2022.12.06
竹内 英之
遺伝カウンセリングのあらまし

本日のお題
 遺伝カウンセリングとは
 遺伝カウンセリングの基本的姿勢
 遺伝カウンセリングの実際

本日のお題
 遺伝カウンセリングとは
 遺伝カウンセリングの基本的姿勢
 遺伝カウンセリングの実際

18歳女性が、最近、易怒性と全身の舞踏運動を自覚するようになりました。
父親（50歳）も数年前から易怒性と全身の舞踏運動が徐々に悪化しており、
父娘同時にN大学附属病院の神経内科を受診されました。
母親（48歳）、長兄（24歳）、次兄（22歳）は無症状でした。
症例１

18歳女性が、最近、易怒性と全身の舞踏運動を自覚するようになりました。
父親（50歳）も数年前から易怒性と全身の舞踏運動が徐々に悪化しており、
父娘同時にN大学附属病院の神経内科を受診されました。
母親（48歳）、長兄（24歳）、次兄（22歳）は無症状でした。
症例１
遺伝子検査の結果、父娘ともHuntington病と診断されたため、
現在は無症状である長兄と次兄も遺伝子診断を強く希望されました。

18歳女性が、最近、易怒性と全身の舞踏運動を自覚するようになりました。
父親（50歳）も数年前から易怒性と全身の舞踏運動が徐々に悪化しており、
父娘同時にN大学附属病院の神経内科を受診されました。
母親（48歳）、長兄（24歳）、次兄（22歳）は無症状でした。
症例１
遺伝子検査の結果、父娘ともHuntington病と診断されたため、
現在は無症状である長兄と次兄も遺伝子診断を強く希望されました。
数回にわたる説明を経た同意の下で行われた遺伝子診断の結果、
長兄は正常でしたが、次兄はHuntington病と診断されました。

18歳女性が、最近、易怒性と全身の舞踏運動を自覚するようになりました。
父親（50歳）も数年前から易怒性と全身の舞踏運動が徐々に悪化しており、
父娘同時にN大学附属病院の神経内科を受診されました。
母親（48歳）、長兄（24歳）、次兄（22歳）は無症状でした。
症例１
遺伝子検査の結果、父娘ともHuntington病と診断されたため、
現在は無症状である長兄と次兄も遺伝子診断を強く希望されました。
数回にわたる説明を経た同意の下で行われた遺伝子診断の結果、
長兄は正常でしたが、次兄はHuntington病と診断されました。
次兄は自殺を図りました。

遺伝情報の特殊性
1. 生涯不変
→ 一度知った情報の内容を変えたり、
知らない状態に戻ることはできない

遺伝情報の特殊性
1. 生涯不変
→ 一度知った情報の内容を変えたり、
知らない状態に戻ることはできない
2. 将来の病気の予測
→ 将来なるかも知れない病気が判ることも
いつなるか・100%なるのかは判らない

遺伝情報の特殊性
1. 生涯不変
→ 一度知った情報の内容を変えたり、
知らない状態に戻ることはできない
2. 将来の病気の予測
→ 将来なるかも知れない病気が判ることも
いつなるか・100%なるのかは判らない
3. 家族で共有
→ 家族のことも判ってしまうことがあり、
自分の考えだけで決められないことも

遺伝情報の特殊性
1. 生涯不変
→ 一度知った情報の内容を変えたり、
知らない状態に戻ることはできない
2. 将来の病気の予測
→ 将来なるかも知れない病気が判ることも
いつなるか・100%なるのかは判らない
3. 家族で共有
→ 家族のことも判ってしまうことがあり、
自分の考えだけで決められないことも
いつ調べても変わらない情報をいつ調べるかによって（着床前、
出生前、発症前、発症後）
人生への影響は大きく異なる
→ 遺伝性神経難病などの成人発症で治療法がない疾患の
未発症診断はとくに慎重に（未成年者は原則禁止）

遺伝病は特別な人だけ？
現在600〜700種類
常染色体劣性遺伝病

遺伝病は特別な人だけ？
現在600〜700種類
平均4万人に１人 = 保因者は100人に1人
常染色体劣性遺伝病

遺伝病は特別な人だけ？
現在600〜700種類
平均4万人に１人 = 保因者は100人に1人
誰でも6〜7つの遺伝病の保因者
常染色体劣性遺伝病
人類みな保因者

偶発的所見 (Incidental Findings)
全ゲノムシークエンス時代
→ ・予期せぬ結果の検出
・診断対象とは無関係な遺伝子の病的変異の検出
• 新生児の0.3%程度で、表現型に影響しない可能性が高い染色体異常
（性染色体異常、均衡型構造異常）が見つかる。
• ゲノムでは、1人あたり平均400の疾患に関連する遺伝子多型が存在
する。
例えば、、、
・神経疾患の遺伝子検索で家族性腫瘍の遺伝子変異が見つかった。
・白血病の遺伝子検索でXXY症候群が見つかった。
・親子の遺伝子検査をしたら、血の繋がりがなかった。

遺伝カウンセリングとは
遺伝カウンセリングは、疾患の遺伝的関与について、その遺伝
的影響、心理学的影響および家族への影響を人々が理解し、そ
れに適応していくことを助けるプロセスである。

遺伝カウンセリングとは
遺伝カウンセリングは、疾患の遺伝的関与について、その遺伝
的影響、心理学的影響および家族への影響を人々が理解し、そ
れに適応していくことを助けるプロセスである。
1. 疾患の発生・再発の可能性を評価するための家族歴・病歴の解
釈
2. 遺伝現象・検査・マネージメント・予防・資源・研究についての教
育
3. インフォームド・チョイス（十分な情報を得た上での自律的選択）
およびリスクや状況への適応を促進するためのカウンセリング

遺伝カウンセリングとは
遺伝カウンセリングは、疾患の遺伝的関与について、その遺伝
的影響、心理学的影響および家族への影響を人々が理解し、そ
れに適応していくことを助けるプロセスである。
1. 疾患の発生・再発の可能性を評価するための家族歴・病歴の解
釈
2. 遺伝現象・検査・マネージメント・予防・資源・研究についての教
育
3. インフォームド・チョイス（十分な情報を得た上での自律的選択）
およびリスクや状況への適応を促進するためのカウンセリング
• 検査を「受ける」権利と「受けない」権利
• 結果を「知る」権利と「知らない」権利

医療と遺伝カウンセリングの違い
1. 健康な人も対象
診療 ⇒ 患者 vs. 遺伝カウンセリング ⇒ クライアント
2. だれでもOK
親戚に遺伝病がある...
フィアンセの家族に遺伝病があるので心配...
3. 医者でなくてもできる
遺伝カウンセラーによる遺伝相談

本日のお題
 遺伝カウンセリングとは
 遺伝カウンセリングの基本的姿勢
 遺伝カウンセリングの実際

難病患者の気持ちの動き
キューブラー・ロス
「死の５段階モデル」
嘘！自分が病気の訳がない！

難病患者の気持ちの動き
キューブラー・ロス
「死の５段階モデル」
嘘！自分が病気の訳がない！
何でこんな病気にならなきゃいけないんだ！

難病患者の気持ちの動き
キューブラー・ロス
「死の５段階モデル」
何とかすれば病気から逃げられるのでは？
嘘！自分が病気の訳がない！
何でこんな病気にならなきゃいけないんだ！

難病患者の気持ちの動き
キューブラー・ロス
「死の５段階モデル」
こんな病気だなんてもう終わりだ、、、
何とかすれば病気から逃げられるのでは？
嘘！自分が病気の訳がない！
何でこんな病気にならなきゃいけないんだ！

難病患者の気持ちの動き
キューブラー・ロス
「死の５段階モデル」
何とか日々過ごせているなぁ、、、
こんな病気だなんてもう終わりだ、、、
何とかすれば病気から逃げられるのでは？
嘘！自分が病気の訳がない！
何でこんな病気にならなきゃいけないんだ！

ラポール構築の核となる姿勢
カール・ロジャーズの傾聴の3条件
1. 自己一致（純粋さ）
自分の気持ちも偽らずに、一人の人間として応対する。
2. 無条件の肯定的配慮（尊敬の念）
批判することなく、ありのままを受け止める。
3. 共感的理解
あたかも自分自身が経験しているように感じ、理解する。

ふつうの診療 みたい？
私が〇〇病なのですが
おなかの赤ちゃんに
遺伝するのですか？
〇〇病は常染色体優性遺伝なので
1/2の確率で遺伝しますね。
出生前診断については、、、
いわゆる説明モデル

遺伝カウンセリング らしい？
私自身はよいのですが
主人の母が、、、
なるほど、赤ちゃんに〇〇病が
遺伝することが心配なのですね。
具体的にはどんなことが
気になりますか？
心理・社会的モデル

説明モデル
心理・社会的モデル
どちらも大切！
この２つの要素を
いかにブレンドするか

本日のお題
 遺伝カウンセリングとは
 遺伝カウンセリングの基本的姿勢
 遺伝カウンセリングの実際

実際の遺伝カウンセリングの構成
妥当な初回時間は1時間30分
• 挨拶、自己紹介、アイスブレイク
• 最初の30分は、アジェンダ設定、家族歴・経過聴取
• 次の30分は、医学的・遺伝学的状況の整理、情報提供
• 最後の30分は、アジェンダに添いつつ様々に語り合うディス
カッションの時間
• 終わりに、次回の予定とアジェンダ設定（複数回予定）

家系図の書き方
• 3世代は必要
d.30y
周産期死
d.70y
24y 22y
55y 50y 48y
50y
18y
25y 21y 18y
82y
63y
P
P
SB.40w
• 故人は斜線
• 発症者は黒塗り
• 来談者は矢印
• 来談理由となった患者は
P＋矢印

カウンセリングの４つの技
1. 最初は開かれた質問で（Yes/No以外）
例1：子供のことを聞く
・「お子さんはいらっしゃいますか？」
・「お子さんは何人ですか？」
・「お子さんについて教えて下さい。」
例2：説明内容の理解を確認したい
・「説明はご理解できましたか？」
・「説明した内容についてどう思われますか？」
・「説明した内容についてどう感じますか？」
閉
開
閉
開

カウンセリングの４つの技
2. 言い直し、聞き換え、転換
言い直し：
「検査って怖くて、、、何でも分かるんですか？」
→「検査を受けることに不安があるのですか？
「どんなことがわかるか知りたいのですか？」
「それでは検査について説明しましょう。」

カウンセリングの４つの技
2. 言い直し、聞き換え、転換
言い直し：
「検査って怖くて、、、何でも分かるんですか？」
→「検査を受けることに不安があるのですか？
「どんなことがわかるか知りたいのですか？」
「それでは検査について説明しましょう。」
聞き換え：
「私は遺伝子検査をします！白黒はっきりさせたいから。」
→「白黒はっきりさせたい？」
「だって、病気じゃないかもしれないでしょう？」

カウンセリングの４つの技
2. 言い直し、聞き換え、転換
言い直し：
「検査って怖くて、、、何でも分かるんですか？」
→「検査を受けることに不安があるのですか？
「どんなことがわかるか知りたいのですか？」
「それでは検査について説明しましょう。」
聞き換え：
「私は遺伝子検査をします！白黒はっきりさせたいから。」
→「白黒はっきりさせたい？」
「だって、病気じゃないかもしれないでしょう？」
転換：
「大切な点ですね。でも、その前にもう少し確認させて下さい。」
「今の件について、その他に質問や気になることはありますか？」

カウンセリングの4つの技
不快・緊張を引き起こす語句を控える
・「重度」「重症」「奇形」「無理」「できない」「治らない」
3. 平易な言葉と言い換えの心掛け
• 医者の理解と一般人の理解は異なる
• 説明で用いる語句は配慮が必要
ネガティブな専門用語の言い換え
・「遺伝子変異」「遺伝子異常」→「遺伝子の多様性（バリアント）」
・「再発危険率」→「再発率」

カウンセリングの4つの技
医療者の多く
が苦手
非常に効果的な技法
効果として
・クライアントが自分自身で話した内容を反芻
・次の発言を考える余裕
・気持ちを落ち着ける
早急にコメントしないで沈黙をもつことは、クライア
ントの語りに配慮を示すこと
4. 沈黙、間
ま

メリット デメリット
検査を受ける
陽性の場合
陰性の場合
検査を受けない
発症した場合
発症しなかった場合
遺伝子診断を受けるかどうかを検討するための
メリット・デメリット表
クライアント
の関心
クライアント
の関心

メリット デメリット
検査を受ける
陽性の場合
陰性の場合
検査を受けない
発症した場合
発症しなかった場合
遺伝子診断を受けるかどうかを検討するための
メリット・デメリット表
クライアント
の関心
カウンセリング
での補足点
あくまで
クライアントの生活環境や価値観に
即して考える
クライアント
の関心
カウンセリング
での補足点

今後の人生のシミュレーション
（Anticipatory Guidance）
幸福度
100%
-100%
年齢
０歳 小
学
校
入
学 中
学
校
い
じ
め
高
校
入
学
大
学
受
験
大
学
入
学
就
職
25歳
結
婚
30歳
出
産
35歳
親
が
遺
伝
性
疾
患
と
知
る
40歳
現在

今後の人生のシミュレーション
（Anticipatory Guidance）
幸福度
100%
-100%
年齢
０歳 小
学
校
入
学 中
学
校
い
じ
め
高
校
入
学
大
学
受
験
大
学
入
学
就
職
25歳
結
婚
30歳
出
産
35歳
親
が
遺
伝
性
疾
患
と
知
る
40歳
現在
検査の有無・発症の有無での
今後の人生を
4通りにシミュレーション
クライアントの
生活環境・価値観に即した
インフォームド・チョイス

32歳女性が、最近、焦燥感と全身の舞踏運動を自覚するようになりました。
父親は、50代から全身の舞踏運動が徐々に悪化し、寝たきりとなった後、60代で亡くなっ
ています。8歳上の兄も数年前から寝たきりとなっており、N大学附属病院の神経内科で
DRPLAと診断されています。
症例２

32歳女性が、最近、焦燥感と全身の舞踏運動を自覚するようになりました。
父親は、50代から全身の舞踏運動が徐々に悪化し、寝たきりとなった後、60代で亡くなっ
ています。8歳上の兄も数年前から寝たきりとなっており、N大学附属病院の神経内科で
DRPLAと診断されています。
症例２
数回の遺伝カウンセリングを経て、同意の下で行われた
遺伝子診断の結果、本人もDRPLAと診断されました。

32歳女性が、最近、焦燥感と全身の舞踏運動を自覚するようになりました。
父親は、50代から全身の舞踏運動が徐々に悪化し、寝たきりとなった後、60代で亡くなっ
ています。8歳上の兄も数年前から寝たきりとなっており、N大学附属病院の神経内科で
DRPLAと診断されています。
症例２
数回の遺伝カウンセリングを経て、同意の下で行われた
遺伝子診断の結果、本人もDRPLAと診断されました。
認知機能や身体機能が低下する前に、自分の身の回りの整理と
終末期治療の選択（気切・胃瘻・CVの拒否）を行いました。

32歳女性が、最近、焦燥感と全身の舞踏運動を自覚するようになりました。
父親は、50代から全身の舞踏運動が徐々に悪化し、寝たきりとなった後、60代で亡くなっ
ています。8歳上の兄も数年前から寝たきりとなっており、N大学附属病院の神経内科で
DRPLAと診断されています。
症例２
数回の遺伝カウンセリングを経て、同意の下で行われた
遺伝子診断の結果、本人もDRPLAと診断されました。
認知機能や身体機能が低下する前に、自分の身の回りの整理と
終末期治療の選択（気切・胃瘻・CVの拒否）を行いました。
緩和病棟で、自身の選択に則った安らかな最期を迎えられました。

本日のまとめ
 十分な医療情報をもとにしたリスク評価
 クライアントの内面理解に「技」は重要
（開かれた質問、反射、言い換え、間）
 意思決定や適応のプロセスの支援が重要
（医療者視点でなくクライアント中心）

未診断疾患患者に対する網羅的遺伝子診断プロジェクト
未診断疾患イニシアチブ IRUD
Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases