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- 2. 背景
「研究内容」と「著者タイプ」の両側面からの
検討を計画→医学論文の中でも分野を絞る
2
入院率 論文数
皮膚科学 1.56 19.46
血液の医学 1.28 14.47
呼吸器の医学 1.23 20.72
神経科学 1.05 13.84
婦人科学,産科学 0.98 12.05
婦人科学,産科学 0.97 12.05
精神医学 0.90 21.76
婦人科学,産科学 0.88 12.05
泌尿生殖器の医学 0.87 18.67
眼科学 0.85 7.41
腫よう学 0.85 20.20
循環系の医学 0.81 19.62
消化器の医学 0.80 20.08
運動器系の医学 0.80 25.85
内分泌系の医学 0.75 19.51
耳鼻咽喉科学 0.73 18.79
予防医学,社会医学 0.47 12.35
AVERAGE 0.93 16.99
02年から'11年の
伸び率疾患名(厚生労働省 患者調査)JST分類
Ⅸ 循環器系の疾患
ⅩⅠ 消化器系の疾患
ⅩⅢ 筋骨格系及び結合組織の疾患
Ⅳ 内分泌,栄養及び代謝疾患
Ⅷ 耳及び乳様突起の疾患
ⅩⅩⅠ 健康状態に影響を及ぼす要因及び保健サービスの利用
ⅩⅥ 周産期に発生した病態
Ⅴ 精神及び行動の障害
ⅩⅦ 先天奇形,変形及び染色体異常
ⅩⅣ 尿路性器系の疾患
Ⅶ 眼及び付属器の疾患
Ⅱ 新生物
ⅩⅡ 皮膚及び皮下組織の疾患
Ⅲ 血液及び造血器の疾患並びに免疫機構の障害
Ⅹ 呼吸器系の疾患
Ⅵ 神経系の疾患
ⅩⅤ 妊娠,分娩及び産じょく
皮膚科に分野を絞って検討
皮膚科疾患は
入院率が著しく
増加しているが
論文数の伸びは
平均的
- 3. 研究内容を明らかにする
分析のプロセス 概要
3
方法 頻出語により、内容を分類
使用データ b_ti1(和文標題)、m_pd1(発行年)、s_cc1gs(JST分類)
皮膚科論文を対象 JST分類「皮膚科学(GF)」抽出(111981件)
分析1
著者のタイプを明らかにする
方法 論文数と時系列により、著者を分類
使用データ
e_au1s(著者名)、m_pd1(発行年)、s_cc1gs(JST分類)、
t_ci1g(記事分類)
分析2
内容と著者タイプの考察から、研究の動機を探る
- 17. 著者のタイプ
17
タイプ 初期値 増加数 特徴
駆け出しタイプ 1.357 0.913元々論文数が少なく、伸びも中程度
大御所タイプ 15.757 5.941最初から論文数が多く、伸びも著しい
着実タイプ 5.941 0.739元々の論文数は中程度、伸びもそこそこ
急成長タイプ 2.549 4.224元々の論文数は少ないが、急激に増加
現状維持タイプ 8.692-0.023元々の論文数は多いが、わずかに減少していく
駆け出し
タイプ
40%
大御所
タイプ
14%
着実タイプ
28%
急成長
タイプ
11%
現状維持
タイプ
7%
著者のタイプを明らかにする分析2
- 36. クラス
論文
本数
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
褥瘡を
含む論
文の出
現率
1 4637 0 0 0.2% 9.7% 9.7% 9.6% 10.7% 10.3% 6.4% 5.0%
2 7973 0 0 0.0% 3.0% 2.7% 2.4% 3.8% 2.7% 2.5% 1.9%
3 5174 0 0 0.5% 6.8% 6.3% 8.1% 8.6% 9.0% 6.9% 3.3%
4 3446 0 0 0.4% 3.7% 3.3% 3.5% 3.4% 3.5% 2.3% 2.4%
5 1980 0 0 0.8% 7.4% 11.6% 9.1% 6.2% 9.7% 6.4% 8.7%
褥瘡を
含む論
文数
1 4637 0 0 1 58 56 54 47 43 33 24
2 7973 0 0 0 21 20 23 32 27 26 18
3 5174 0 0 3 41 36 42 41 39 32 16
4 3446 0 0 1 13 13 15 14 15 10 11
5 1980 0 0 2 16 24 18 9 15 10 15
全論文
数
1 4637 130 370 545 600 577 564 441 416 512 482
2 7973 408 613 693 702 751 975 843 1004 1020 964
3 5174 276 691 643 607 575 521 478 432 463 488
4 3446 72 170 285 352 396 432 413 434 439 453
5 1980 165 320 248 216 207 197 145 154 156 172
各クラスごとの年次推移ー褥瘡を含む論文
Editor's Notes
- 私たちは、論文を「研究内容」と「著者タイプ」の両側面からの検討しようとまず計画しました。そのために、医学論文の中でも分野を絞る必要が生じました。
「患者調査」などを検討すると、皮膚科が入院率が高いなど面白い特徴があったので、分野を「皮膚科」に絞って検討を行うこととしました。
- 分析のプロセスとしては、まずは分析1として研究内容を明らかにするために、主にテキストマイニング分析を行いました。
次に、分析2として、著者のタイプを明らかにするために、主に混合成長曲線モデルを使用して分析を行いました。
最後に、この両分析の結果を統合して、研究者のタイプが医療政策にどのように反応するのかを考察しました。
- 分析1の研究内容を明らかにする分析ですが、書誌情報のローデータのうち、「和文表題」を用いてテキストマイニングを行いました。
- こちらが頻出語になります。
- この頻出語から検討し、疾患名及びその関連語から35のキーワードを設定しました。このキーワードを含む論文数の経時推移を検討しました。
- すると、「褥瘡」という言葉を含む論文数の推移が非常に特徴的であることが分かりました。2005年を境に急増し、以降、2009年以降やや減少に転じつつも出現数は最高の地位を保っています。
- この経時推移に、褥瘡に関する診療報酬の動きを重ね合わせてみました。すると、「褥瘡対策未実施加算」と「褥瘡ハイリスク患者ケア加算」が設定された年に大きく変化していることが分かりました。
- それでは、皮膚科の論文内容の特徴が明らかになったところで、今度は皮膚科の研究者がどのような特徴になるのかを見ていきたいと思います。
まずは、「研究者」の定義ですが、2003年から2012年までの10年間に、2年毎に少なくとも1回は研究成果を発表している者とします。
- こちらが、今の定義に該当する研究者を抽出するプロセスの詳細です。発表している論文としては、「original article」「proceedings」「review」としました。
- 2年ごとの論文数を算出し、全てのカテゴリーで一本以上発表しているという条件をもとに抽出した結果、2647人が該当しました。
- 研究者の特性を考えた場合、研究者が発表する論文数の時系列推移には、いくつかのパターンがあるのではないか、と仮定し、
この2647人を対象に、潜在成長曲線モデルと潜在クラスモデルの合体版である、混合成長曲線モデル分析を行いました。
以下で、各分析手法の説明をさせていただきます。
- 潜在成長曲線モデルとは、時系列データを解析するモデルの一つで、切片,すなわち初期値と傾き、すなわち変化率を潜在変数として設定し、各観測変数にかかる因子負荷量を固定することで個人差をとらえつつ、時系列データをまとめて評価することができる手法です。パス図で表現するとこのようになります。
- 一方、潜在クラスモデルとは、母集団が複数の集団の混合であると仮定し、各観測個体をクラス分類する分析手法です。適合度指標を用いてクラス数を決定します。
混合成長曲線モデルでは、潜在成長曲線モデルで得られた初期値と増加率に対して潜在クラス分析を行い、研究者を複数のパターンに分類することが可能です。
- それでは、分析の詳細です。まずは、クラス数の決定ですが、AIC,BICの適合度指標を使用します。両社とも値が小さいほうが好ましいこと、また現実的な解釈可能性を考慮して、今回は5クラスモデルを採用しました。
- こちらは各クラスの論文数の推移を示すグラフです。元々論文数が多く増加率も大きいクラスを大御所タイプ、最初は論文数が少ないながら増加率が大きいクラスを急成長タイプ、元々の論文数は割と多いがその後はわずかながら減少傾向にあるクラスを現状維持タイプ、元々の論文数はそれほど多くなく、その数を維持しているクラスを着実タイプ、元々の論文数は少なくその後はゆるやかに増加しているクラスを駆け出しタイプ、としました。
- 各クラスの構成割合です。駆け出しタイプが40%を占め、次に多いのが着実タイプで28%です。それ以外のタイプはそれぞれ10%前後を占めています。
- では、各タイプの研究者は、どのような研究を行っているのでしょうか。これを知るために、各研究者が第1著者として発表している論文を抽出して検討しました。
そして、各タイプ別に「褥瘡」という単語を含む論文の出現率を算出し、経時推移を検討しました。
- こちらのグラフは、縦軸が褥瘡の出現率、横軸が年次を表しています。これを見ると、大きく二つにグラフが分かれることが分かります。
出現率が高いのが駆け出しタイプ、着実タイプ、現状維持タイプです。2005年を境に急激に増加し、2010年頃から急激に減少しています。
一方、大御所タイプ、急成長タイプは、2005年を境に増加はしているものの、それほど急激ではありません。また、2010年以降も、特に大きな減少傾向は認められません。
審査員の方からいただいたコメントに、他の分野でも応用できるのか?というものがあったので、同様の分析を「GB」社会医学分野でも行いました。GB分野では、「連携」という単語が2008年を境に急増していました。
2008年の診療報酬改定は、「連携」をキーワードに、主に在宅と病院の「連携」を促進する改定が行われました。これに呼応したものと思われます。そこで、クラス別に連携の出現率を検証すると、やはり論文数の増加が少ないグループが強く反応し、論文数の増加が多いグループはあまり反応しないという結果でした。
- 以上の結果からまとめです。研究内容としては、皮膚科の論文は褥瘡に関する論文数が大幅に増加しており、これは医療政策の影響が大きいと考えられました。
また、研究者タイプとしては、論文数の経時推移によって、5つのパターンに分類されました。
そして、研究者のパターンによって、論文のテーマ選択において医療政策の影響度合いが異なりました。論文数の増加率が小さい研究者の集団の方が政策に敏感に反応する、という傾向が明らかになりました。
- 今後の課題です。