2020.01.08 イラン情勢に関する基礎的背景の概観1. イランってどんな国?
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イラン・イスラム共和国
ﺟﻣﮭوریاﺳﻼﻣﯽاﯾران
首都:テヘラン
人口:8000万人弱
公用語:ペルシア語
① イスラームに基づく「法学者による統治」
- シーア派イスラム:イスラム共和制
- ウラマー(法学者)の存在
-最高指導者: ハメネイ師
② 複雑な政府機構: 国家と革命の両立
- 行政府: ロウハニ大統領
- 立法府(マジレス)
- 司法府
- 監督者会議(法解釈とイスラム)
- 専門家会議(最高指導者の選出と輔弼)
2. イランに関するキーワード
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イラン最後の王朝 (パフレヴィー朝)が
進めた,白色革命に代表される欧米化・
世俗化政策に対する,ホメイニ師ら宗教
界・保守層からの反発拡大と王朝崩壊.
宗教に基づく⺠主主義革命が「⺠衆の
手」によって遂げられた例.
イラン革命
イランが核開発を凍結する見返りとし
て,欧米諸国等がイランに対する経済制
裁などを緩和するという合意(2015.07).
P5+1とイランの間で結ばれた.
*P5: 国連安保理常任理事国(米英仏露中)+ドイツ
EU3+3とも呼称される枠組み.
核合意(2015)
「法学者による統治」を“完遂”する為
に設立された国軍と補完関係にある軍隊
組織.国家安全保障を目的とした非対称
的な戦闘方法が特徴.
他国のシーア派⺠兵などを支援・指導
するQuds ForceはIRGC下の特殊部隊.
イスラム教の宗派の中で代表的に扱わ
れる2つ.預言者ムハンマドの後継者(預
言者の代理)として,誰がふさわしいか
という意見の違いで根強い対立.
他宗派として,ワッハーブ派,アラ
ウィ派なども.
シーア派・スンニ派 革命防衛隊(IRGC)
3. イランと世界の関係(イラン革命から核合意まで)
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p 1953 パフレヴィー朝下でのクーデター以降,親米英政権が樹立
p 1960年代〜 パフレヴィー朝下で核開発の開始
p IAEA加盟(1958),NPT加盟(1968)
p 米国・⻄独・ 仏などと原子力協定
p 1963 白色革命の開始
p 原油価格の下降により,改革は失敗に.
p 世俗化と皇帝への批判が苛烈に:反皇帝運動の中心にホメイニ師
p 1979 イラン革命
p イランアメリカ大使館人質事件*1
p 1980-1988 イラン・イラク戦争(アラブ+欧米諸国vsイラン・シリア等)
p 1984 米国,イランを「テロ支援国家」認定
p 1985 イラン・コントラ事件*2
p 湾岸戦争の引き金に
p 2001 米国・同時多発テロ
p 「テロリストに対する武力行使権限*3」が大統領に付与
p 2002 ブッシュ大統領がイラク・イラン・北朝鮮を「悪の枢軸」と呼称
*1: 革命直後,若者が米国大使館員を人質に
400日以上占拠,52名の人質.
*2: シーア 系過激派ヒズボラに拘束された
米軍兵士の解放を目的に,国交断絶下なが
ら,秘密裏に米国製兵器を武器に売却.売
上をニカラグアのゲリラへ提供.
*3: Authorization for Use of Military Force against Terrorist: AUMF
議会承認なしに,指定されたテロ組織への攻撃が大統領の命令で可能に. *1
*1 By UA_Flight_175_hits_WTC_south_tower_9-11.jpeg:
Flickr user TheMachineStops (Robert J. Fisch)derivative work: upstateNYer - UA_Flight_175_hits_WTC_south_tower_9-11.jpeg,
CC BY-SA 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=11786300
4. イランと世界の関係(イラン革命から核合意まで)
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p 2002 イランの核開発疑惑が表面化,IAEA,英仏独による対イラン合意の模索
p 2005 強硬保守派のアフマディネジャドが大統領就任
p ウラン濃縮の再開→英仏独+米中露(P5+1)によるイランとの合意失敗
p 2006 対イラン国連決議(1696号)採択,2007年以降国連制裁の対象に
p 2009-2011 イランがウラン濃縮を継続・拡大
p ロシア(2009),ブラジル・トルコ(2010)などによる事態打開の模索は失敗
p 2011年11月のIAEA事務局⻑報告でイランの核軍事利用濃厚に
p 米国・2012年度国防授権法*4(2011)やEU(2012)による強力な経済制裁
p 2013 イラン・保守穏健派のロウハニが大統領当選,対話路線を表明.
p 2013 イラン-IAEA間の核問題解決に向けた共同声明,イラン・P5+1・IAEA間の共同作業計画(JPOA)策定
p 2015 イラン・P5+1・IAEAで枠組み合意:JPOA→JCPOA*5(4月),最終合意(7月),安保理承認(7月)
p 2015 JCPOA発効 *5: Joint Comprehensive Plan of Action
(包括的共同作業)計画
*4: イランの金融機関との取引を行うと,米国金融機関との取引が禁止に.
イラン産原油の輸出を間接的に阻止.
*2 By Agencia Brasil - http://agenciabrasil.ebc.com.br/sites/_agenciabrasil/files/gallery_assist/23/gallery_assist697630/AgenciaBrasil210612_MAC9349.JPG,
CC BY 3.0 br, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=42115641
*2
オバマ大統領
アフマディネジャド大統領
*3 *4
5. イラン核合意(JCPOA)とは?
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目的:イランの核開発に制限を課す
・IAEAの監視により,イランの核技術開発が平和目的であることを確保する
・これまでにイランに課された個別・国連制裁を段階的に解除
・国際的な核不拡散体制を維持,強化すると同時に,中東情勢の安定を図る
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
イラン側の措置
1. 濃縮ウランについて
1. 濃縮度の逓減
2. 貯蔵量の削減
3. 濃縮ウラン製造用の遠心分離機の削減
2. アラクの重水炉設計変更と兵器転用可能なプルトニウムの製造禁止
3. 核技術の研究開発への制限
4. IAEAによる査察の受け入れ,イラン自身の核開発に関する透明性の強化
欧米側の措置:イランによる合意履行を前提として…
1. 国連による制裁(安保理決議に基づく)の解除
2. 各国独自制裁の解除
批判的な声
「致命的な欠陥がある」
(2018.05 イスラエル・ネタ
ニヤフ首相)
→米国・共和党やサウジアラ
ビア,イスラエルなどから批
判的な声は根強く存在
→主な論点として,イランに
よるミサイル開発,時限性.
履行されたJCPOA
IAEAによる査察で
①核物質の転用の有無
②未申告の開発等の有無
の2点で,イランがJCPOAを
遵守していることは確認.
*5 U.S. Embassy Tel Aviv - SecDef Carter in Israel 2015 (19912060255).jpg, CC BY4.0,
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=41821497による
*5
*4 By Tasnim News Agency, CC BY 4.0,
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=56228754
6. イランと世界の関係(トランプ大統領就任から近未来まで)
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p 2016.02 イラン国会の議員選挙で保守穏健派が躍進(第10期)
p 2017.01 トランプ大統領就任
p 選挙戦を通して,オバマ政権下のイラン核合意を批判
p イスラエルとの同盟関係を最重要視
p 2017.01 イラン・ミサイル発射実験を実施:「ムスダン」?
p トランプ政権は,イランの個人・団体に対する追加制裁実施
p 2017.05 イラン・ロウハニ大統領の再選
p 保守強硬派ライースィーを大差で破り再選:イラン国⺠のJCPOAに対する一定の信任
p 2017.09 イラン,再度ミサイル「ホラムシャハル」実験
p 2017.10 トランプ大統領「イランが合意遵守していると認めない」
*6 By Tasnim News Agency, CC BY 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=62677029
ロウハニ大統領
首相官邸HPより
*6
7. イランと世界の関係(トランプ大統領就任から近未来まで)
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p 2018.05 トランプ大統領,アメリカのJCPOAからの離脱を表明
p 2019.04 トランプ大統領,革命防衛隊をテロ組織に指定
p 前述の「テロリストに対する武力行使権限*1」の適応対象に
p 2019.05 イランが米国の離脱を受けて,JCPOA履行の一部停止表明
p 以降段階的に,一部停止を拡大.情報公開による透明性維持は継続
p 2019.06 米国・無人偵察機撃墜とトランプ大統領による攻撃承認・撤回騒動
p 2019.07 英国がイラン船籍タンカーをEU制裁違反の疑いでジブラルタルにおいて拿捕とIRGCの報復
p 2019.09 サウジアラビア,UAEの石油・天然ガス施設に対する攻撃:イエメン・フーシ派の背後にイラン?
p 2020.01 Quds Force司令官・ソレイマニとヒズボラのムハンディスを殺害
p 2020.01 イラン革命防衛隊がイラクの米軍基地をミサイル攻撃
p 2020.02 イラン国会の議員選挙(第11期)
p 保守強硬派と保守穏健派間のアピール激化?
p 2020.11 米国大統領選挙
p “Make America Great Again” から “Keep America Great”へ
*1: Authorization for Use of Military Force against Terrorist: AUMF
議会承認なしに,指定されたテロ組織への攻撃が大統領の命令で可能に.
*8 sayyed shahab-o- din vajedi - http://akkasemosalman.ir/wp-content/gallery/immortal/haj-ghasem01.jpg,
CC 表⽰ 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=42001087による
*8
ソレイマニ司令官
*7
*7 By Fars News Agency, CC BY 4.0,
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=68845600
8. 日本の自衛隊派遣 ー法的整合性と意義の観点から
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*8
ソマリア沖の海賊対処活動
-DAPE(航空) / DGPE/ DSPE(水上)の3部隊
-P-3C哨戒機がジブチ国際空港を拠点に活動
-根拠法:海賊対処法(2009)
第4条 防衛省は、次に掲げる事務をつかさどる。
(中略)
十八 所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと
防衛省設置法
第82条 防衛大臣は、‥(中略)‥自衛隊の部隊に海上に
おいて必要な行動をとることを命ずることができる。
*海上警備行動
第95条 自衛官は、 ‥(中略)‥相当の理由がある場合
には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で
武器を使用することができる。
自衛隊法
中東地域においては、日本関係船舶の防護の実施を直ち
に要する状況にはないものの、 ‥(中略)‥必要な情報
収集態勢を強化することが必要である。
閣議決定(2019.12.27)