベ ランダでも聞けたので、落ち着いてそこに留まることができ、救助を待つ事ができた。  その時、夫は丸の内のオフィスにいた。マンションの状況・妻娘の安否が気になっていた。しかし、マンションの対 策チームがtwitterなどのSNSでマンションの被災状況と安否情報を配信してくれていて、妻娘の無事が確認できたの で、焦って帰宅するのではく、オフィスにとどっていることをSNSで伝え、状況をみて帰宅を判断することにした。 (略)