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アニメーション・アーカイブの
機能と実践
I.G アーカイブにおける
アニメーション制作資料の保存と整理
株式会社プロダクション・アイジー
アーカイブグループ
β版
1
はじめに
 この資料は、文化庁平成 28 年度メディア芸術アーカイブ推進支援事業の補助を受け、株式会社プロダ
クション・アイジー アーカイブグループが作成したものです。
 プロダクション・アイジーは 1987 年の会社設立以降、自社が関わるアニメーションや実写などの映像
作品の企画制作や関連商品、それに伴って発生した大量の資料を保有しています。
 弊社では、従来資料の整理や保管はそれぞれの作品の映像制作の現場や広報担当者などが通常の業務の
傍ら行う程度でしたが、2005 年頃よりこうした作業を中心に行うスタッフを配置し資料整理を進めてき
ました。さらに 2016 年には、独立した部署としてプロダクション・アイジー アーカイブグループ(I.G
アーカイブ)が設置されました。
 この資料の目的は、10 年以上にわたり蓄積された I.G アーカイブの知見をまとめ、アニメーション・ア
ーカイブの活動の一例を示し、これからアーカイブを行おうとする方や、アーカイブ活動の上で課題を持
っておられる方の参考として頂くことです。
 今日、日本のアニメーション作品は国内外から高い評価を受け、世界中にファンを持つ作品も少なくあ
りません。
 しかし、たとえ高い評価を得た作品であっても、作品制作の「中間成果物」の多くは破棄されたり、制
作会社内で死蔵されています。
 アニメーション作品の中間成果物には、制作に携わった人々の想いや思考、技が色濃く残されています。
そのため、アニメーションを作る為の技術の記録や、アニメ産業に関わる人々についての記録を残し、未
来に伝えてゆくためには、こうした中間成果物を整理し保存する必要があります。
 近年、業界の内外でアニメーションのアーカイブに対しての理解は少しずつ進んでいるように感じてい
ます。しかし実際にアーカイブ活動を行っている会社は少なく、多くの制作会社はアーカイブのための環
境が整えられず、たくさんの資料が散逸の危機にさらされ続けています。
 こうした背景の一つには、アニメーションの制作資料のアーカイブには多くの経費が掛かることがあり
ます。アニメーション制作会社のほとんどは中小規模の企業であり、利益に直接つながりにくいことに人
手やお金をかける決断を下すことは難しいのです。
 弊社がアーカイブをはじめた時も、こうした状況は同様でした。それでもアーカイブを進めることがで
きたのは、制作現場や広報などに対して「使いたい時に使いたい資料がすぐに出てくる」ように、「アー
カイブがあったほうが良い」と思ってもらえるように努めてきたことが大きいと考えています。
 現在、I.G アーカイブには連日社内外のさまざまな人々から資料の取り出し、回収の依頼が寄せられてい
ます。これは従来破棄されたり、死蔵されていた資料にも利用価値があったことと、アーカイブが資料を
管理することでそうした利用を実現できることを示しています。
 いま使われる頻度が少ない資料だからといって、その資料を求める人が少ないわけではありません。
それは「その資料が使える」ということ、「その資料がある」ということを知らないだけかもしれません。
2
 この資料は、今後進められるアニメーション・アーカイブ、そしてアニメーション業界の内外でアーカ
イブの必要に迫られている人々に対して少しでも力になれればと思い、I.G アーカイブの考え方をまとめた
ものです。
 現在、I.G アーカイブはアニメーション制作会社のアーカイブとして一定の機能を果たしていますが、ア
ーカイブの理想形というほど十分に活動できている訳ではありません。
 「これが正解」というわけではなく、当社の現状を知ってもらい、より良い道に進むためのサンプルの
一つとして頂ければ幸いです。
株式会社プロダクション・アイジー アーカイブグループリーダー
山川道子
総合監修
山川道子
株式会社プロダクション・アイジー アーカイブグループ
監修補佐
想田充 
株式会社 寿限無
執筆者
清水ふさ子 
学習院大学大学院 人文科学研究科 アーカイブズ学専攻 博士後期課程
竹山郁子
紙本修復家 
宮本亮平
明治大学大学院 国際日本学研究科 博士後期課程
3
はじめに p1
目次 p3
第 1 部 アニメーション制作会社内アーカイブの意義と役割 I.G アーカイブの概要と機能 p5
1.1 アーカイブとは何か p6
1.2 アニメーション・アーカイブズ機関の類型と目的 p7
1.3 プロダクション・アイジーの沿革とアーカイブ機能の発展 p9
1.4 I.G アーカイブが対象とする資料群 p10
1.5 I.G アーカイブの資料活用 p12
第 2 部 資料保管・整理のための基礎知識 アニメーション制作資料の取り扱い p13
2.1 アニメーションの制作資料と保存管理 p14
2.1.1 アニメーションの制作工程と発生する資料 p15
2.1.2 資料を扱う前に確認すべきこと p20
2.1.3 資料の整理についての基本的な考え方 p21
2.1.4 整理作業の進め方 p22
2.1.5 資料のメディアの種類 p23
2.2 紙資料の取り扱い p24
2.2.1 紙資料の種類と特徴 p25
2.2.2 紙資料の分類と注意点 p26
2.2.3 紙資料の保存と管理 p27
2.3 記録メディアの取り扱い p28
2.3.1 記録メディアの種類と特徴 p29
2.3.2 磁気メディアについて p30
2.3.3 光学ディスクについて p31
2.3.4 ハードディスクの保存と管理 p32
2.3.5 記録メディアの受け入れと保管作業 p33
2.3.6 サーバでのデータ管理について p34
2.3.7 マイグレーションとその課題 p35
2.3.8 フィルム・写真について p36
2.3.9 フィルムの保存について p37
2.4 デジタルデータの取り扱い p38
2.4.1 デジタルデータの例と特徴 p39
2.4.2 デジタルデータを保管する際に考慮すべきこと p40
2.4.3 デジタルデータの保管作業 p41
2.4.4 デジタルデータを巡る今後の課題 p42
2.5 資料の管理目録 p43
2.5.1 資料の管理目録とは p44
2.5.2 資料の管理目録の種類 p45
2.5.3 資料の同資料(類縁)情報について p46
2.5.4 管理目録の入力作業 p47
第 3 部 各種資料の保存管理 I.G アーカイブにおける資料保管 p48
3.1 カット p49
3.1.1 カット袋とは p51
3.1.2 カット袋の内容物 p52
3.1.3 カット袋の保存レベルと判断基準 p55
3.1.4 カット袋の受け入れ事前準備 p57
4
3.1.5 カット袋の受け入れ作業 p59
3.1.6 カット袋の内容物確認 p61
3.1.7 カット袋の詳細調査 p63
3.1.8 カット袋の選別作業 p65
3.1.9 選別の基準例 p67
3.1.10 セル画とは p69
3.1.11 セル画の保管上の注意点 p70
3.1.12 セル画の保管作業 p71
3.1.13 背景画とは p73
3.1.14 背景画の保管作業 p74
3.1.15 データのカット素材 p76
3.2 制作資料 p77
3.2.1 制作資料とは p78
3.2.2 プリプロ資料の種類 p79
3.2.3 制作資料の保管作業 p82
3.2.4 アフレコ台本(録音・完成台本)について p84
3.2.5 アフレコ台本の受け入れ作業と保存管理 p85
3.2.6 版権イラストについて / 版権イラストの保管作業 p86
3.3 マスター/映像・音声資料 p87
3.3.1 マスター映像 / 映像資料について p88
3.3.2 マスター映像の種類 p89
3.3.3 マスター映像の収録メディア p92
3.3.4 マスター映像 / 映像資料の保存基準 p93
3.3.5 音声資料について p95
3.3.6 マスター映像 / 映像・音声資料の保管作業 p96
3.3.7 映像・音声資料目録について p97
3.3.8 映像のデジタル・データ化について p98
3.4 商品 p99
3.4.1 商品の種類とアーカイブ上の意義 p100
3.4.2 映像パッケージ・音楽商品の保存管理 p101
3.4.3 書籍の保存管理 p103
3.4.4 商品・ソフト目録について p104
3.5 広報・イベント資料 p105
3.5.1 広報・イベント資料とは p106
3.5.2 広報・イベント資料の保存管理 p107
付録
I.G アーカイブ目録作成のポイント p109
アニメーション制作データの LTO での保管について(WIT STUDIO へのヒアリング) p116
他アニメーション制作会社への制作資料保管状況についてのヒアリング p118
アニメーション原画からのカビの除去について p119
 I.G アーカイブでは、2016 年より資料目録とその運用のアップデートの検討を行っており、本資料にお
ける目録やその項目に関しての記述は、その検討内容を反映させたものとなっています。
 そのため、一部現時点では運用していない項目や作業について記述しており、これまで I.G アーカイブ
が行ってきた作業や目録とは必ずしも一致しない場合がありますので、ご了承ください。
5
1.1 アーカイブとは何か
1.2 アニメーション・アーカイブズ機関の類型と目的
1.3 プロダクション・アイジーの沿革とアーカイブ機能の発展
1.4 I.G アーカイブが対象とする資料群
1.5 I.G アーカイブの資料活用
第 1 部
アニメーション制作会社内アーカイブの
意義と役割
I.G アーカイブの概要と機能
文章 清水ふさ子 (1.1, 1.2, 1.3, 1.4 ) 宮本亮平(1.5)
作図 宮本亮平
6
第 1 部 アニメーション制作会社内アーカイブの意義と役割
 アーカイブズは「個人、または組織がその活動の過程で作成、受領、収集した記録のうち、継続的価値
を持つものとして保存されているもの」(『「公文書等の適切な管理、保存及び利用に関する懇談会」報告書』
内閣府 2004)と定義されています。その他にも「アーカイブズ機関」や「資料保存プログラム」などの意
味も含みます。
 国や自治体の記録文書は「公文書管理法」や自治体の条例などの法的枠組みで公文書保存(アーカイブズ)
が義務付けられています。また、企業では「会社法」「製造物責任法」「労働基準法」などにより、企業内
文書の保存年限が定められています。
 しかし、保存すべき企業アーカイブズは法的に保存対象となっている資料だけではありません。企業に
おける様々な過去資料(製品などのモノ資料も含みます)が図 1-1 で示されているように、組織活動のさ
まざまな機能を支えるツールとなります。経営面での意思決定を支え、企業リスクを抑えるとともに、大
きな企業価値を生む源泉となります。I.G アーカイブでは中間成果物を含めたアニメーション制作資料を網
羅的に収集しています。これらの中間成果物には完成作品には見ることのできない制作時の指示や記録が
残されており、時間が経っても制作過程が確認できる貴重な資料です。また、美術的、文化的価値が高い
ものも含まれます。そのため、広報、宣伝活動や二次利用、教育研修に幅広く利用されています。資料全
体としては経営判断や、企業理念の継承にも役立つ資料となるでしょう。
 
 ここでは、アニメーションアーカイブズ(機関)とはどういったものであるかを整理したうえで、株式
会社プロダクション・アイジー アーカイブグループ(以後 I.G アーカイブ)における目的と業務内容を
説明したいと思います。
1.1 アーカイブとは何か
図 1-1 企業アーカイブズの多様な価値
 松崎裕子「経営資源としてのアーカイブズ」企業史料協議会編『企業アーカイブズの理論と実践』丸善出版、2013、8 頁
7
 アーカイブズ(機関)には組織アーカイブズ(in-house Archives or institutional Archives)と収集アー
カイブズ (collecting Archives) の 2 種類に分けられるとされ、目的もそれぞれ違います。(表 1-1 参照)
組織アーカイブズ 収集アーカイブズ
優先される目的
組織運営・業務支援組織ミッション
への貢献
さまざまな目的 ( 研究、証拠、趣味な
ど ) に関する資料として提供
優先される利用者/公開ポ
リシー
組織内部 広く公開・利用
 これらをアニメーション業界に当てはめると以下のように分けられます。(図 1-2 参照)
 表 1-1、図 1-2 のように、一言で「アニメアーカイブズ」と言っても、営利企業であるアニメ制作会社
と公共施設に近いミュージアムや図書館が違うミッションをもっていることがわかります。そして、アー
カイブズを持たない業界団体や組織も多数存在し、双方のアーカイブズ機関をつなぐ存在として重要な役
割を担っていると考えられます。また、アニメに関する 企画展なども組織・収集アーカイブズの双方のリ
ソース活用を刺激する大きなきっかけとなるでしょう。
 I.G アーカイブにおいて設置根拠となる法令はなく、あえて言えば「会社法」になります。しかし、アニ
メアーカイブズ全体を後押しする法令としては「文化芸術振興基本法」が挙げられます。(下記参照)
1.2 アニメーション・アーカイブズ機関の類型と目的
表 1-1 アーカイブズの種類と目的
 松崎裕子「世界のビジネス・アーカイブズ」『世界のビジネス・アーカイブズ:企業価値の源泉』 より作成
 (渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター編、2012、6 頁)
双方の活動を
支える団体
例:日本動画協会
JAniCA
アニメ制作会社、
小規模スタジオ、
個人事業者等
例:I.G アーカイブ
強み:組織的アニメ制作スキル、
最新技術の熟知、
組織活動の歴史的情報
組織アーカイブズ
アニメミュージアム等
例:明治大学米沢嘉博記念図書館
京都国際マンガミュージアム
杉並アニメーションミュージアム
強み:資料離散抑止、
資料の公開・利用活動、文化研究、
旧型技術の継承、
横断的な情報プラットフォームの実現
収集アーカイブズ
図 1-2 2 種類のアニメアーカイブズと関連団体
8
第 1 部 アニメーション制作会社内アーカイブの意義と役割
「文化芸術振興基本法」(平成十三年法律第百四十八号)(平成十三年十二月七日公布)
第三章 文化芸術の振興に関する基本的施策
メディア芸術の振興
第九条 国は,映画,漫画,アニメーション及びコンピュータその他の電子機器等を利用した芸術(以
下「メディア芸術」という。)の振興を図るため,メディア芸術の製作,上映等への支援その他の必要
な施策を講ずるものとする 。
 I.G アーカイブでは、アニメーションが「文化芸術振興基本法」の対象に該当するメディア芸術であるこ
とを鑑み、以下の 2 点が我々のミッションと考えます。
・経営的目的:自社の企業活動を補助すること。
・文化的目的:自社の負担が許す範囲で、文化的に重要だと思われる資料を保管し、社会的要求に応える
こと。
 I.G アーカイブは組織アーカイブズでありその主な目的は業務支援となるため、資料やその情報は基本的
には非公開となります。しかし社会的な要求に対して可能な限り応えられるよう、資料の公開に対応でき
るよう努めています。
9
  弊社、プロダクション・アイジーとアーカイブ部門の沿革を以下にまとめます。
1987 年 有限会社アイジータツノコ設立
1993 年 有限会社プロダクション・アイジーに社名変更
1998 年 株式会社化し、株式会社プロダクション・アイジーへ
2002 年 15 周年記念書籍業務のため、広報室設置(I.G アーカイブの前身)
2005 年 ジャスダックに株式上場
2012 年 広報部門の解散によりアーカイブ業務が制作部に移動
2014 年 「攻殻」誕生 25 周年企画として展示イベント「攻殻機動隊大原画展」が開催される
		 (2016 年に常設ショップ「I.G ストア」へ発展)
2016 年 制作本部アーカイブグループが設置される
弊社は「攻殻機動隊」(1995 ~)シリーズが国際的にヒットしたことを契機として、日本を代表する
スタジオのひとつに成長しました。設立から 2004 年ごろまでは映画、TV シリーズ、ゲームがそれぞれ
年一本ずつといった業務ペースであったため、資料管理は比較的簡易なもので済んでいました。
しかし、2005 年以降は制作する作品数とともにアーカイブの業務量が年々増加し、終了した業務資料
(制作資料)の保存管理まで手が回らなくなっていきます。現在、直近の終了作品の受け入れ作業、展示
や商品化などで使う資料の整理が優先となっており、受け入れ済みの資料の整理や目録整備、過去に破
損した資料の修復はペンディングとなっています。
2002 年に周年事業によってアーカイブ機能が立ち上がっていること、2005 年の株式上場によって管
理の必要性が高まってきたことは、企業発展に伴う一般的な流れと言えます 。それに対して、一般的な
企業資料との違いは制作資料の二次利用(展示、映像等の貸し出し)が圧倒的に多いこと、そしてシリ
ーズの続編が制作されるときには一旦「非現用」となった制作資料(原画、設定類)が現場で再利用さ
れる、いわば「現用」に戻ることです。
これらのアニメーション制作に特徴的な業務が増加し続けていることと、制作現場から生成される膨
大な制作資料の管理に対応するため、弊社におけるアーカイブ機能が発展してきました。
1.3 プロダクション・アイジーの沿革とアーカイブ機能の発展
10
第 1 部 アニメーション制作会社内アーカイブの意義と役割
 それでは具体的に I.G アーカイブが移管対象とする資料をアーカイブズ学的に整理しましょう。企業ア
ーカイブの資料の体系は以下のように位置付けられています。
1.4 I.G アーカイブが対象とする資料群
企業資料
組織内資料
外部化資料
経営資料
調査資料
業務資料
図 1-3 企業資料の体系
 小風秀雅「近代の企業記録」(国文学研究資料館編『アーカイブズの科学』下巻、柏書房 2003 年、80 頁)より作成
 具体的な資料の内容として、「経営資料」は創業記録類、定款、株主名簿、取締役会議事録など、業務
資料はより日常的な業務で生まれる資料とされています。また、「調査資料」は経営判断や業務遂行の判
断材料となる調査資料、「外部化資料」はその名の通り、外部に向けて発信した資料となり、行政、株主
に向けての報告書や広報、宣伝物を含みます。
 弊社では一般に企業アーカイブズの主な範囲とされる「経営資料」類は総務部、法務部等が独自に保管
しています。I.G アーカイブが現在扱う資料(アーカイブに移管される対象となっている資料)は「アニメ
制作資料」で主に「業務資料」の一部にあたります。これらは、アニメ作品の企画から中間成果物を経て、
マスターテープ納品まで、一連の業務過程で発生する資料です。
 ただ、企画書や企画会議の議事録、予算等の記入のある業務資料などは「経営資料」の要素も含み、制
作前にリサーチした「調査資料」や、チラシやポスターなどの「外部化資料」も I.G アーカイブへ移管さ
れるので、実際には資料領域を跨っています(図 1-4 参照)。
企業資料
組織内資料
外部化資料
経営資料
調査資料
業務資料
I.G アーカイブ
主な資料の移管元
(制作資料など)
企画会議資料など
ロケハン資料など
チラシやポスターなど
図 1-4 I.G アーカイブの管轄資料の領域
11
資料の発生
制作現場
メーカー各社
現像所
新聞・雑誌・WEB
関係者
アーカイブ
資料の整理・保管
移
管
・
受
け
入
れ
・
収
集
資料が届いたら以下のステップで
整理を行う(段階的整理)
① 受け入れ作業
届いた箱数、資料概要の把握、
緊急の処置が必要かの判断
② 内容物確認
個別アイテムの確認、
目録作成
③詳細調査
個別資料の詳細な確認、
保存処置、目録データの充実
整理の目的
保存処置や目録(管理リスト)を
作成し、必要になったときに取り
出して利用できるようにしておく。
利活用
制作での再利用
商品化
展示・上映
問い合わせ対応
教育、スタッフ選定資料
リマスター素材取
り
出
し
図 1-5 アニメーション制作会社におけるアーカイブの役割
 このような移管体制は、「作品」とその制作過程を復元可能な形で資料保存することが企図されています。
その中にアニメーションの創作の核心を内包するのが制作会社のアーカイブズの特徴であり、強みである
といえるでしょう。
 I.G アーカイブにおける資料の流れは、おおまかにまとめると下記の図 1-5 のようになります。
 社内で発生した制作資料の移管を受けるほか、関係各所から資料を収集します。移管された資料は資料
リスト(目録)を作成し、社内、社外からの要求に応じて取り出して提供します。
次章以降で制作過程に即した具体的な資料の解説を行います。
12
第 1 部 アニメーション制作会社内アーカイブの意義と役割
○ I.G アーカイブの資料活用例
 I.G アーカイブでは保管している資料を社内外からの要求に対して取りだし、提供しています。資料が利
用される事例としては、以下のようなものが挙げられます。
・原画展や原画集等の、展示や書籍での利用(原画、レイアウト、設定画など)
・映像商品の再販売・リマスターなどの利用(マスター映像など)
・上映イベントなどでの利用(映像素材など)
・イベントや商品の広報での利用(広報素材など)
○ I.G ストアへの資料提供
 プロダクション・アイジーは、2016 年より渋谷マルイ内で公式キャラクターグッズショップ「I.G ストア」
を営業しています。
 
 「I.G ストア」ではフロア内に展示コーナーを常設しており、期間ごとに弊社作品の展示イベントを、直
近の作品から過去の作品まで幅広く開催し、I.G アーカイブの資料を利用・公開するための重要な窓口とな
っています。さらに「I.G ストア」では、展示した原画など(原紙)の複製を販売し、利益をあげています。
 このような原画展示や複製原画の作成などを行う際は、作品資料が適切に整理、保管されていなければ
作業の負担は非常に大きなものとなります。「I.G ストア」が頻繁に展示や複製原画を実施できるのは、こ
の整理、保管作業を事前に I.G アーカイブが行っているためです。「I.G ストア」は「アーカイブがビジネ
ス機会を産み出すことができる」ことの、一つの事例だと言えます。
1.5 I.G アーカイブの資料活用
○ I.G アーカイブでの資料の利用状況
 
 I.G アーカイブの資料の利用頻度は、取り出し依頼は月に約 20 件程度で、資料点数では月に 100 点以上、
多いときは 250 点以上です。
 取り出し依頼の内訳は、大まかに 8 割がデータ資料で、映像テープ類と紙資料が残りの半々程度です。
特に映像のデータやバックアップデータからの取り出し依頼が圧倒的に多く、反対に原画類は展示や原画
集等が無い限り依頼が来ないため、依頼件数としては少なくなります。 また貸し出した資料は商品企画
などの社外で利用される場合や、社内で続編などの作品制作の際に再利用される場合などがあります。
図 1-6 I.G ストア 図 1-7 I.G ストア展示スペース
13
2.1 アニメーションの制作資料と保存管理
2.2 紙資料の取り扱い
2.3 記録メディアの取り扱い
2.4 デジタルデータの取り扱い
2.5 資料の管理目録
第 2 部
資料保管・整理のための基礎知識
アニメーション制作資料の取り扱い
文章・作図 宮本亮平
14
第 2 部 資料共通の作業と注意点
2.1 アニメーションの制作資料と保存管理
 第 2 部では、アニメーション資料のアーカイブにおける基礎的な知識、および複
数の資料で共通する作業や注意点等について解説を行います。個別の資料について
の具体的な解説は、第 3 部にて行います。
 2.1 では、まずアニメーション制作において作成される資料全体について簡単に説
明をした後、実際の整理作業に入る前に知っておくべきことなどを確認します。
2.1.1 アニメーションの制作工程と発生する資料
2.1.2 資料を扱う前に確認すべきこと
2.1.3 資料の整理についての基本的な考え方
2.1.4 整理作業の進め方
2.1.5 資料のメディアの種類
15
脚本・プロット・イメージボード
脚本
絵コンテ
絵コンテ
各種設定類
設定
レイアウト
レイアウト
原画・タイムシート
原画
背景画
背景
動画
動画
スキャン・彩色データ
(かつてはセル画)
色指定・仕上げ
映像素材(撮影上がり)
撮影
音響素材
音響
音声素材
アフレコ台本
アフレコ
映像素材(音声あり)
ダビング
映像マスター
音声マスター
ビデオ編集
広報資料
広報
各種商品
商品
放送局マスター
メーカーマスター など
納品後
企画書など
企画
カラーモデル
色彩設計
モデルデータ
3D モデル作成
カットごとの作画データ
3D シーン作成
映像素材(編集上がり)
編集
納品
2.1.1 アニメーションの制作工程と発生する資料
図 2-1 アニメーション制作の流れと発生する資料の例
* あ く ま で 一 例 で 工 程 の 流 れ や 発 生 す る 資 料
は、時代や作品によって異なる場合があります。
16
第 2 部 資料共通の作業と注意点
 ここでは、アニメーション制作の流れと、それぞれの工程で発生する資料について説明します。制作の
流れや発生する資料は、会社や作品、時代などで変わります。
 各資料の詳細や、アーカイブ上の価値などについては、各資料の解説ページを参照してください。
 アニメーションの制作は、各工程に専門の作業者を置き、流れ作業のように進んでいきます。音楽や背
景画など一部の工程を別の専門の会社に任せたり、原画や動画の作業の一部(あるいは大部分)を別の制
作会社へ依頼することも珍しくありません。「どの工程をどの会社(人)が担当するのか」は会社や作品
ごとに異なり、そのためアーカイブが回収・保管する資料も変わることがあります。
 レイアウトや原動画、撮影など、実際の画面に映る映像を制作する工程を「プロダクション」、脚本や
絵コンテなど「プロダクション」の前の工程を「プリプロダクション(プリプロ)」、撮影以降の映像編集
や納品作業などの工程を「ポストプロダクション(ポスプロ)」などと呼んで区別することもあります。
 アニメーション制作会社の中心となる仕事は「プロダクション」工程で、「アニメーションのアーカイ
ブ資料」という言葉でイメージされる資料も、絵コンテや原動画などの「プリプロ」「プロダクション」
までの工程のものが多いようです。しかし、「ポスプロ」工程で制作されるマスター類は再放送やイベン
ト上映などで利活用の機会が多く、広報・商品資料は作品発表後も長期間にわたって利用されます。この
ためアーカイブを行う際は、作品に関わる工程全体から必要な資料を回収・保管します。
【企画】
発生する資料:企画書
 アニメーションの制作は、社外からの依頼や社内の企画案などからスタートします。社内外での打ち
合わせや検討を経て契約が結ばれると、作品の制作がスタートします。
 契約書や予算書など、会社の経営にかかわる重要な書類も作成されますが、これらは法務部などが管
理するので、アーカイブ部門が回収・管理するものは企画書や参考資料などです。
【脚本】
発生する資料:脚本(シナリオ)、プロット、イメージボード(p79 参照)
 一般的に作品の制作が始まると、まず作品のストーリーなどをテキストによって表現した「脚本(シナ
リオ)」が作成されます。あらすじやキャラクターの設定などを簡単に書いた「プロット」が作成される
作品もあります。
 まれに、作品の世界観やキャラクターのイメージをイラストで表した「イメージボード」が作成される
場合があります。イメージボードは脚本や絵コンテの参考にされます。
【絵コンテ】
発生する資料:絵コンテ、イメージボード(p79 参照)
 脚本をもとにカットごとの画を描いた「絵コンテ」を作成します。「絵コンテ」にはカメラワークや撮
影指示、セリフやカットの時間なども書き込まれており、その後の各工程の参考・指示書となります。
作品によっては、絵コンテをより詳細に描いたイメージボードが作成されることもあります。
【設定】
発生する資料:設定画(キャラクター・メカ・小物・美術など)(p79 参照)
 絵コンテと並行してキャラクターやメカ、小物などの「設定画」が作成されます。「設定画」は原画な
どの作画作業の参考資料となります。また、「設定画」はこれ以降も必要に応じて随時作成されます。
【レイアウト】
発生する資料:レイアウト(原紙・コピー)(p52 参照)
17
 絵コンテを元に、各カットの作画作業が始まります。最初に作成される「レイアウト(L/O)」は、その
カットのキャラクターや背景、カメラワーク、演出効果などが書き込まれた、カットの設計図のようなも
のです。レイアウトの原紙は背景の素材(背景原図)になり、コピーが原画作業以降の素材になります。
【原画】
発生する資料:原画、タイムシート(p52 参照)
 絵コンテやレイアウトを元に「原画」が描かれます。「原画」は、カットの動きのキーポイントを描い
た画です。また、原画を制作する段階で、1 コマごとに使用する原画や演出、撮影の指示が書き込まれた「タ
イムシート」も作られます。
 近年、「レイアウト」「原画」「タイムシート」を制作する工程を、「第 1 原画」「第 2 原画」など別の担当者(工
程)に分けて作業する作品も増えています。どの資料をどの工程で制作するかは作品ごとに違い、また「ラ
フ原画」という、原画の元となるような大まかな画が作成されることもあります。
【動画】
発生する資料:動画(p52 参照)
 原画を元に、原画のクリンナップ(清書)や原画の間の画を描く「動画」が制作されます。
 仕上げ以降の工程ががデジタルになった現在、動画のスキャンが終わった以降のレイアウト・原画・動画・
タイムシートなどの素材は、カットごとに「カット袋」(参照)に入れられ保管されます。
【背景】
発生する資料:背景画(p73 参照)
 レイアウトが制作された後、レイアウト(背景原図)を元に「背景画」が作成されます。
「背景画」は原画や動画を描く「作画」と呼ばれる部門とは別に、「美術」部門あるいは別の美術スタジオ
によって制作されます。
【色彩設計】
発生する資料:カラーモデル(p79 参照)
 設定画を元に、細かく色の設定を決める「色彩設計(色彩設定)」がおこなわれ、色の設定画である「カ
ラーモデル」が作られます。この「カラーモデル」を元に仕上げ作業が行われます。
【3D モデル作成】
発生する資料:3D モデルデータ
 3DCG でキャラクターやメカなどを描く作品の場合は、設定画とカラーモデルを元に「3D モデルデータ」
が作成されます。
【3D シーン作成】
発生する資料:3D セル
 レイアウトや原画を元に、モデリングデータをカットに合わせて配置し、動きや演出効果を加えたカッ
トごとの作画データが作られます。このデータは制作現場では「3D セル」や単に「3D データ」などと呼
ばれます。
 「3D セル」は、この後「撮影(コンポジット)」工程で手書きの原動画などのデータと組み合わせられますが、
作品によってはこの「3D セル」を「原画」工程に送り、CG に描き加える形で「原画」「動画」が作成さ
れる場合もあります。
【色指定・仕上げ】
発生する資料:スキャンデータ(仕上げ作業用)、彩色データ
 それぞれのカットごとに塗る色を決める「色指定」と、「色指定」を元に実際に色を付ける「仕上げ」
18
第 2 部 資料共通の作業と注意点
が行われます。
 「セル画」を使用していた時代は、「トレスマシン」によって動画の線をセルに転写し、着彩していまし
たが、現在は動画をスキャンし、そのスキャンデータに色を塗っています。
【撮影】
発生する資料:映像素材(撮影上がり)
 「撮影」は、制作された各カットの作画データを、タイムシート通りにつなげた映像にする作業です。
現在ではコンピュータ上でデータを合成する工程(コンポジット)となっていますが、かつてはセル画や
背景画をカメラで撮影し、フィルムなどを制作していました。
 この「撮影」の結果生まれる映像素材は業界内では俗に「撮影上がり」「レンダリングデータ」などと
呼ばれます。
【編集】
発生する資料:映像素材(編集上がり)(p88 参照)
 「編集」では、「撮影上がり」の映像素材を繋ぎ、さらに各カットの時間を調整したり順序を入れ替える
などの作業を行い、一つながりの映像を制作します。
 撮影の工程と同様に、現在ではコンピュータ上での作業ですが、フィルムの時代は実際にフィルムを切
り貼りしていました。そのため、現在でも「編集」の工程は「カッティング」とも呼ばれます。
 「編集」によって作成される映像素材は「編集上がり」「CT(カッティング)上がり」などと呼ばれます。
【音響】
発生する資料:音響素材(p95 参照)
 アニメの音楽制作は、作品制作の初期に欲しい音のイメージや種類などを伝えられた作曲家がまとめて
制作する場合や、制作の過程で必要に応じて随時作っていく場合など、作品や楽曲によって様々です。また、
効果音も同様に様々なタイミングで制作されます。
 多くの場合、楽曲や効果音の制作は作曲家やレコード会社、音響スタジオなど外部の会社が担当するた
め、アーカイブが回収するのは納品された CD やデータなどの「音響素材」です。
【アフレコ】
発生する資料:音声素材、アフレコ台本(p84 参照)
 絵コンテを元に「アフレコ台本」が制作され、映像に声を吹き込む「アフレコ」が行われます。
多くの場合、外部の録音監督や音響スタジオが収録した音をまとめるため、アーカイブが回収するのはア
フレコ台本と納品された「音声素材」です。
【ダビング】
発生する資料:映像素材(p88 参照)
 アフレコや音楽などの音のデータを、映像と合わせる「ダビング」が行われます。この工程でも、音に
合わせて映像の長さや効果などの調整が行われます。撮影や編集同様に、「ダビング」後の素材は「DB(ダ
ビング)上がり」などと呼ばれる、映像データと音声トラックが合わさったデータやテープがつくられます。
【ビデオ編集】
発生する資料:映像マスター、音声マスター(p88 参照)
 「ビデオ編集」は「V 編」とも略される、納品用のデータやテープ(マスターテープ / データ)を制作す
る工程です。具体的には、放送、公開の条件にあわせた時間の調整や、必要な場合はテロップを入れる作
業などを行います。
 納品の形態(テープやデータの種類など)は、契約時など事前に決められていますが、いずれの場合で
19
も映像のマスターと音声のマスターが作られ、まとめられています(テープの場合、1 本に映像と音声の
トラックが収録されていることもあります)。
 納品後に制作されるものと区別するため、制作会社が作成したマスターを、「I.G マスター」のように制
作会社の名前を付けて呼ぶこともあります。
【納品後】
発生する資料:放送局マスター、メーカーマスター など(p89 参照)
 作品によっては、制作会社から納品されたマスターを元に、放送用の「放送局マスター(局マスター)」、
DVD などのソフト用の「メーカーマスター(DVD マスター)」など、目的別にマスターテープ(データ)
が制作されることがあります。
 これらのマスターが制作会社に送られて来た場合も、アーカイブが回収します。
【広報】
発生する資料:広報資料(p105 参照)
 チラシやポスター、宣伝画像など作品の広報のために制作された宣伝素材、それらの制作資料などもア
ーカイブが回収します。
【商品】
発生する資料:各種商品(p100 参照)
 商品と、商品の開発に使用した版権イラストなどの素材も、アーカイブで回収・管理することがあります。
 アニメーション作品の関連資料の保存・処分の判断については、事前に作品ごとの資料の保管や処分に
関する条件を確認する必要があります。中には作品の制作資料(中間成果物)にも権利者が定められてい
る場合があり、これらの権利者や関係者の要望などを確認する必要があります。ここでは、アーカイブが
資料を扱う前に確認すべきことを説明します。
20
第 2 部 資料共通の作業と注意点
○ 誰に、何を確認するのか?
 アニメーション作品の関連資料を扱う際には、事前にその作品における資料の保管と処分に関する条件
を確認する必要があります。作品によっては、制作開始時に交わす契約書の中で制作資料(中間成果物)
の権利や扱いについて定められている場合があります。さらに作品ごとの権利者や関係者の資料に対する
要望などを確認することも必要です。
○ 事前の確認すべき事項
 資料の保管作業を行うにあたって、事前に確認すべきことは以下の 3 つです。
1. 権利、契約関係
 作品制作時に交わした契約書に、中間成果物についての取り決めがあるかを作品のプロデューサーに確
認します。
2. 関係者の資料に対する要望
 契約書に記載がなくても、関係者の間で資料の取り扱いについて口頭で約束していることがあります。
または、作品の関係者が資料のアーカイブへの移管以降も使いたいと思っている資料があるかもしれませ
ん。そのため、事前に作品のプロデューサーや関係者に要望の聞き取りを行っています。
3. 資料の状態
 アーカイブが回収する資料の種類や量を確認しておきます。特に「カット袋」は物量が多いため、事前
の受け入れ準備が重要です(p57 参照)。
2.1.2 資料を扱う前に確認すべきこと
 アニメーション作品の「プロデューサー」とは、作品の企画立案、資金集め、スタッフや制作環境
の構築と運営、宣伝、商品・イベント展開など、作品に関わる全ての工程の管理を行う役職です。作
品によっては「企画プロデューサー」「制作プロデューサー」など役割に応じて複数配置することもあ
ります。役職によってそれぞれ視点や関わるスタッフが変わるので、アーカイブで資料を回収する場
合も、その作品の全てのプロデューサーに確認を取るようにしています。
「プロデューサー」の種類
契
約
書
の
条
項
確
認
ア
ー
カ
イ
ブ
で
の
判
断
社内外の各所へ確認、
及び要望や情報の収集
経営 / 企画の
各プロデューサーを経由
図 2-2 事前確認フロー
21
○ 資料整理の基本的な考え方
 アニメーションに限らず、資料の整理作業を行う際は「資料を長く残せるようにする」「資料を探しや
すくする」ように注意します。同時に、資料そのものだけではなく、資料がどのような環境に置かれてい
たか、他のどのような資料と保管されていたかなど、資料に関係する情報を残すことも重要です。こうし
た資料に関係する情報を残すために、アーカイブズでは「出所原則」と「原秩序尊重」という原則があり
ます。この原則はどちらも、資料の回収、整理の後も資料群の文脈(コンテクスト)を保存するために重
要なものです。
○ 出所原則(respect des fonds)
 「出所原則」は、「ある組織や団体から出た資料群は他の資料群と混ざってはいけない」という原則です。
アニメーションの現場で言えば、ある会社や作品のものとして一度回収した資料が、他の会社や作品の資
料とは混ざってはいけない、ということになります。
 もう少し具体的に説明すると、例えばある作品の資料を制作現場からまとめて回収した場合、その資料
を同じ制作現場の他の作品などの資料と混ぜて保管しないようにします。
 しかしアニメーション制作の場合、個人のクリエーターや他の会社に依頼した作業の資料が、後になっ
てから発見され、回収される場合があります。この場合、資料の内容や量によって「その個人や会社から
回収した資料群」として保管することも、すでに回収した資料群の中と一緒に保管することもあります。
ただしいずれの場合も、資料がいつ、どこから回収されたかの記録は行います。
○ 原秩序尊重(original order)
 「原秩序尊重」は、資料の重ねられていた順番や、保存されていた場所などの情報を可能な限り尊重し
ようという原則です。
 アニメーションの現場で考えると、例えば資料が制作現場で管理されていた時の話数の順番や、兼用カ
ットや BANK カット、大判カットを他のカットと別に保管しているかどうか、カット袋の中の資料がどの
ような順番や状態で入れられているかなどがあります。
 I.G アーカイブでは、基本的にこのような制作現場で管理されていた通りの順番、方法での保管をそのま
ま引き継ぎますが、例えばカット袋などは制作現場から届くときは番号順に整理されていない場合が多い
ので、そうした場合はカットナンバー順に並べ直すこともあります。
2.1.3 資料の整理についての基本的な考え方
22
第 2 部 資料共通の作業と注意点
○ 3 段階の整理作業
 アニメーションの制作資料は、「カット袋」のように一度に大量の資料が送られてきたり(p57 参照)、
テープや商品類のように複数の作品の資料が送られてきたりするなど(p97、p101 参照)、回収のタイミ
ングや作業内容が種類によって違います。I.G ではアーカイブ作業を、資料の回収時に行う「受け入れ作業」、
回収した資料の中身を確認する「内容物確認」、長期的な保管や利用のための「詳細調査」の 3 段階に分け、
負担を分散させ効率よく作業を行えるようにしています。ここでは、この 3 段階の作業の基本的な説明を
行います。各資料の具体的な作業内容・手順については第 3 部の各項目を参照してください。
1. 受け入れ作業
 資料の回収作業は効率よく行う必要があります。そのため「受け入れ作業」では、回収した資料の確認
と利用のための最低限の記録を行います。例えば、「カット袋」のように資料が段ボール箱に入れられて
いる場合、中を開けずに「何の箱が」「何箱」届いたのかを確認していく程度です。「受け入れ作業」では、
スピーディーに作業を行うことを意識しています。
2. 内容物確認
 「受け入れ作業」の後に、資料を 1 点ずつ確認する「内容物確認」を行います。「受け入れ作業」で確認
した箱を開けて、中身のチェック作業などを行います。物量の多い資料などは「受け入れ作業」から数週
間~数か月ほどかけて、少しずつ作業を進めていきます。反対に資料の数が少なかったり、梱包されずそ
のまま届いたりする資料の場合は、「受け入れ作業」と「内容物確認」を同時に行うこともあります。
3. 詳細調査
 「詳細調査」では、資料の長期保管のための処置や、詳細な情報の記録を行います。「詳細調査」は必要
に応じて必要な範囲で行う作業です。例えば、傷んだ資料の修復作業や、まとめて送られてきたデータ資
料のファイル名や形式などの情報の記録などがあります。「詳細調査」は作業に時間がかかります。また「受
け入れ作業」から数年経過した後で作業を行うこともあり、実施するタイミングは決まっていません。
2.1.4 整理作業の進め方
受 け 入 れ 作 業
資料の回収時に行う。
回収時の資料の状態や個数などを、簡単に記録をする段階。
・「いつ」「何を」「何個」回収したのかを確認・記録する。
・この後の保管・整理作業のための準備を行う。
「受け入れ作業」を行ってから数週間~数か月以内に行う。
資料を 1 点ずつ確認・記録していく段階。
・「どんな資料が」「どのような状態で」保管されているのかを記録する。
・利活用の際に利用・検索しやすいような情報を記録していく。
内 容 物 確 認
時間や人手が使えるタイミングで行う。
詳細情報の記録や、長期保管のための作業を行う段階。
・「調べなければわからない情報」や「入力に時間のかかる情報」の確認・記録を行う。
・資料の修復など、長期保管のための作業を行う。
詳 細 調 査
図 2-3 整理作業の進め方
23
○ 多様なメディア
 アニメーション制作では、原画や動画などの紙や、映像や音のデータやテープなど、幅広い種類の資料
が発生します。そのため、アーカイブが管理する資料の「メディア」も様々で、それぞれ管理方法が異な
る場合もあります。それぞれのメディアごとの特徴や注意点などは、次章からの各解説を参照してくださ
い。
【紙】(p24 参照)
 アニメーション制作では様々なものが紙に描かれており、特に原動画は現在でも基本的に紙で制作さ
れています。紙資料は物量が多く、また重要な資料が多いこともあって、アーカイブでも中心的なもの
の一つです。また、作画用紙やコピー用紙、あるいはカット袋など、さまざまな種類の紙が使用されて
います。
【記録メディア】(p28 参照)
 完成した映像を収めたフィルムなどの「記録メディア」も重要な資料です。時代や公開の形式によって、
フィルムや磁気テープ、CD や DVD など様々なものが使われてきました。とくに磁気テープ(ビデオテ
ープ)は現在でもテレビ作品の納品で使用され続けています。アイテムの量は紙資料ほどではありませ
んが、耐用年数が紙よりも短く、保管のための温度・湿度管理がシビアで、さらに利用の際は専用の再生・
編集の環境が必要になるなど、手間のかかる資料でもあります。
【セル】(p69 参照)
 「セル」は透明なシートで、90 年代までのアニメ制作では「動画」の線を「セル」に転写し色を付けた「セ
ル画」を撮影して、映像にしていました。現在ではほぼ使われていない素材ですが、90 年代まではほと
んどのアニメーション作品で使用されていた重要な素材です。
 一方でセル画が使われていた時代では、映像がつくられた後は不要になるため処分されることが一般
的でした。さらにセル本体・塗られた塗料の両方が熱や光、衝撃や重さにとても弱く、変形・変色・ひ
び割れ・セル同士の圧着などが発生しやすく、処分されなかったセル画も多くが修復不可能なダメージ
を受けています。このような経緯から、大量に制作されていながら現在まで無事に残っている「セル画」
はごく少数だと考えられるため、状態の良いセル画は手間をかけても保管するようにしています。
○ デジタルデータについて(p38 参照)
 最後に、メディアに記録される「デジタルデータ」について少し触れておきます。
 制作工程の変化によって、現在のアニメーション制作では社内外のサーバ、パソコンや HDD、記録メデ
ィアの中などに大量の「デジタルデータ」が記録されます。「デジタルデータ」は大量の情報を比較的手
軽に管理できる点で優れていますが、サーバや制作現場のパソコンの中のデータは複数の人間にアクセス
されることから、変更を加えられたり消去されることがあるため注意が必要です。また光学メディアや精
密機器に記録されるため、保存や取り扱いの際の手間がかかる資料でもあります。
2.1.5 資料のメディアの種類
24
第 2 部 資料共通の作業と注意点
2.2 紙資料の取り扱い
 紙資料は、アニメーションのアーカイブで扱う資料の中でも中心的なもののひと
つです。現在でも原画や動画は紙に描かれており、そのため 1 作品で発生する紙資
料の数は膨大なものとなります。
 2.2 では、アニメーションアーカイブで扱う紙資料について、その特徴や保管にあ
たっての注意点などを説明します。
2.2.1 紙資料の種類と特徴
2.2.2 紙資料の分類と注意点
2.2.3 紙資料の保存と管理
25
○ 紙資料の種類
 アニメーションのアーカイブで取り扱う紙資料には、以下のようなものがあります。
【原動画やレイアウト・タイムシート】(p52 参照)
 原画や動画、修正原画、レイアウト、タイムシートなど。それぞれ専用の紙に描かれています。「タッ
プ穴」が付いている原画、動画、レイアウト、修正用紙はまとめて「作画用紙」とも言われます。
【絵コンテ・設定画など】(p79 参照)
 絵コンテは専用の用紙に描かれていましたが、近年ではデジタルで作成されコピー用紙にプリントア
ウトされる場合も増えています。設定画も同様に紙資料はプリントアウトしかないことがあります。ま
た設定画はファイリングされていることもあります。
【カット袋】(p51 参照)
 原動画やレイアウトをカットごとにまとめるための大型の紙封筒です。表面に様々な情報が記載され
ているため、カット袋自体も資料となります。また、カットの素材以外にも絵コンテや設定画など、紙
資料をまとめるものとして広く利用されています。
【背景画・イメージボード】(p73 参照)
 背景画やイメージボードは、画用紙に絵具などで着彩された資料です。近年では背景画はデータで納
品され、紙に描かれた資料はアニメの制作会社に届かないか、または初めからデジタルで描かれた作品
が多くなっています。また、イメージボードが制作される作品は稀です。
【書籍・冊子】(p84、p103 参照)
 作品の関連書籍や原作、作画の参考資料などの書籍も、アーカイブで管理することがあります。また、
アフレコ台本など製本されていたり、冊子にまとめられている資料もあります。
【写真(紙焼き)】(p36 参照)
 古い作品のロケハンなどの取材写真や、広報用の場面写真や設定画などのフィルムを紙焼き(現像)し
たものなどが見つかった場合も、アーカイブで管理することがあります。
○ 紙資料の特徴
 アニメーションの紙資料はその物量の多さが特徴で、特に原動画は今でも紙で制作されており、例えば
30 分のテレビ作品 1 話分で数千枚から 1 万枚近くの紙資料が制作されています(p51 参照)。同時に、原
画やレイアウト、タイムシートなどは商業的にも文化的にも価値の高い資料であるため、できるだけ保管
することが望まれるものです。また紙資料は再生装置などが必要なく、手描きの資料はファンにとっては
魅力的なものなので、イベントなどでの展示や画集などにも適しています。
 一方で紙は温度や湿度の変化、積み重ねなどによる影響を受けやすい素材です。また背景画など色が塗
られた資料は、塗料を傷めないように気を付ける必要があります。
 それでも、適切な状態で保管されている紙資料は光学メディアなどよりも長期間保存することができる
ため、可能な限り保管環境を整えるよう努めています。
2.2.1 紙資料の種類と特徴
26
第 2 部 資料共通の作業と注意点
○ 紙資料の分類
 アニメーションの制作で使用される紙は、「原画用紙」「絵コンテ用紙」「カット袋」などの、資料や工
程による分類の他に、アーカイブの観点から見たときに重要となる分類があります。
○ 原紙とコピー
 その資料が「オリジナル」か「複製物」であるかの分類です。紙資料は物量が多いため、「原紙は残し
コピーは処分する」という判断基準を設けて資料の選別を行う場合もあります(p65 参照)。ただし、コピ
ーであっても手書きの修正やメモがある場合は、元になった資料とは別の「オリジナル」の資料として扱
います。
 また、3D 作品など絵コンテや原画がデジタルで制作されている作品の場合、紙資料はもとのデータを
プリントアウトしただけのもので、「原紙」に相当する紙が発生しません。このような作品で、元のデー
タが確認できない場合は「コピー」であっても保管します。
○ 酸性紙と中性紙
 紙には、「酸性紙」と呼ばれるものと「中性紙」と呼ばれるものがあります。
 「酸性紙」は古い紙に多く、長期間保管する間に劣化しボロボロに崩れてしまいます。また劣化する際
ガスを発生させ周囲の資料を傷めてしまいます。こうした「酸性紙」の問題に対応するための紙が「中性紙」
で、現在では広く書籍やコピー用紙などに使われています。ただし、中性紙であっても環境や時間経過な
どによって酸化し、劣化してしまいます。
 現在のアニメーションの制作で使用される紙を社内で調べたところ、原画用紙やコピー用紙などは中性
紙が使われていましたが、カット袋はほとんどが酸性を示しました。そのためカット袋で資料を保管する
と、劣化の過程で中の資料を傷めてしまう可能性があります。また 1980 年代頃までは酸性紙はアニメー
ション業界でも使用されていたため、古い資料は原画などであっても酸性紙の可能性があります。
 ただ、I.G アーカイブでの経験上、空気に触れづらい環境であれば、カット袋に資料を入れていても 20
年経過しても目立った劣化は起きていませんでした。よって原動画や設定画などはカット袋で保管してい
ます。
 酸性紙については、中和処理やガスの吸収材など、資料の保存のための方法や商品を開発している企業
もあります。I.G アーカイブではそのような企業とも相談し、費用や手間などの面で可能な範囲で適切に保
管するよう努めています。
2.2.2 紙資料の分類と注意点
 図書館やアーカイブなどで一般的に「酸性紙」と呼ばれるものは、紙の中でもサイジング(にじみ
止め)に硫酸アルミニウムを使用しているものです。この硫酸アルミニウムが紙の繊維の中などに含
まれる水分と反応し、加水分解し硫酸を生じることで紙のセルロースが破壊され、紙がボロボロにな
ってしまいます。中性紙は使用する薬品の変更や中和処理などによって酸性紙の問題に対応していま
すが、中性紙であっても永遠に中性を保つわけではなく、劣化が進めば酸性を示すようになります。
 現在アニメーション業界で使われている作画用紙のほとんどは中性紙だと考えられますが、資料を
長期間保存するためには、たとえ中性紙であっても適切な保管環境を整える必要があります。
酸性紙について
27
○ 受け入れ時の紙資料
 紙資料の多くは、制作現場で管理されていた状態のままアーカイブに移管されます。たとえば、原画や
設定類などは段ボール箱や紙袋などにまとめられた状態で届きます。箱などに中身のラベルが貼られてい
たり、特にカット袋などは順番をそろえて入れられることが多いため、基本的にはそのまま保管しますが、
箱が痛んでいたり、隙間が空いていた場合は箱を入れ替えることがあります(p59、p61 参照)。
 その他、クリアファイルに入れられて届く場合や、アフレコ台本などの冊子は未梱包で直接回収される
こともあります。
○ 紙資料の保管
 紙資料は制作現場から回収した際の、段ボールやカット袋、クリアファイル等に入れられた状態のまま
で保管します。保管の際は、取り出ししやすいように作品ごと、資料ごと、カット順に並べるなどしてい
ます。
 ただし、背景画など色が塗られたものは塗料が特に温湿度の変化や重さに弱いため、ほかの資料とは別
に保管しています。その際、温度や湿度が一定で、光にあたらない場所に保管します。また、表面がこす
れると塗料がはがれてしまうので、薄葉紙などを挟み、沢山の紙を重ねないようにします。I.G アーカイブ
で保管している背景画に使われている塗料は水彩絵具ですが、アクリル塗料が使用されていた場合は資料
を大量に重ねると薄葉紙に塗料がくっついてしまう可能性があるため、重さがかからないように注意しま
す。
○ 紙資料を保管する時の注意点
 紙資料を保管する際は、いくつか注意すべき点があります。
・水にぬらさない
 紙は雨などで濡れてしまうとシワやシミになり、さらにはカビが発生してしまうことがあります。段ボ
ールの中に入っている資料も、段ボールが濡れると中まで水がしみ込んでしまいます。回収時や利用時な
どで倉庫から出し入れする際は、雨などに濡れないよう細心の注意を払います。また、倉庫を選ぶ際に水
漏れや雨漏りが発生していないか、川べりなどで湿度が高い場所でないかを確認することも重要です。
・段ボールを大量に積み上げない
 段ボールに入れて保管している場合、決して大量に積み上げないようにします。紙資料を詰めた段ボー
ルは重く、大量に重ね置きすると下の段ボールや資料を傷めたり、持ち上げるときに箱を落としてしまう
危険性があります。直接重ね置きする場合は、高さ 1m 前後を基準として、それ以上積まないようにして
います。
・紙の種類やサイズを考慮する
 紙資料は物量だけでなく種類も豊富なため、さまざまなサイズのものがあります。例えばカット袋も、
通常のサイズとは異なる大判カットがあります。このような大判カットは通常のカットとは別の大きな箱
にまとめて入れられることが多く、倉庫の保管スペースを計算する際などはこの点を考慮します。
 また、紙の種類によっては破れやすいもの、変色しやすいものなどがあるので、そのような資料は他の
資料とは別に保管します。
2.2.3 紙資料の保存と管理
28
第 2 部 資料共通の作業と注意点
2.3 記録メディアの取り扱い
 アニメーションは「映像作品」なので、「完成映像」は最も重要な資料です。同時
にその「完成映像」のための「映像」、その「映像」と合わせるための「音」もまた、
重要な素材です。さらに、近年デジタル・データの素材も増えています。ここでは、
それらの「情報」を記録するための「記録メディア」について説明します。
【参考】
 記録メディアのアーカイブについては、オーストラリア・アーキビスト協会(The Australian
Society of Archivists)の「キーピング・アーカイブズ(Keeping Archives)」の該当箇所の有志によ
る翻訳が、発行元の許諾を得たうえでウェブに掲載されています。本書では触れられない、アーカ
イブとしての考え方や課題などが詳細に書かれています。
オーストラリア・アーキビスト協会
http://www.archivists.org.au/
勉誠出版 『キーピング・アーカイブズ Keeping Archives』連載第 1 回
http://bensei.jp/?main_page=wordpress&p=1311
2.3.1 記録メディアの種類と特徴
2.3.2 磁気メディアについて
2.3.3 光学ディスクについて
2.3.4 ハードディスクの保存と管理
2.3.5 記録メディアの受け入れと保管作業
2.3.6 サーバでのデータ管理について
2.3.7 マイグレーションとその課題
2.3.8 フィルム・写真について
2.3.9 フィルムの保存について
29
○ 記録メディアの種類
 アニメーションの制作では、紙以外にも資料が様々な「記録メディア」に収められています。主な「記
録メディア」には、以下のようなものがあります。
【磁気メディア】
 テレビアニメ作品などでは、現在でも完成した映像を HDCAM-SR などの磁気テープ(ビデオテープ)
に収録しています。「完成映像」は制作会社にとって最も重要な資料であり、それが収められた磁気テー
プは可能な限り保存しなければなりません。
 磁気テープは映像だけではなく、音声データの納品にも使用されていましたが、CD-R の普及によって
現在ではほぼ使われていません。またフロッピー・ディスクや MO ディスクで保存されている資料も存在
しています。さらに、データの長期保管のための LTO も磁気メディアの一つです。
【光学ディスク】
 CD、DVD、Blu-ray などの光学ディスクは、映像素材や音声素材の納品や複製など、現在でも制作現場
で広く使われているメディアです。
【HDD】
 現在のアニメーション制作では多くのデジタルデータが発生しますが、これらのデータは作品ごとにま
とめられ、サーバや HDD に記録されます。アーカイブではこのような現場で使用されていた HDD を直接
回収・保管したり、あるいはサーバのデータを HDD に移して保管します。
【フィルム(映像・写真)】
 現在ではほぼ使われていませんが、かつて映像はフィルムが焼かれ、劇場などで上映されていました。
また場面写真や広報素材などの静止画もフィルム(ポジフィルム)などが作成され、利用されていました。
○ 記録メディアの特徴
 記録メディアで特徴的なのは、アーカイブで資料を取り扱う際に「記録メディアそのもの(キャリア)」
と「格納されているデータ」の 2 つの側面を考える必要があることです。例えば、「マスターテープ」の
保管は「データが記録されたメディア(テープ)そのものを保存する」ことと、データの劣化や消失を防
ぐため「記録されたデータをコピーして別メディアに移し替えて保存する」という、二つのアプローチが
あります(両方行うこともあります)。
 メディア自体の保存については、温度・湿度の管理など保存のための環境を整えることが重要です。ま
た衝撃に弱い素材も多く、メディアが劣化・破損してしまうと収録データを読み出すことができなくなる
ため、注意して取り扱います。また、できるだけバックアップを作成します。
 各メディアごとの取り扱いについては、次項以降の各解説を参照してください。
 記録されたデータは、バックアップや作業環境の変化に対応するためにデータを移し替えていく「マイ
グレーション」が重要な作業となります(p35 参照)。マイグレーションの際は、可能な限り元データの情
報からの変質が少ないようにする必要があります。
 記録メディアは、機器やデータ形式などが古いものから最先端のものまで極めて多種多様で、中には現
在の一般的な環境では再生・編集が不可能なものもあります。専門的な知識を必要とする場面も多々あり
ますので、日ごろから社内外の専門家などと相談しておきます。
2.3.1 記録メディアの種類と特徴
30
第 2 部 資料共通の作業と注意点
○ 磁気メディアの種類の例
 アニメーションの制作現場では、現在でも納品用のテープ(マスターテープ)として磁気メディアが広
く使用されています。また、かつては音声などのデータを収録するメディアとしても使われていました。
 アニメーションの制作現場で使われていた磁気メディアには、以下のようなものがあります。
映像テープ(アナログ):ベータカム ベータカムスーパー 等
映像テープ(デジタル):デジタルベーカム HDCAM HDCAM-SR 等
音声テープ:DAT テープ DA-88(98)用テープ 等
デジタルデータ:MO ディスク(光磁気ディスク)、LTO 等
○ 磁気メディアの特徴
 磁気メディア(VHS やカセットテープなど)は 90 年代までは映像、音声などの収録メディアとして一
般からプロの現場まで広く普及していました。その後一般家庭などでは CD や DVD などの光学メディアへ
と移行していきましたが、HDCAM-SR を中心にプロの現場では現在でも根強く使用され続けています。
 一方でプロの現場に特化した結果、再生・編集用の機器およびメディア自体も非常に高価なものとなり、
また機器の操作も専門職の人材でなければ扱いが難しいものとなっています。またそれらの機器ごとに対
応できるメディアが異なっていることも特徴で、特に古い世代のメディアは現行の機材では対応できない
こともあります。対応していないメディアを無理に使用すると、メディアだけではなく高価な機材も損傷
させる恐れがあるため、事前に機器の対応メディアを確認しましょう。また、磁気テープは再生するたび
にメディア自体が徐々に摩耗していくため、バックアップを取ることも必要です。
 
○ 磁気メディアの保管(p33 参照)
 磁気メディアは、作品や種類ごとにまとめて保管します。また検索性を高めるため、一本ずつ管理デー
タを作成します。
 保管の際は、受け入れ時のケースと、ケースのラベル、ケース内に入れられている編集者の記録表(エ
ディットシート)なども、可能な限り一緒に保存します。ケースを入れ替える場合は、ラベルや資料のコ
ピーを取るなどして、情報を残すようにしています。
○ 磁気メディアを保管する時の注意点
 磁気メディアは、温度・湿度の変化に弱いメディアです。よって、可能な限り低温・低湿度で安定した
環境で保存しましょう。また埃などが磁気面に付着すると劣化や故障の原因となるため注意が必要です。
さらに磁気メディアは磁気によってデータを保存しているため、強い磁石や電子機器、スピーカーなどの
付近で保管すると、データの劣化や破損が起こります。さらにテープ類の場合、再生途中などでテープが
巻き戻っていない状態で保管するとテープが変形する恐れがあるので、完全に巻き戻して保管します。
 磁気メディアは長期保存のために要求される環境水準が比較的高く、さらに中のデータ類も重要である
ことが多いので、保管にあたっては十分な環境作りが重要です。会社内でそのような環境を整えることが
難しいようであれば、倉庫会社などで専用のサービスも行われていますので、それらを利用することも検
討します。
2.3.2 磁気メディアについて
31
○ 光学ディスクの種類の例
 光学ディスクは磁気メディアに代わり広く普及した記録メディアで、アニメーションの制作現場でも
様々なデータの記録に使われています。
 アニメーションの制作現場で主に使用されている光学ディスクは、CD、DVD、Blu-ray Disc(BD) などが
あります。またメディアの規格以外にも、データの書き込みが可能かどうかで以下のように分けられます
読み取り専用:CD-ROM、DVD-ROM 等
一度だけ書き込みが可能:CD-R、DVD-R、BD-R 等
複数回の書き込みが可能:CD-RW、DVD-RW、BD-RE 等
○ 光学メディアの特徴
 
 光学メディアは広く一般にも普及しているため、市販のプレイヤーや対応したディスクドライブの付い
た PC などであれば容易に再生・閲覧が可能です。アニメーションの制作現場では、主に部署間のデータ
のやり取りに使用されています。また音楽・音声の納品データも光学メディアに収められて届いたり、短
い映像などを納品する際に使用されることもあります。
 光学メディアの寿命については諸説あり、メーカーや種類によって大きく異なるようです。中には適切
な環境下であっても数年で劣化が始まるものもあり、また比較的新しいメディアなので実際に何年保存で
きるのかは実証されていないこともあって、寿命はそれほど長くないと考えています。
○ 光学メディアの保管
 光学メディアは長期間の保存が難しくまたスペースを圧迫するため、データを HDD などの別のメディ
アへ移し替えて保存することが理想です。ただしこの作業のコストは小さくないため、実際には光学メデ
ィアのまま保管することもあります。
 光学メディアを保管する場合、種類や作品ごとにまとめて保管します。基本的には磁気メディアと同様
に回収時に入れられていたケースや付属のラベルや資料とセットで保存しますが、場合によってはディス
ク用のファイルケースに移し替えて保存することもあります。
別のメディアやファイルケースで保管する場合は、元のケースのラベルや資料の情報も可能な限り残し、
資料とデータが相互に参照できるようにします。
○ 光学ディスクを保管する時の注意点
 まず光学ディスクは光に弱く、特に太陽光などがあたると数日で再生不可能なダメージを負うことがあ
ります。また、湿気によって酸化が引き起こされる危険性もあるため、光をさけ、湿度が低く温度が安定
している場所で保管します。
 また光学ディスクは物理的な損傷にも脆弱です。記録面(裏側)だけでなくラベル面(表面)も傷や汚
れをつけないよう注意してください。特にラベル面は記録面よりも保護層が薄く、ペンや鉛筆などで書き
込むと記録層まで傷が達する可能性があります。書き込みが可能なディスクであっても、ペン先の柔らか
いものを使うようにします。
2.3.3 光学ディスクについて
32
第 2 部 資料共通の作業と注意点
○ HDD について 
 近年、アニメーションの制作工程では大量のデジタルデータが発生するようになり、既存の磁気メディ
アや光学ディスクよりも大容量のメディアが必要になりました。HDD(ハードディスクドライブ)はこの
ような大量のデータを作品ごとに管理する際などに利用される機器です。
 HDD は PC などに内蔵、あるいは外付けできる機器で、光学ディスクなどよりも大容量のデータを記録
できます。反面、精密機器であるため寿命が非常に短く(適性環境下でも 5 年程度)、また衝撃に極めて
弱い性質をもっています。
 アニメーションの制作現場では、HDD は原動画のスキャンデータや仕上げのデータ、背景データや広報
データ等、制作中に発生する多種多様なデジタルデータを作品ごとにまとめて管理、保存するために使用
されています。またアーカイブでは、このような制作データや他メディアのデータのバックアップにも利
用します。
○ HDD の保管
 
 後述するように、HDD は極めて衝撃に弱いため、段ボールなどにまとめて保管することは避け、部屋の
棚や引き出しの中などに並べて保管します。この際 HDD を横に重ねて置いたり、隙間を作ってしまうと
扉の開け閉めの際などに HDD が倒れ損傷する可能性があるので、専用の箱に入れる、隙間ができないよ
う緩衝材を挟むなどして、絶対に HDD が倒れたりしないよう注意します。
 一部の外付け HDD を除き、基本的に HDD にはペンなどで書き込みをすることができません。よって管
理表などを作成し、HDD の側面などにシールなどでラベルを貼り管理表と対応させるなどして管理します。
○ HDD を保管する時の注意点
 HDD は精密機器であるため、温度変化や湿度に弱く、またホコリやチリが混入するとデータの再生がで
きないばかりか PC に損傷を与える可能性もあります。よって、低温・低湿度でクリーンな環境下で保管
する必要があります。また静電気や衝撃などにも極めて弱いため、取り扱いには注意が必要です。特に衝
撃は机の上で倒れる程度でも破損する可能性があるため、常に気を付けるようにしてください。
 HDD は大量のデータを記録することができますが、それは同時に HDD の損傷によって大量のデータが
消失してしまうことも意味しています。そのため、常に同じデータを記録したものを二つ以上残すように
しています。
○ マイグレーションについて
 HDD は大量のデータを保存できる反面寿命が短く脆いため、数年ごとに別の HDD や他メディアにデー
タを移し替える「マイグレーション」を行う必要があります。マイグレーションについては「マイグレー
ションとその課題」(p35)を参照してください。
2.3.4 ハードディスクの保存と管理
33
○ 記録メディアの受け入れタイミング
 記録メディアの多くは素材データや納品データが記録されており、制作現場からアーカイブへ他の資料
とともに届きます。また、テレビ局や映像ソフトなどのメーカーで制作されたものが直接アーカイブへ送
られることもあります。いずれの場合も、作品ごと・種類ごとにまとめて届くことが多いです。
○ 記録メディアの受け入れ~保管作業
 記録メディアの受け入れか保管までの作業は、一般的に次のような流れで行われます。
具体的な作業手順や、各工程で記録する情報、管理目録への入力作業については、第 3 部の各資料の具体
的な保管作業を参照してください。
受け入れ作業:箱の状態、ラベル(送り状など)の記録・撮影
内容物確認での作業:メディアの個数・本数の確認とタイトル、ラベル情報の確認と記録
詳細調査での作業:1 本ずつ管理番号を振り、管理番号のラベルを張った状態で撮影
○ 作業の進め方と保管場所の環境
 記録メディアは環境の変化、重さや衝撃に弱いため、回収から早急に保管場所へ移す必要があります。
よって受け入れから一連の作業をなるべく早く行うようにしていますが、難しい場合は「受け入れ作業」
の後で保管庫に一時移すこともあります。
 記録メディアの保存は、温度 25℃前後、湿度 50%前後が理想的な環境だと考えています。人が快適に
過ごせる環境であれば大きな問題はないので、I.G アーカイブでは仕事場の棚やロッカーなどに収納してい
ます。
○ バックアップとマイグレーション
 記録メディアの情報は完成映像や納品データ等、極めて重要なものが多いため、保管作業の後も適宜バ
ックアップを取っていく必要があります。また、メディアには耐用年数があるため、別のメディアへデー
タを移し替える「マイグレーション」も必須です(p35 参照)。
2.3.5 記録メディアの受け入れと保管作業
34
第 2 部 資料共通の作業と注意点
○ アニメーション制作とサーバ
 近年、制作現場ではデータを社内サーバによって管理することが増えてきました。基本的にサーバ自体
の管理運用はアーカイブの管轄ではありませんが、サーバで管理されているデータをアーカイブが回収す
る場合があります。
 
 アニメーション制作会社では、主に作品の制作データや広報データ、あるいは人や予算の管理データな
どをサーバで管理し、許可された人の間で共有しています。サーバの維持・運用には専門的な知識やメン
テナンスが必要なため、基本的には社内の専門部署が担当します。
 アーカイブがサーバに関わるのは、主にサーバにある作品のデータを回収する作業が発生した時です。
○ サーバで管理しているデータの回収
 サーバで管理しているデータの回収は、制作現場のプロデューサーと、サーバを管理する部署のスタッ
フ(システム部門など)の両者と連携しながら行います。データ回収の際にもっとも注意すべき点は、こ
れらの連携不足によって回収前にデータが消去されてしまうことです。こうした事故を防ぐために、作業
完了の報告や消去前の確認などを密に行うようにします。
 データの回収の際、データの移動先は主に以下の 2 つです。
1. サーバのアーカイブ管轄領域へのコピー
2. HDD など別メディアへのコピー
いずれの場合も、事前に空き容量を確認し完全にデータを移せるようにします。 
○ サーバで管理しているデータの回収手順
1. システム部門や制作現場から、データの回収依頼が届きます。この時点で、回収スケジュールやデータ
の移行先などの打ち合わせを行い、また広報や企画などの他部門への連絡と確認も行います。
2. 各所への確認後、データを移し替えます。移し替えの作業をアーカイブの担当者が行う場合は、漏れが
無いよう確実にコピーするようにします。
3. 移し替えが終わったら、データにコピー漏れやファイルの欠損が無いか、データ容量やファイルの数を
確認します。確認が終わったら、システム部門や制作現場の担当者にその旨を報告し、元のデータが削除
されます。
4. データのバックアップを取ります。サーバで管理しているデータは変更や消去が発生しやすいため、同
じデータを記録した HDD を二つ作成するなど、バックアップは 2 重にします。また 1 つの作品で制作と
広報など複数のデータがあった場合、重複するデータを削除する作業を行うことがあります。
 繰り返しになりますが、データの回収前に元データが誤って削除されないよう、制作現場、システム部門、
アーカイブの間でデータの移し替え、削除などの担当者や作業期限などの確認や、作業の完了報告などを
逐次行うように注意して、一連の作業を進める必要があります。
2.3.6 サーバでのデータ管理について
35
○ マイグレーションについて
 記録メディアは映像や音声、作業データなど多様な資料を大量に記録することができます。しかし、多
くの記録メディアは耐用年数が数年~数十年と短く、その都度データを新しいメディアへ移し替えていく
必要があります。このデータの移し替えを「マイグレーション(データ・マイグレーション)」と呼びます。
 アニメーションのアーカイブの場合、映像を扱うこと、また多種多様なメディアを利用してきたことか
ら、マイグレーションにはコストや作業時間などの点で幾つかの課題が発生しています。
○ 一作品あたりで発生するデータ容量の大きさ
 制作過程で発生するデータ量は作品によって大きく異なりますが、目安としてはハイビジョンの TV 用
作品で 1 作品当たり 1.5TB 前後(ファイル数は 100 万以上)、劇場用作品で 2TB 前後(ファイル数は 150
万以上)となります(映像や音声のデータは除く)。
○ 映像のデータ量
 
 映像のデータ量も作品の分数によって変動しますが、テレビ用作品(25 分前後)の映像をテレビ用の標
準画質(SD)サイズ(720 × 486)で、長期保管用の無圧縮の QuickTime ファイル(.mov)で保存した場合、
約 70GB となります。
 映像データは放送・パッケージの利用のためには無圧縮保存が必要です。また、今後テレビ放送などで
4K や 8K などのより高画質の映像を制作・保存することになれば、この何倍ものデータ容量が必要となり
ます。
○ 多様なメディアからのデータ変換
 制作会社では、デジタルデータだけではなく古いビデオテープやフィルムなども保存されている場合が
あります。これらの資料も劣化が進行していくため、早急なデジタル化が必要ですが、マイグレーション
同様の問題点や、デジタル化の際のデータの変換方法やコストなどの点で、多くの課題が残っています。
○ マイグレーションのコスト
 
 マイグレーションは費用や作業の負担が大きく、現在のアニメーション制作会社の中で作業をスムーズ
に行う環境を整えることは難しいのが現状です。特に HDD は耐用年数が 5 年ほどと短い反面、大容量が
収録されているため頻繁にマイグレーションを行う必要があり、作業時間や経費コストを圧迫します。
 
 しかし、制作データや完成映像を確実に、長期間保存する為にはマイグレーションは必須の作業です。
耐用年数が長く大容量を保存できる LTO(Linear Tape-Open)などの新しいメディアの開発・改良も進ん
でおり、またデータの保管サービスや記録メディアを長期間保管できる倉庫サービスなどもあります。こ
れらも活用しつつ、状況に合わせて可能な限りマイグレーションを進めていくよう努めています。
2.3.7 マイグレーションとその課題
36
第 2 部 資料共通の作業と注意点
○ アニメーション制作とフィルムについて
 ビデオテープが普及する以前、アニメーションの完成映像はフィルムに記録されていました。磁気テー
プの普及以降も、2000 年代前半までフィルムは制作され続けていました。また写真も、その元となるフィ
ルムと共に同時期まで広く利用されていました。いずれも現在のアニメーション制作で発生することは稀
ですが、過去の資料の整理の際などで扱う可能性があります。
○ フィルムの「ネガ」と「ポジ」
 
 ここでは深い解説は行いませんが、フィルムには「ネガフィルム」と「ポジフィルム」の 2 種類があり
ます。「ネガフィルム」は実際に撮影したり放送したりする画とは色と明暗が反転したフィルムです。「ポ
ジフィルム」は実際の画と同じ色と明暗で、上映用のフィルムや場面写真などはこちらの「ポジフィルム」
が使われます。
 フィルムを使用する時は、目的によって必要なのが「ネガ」か「ポジ」かが変わるため、アーカイブで
回収する際、および取り出し依頼が来た際にはフィルムの「ネガ」「ポジ」を確認する必要があります。
○ 映像用フィルムについて
 アニメーションの制作では、主に「素材用のフィルム」と「上映用のフィルム」の2種類が発生します。
「素材用のフィルム」はその名の通り、撮影等の各工程で制作され、編集(カッティング)で実際に切り
貼りされたフィルムです。「上映用のフィルム」もまた名前の通り社内外での上映のために制作されたフ
ィルムで、ポジフィルムです。
○ 映像用フィルムの回収作業について
 現行作品では基本的にフィルムが制作されることはないため、アーカイブがフィルムを回収するのは倉
庫などから発見された時などの場合で、数も多くはありません。よって回収作業もシンプルで、まず資料
の基本目録(p45、p110 参照)のデータを収集しつつ、「ネガ」か「ポジ」か、「素材用」か「上映用」か、
その他ラベルの情報などを記録します。これらの記録を録ったのちフィルムを専用の箱や缶に収めて保管
します。
 一方で、フィルムは保存の環境がとても厳しく、また一度劣化が始まるとその停止・修復が難しいもの
でもあります。フィルムの保管条件などに関しては次ページの「フィルムの保存について」を参照してく
ださい。
○ 紙焼き(プリント)・写真用のフィルムについて
 写真は、「ロケハン写真」(p79)や「広報素材」(p106 参照)などで利用されていました。特に場面写
真や版権イラストなどの広報素材などは、ポジフィルムで制作されることがかつては一般的で、今でもフ
ィルムを高解像度でスキャンすれば高画質の画像を得ることができます。具体的な回収・保管作業は第3
部の各項目を参照してください(p82、p107 参照)。また、フィルムの保管環境については、映像用フィ
ルムと同様に次ページを参照してください。またフィルムを現像(プリント)した「紙焼き」については、
スキャンを行いデータで保管し、「紙焼き」自体は保管していません。
2.3.8 フィルム・写真について
37
○ フィルムの劣化
 フィルムは現在のアニメーション制作では基本的に制作されておらず、アーカイブで扱うのは稀なケー
スです。このような残されたフィルムは古く貴重で、保存する価値の高いものも多く存在します。
 
 フィルムは大変痛みやすく、容易に深刻なダメージを負う可能性があります。フィルムの劣化は化学的
な劣化が主で、変形や色の変色、カビの発生などがあります。さらに 90 年代までのフィルムは火災や、
有毒なガスが発生する「ビネガーシンドローム」などが発生する危険性もあります。これらの劣化は通常
の人間の生活環境下でも容易に引き起こされてしまうため、注意が必要です。また軽度のカビや汚れはク
リーニングで取り除ける場合もありますが、一度劣化したフィルムは劣化を止めたり、修復することはで
きません。フィルムの保管は、適切な保管環境を作ることと、デジタル化などのフィルムの映像を残すこ
とが重要です。
○ ビネガーシンドローム
 「ビネガーシンドローム」はフィルムの劣化のうち最も深刻な症状の一つで、フィルムの薬品が大気中
の水分と反応し、酢酸を発生させフィルム自体を溶かしてしまう現象です。フィルムの支持体(ベース)
にアセテートと呼ばれる素材を利用した、1980 年代から 90 年代前半まで使用されていたフィルムで発生
する可能性があります。一度ビネガーシンドロームが発症すると、この進行を止めることはできず、修復
も不可能です。さらに発生した酢酸が周囲のフィルムや資料へもダメージを与えるため、早急に隔離する
必要があります。
 ビネガーシンドロームが発生したフィルムは、劣化そのものを止めることはできませんが、換気をした
後冷凍保存するなどで進行を遅らせることは可能です。よって、発症した資料は他と隔離しより低温・低
湿度の環境へ移し、無事な部分のスキャンなどを行う必要があります。また酢酸は人体にも影響を与える
ため、扱う際は素手で触らず、換気などを充分に行います。
○ フィルムの劣化を防ぐには
 フィルムの劣化を防ぐためには、保存のための環境を整えることが何よりも重要です。
温度・湿度の管理
 最も重要なのは、フィルムを低温・低湿度で保存することです。具体的な数字には諸説ありますが、温
度20℃以下・湿度50%以下であれば 100 年以上保存できるといわれています。また作業などで室内に
入る場合、人間の体温や呼吸で温度・湿度が変化するため、長時間作業しないよう注意します。
定期的な換気
 低温度でも少量ですが酢酸は発生するため、定期的にケースなどを開けて換気を行います。
ケースの環境を整える
 一度酢酸が発生するほどの劣化が始まると、密閉容器ではガスがたまってしまうため通気性の良いケー
スで保管します。ケースには缶、プラスチック、紙など様々な種類があるので、フィルムや周囲の環境に
合わせて使い分けます。また発生したガスの吸収剤なども販売されており、こちらも有効です。
 一方でこれら全ての対策を行うことは、アニメーション制作会社単独では難しいのが実状です。よって
倉庫会社を利用したり、フィルムのアーカイブを行う組織などと相談しつつフィルムの長期保管に努めて
います。また、これでもフィルムの劣化を完全に抑えることはできないため、複製やスキャンなどでこれ
らのバックアップの作成も行っています。
2.3.9 フィルムの保存について
アニメーション・アーカイブの機能と実践 I.Gアーカイブにおける アニメーション制作資料の保存と整理 Production I.G Archives Manual 2016
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アニメーション・アーカイブの機能と実践 I.Gアーカイブにおける アニメーション制作資料の保存と整理 Production I.G Archives Manual 2016

  • 2. 1 はじめに  この資料は、文化庁平成 28 年度メディア芸術アーカイブ推進支援事業の補助を受け、株式会社プロダ クション・アイジー アーカイブグループが作成したものです。  プロダクション・アイジーは 1987 年の会社設立以降、自社が関わるアニメーションや実写などの映像 作品の企画制作や関連商品、それに伴って発生した大量の資料を保有しています。  弊社では、従来資料の整理や保管はそれぞれの作品の映像制作の現場や広報担当者などが通常の業務の 傍ら行う程度でしたが、2005 年頃よりこうした作業を中心に行うスタッフを配置し資料整理を進めてき ました。さらに 2016 年には、独立した部署としてプロダクション・アイジー アーカイブグループ(I.G アーカイブ)が設置されました。  この資料の目的は、10 年以上にわたり蓄積された I.G アーカイブの知見をまとめ、アニメーション・ア ーカイブの活動の一例を示し、これからアーカイブを行おうとする方や、アーカイブ活動の上で課題を持 っておられる方の参考として頂くことです。  今日、日本のアニメーション作品は国内外から高い評価を受け、世界中にファンを持つ作品も少なくあ りません。  しかし、たとえ高い評価を得た作品であっても、作品制作の「中間成果物」の多くは破棄されたり、制 作会社内で死蔵されています。  アニメーション作品の中間成果物には、制作に携わった人々の想いや思考、技が色濃く残されています。 そのため、アニメーションを作る為の技術の記録や、アニメ産業に関わる人々についての記録を残し、未 来に伝えてゆくためには、こうした中間成果物を整理し保存する必要があります。  近年、業界の内外でアニメーションのアーカイブに対しての理解は少しずつ進んでいるように感じてい ます。しかし実際にアーカイブ活動を行っている会社は少なく、多くの制作会社はアーカイブのための環 境が整えられず、たくさんの資料が散逸の危機にさらされ続けています。  こうした背景の一つには、アニメーションの制作資料のアーカイブには多くの経費が掛かることがあり ます。アニメーション制作会社のほとんどは中小規模の企業であり、利益に直接つながりにくいことに人 手やお金をかける決断を下すことは難しいのです。  弊社がアーカイブをはじめた時も、こうした状況は同様でした。それでもアーカイブを進めることがで きたのは、制作現場や広報などに対して「使いたい時に使いたい資料がすぐに出てくる」ように、「アー カイブがあったほうが良い」と思ってもらえるように努めてきたことが大きいと考えています。  現在、I.G アーカイブには連日社内外のさまざまな人々から資料の取り出し、回収の依頼が寄せられてい ます。これは従来破棄されたり、死蔵されていた資料にも利用価値があったことと、アーカイブが資料を 管理することでそうした利用を実現できることを示しています。  いま使われる頻度が少ない資料だからといって、その資料を求める人が少ないわけではありません。 それは「その資料が使える」ということ、「その資料がある」ということを知らないだけかもしれません。
  • 3. 2  この資料は、今後進められるアニメーション・アーカイブ、そしてアニメーション業界の内外でアーカ イブの必要に迫られている人々に対して少しでも力になれればと思い、I.G アーカイブの考え方をまとめた ものです。  現在、I.G アーカイブはアニメーション制作会社のアーカイブとして一定の機能を果たしていますが、ア ーカイブの理想形というほど十分に活動できている訳ではありません。  「これが正解」というわけではなく、当社の現状を知ってもらい、より良い道に進むためのサンプルの 一つとして頂ければ幸いです。 株式会社プロダクション・アイジー アーカイブグループリーダー 山川道子 総合監修 山川道子 株式会社プロダクション・アイジー アーカイブグループ 監修補佐 想田充  株式会社 寿限無 執筆者 清水ふさ子  学習院大学大学院 人文科学研究科 アーカイブズ学専攻 博士後期課程 竹山郁子 紙本修復家  宮本亮平 明治大学大学院 国際日本学研究科 博士後期課程
  • 4. 3 はじめに p1 目次 p3 第 1 部 アニメーション制作会社内アーカイブの意義と役割 I.G アーカイブの概要と機能 p5 1.1 アーカイブとは何か p6 1.2 アニメーション・アーカイブズ機関の類型と目的 p7 1.3 プロダクション・アイジーの沿革とアーカイブ機能の発展 p9 1.4 I.G アーカイブが対象とする資料群 p10 1.5 I.G アーカイブの資料活用 p12 第 2 部 資料保管・整理のための基礎知識 アニメーション制作資料の取り扱い p13 2.1 アニメーションの制作資料と保存管理 p14 2.1.1 アニメーションの制作工程と発生する資料 p15 2.1.2 資料を扱う前に確認すべきこと p20 2.1.3 資料の整理についての基本的な考え方 p21 2.1.4 整理作業の進め方 p22 2.1.5 資料のメディアの種類 p23 2.2 紙資料の取り扱い p24 2.2.1 紙資料の種類と特徴 p25 2.2.2 紙資料の分類と注意点 p26 2.2.3 紙資料の保存と管理 p27 2.3 記録メディアの取り扱い p28 2.3.1 記録メディアの種類と特徴 p29 2.3.2 磁気メディアについて p30 2.3.3 光学ディスクについて p31 2.3.4 ハードディスクの保存と管理 p32 2.3.5 記録メディアの受け入れと保管作業 p33 2.3.6 サーバでのデータ管理について p34 2.3.7 マイグレーションとその課題 p35 2.3.8 フィルム・写真について p36 2.3.9 フィルムの保存について p37 2.4 デジタルデータの取り扱い p38 2.4.1 デジタルデータの例と特徴 p39 2.4.2 デジタルデータを保管する際に考慮すべきこと p40 2.4.3 デジタルデータの保管作業 p41 2.4.4 デジタルデータを巡る今後の課題 p42 2.5 資料の管理目録 p43 2.5.1 資料の管理目録とは p44 2.5.2 資料の管理目録の種類 p45 2.5.3 資料の同資料(類縁)情報について p46 2.5.4 管理目録の入力作業 p47 第 3 部 各種資料の保存管理 I.G アーカイブにおける資料保管 p48 3.1 カット p49 3.1.1 カット袋とは p51 3.1.2 カット袋の内容物 p52 3.1.3 カット袋の保存レベルと判断基準 p55 3.1.4 カット袋の受け入れ事前準備 p57
  • 5. 4 3.1.5 カット袋の受け入れ作業 p59 3.1.6 カット袋の内容物確認 p61 3.1.7 カット袋の詳細調査 p63 3.1.8 カット袋の選別作業 p65 3.1.9 選別の基準例 p67 3.1.10 セル画とは p69 3.1.11 セル画の保管上の注意点 p70 3.1.12 セル画の保管作業 p71 3.1.13 背景画とは p73 3.1.14 背景画の保管作業 p74 3.1.15 データのカット素材 p76 3.2 制作資料 p77 3.2.1 制作資料とは p78 3.2.2 プリプロ資料の種類 p79 3.2.3 制作資料の保管作業 p82 3.2.4 アフレコ台本(録音・完成台本)について p84 3.2.5 アフレコ台本の受け入れ作業と保存管理 p85 3.2.6 版権イラストについて / 版権イラストの保管作業 p86 3.3 マスター/映像・音声資料 p87 3.3.1 マスター映像 / 映像資料について p88 3.3.2 マスター映像の種類 p89 3.3.3 マスター映像の収録メディア p92 3.3.4 マスター映像 / 映像資料の保存基準 p93 3.3.5 音声資料について p95 3.3.6 マスター映像 / 映像・音声資料の保管作業 p96 3.3.7 映像・音声資料目録について p97 3.3.8 映像のデジタル・データ化について p98 3.4 商品 p99 3.4.1 商品の種類とアーカイブ上の意義 p100 3.4.2 映像パッケージ・音楽商品の保存管理 p101 3.4.3 書籍の保存管理 p103 3.4.4 商品・ソフト目録について p104 3.5 広報・イベント資料 p105 3.5.1 広報・イベント資料とは p106 3.5.2 広報・イベント資料の保存管理 p107 付録 I.G アーカイブ目録作成のポイント p109 アニメーション制作データの LTO での保管について(WIT STUDIO へのヒアリング) p116 他アニメーション制作会社への制作資料保管状況についてのヒアリング p118 アニメーション原画からのカビの除去について p119  I.G アーカイブでは、2016 年より資料目録とその運用のアップデートの検討を行っており、本資料にお ける目録やその項目に関しての記述は、その検討内容を反映させたものとなっています。  そのため、一部現時点では運用していない項目や作業について記述しており、これまで I.G アーカイブ が行ってきた作業や目録とは必ずしも一致しない場合がありますので、ご了承ください。
  • 6. 5 1.1 アーカイブとは何か 1.2 アニメーション・アーカイブズ機関の類型と目的 1.3 プロダクション・アイジーの沿革とアーカイブ機能の発展 1.4 I.G アーカイブが対象とする資料群 1.5 I.G アーカイブの資料活用 第 1 部 アニメーション制作会社内アーカイブの 意義と役割 I.G アーカイブの概要と機能 文章 清水ふさ子 (1.1, 1.2, 1.3, 1.4 ) 宮本亮平(1.5) 作図 宮本亮平
  • 7. 6 第 1 部 アニメーション制作会社内アーカイブの意義と役割  アーカイブズは「個人、または組織がその活動の過程で作成、受領、収集した記録のうち、継続的価値 を持つものとして保存されているもの」(『「公文書等の適切な管理、保存及び利用に関する懇談会」報告書』 内閣府 2004)と定義されています。その他にも「アーカイブズ機関」や「資料保存プログラム」などの意 味も含みます。  国や自治体の記録文書は「公文書管理法」や自治体の条例などの法的枠組みで公文書保存(アーカイブズ) が義務付けられています。また、企業では「会社法」「製造物責任法」「労働基準法」などにより、企業内 文書の保存年限が定められています。  しかし、保存すべき企業アーカイブズは法的に保存対象となっている資料だけではありません。企業に おける様々な過去資料(製品などのモノ資料も含みます)が図 1-1 で示されているように、組織活動のさ まざまな機能を支えるツールとなります。経営面での意思決定を支え、企業リスクを抑えるとともに、大 きな企業価値を生む源泉となります。I.G アーカイブでは中間成果物を含めたアニメーション制作資料を網 羅的に収集しています。これらの中間成果物には完成作品には見ることのできない制作時の指示や記録が 残されており、時間が経っても制作過程が確認できる貴重な資料です。また、美術的、文化的価値が高い ものも含まれます。そのため、広報、宣伝活動や二次利用、教育研修に幅広く利用されています。資料全 体としては経営判断や、企業理念の継承にも役立つ資料となるでしょう。    ここでは、アニメーションアーカイブズ(機関)とはどういったものであるかを整理したうえで、株式 会社プロダクション・アイジー アーカイブグループ(以後 I.G アーカイブ)における目的と業務内容を 説明したいと思います。 1.1 アーカイブとは何か 図 1-1 企業アーカイブズの多様な価値  松崎裕子「経営資源としてのアーカイブズ」企業史料協議会編『企業アーカイブズの理論と実践』丸善出版、2013、8 頁
  • 8. 7  アーカイブズ(機関)には組織アーカイブズ(in-house Archives or institutional Archives)と収集アー カイブズ (collecting Archives) の 2 種類に分けられるとされ、目的もそれぞれ違います。(表 1-1 参照) 組織アーカイブズ 収集アーカイブズ 優先される目的 組織運営・業務支援組織ミッション への貢献 さまざまな目的 ( 研究、証拠、趣味な ど ) に関する資料として提供 優先される利用者/公開ポ リシー 組織内部 広く公開・利用  これらをアニメーション業界に当てはめると以下のように分けられます。(図 1-2 参照)  表 1-1、図 1-2 のように、一言で「アニメアーカイブズ」と言っても、営利企業であるアニメ制作会社 と公共施設に近いミュージアムや図書館が違うミッションをもっていることがわかります。そして、アー カイブズを持たない業界団体や組織も多数存在し、双方のアーカイブズ機関をつなぐ存在として重要な役 割を担っていると考えられます。また、アニメに関する 企画展なども組織・収集アーカイブズの双方のリ ソース活用を刺激する大きなきっかけとなるでしょう。  I.G アーカイブにおいて設置根拠となる法令はなく、あえて言えば「会社法」になります。しかし、アニ メアーカイブズ全体を後押しする法令としては「文化芸術振興基本法」が挙げられます。(下記参照) 1.2 アニメーション・アーカイブズ機関の類型と目的 表 1-1 アーカイブズの種類と目的  松崎裕子「世界のビジネス・アーカイブズ」『世界のビジネス・アーカイブズ:企業価値の源泉』 より作成  (渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター編、2012、6 頁) 双方の活動を 支える団体 例:日本動画協会 JAniCA アニメ制作会社、 小規模スタジオ、 個人事業者等 例:I.G アーカイブ 強み:組織的アニメ制作スキル、 最新技術の熟知、 組織活動の歴史的情報 組織アーカイブズ アニメミュージアム等 例:明治大学米沢嘉博記念図書館 京都国際マンガミュージアム 杉並アニメーションミュージアム 強み:資料離散抑止、 資料の公開・利用活動、文化研究、 旧型技術の継承、 横断的な情報プラットフォームの実現 収集アーカイブズ 図 1-2 2 種類のアニメアーカイブズと関連団体
  • 9. 8 第 1 部 アニメーション制作会社内アーカイブの意義と役割 「文化芸術振興基本法」(平成十三年法律第百四十八号)(平成十三年十二月七日公布) 第三章 文化芸術の振興に関する基本的施策 メディア芸術の振興 第九条 国は,映画,漫画,アニメーション及びコンピュータその他の電子機器等を利用した芸術(以 下「メディア芸術」という。)の振興を図るため,メディア芸術の製作,上映等への支援その他の必要 な施策を講ずるものとする 。  I.G アーカイブでは、アニメーションが「文化芸術振興基本法」の対象に該当するメディア芸術であるこ とを鑑み、以下の 2 点が我々のミッションと考えます。 ・経営的目的:自社の企業活動を補助すること。 ・文化的目的:自社の負担が許す範囲で、文化的に重要だと思われる資料を保管し、社会的要求に応える こと。  I.G アーカイブは組織アーカイブズでありその主な目的は業務支援となるため、資料やその情報は基本的 には非公開となります。しかし社会的な要求に対して可能な限り応えられるよう、資料の公開に対応でき るよう努めています。
  • 10. 9   弊社、プロダクション・アイジーとアーカイブ部門の沿革を以下にまとめます。 1987 年 有限会社アイジータツノコ設立 1993 年 有限会社プロダクション・アイジーに社名変更 1998 年 株式会社化し、株式会社プロダクション・アイジーへ 2002 年 15 周年記念書籍業務のため、広報室設置(I.G アーカイブの前身) 2005 年 ジャスダックに株式上場 2012 年 広報部門の解散によりアーカイブ業務が制作部に移動 2014 年 「攻殻」誕生 25 周年企画として展示イベント「攻殻機動隊大原画展」が開催される (2016 年に常設ショップ「I.G ストア」へ発展) 2016 年 制作本部アーカイブグループが設置される 弊社は「攻殻機動隊」(1995 ~)シリーズが国際的にヒットしたことを契機として、日本を代表する スタジオのひとつに成長しました。設立から 2004 年ごろまでは映画、TV シリーズ、ゲームがそれぞれ 年一本ずつといった業務ペースであったため、資料管理は比較的簡易なもので済んでいました。 しかし、2005 年以降は制作する作品数とともにアーカイブの業務量が年々増加し、終了した業務資料 (制作資料)の保存管理まで手が回らなくなっていきます。現在、直近の終了作品の受け入れ作業、展示 や商品化などで使う資料の整理が優先となっており、受け入れ済みの資料の整理や目録整備、過去に破 損した資料の修復はペンディングとなっています。 2002 年に周年事業によってアーカイブ機能が立ち上がっていること、2005 年の株式上場によって管 理の必要性が高まってきたことは、企業発展に伴う一般的な流れと言えます 。それに対して、一般的な 企業資料との違いは制作資料の二次利用(展示、映像等の貸し出し)が圧倒的に多いこと、そしてシリ ーズの続編が制作されるときには一旦「非現用」となった制作資料(原画、設定類)が現場で再利用さ れる、いわば「現用」に戻ることです。 これらのアニメーション制作に特徴的な業務が増加し続けていることと、制作現場から生成される膨 大な制作資料の管理に対応するため、弊社におけるアーカイブ機能が発展してきました。 1.3 プロダクション・アイジーの沿革とアーカイブ機能の発展
  • 11. 10 第 1 部 アニメーション制作会社内アーカイブの意義と役割  それでは具体的に I.G アーカイブが移管対象とする資料をアーカイブズ学的に整理しましょう。企業ア ーカイブの資料の体系は以下のように位置付けられています。 1.4 I.G アーカイブが対象とする資料群 企業資料 組織内資料 外部化資料 経営資料 調査資料 業務資料 図 1-3 企業資料の体系  小風秀雅「近代の企業記録」(国文学研究資料館編『アーカイブズの科学』下巻、柏書房 2003 年、80 頁)より作成  具体的な資料の内容として、「経営資料」は創業記録類、定款、株主名簿、取締役会議事録など、業務 資料はより日常的な業務で生まれる資料とされています。また、「調査資料」は経営判断や業務遂行の判 断材料となる調査資料、「外部化資料」はその名の通り、外部に向けて発信した資料となり、行政、株主 に向けての報告書や広報、宣伝物を含みます。  弊社では一般に企業アーカイブズの主な範囲とされる「経営資料」類は総務部、法務部等が独自に保管 しています。I.G アーカイブが現在扱う資料(アーカイブに移管される対象となっている資料)は「アニメ 制作資料」で主に「業務資料」の一部にあたります。これらは、アニメ作品の企画から中間成果物を経て、 マスターテープ納品まで、一連の業務過程で発生する資料です。  ただ、企画書や企画会議の議事録、予算等の記入のある業務資料などは「経営資料」の要素も含み、制 作前にリサーチした「調査資料」や、チラシやポスターなどの「外部化資料」も I.G アーカイブへ移管さ れるので、実際には資料領域を跨っています(図 1-4 参照)。 企業資料 組織内資料 外部化資料 経営資料 調査資料 業務資料 I.G アーカイブ 主な資料の移管元 (制作資料など) 企画会議資料など ロケハン資料など チラシやポスターなど 図 1-4 I.G アーカイブの管轄資料の領域
  • 12. 11 資料の発生 制作現場 メーカー各社 現像所 新聞・雑誌・WEB 関係者 アーカイブ 資料の整理・保管 移 管 ・ 受 け 入 れ ・ 収 集 資料が届いたら以下のステップで 整理を行う(段階的整理) ① 受け入れ作業 届いた箱数、資料概要の把握、 緊急の処置が必要かの判断 ② 内容物確認 個別アイテムの確認、 目録作成 ③詳細調査 個別資料の詳細な確認、 保存処置、目録データの充実 整理の目的 保存処置や目録(管理リスト)を 作成し、必要になったときに取り 出して利用できるようにしておく。 利活用 制作での再利用 商品化 展示・上映 問い合わせ対応 教育、スタッフ選定資料 リマスター素材取 り 出 し 図 1-5 アニメーション制作会社におけるアーカイブの役割  このような移管体制は、「作品」とその制作過程を復元可能な形で資料保存することが企図されています。 その中にアニメーションの創作の核心を内包するのが制作会社のアーカイブズの特徴であり、強みである といえるでしょう。  I.G アーカイブにおける資料の流れは、おおまかにまとめると下記の図 1-5 のようになります。  社内で発生した制作資料の移管を受けるほか、関係各所から資料を収集します。移管された資料は資料 リスト(目録)を作成し、社内、社外からの要求に応じて取り出して提供します。 次章以降で制作過程に即した具体的な資料の解説を行います。
  • 13. 12 第 1 部 アニメーション制作会社内アーカイブの意義と役割 ○ I.G アーカイブの資料活用例  I.G アーカイブでは保管している資料を社内外からの要求に対して取りだし、提供しています。資料が利 用される事例としては、以下のようなものが挙げられます。 ・原画展や原画集等の、展示や書籍での利用(原画、レイアウト、設定画など) ・映像商品の再販売・リマスターなどの利用(マスター映像など) ・上映イベントなどでの利用(映像素材など) ・イベントや商品の広報での利用(広報素材など) ○ I.G ストアへの資料提供  プロダクション・アイジーは、2016 年より渋谷マルイ内で公式キャラクターグッズショップ「I.G ストア」 を営業しています。    「I.G ストア」ではフロア内に展示コーナーを常設しており、期間ごとに弊社作品の展示イベントを、直 近の作品から過去の作品まで幅広く開催し、I.G アーカイブの資料を利用・公開するための重要な窓口とな っています。さらに「I.G ストア」では、展示した原画など(原紙)の複製を販売し、利益をあげています。  このような原画展示や複製原画の作成などを行う際は、作品資料が適切に整理、保管されていなければ 作業の負担は非常に大きなものとなります。「I.G ストア」が頻繁に展示や複製原画を実施できるのは、こ の整理、保管作業を事前に I.G アーカイブが行っているためです。「I.G ストア」は「アーカイブがビジネ ス機会を産み出すことができる」ことの、一つの事例だと言えます。 1.5 I.G アーカイブの資料活用 ○ I.G アーカイブでの資料の利用状況    I.G アーカイブの資料の利用頻度は、取り出し依頼は月に約 20 件程度で、資料点数では月に 100 点以上、 多いときは 250 点以上です。  取り出し依頼の内訳は、大まかに 8 割がデータ資料で、映像テープ類と紙資料が残りの半々程度です。 特に映像のデータやバックアップデータからの取り出し依頼が圧倒的に多く、反対に原画類は展示や原画 集等が無い限り依頼が来ないため、依頼件数としては少なくなります。 また貸し出した資料は商品企画 などの社外で利用される場合や、社内で続編などの作品制作の際に再利用される場合などがあります。 図 1-6 I.G ストア 図 1-7 I.G ストア展示スペース
  • 15. 14 第 2 部 資料共通の作業と注意点 2.1 アニメーションの制作資料と保存管理  第 2 部では、アニメーション資料のアーカイブにおける基礎的な知識、および複 数の資料で共通する作業や注意点等について解説を行います。個別の資料について の具体的な解説は、第 3 部にて行います。  2.1 では、まずアニメーション制作において作成される資料全体について簡単に説 明をした後、実際の整理作業に入る前に知っておくべきことなどを確認します。 2.1.1 アニメーションの制作工程と発生する資料 2.1.2 資料を扱う前に確認すべきこと 2.1.3 資料の整理についての基本的な考え方 2.1.4 整理作業の進め方 2.1.5 資料のメディアの種類
  • 16. 15 脚本・プロット・イメージボード 脚本 絵コンテ 絵コンテ 各種設定類 設定 レイアウト レイアウト 原画・タイムシート 原画 背景画 背景 動画 動画 スキャン・彩色データ (かつてはセル画) 色指定・仕上げ 映像素材(撮影上がり) 撮影 音響素材 音響 音声素材 アフレコ台本 アフレコ 映像素材(音声あり) ダビング 映像マスター 音声マスター ビデオ編集 広報資料 広報 各種商品 商品 放送局マスター メーカーマスター など 納品後 企画書など 企画 カラーモデル 色彩設計 モデルデータ 3D モデル作成 カットごとの作画データ 3D シーン作成 映像素材(編集上がり) 編集 納品 2.1.1 アニメーションの制作工程と発生する資料 図 2-1 アニメーション制作の流れと発生する資料の例 * あ く ま で 一 例 で 工 程 の 流 れ や 発 生 す る 資 料 は、時代や作品によって異なる場合があります。
  • 17. 16 第 2 部 資料共通の作業と注意点  ここでは、アニメーション制作の流れと、それぞれの工程で発生する資料について説明します。制作の 流れや発生する資料は、会社や作品、時代などで変わります。  各資料の詳細や、アーカイブ上の価値などについては、各資料の解説ページを参照してください。  アニメーションの制作は、各工程に専門の作業者を置き、流れ作業のように進んでいきます。音楽や背 景画など一部の工程を別の専門の会社に任せたり、原画や動画の作業の一部(あるいは大部分)を別の制 作会社へ依頼することも珍しくありません。「どの工程をどの会社(人)が担当するのか」は会社や作品 ごとに異なり、そのためアーカイブが回収・保管する資料も変わることがあります。  レイアウトや原動画、撮影など、実際の画面に映る映像を制作する工程を「プロダクション」、脚本や 絵コンテなど「プロダクション」の前の工程を「プリプロダクション(プリプロ)」、撮影以降の映像編集 や納品作業などの工程を「ポストプロダクション(ポスプロ)」などと呼んで区別することもあります。  アニメーション制作会社の中心となる仕事は「プロダクション」工程で、「アニメーションのアーカイ ブ資料」という言葉でイメージされる資料も、絵コンテや原動画などの「プリプロ」「プロダクション」 までの工程のものが多いようです。しかし、「ポスプロ」工程で制作されるマスター類は再放送やイベン ト上映などで利活用の機会が多く、広報・商品資料は作品発表後も長期間にわたって利用されます。この ためアーカイブを行う際は、作品に関わる工程全体から必要な資料を回収・保管します。 【企画】 発生する資料:企画書  アニメーションの制作は、社外からの依頼や社内の企画案などからスタートします。社内外での打ち 合わせや検討を経て契約が結ばれると、作品の制作がスタートします。  契約書や予算書など、会社の経営にかかわる重要な書類も作成されますが、これらは法務部などが管 理するので、アーカイブ部門が回収・管理するものは企画書や参考資料などです。 【脚本】 発生する資料:脚本(シナリオ)、プロット、イメージボード(p79 参照)  一般的に作品の制作が始まると、まず作品のストーリーなどをテキストによって表現した「脚本(シナ リオ)」が作成されます。あらすじやキャラクターの設定などを簡単に書いた「プロット」が作成される 作品もあります。  まれに、作品の世界観やキャラクターのイメージをイラストで表した「イメージボード」が作成される 場合があります。イメージボードは脚本や絵コンテの参考にされます。 【絵コンテ】 発生する資料:絵コンテ、イメージボード(p79 参照)  脚本をもとにカットごとの画を描いた「絵コンテ」を作成します。「絵コンテ」にはカメラワークや撮 影指示、セリフやカットの時間なども書き込まれており、その後の各工程の参考・指示書となります。 作品によっては、絵コンテをより詳細に描いたイメージボードが作成されることもあります。 【設定】 発生する資料:設定画(キャラクター・メカ・小物・美術など)(p79 参照)  絵コンテと並行してキャラクターやメカ、小物などの「設定画」が作成されます。「設定画」は原画な どの作画作業の参考資料となります。また、「設定画」はこれ以降も必要に応じて随時作成されます。 【レイアウト】 発生する資料:レイアウト(原紙・コピー)(p52 参照)
  • 18. 17  絵コンテを元に、各カットの作画作業が始まります。最初に作成される「レイアウト(L/O)」は、その カットのキャラクターや背景、カメラワーク、演出効果などが書き込まれた、カットの設計図のようなも のです。レイアウトの原紙は背景の素材(背景原図)になり、コピーが原画作業以降の素材になります。 【原画】 発生する資料:原画、タイムシート(p52 参照)  絵コンテやレイアウトを元に「原画」が描かれます。「原画」は、カットの動きのキーポイントを描い た画です。また、原画を制作する段階で、1 コマごとに使用する原画や演出、撮影の指示が書き込まれた「タ イムシート」も作られます。  近年、「レイアウト」「原画」「タイムシート」を制作する工程を、「第 1 原画」「第 2 原画」など別の担当者(工 程)に分けて作業する作品も増えています。どの資料をどの工程で制作するかは作品ごとに違い、また「ラ フ原画」という、原画の元となるような大まかな画が作成されることもあります。 【動画】 発生する資料:動画(p52 参照)  原画を元に、原画のクリンナップ(清書)や原画の間の画を描く「動画」が制作されます。  仕上げ以降の工程ががデジタルになった現在、動画のスキャンが終わった以降のレイアウト・原画・動画・ タイムシートなどの素材は、カットごとに「カット袋」(参照)に入れられ保管されます。 【背景】 発生する資料:背景画(p73 参照)  レイアウトが制作された後、レイアウト(背景原図)を元に「背景画」が作成されます。 「背景画」は原画や動画を描く「作画」と呼ばれる部門とは別に、「美術」部門あるいは別の美術スタジオ によって制作されます。 【色彩設計】 発生する資料:カラーモデル(p79 参照)  設定画を元に、細かく色の設定を決める「色彩設計(色彩設定)」がおこなわれ、色の設定画である「カ ラーモデル」が作られます。この「カラーモデル」を元に仕上げ作業が行われます。 【3D モデル作成】 発生する資料:3D モデルデータ  3DCG でキャラクターやメカなどを描く作品の場合は、設定画とカラーモデルを元に「3D モデルデータ」 が作成されます。 【3D シーン作成】 発生する資料:3D セル  レイアウトや原画を元に、モデリングデータをカットに合わせて配置し、動きや演出効果を加えたカッ トごとの作画データが作られます。このデータは制作現場では「3D セル」や単に「3D データ」などと呼 ばれます。  「3D セル」は、この後「撮影(コンポジット)」工程で手書きの原動画などのデータと組み合わせられますが、 作品によってはこの「3D セル」を「原画」工程に送り、CG に描き加える形で「原画」「動画」が作成さ れる場合もあります。 【色指定・仕上げ】 発生する資料:スキャンデータ(仕上げ作業用)、彩色データ  それぞれのカットごとに塗る色を決める「色指定」と、「色指定」を元に実際に色を付ける「仕上げ」
  • 19. 18 第 2 部 資料共通の作業と注意点 が行われます。  「セル画」を使用していた時代は、「トレスマシン」によって動画の線をセルに転写し、着彩していまし たが、現在は動画をスキャンし、そのスキャンデータに色を塗っています。 【撮影】 発生する資料:映像素材(撮影上がり)  「撮影」は、制作された各カットの作画データを、タイムシート通りにつなげた映像にする作業です。 現在ではコンピュータ上でデータを合成する工程(コンポジット)となっていますが、かつてはセル画や 背景画をカメラで撮影し、フィルムなどを制作していました。  この「撮影」の結果生まれる映像素材は業界内では俗に「撮影上がり」「レンダリングデータ」などと 呼ばれます。 【編集】 発生する資料:映像素材(編集上がり)(p88 参照)  「編集」では、「撮影上がり」の映像素材を繋ぎ、さらに各カットの時間を調整したり順序を入れ替える などの作業を行い、一つながりの映像を制作します。  撮影の工程と同様に、現在ではコンピュータ上での作業ですが、フィルムの時代は実際にフィルムを切 り貼りしていました。そのため、現在でも「編集」の工程は「カッティング」とも呼ばれます。  「編集」によって作成される映像素材は「編集上がり」「CT(カッティング)上がり」などと呼ばれます。 【音響】 発生する資料:音響素材(p95 参照)  アニメの音楽制作は、作品制作の初期に欲しい音のイメージや種類などを伝えられた作曲家がまとめて 制作する場合や、制作の過程で必要に応じて随時作っていく場合など、作品や楽曲によって様々です。また、 効果音も同様に様々なタイミングで制作されます。  多くの場合、楽曲や効果音の制作は作曲家やレコード会社、音響スタジオなど外部の会社が担当するた め、アーカイブが回収するのは納品された CD やデータなどの「音響素材」です。 【アフレコ】 発生する資料:音声素材、アフレコ台本(p84 参照)  絵コンテを元に「アフレコ台本」が制作され、映像に声を吹き込む「アフレコ」が行われます。 多くの場合、外部の録音監督や音響スタジオが収録した音をまとめるため、アーカイブが回収するのはア フレコ台本と納品された「音声素材」です。 【ダビング】 発生する資料:映像素材(p88 参照)  アフレコや音楽などの音のデータを、映像と合わせる「ダビング」が行われます。この工程でも、音に 合わせて映像の長さや効果などの調整が行われます。撮影や編集同様に、「ダビング」後の素材は「DB(ダ ビング)上がり」などと呼ばれる、映像データと音声トラックが合わさったデータやテープがつくられます。 【ビデオ編集】 発生する資料:映像マスター、音声マスター(p88 参照)  「ビデオ編集」は「V 編」とも略される、納品用のデータやテープ(マスターテープ / データ)を制作す る工程です。具体的には、放送、公開の条件にあわせた時間の調整や、必要な場合はテロップを入れる作 業などを行います。  納品の形態(テープやデータの種類など)は、契約時など事前に決められていますが、いずれの場合で
  • 20. 19 も映像のマスターと音声のマスターが作られ、まとめられています(テープの場合、1 本に映像と音声の トラックが収録されていることもあります)。  納品後に制作されるものと区別するため、制作会社が作成したマスターを、「I.G マスター」のように制 作会社の名前を付けて呼ぶこともあります。 【納品後】 発生する資料:放送局マスター、メーカーマスター など(p89 参照)  作品によっては、制作会社から納品されたマスターを元に、放送用の「放送局マスター(局マスター)」、 DVD などのソフト用の「メーカーマスター(DVD マスター)」など、目的別にマスターテープ(データ) が制作されることがあります。  これらのマスターが制作会社に送られて来た場合も、アーカイブが回収します。 【広報】 発生する資料:広報資料(p105 参照)  チラシやポスター、宣伝画像など作品の広報のために制作された宣伝素材、それらの制作資料などもア ーカイブが回収します。 【商品】 発生する資料:各種商品(p100 参照)  商品と、商品の開発に使用した版権イラストなどの素材も、アーカイブで回収・管理することがあります。  アニメーション作品の関連資料の保存・処分の判断については、事前に作品ごとの資料の保管や処分に 関する条件を確認する必要があります。中には作品の制作資料(中間成果物)にも権利者が定められてい る場合があり、これらの権利者や関係者の要望などを確認する必要があります。ここでは、アーカイブが 資料を扱う前に確認すべきことを説明します。
  • 21. 20 第 2 部 資料共通の作業と注意点 ○ 誰に、何を確認するのか?  アニメーション作品の関連資料を扱う際には、事前にその作品における資料の保管と処分に関する条件 を確認する必要があります。作品によっては、制作開始時に交わす契約書の中で制作資料(中間成果物) の権利や扱いについて定められている場合があります。さらに作品ごとの権利者や関係者の資料に対する 要望などを確認することも必要です。 ○ 事前の確認すべき事項  資料の保管作業を行うにあたって、事前に確認すべきことは以下の 3 つです。 1. 権利、契約関係  作品制作時に交わした契約書に、中間成果物についての取り決めがあるかを作品のプロデューサーに確 認します。 2. 関係者の資料に対する要望  契約書に記載がなくても、関係者の間で資料の取り扱いについて口頭で約束していることがあります。 または、作品の関係者が資料のアーカイブへの移管以降も使いたいと思っている資料があるかもしれませ ん。そのため、事前に作品のプロデューサーや関係者に要望の聞き取りを行っています。 3. 資料の状態  アーカイブが回収する資料の種類や量を確認しておきます。特に「カット袋」は物量が多いため、事前 の受け入れ準備が重要です(p57 参照)。 2.1.2 資料を扱う前に確認すべきこと  アニメーション作品の「プロデューサー」とは、作品の企画立案、資金集め、スタッフや制作環境 の構築と運営、宣伝、商品・イベント展開など、作品に関わる全ての工程の管理を行う役職です。作 品によっては「企画プロデューサー」「制作プロデューサー」など役割に応じて複数配置することもあ ります。役職によってそれぞれ視点や関わるスタッフが変わるので、アーカイブで資料を回収する場 合も、その作品の全てのプロデューサーに確認を取るようにしています。 「プロデューサー」の種類 契 約 書 の 条 項 確 認 ア ー カ イ ブ で の 判 断 社内外の各所へ確認、 及び要望や情報の収集 経営 / 企画の 各プロデューサーを経由 図 2-2 事前確認フロー
  • 22. 21 ○ 資料整理の基本的な考え方  アニメーションに限らず、資料の整理作業を行う際は「資料を長く残せるようにする」「資料を探しや すくする」ように注意します。同時に、資料そのものだけではなく、資料がどのような環境に置かれてい たか、他のどのような資料と保管されていたかなど、資料に関係する情報を残すことも重要です。こうし た資料に関係する情報を残すために、アーカイブズでは「出所原則」と「原秩序尊重」という原則があり ます。この原則はどちらも、資料の回収、整理の後も資料群の文脈(コンテクスト)を保存するために重 要なものです。 ○ 出所原則(respect des fonds)  「出所原則」は、「ある組織や団体から出た資料群は他の資料群と混ざってはいけない」という原則です。 アニメーションの現場で言えば、ある会社や作品のものとして一度回収した資料が、他の会社や作品の資 料とは混ざってはいけない、ということになります。  もう少し具体的に説明すると、例えばある作品の資料を制作現場からまとめて回収した場合、その資料 を同じ制作現場の他の作品などの資料と混ぜて保管しないようにします。  しかしアニメーション制作の場合、個人のクリエーターや他の会社に依頼した作業の資料が、後になっ てから発見され、回収される場合があります。この場合、資料の内容や量によって「その個人や会社から 回収した資料群」として保管することも、すでに回収した資料群の中と一緒に保管することもあります。 ただしいずれの場合も、資料がいつ、どこから回収されたかの記録は行います。 ○ 原秩序尊重(original order)  「原秩序尊重」は、資料の重ねられていた順番や、保存されていた場所などの情報を可能な限り尊重し ようという原則です。  アニメーションの現場で考えると、例えば資料が制作現場で管理されていた時の話数の順番や、兼用カ ットや BANK カット、大判カットを他のカットと別に保管しているかどうか、カット袋の中の資料がどの ような順番や状態で入れられているかなどがあります。  I.G アーカイブでは、基本的にこのような制作現場で管理されていた通りの順番、方法での保管をそのま ま引き継ぎますが、例えばカット袋などは制作現場から届くときは番号順に整理されていない場合が多い ので、そうした場合はカットナンバー順に並べ直すこともあります。 2.1.3 資料の整理についての基本的な考え方
  • 23. 22 第 2 部 資料共通の作業と注意点 ○ 3 段階の整理作業  アニメーションの制作資料は、「カット袋」のように一度に大量の資料が送られてきたり(p57 参照)、 テープや商品類のように複数の作品の資料が送られてきたりするなど(p97、p101 参照)、回収のタイミ ングや作業内容が種類によって違います。I.G ではアーカイブ作業を、資料の回収時に行う「受け入れ作業」、 回収した資料の中身を確認する「内容物確認」、長期的な保管や利用のための「詳細調査」の 3 段階に分け、 負担を分散させ効率よく作業を行えるようにしています。ここでは、この 3 段階の作業の基本的な説明を 行います。各資料の具体的な作業内容・手順については第 3 部の各項目を参照してください。 1. 受け入れ作業  資料の回収作業は効率よく行う必要があります。そのため「受け入れ作業」では、回収した資料の確認 と利用のための最低限の記録を行います。例えば、「カット袋」のように資料が段ボール箱に入れられて いる場合、中を開けずに「何の箱が」「何箱」届いたのかを確認していく程度です。「受け入れ作業」では、 スピーディーに作業を行うことを意識しています。 2. 内容物確認  「受け入れ作業」の後に、資料を 1 点ずつ確認する「内容物確認」を行います。「受け入れ作業」で確認 した箱を開けて、中身のチェック作業などを行います。物量の多い資料などは「受け入れ作業」から数週 間~数か月ほどかけて、少しずつ作業を進めていきます。反対に資料の数が少なかったり、梱包されずそ のまま届いたりする資料の場合は、「受け入れ作業」と「内容物確認」を同時に行うこともあります。 3. 詳細調査  「詳細調査」では、資料の長期保管のための処置や、詳細な情報の記録を行います。「詳細調査」は必要 に応じて必要な範囲で行う作業です。例えば、傷んだ資料の修復作業や、まとめて送られてきたデータ資 料のファイル名や形式などの情報の記録などがあります。「詳細調査」は作業に時間がかかります。また「受 け入れ作業」から数年経過した後で作業を行うこともあり、実施するタイミングは決まっていません。 2.1.4 整理作業の進め方 受 け 入 れ 作 業 資料の回収時に行う。 回収時の資料の状態や個数などを、簡単に記録をする段階。 ・「いつ」「何を」「何個」回収したのかを確認・記録する。 ・この後の保管・整理作業のための準備を行う。 「受け入れ作業」を行ってから数週間~数か月以内に行う。 資料を 1 点ずつ確認・記録していく段階。 ・「どんな資料が」「どのような状態で」保管されているのかを記録する。 ・利活用の際に利用・検索しやすいような情報を記録していく。 内 容 物 確 認 時間や人手が使えるタイミングで行う。 詳細情報の記録や、長期保管のための作業を行う段階。 ・「調べなければわからない情報」や「入力に時間のかかる情報」の確認・記録を行う。 ・資料の修復など、長期保管のための作業を行う。 詳 細 調 査 図 2-3 整理作業の進め方
  • 24. 23 ○ 多様なメディア  アニメーション制作では、原画や動画などの紙や、映像や音のデータやテープなど、幅広い種類の資料 が発生します。そのため、アーカイブが管理する資料の「メディア」も様々で、それぞれ管理方法が異な る場合もあります。それぞれのメディアごとの特徴や注意点などは、次章からの各解説を参照してくださ い。 【紙】(p24 参照)  アニメーション制作では様々なものが紙に描かれており、特に原動画は現在でも基本的に紙で制作さ れています。紙資料は物量が多く、また重要な資料が多いこともあって、アーカイブでも中心的なもの の一つです。また、作画用紙やコピー用紙、あるいはカット袋など、さまざまな種類の紙が使用されて います。 【記録メディア】(p28 参照)  完成した映像を収めたフィルムなどの「記録メディア」も重要な資料です。時代や公開の形式によって、 フィルムや磁気テープ、CD や DVD など様々なものが使われてきました。とくに磁気テープ(ビデオテ ープ)は現在でもテレビ作品の納品で使用され続けています。アイテムの量は紙資料ほどではありませ んが、耐用年数が紙よりも短く、保管のための温度・湿度管理がシビアで、さらに利用の際は専用の再生・ 編集の環境が必要になるなど、手間のかかる資料でもあります。 【セル】(p69 参照)  「セル」は透明なシートで、90 年代までのアニメ制作では「動画」の線を「セル」に転写し色を付けた「セ ル画」を撮影して、映像にしていました。現在ではほぼ使われていない素材ですが、90 年代まではほと んどのアニメーション作品で使用されていた重要な素材です。  一方でセル画が使われていた時代では、映像がつくられた後は不要になるため処分されることが一般 的でした。さらにセル本体・塗られた塗料の両方が熱や光、衝撃や重さにとても弱く、変形・変色・ひ び割れ・セル同士の圧着などが発生しやすく、処分されなかったセル画も多くが修復不可能なダメージ を受けています。このような経緯から、大量に制作されていながら現在まで無事に残っている「セル画」 はごく少数だと考えられるため、状態の良いセル画は手間をかけても保管するようにしています。 ○ デジタルデータについて(p38 参照)  最後に、メディアに記録される「デジタルデータ」について少し触れておきます。  制作工程の変化によって、現在のアニメーション制作では社内外のサーバ、パソコンや HDD、記録メデ ィアの中などに大量の「デジタルデータ」が記録されます。「デジタルデータ」は大量の情報を比較的手 軽に管理できる点で優れていますが、サーバや制作現場のパソコンの中のデータは複数の人間にアクセス されることから、変更を加えられたり消去されることがあるため注意が必要です。また光学メディアや精 密機器に記録されるため、保存や取り扱いの際の手間がかかる資料でもあります。 2.1.5 資料のメディアの種類
  • 25. 24 第 2 部 資料共通の作業と注意点 2.2 紙資料の取り扱い  紙資料は、アニメーションのアーカイブで扱う資料の中でも中心的なもののひと つです。現在でも原画や動画は紙に描かれており、そのため 1 作品で発生する紙資 料の数は膨大なものとなります。  2.2 では、アニメーションアーカイブで扱う紙資料について、その特徴や保管にあ たっての注意点などを説明します。 2.2.1 紙資料の種類と特徴 2.2.2 紙資料の分類と注意点 2.2.3 紙資料の保存と管理
  • 26. 25 ○ 紙資料の種類  アニメーションのアーカイブで取り扱う紙資料には、以下のようなものがあります。 【原動画やレイアウト・タイムシート】(p52 参照)  原画や動画、修正原画、レイアウト、タイムシートなど。それぞれ専用の紙に描かれています。「タッ プ穴」が付いている原画、動画、レイアウト、修正用紙はまとめて「作画用紙」とも言われます。 【絵コンテ・設定画など】(p79 参照)  絵コンテは専用の用紙に描かれていましたが、近年ではデジタルで作成されコピー用紙にプリントア ウトされる場合も増えています。設定画も同様に紙資料はプリントアウトしかないことがあります。ま た設定画はファイリングされていることもあります。 【カット袋】(p51 参照)  原動画やレイアウトをカットごとにまとめるための大型の紙封筒です。表面に様々な情報が記載され ているため、カット袋自体も資料となります。また、カットの素材以外にも絵コンテや設定画など、紙 資料をまとめるものとして広く利用されています。 【背景画・イメージボード】(p73 参照)  背景画やイメージボードは、画用紙に絵具などで着彩された資料です。近年では背景画はデータで納 品され、紙に描かれた資料はアニメの制作会社に届かないか、または初めからデジタルで描かれた作品 が多くなっています。また、イメージボードが制作される作品は稀です。 【書籍・冊子】(p84、p103 参照)  作品の関連書籍や原作、作画の参考資料などの書籍も、アーカイブで管理することがあります。また、 アフレコ台本など製本されていたり、冊子にまとめられている資料もあります。 【写真(紙焼き)】(p36 参照)  古い作品のロケハンなどの取材写真や、広報用の場面写真や設定画などのフィルムを紙焼き(現像)し たものなどが見つかった場合も、アーカイブで管理することがあります。 ○ 紙資料の特徴  アニメーションの紙資料はその物量の多さが特徴で、特に原動画は今でも紙で制作されており、例えば 30 分のテレビ作品 1 話分で数千枚から 1 万枚近くの紙資料が制作されています(p51 参照)。同時に、原 画やレイアウト、タイムシートなどは商業的にも文化的にも価値の高い資料であるため、できるだけ保管 することが望まれるものです。また紙資料は再生装置などが必要なく、手描きの資料はファンにとっては 魅力的なものなので、イベントなどでの展示や画集などにも適しています。  一方で紙は温度や湿度の変化、積み重ねなどによる影響を受けやすい素材です。また背景画など色が塗 られた資料は、塗料を傷めないように気を付ける必要があります。  それでも、適切な状態で保管されている紙資料は光学メディアなどよりも長期間保存することができる ため、可能な限り保管環境を整えるよう努めています。 2.2.1 紙資料の種類と特徴
  • 27. 26 第 2 部 資料共通の作業と注意点 ○ 紙資料の分類  アニメーションの制作で使用される紙は、「原画用紙」「絵コンテ用紙」「カット袋」などの、資料や工 程による分類の他に、アーカイブの観点から見たときに重要となる分類があります。 ○ 原紙とコピー  その資料が「オリジナル」か「複製物」であるかの分類です。紙資料は物量が多いため、「原紙は残し コピーは処分する」という判断基準を設けて資料の選別を行う場合もあります(p65 参照)。ただし、コピ ーであっても手書きの修正やメモがある場合は、元になった資料とは別の「オリジナル」の資料として扱 います。  また、3D 作品など絵コンテや原画がデジタルで制作されている作品の場合、紙資料はもとのデータを プリントアウトしただけのもので、「原紙」に相当する紙が発生しません。このような作品で、元のデー タが確認できない場合は「コピー」であっても保管します。 ○ 酸性紙と中性紙  紙には、「酸性紙」と呼ばれるものと「中性紙」と呼ばれるものがあります。  「酸性紙」は古い紙に多く、長期間保管する間に劣化しボロボロに崩れてしまいます。また劣化する際 ガスを発生させ周囲の資料を傷めてしまいます。こうした「酸性紙」の問題に対応するための紙が「中性紙」 で、現在では広く書籍やコピー用紙などに使われています。ただし、中性紙であっても環境や時間経過な どによって酸化し、劣化してしまいます。  現在のアニメーションの制作で使用される紙を社内で調べたところ、原画用紙やコピー用紙などは中性 紙が使われていましたが、カット袋はほとんどが酸性を示しました。そのためカット袋で資料を保管する と、劣化の過程で中の資料を傷めてしまう可能性があります。また 1980 年代頃までは酸性紙はアニメー ション業界でも使用されていたため、古い資料は原画などであっても酸性紙の可能性があります。  ただ、I.G アーカイブでの経験上、空気に触れづらい環境であれば、カット袋に資料を入れていても 20 年経過しても目立った劣化は起きていませんでした。よって原動画や設定画などはカット袋で保管してい ます。  酸性紙については、中和処理やガスの吸収材など、資料の保存のための方法や商品を開発している企業 もあります。I.G アーカイブではそのような企業とも相談し、費用や手間などの面で可能な範囲で適切に保 管するよう努めています。 2.2.2 紙資料の分類と注意点  図書館やアーカイブなどで一般的に「酸性紙」と呼ばれるものは、紙の中でもサイジング(にじみ 止め)に硫酸アルミニウムを使用しているものです。この硫酸アルミニウムが紙の繊維の中などに含 まれる水分と反応し、加水分解し硫酸を生じることで紙のセルロースが破壊され、紙がボロボロにな ってしまいます。中性紙は使用する薬品の変更や中和処理などによって酸性紙の問題に対応していま すが、中性紙であっても永遠に中性を保つわけではなく、劣化が進めば酸性を示すようになります。  現在アニメーション業界で使われている作画用紙のほとんどは中性紙だと考えられますが、資料を 長期間保存するためには、たとえ中性紙であっても適切な保管環境を整える必要があります。 酸性紙について
  • 28. 27 ○ 受け入れ時の紙資料  紙資料の多くは、制作現場で管理されていた状態のままアーカイブに移管されます。たとえば、原画や 設定類などは段ボール箱や紙袋などにまとめられた状態で届きます。箱などに中身のラベルが貼られてい たり、特にカット袋などは順番をそろえて入れられることが多いため、基本的にはそのまま保管しますが、 箱が痛んでいたり、隙間が空いていた場合は箱を入れ替えることがあります(p59、p61 参照)。  その他、クリアファイルに入れられて届く場合や、アフレコ台本などの冊子は未梱包で直接回収される こともあります。 ○ 紙資料の保管  紙資料は制作現場から回収した際の、段ボールやカット袋、クリアファイル等に入れられた状態のまま で保管します。保管の際は、取り出ししやすいように作品ごと、資料ごと、カット順に並べるなどしてい ます。  ただし、背景画など色が塗られたものは塗料が特に温湿度の変化や重さに弱いため、ほかの資料とは別 に保管しています。その際、温度や湿度が一定で、光にあたらない場所に保管します。また、表面がこす れると塗料がはがれてしまうので、薄葉紙などを挟み、沢山の紙を重ねないようにします。I.G アーカイブ で保管している背景画に使われている塗料は水彩絵具ですが、アクリル塗料が使用されていた場合は資料 を大量に重ねると薄葉紙に塗料がくっついてしまう可能性があるため、重さがかからないように注意しま す。 ○ 紙資料を保管する時の注意点  紙資料を保管する際は、いくつか注意すべき点があります。 ・水にぬらさない  紙は雨などで濡れてしまうとシワやシミになり、さらにはカビが発生してしまうことがあります。段ボ ールの中に入っている資料も、段ボールが濡れると中まで水がしみ込んでしまいます。回収時や利用時な どで倉庫から出し入れする際は、雨などに濡れないよう細心の注意を払います。また、倉庫を選ぶ際に水 漏れや雨漏りが発生していないか、川べりなどで湿度が高い場所でないかを確認することも重要です。 ・段ボールを大量に積み上げない  段ボールに入れて保管している場合、決して大量に積み上げないようにします。紙資料を詰めた段ボー ルは重く、大量に重ね置きすると下の段ボールや資料を傷めたり、持ち上げるときに箱を落としてしまう 危険性があります。直接重ね置きする場合は、高さ 1m 前後を基準として、それ以上積まないようにして います。 ・紙の種類やサイズを考慮する  紙資料は物量だけでなく種類も豊富なため、さまざまなサイズのものがあります。例えばカット袋も、 通常のサイズとは異なる大判カットがあります。このような大判カットは通常のカットとは別の大きな箱 にまとめて入れられることが多く、倉庫の保管スペースを計算する際などはこの点を考慮します。  また、紙の種類によっては破れやすいもの、変色しやすいものなどがあるので、そのような資料は他の 資料とは別に保管します。 2.2.3 紙資料の保存と管理
  • 29. 28 第 2 部 資料共通の作業と注意点 2.3 記録メディアの取り扱い  アニメーションは「映像作品」なので、「完成映像」は最も重要な資料です。同時 にその「完成映像」のための「映像」、その「映像」と合わせるための「音」もまた、 重要な素材です。さらに、近年デジタル・データの素材も増えています。ここでは、 それらの「情報」を記録するための「記録メディア」について説明します。 【参考】  記録メディアのアーカイブについては、オーストラリア・アーキビスト協会(The Australian Society of Archivists)の「キーピング・アーカイブズ(Keeping Archives)」の該当箇所の有志によ る翻訳が、発行元の許諾を得たうえでウェブに掲載されています。本書では触れられない、アーカ イブとしての考え方や課題などが詳細に書かれています。 オーストラリア・アーキビスト協会 http://www.archivists.org.au/ 勉誠出版 『キーピング・アーカイブズ Keeping Archives』連載第 1 回 http://bensei.jp/?main_page=wordpress&p=1311 2.3.1 記録メディアの種類と特徴 2.3.2 磁気メディアについて 2.3.3 光学ディスクについて 2.3.4 ハードディスクの保存と管理 2.3.5 記録メディアの受け入れと保管作業 2.3.6 サーバでのデータ管理について 2.3.7 マイグレーションとその課題 2.3.8 フィルム・写真について 2.3.9 フィルムの保存について
  • 30. 29 ○ 記録メディアの種類  アニメーションの制作では、紙以外にも資料が様々な「記録メディア」に収められています。主な「記 録メディア」には、以下のようなものがあります。 【磁気メディア】  テレビアニメ作品などでは、現在でも完成した映像を HDCAM-SR などの磁気テープ(ビデオテープ) に収録しています。「完成映像」は制作会社にとって最も重要な資料であり、それが収められた磁気テー プは可能な限り保存しなければなりません。  磁気テープは映像だけではなく、音声データの納品にも使用されていましたが、CD-R の普及によって 現在ではほぼ使われていません。またフロッピー・ディスクや MO ディスクで保存されている資料も存在 しています。さらに、データの長期保管のための LTO も磁気メディアの一つです。 【光学ディスク】  CD、DVD、Blu-ray などの光学ディスクは、映像素材や音声素材の納品や複製など、現在でも制作現場 で広く使われているメディアです。 【HDD】  現在のアニメーション制作では多くのデジタルデータが発生しますが、これらのデータは作品ごとにま とめられ、サーバや HDD に記録されます。アーカイブではこのような現場で使用されていた HDD を直接 回収・保管したり、あるいはサーバのデータを HDD に移して保管します。 【フィルム(映像・写真)】  現在ではほぼ使われていませんが、かつて映像はフィルムが焼かれ、劇場などで上映されていました。 また場面写真や広報素材などの静止画もフィルム(ポジフィルム)などが作成され、利用されていました。 ○ 記録メディアの特徴  記録メディアで特徴的なのは、アーカイブで資料を取り扱う際に「記録メディアそのもの(キャリア)」 と「格納されているデータ」の 2 つの側面を考える必要があることです。例えば、「マスターテープ」の 保管は「データが記録されたメディア(テープ)そのものを保存する」ことと、データの劣化や消失を防 ぐため「記録されたデータをコピーして別メディアに移し替えて保存する」という、二つのアプローチが あります(両方行うこともあります)。  メディア自体の保存については、温度・湿度の管理など保存のための環境を整えることが重要です。ま た衝撃に弱い素材も多く、メディアが劣化・破損してしまうと収録データを読み出すことができなくなる ため、注意して取り扱います。また、できるだけバックアップを作成します。  各メディアごとの取り扱いについては、次項以降の各解説を参照してください。  記録されたデータは、バックアップや作業環境の変化に対応するためにデータを移し替えていく「マイ グレーション」が重要な作業となります(p35 参照)。マイグレーションの際は、可能な限り元データの情 報からの変質が少ないようにする必要があります。  記録メディアは、機器やデータ形式などが古いものから最先端のものまで極めて多種多様で、中には現 在の一般的な環境では再生・編集が不可能なものもあります。専門的な知識を必要とする場面も多々あり ますので、日ごろから社内外の専門家などと相談しておきます。 2.3.1 記録メディアの種類と特徴
  • 31. 30 第 2 部 資料共通の作業と注意点 ○ 磁気メディアの種類の例  アニメーションの制作現場では、現在でも納品用のテープ(マスターテープ)として磁気メディアが広 く使用されています。また、かつては音声などのデータを収録するメディアとしても使われていました。  アニメーションの制作現場で使われていた磁気メディアには、以下のようなものがあります。 映像テープ(アナログ):ベータカム ベータカムスーパー 等 映像テープ(デジタル):デジタルベーカム HDCAM HDCAM-SR 等 音声テープ:DAT テープ DA-88(98)用テープ 等 デジタルデータ:MO ディスク(光磁気ディスク)、LTO 等 ○ 磁気メディアの特徴  磁気メディア(VHS やカセットテープなど)は 90 年代までは映像、音声などの収録メディアとして一 般からプロの現場まで広く普及していました。その後一般家庭などでは CD や DVD などの光学メディアへ と移行していきましたが、HDCAM-SR を中心にプロの現場では現在でも根強く使用され続けています。  一方でプロの現場に特化した結果、再生・編集用の機器およびメディア自体も非常に高価なものとなり、 また機器の操作も専門職の人材でなければ扱いが難しいものとなっています。またそれらの機器ごとに対 応できるメディアが異なっていることも特徴で、特に古い世代のメディアは現行の機材では対応できない こともあります。対応していないメディアを無理に使用すると、メディアだけではなく高価な機材も損傷 させる恐れがあるため、事前に機器の対応メディアを確認しましょう。また、磁気テープは再生するたび にメディア自体が徐々に摩耗していくため、バックアップを取ることも必要です。   ○ 磁気メディアの保管(p33 参照)  磁気メディアは、作品や種類ごとにまとめて保管します。また検索性を高めるため、一本ずつ管理デー タを作成します。  保管の際は、受け入れ時のケースと、ケースのラベル、ケース内に入れられている編集者の記録表(エ ディットシート)なども、可能な限り一緒に保存します。ケースを入れ替える場合は、ラベルや資料のコ ピーを取るなどして、情報を残すようにしています。 ○ 磁気メディアを保管する時の注意点  磁気メディアは、温度・湿度の変化に弱いメディアです。よって、可能な限り低温・低湿度で安定した 環境で保存しましょう。また埃などが磁気面に付着すると劣化や故障の原因となるため注意が必要です。 さらに磁気メディアは磁気によってデータを保存しているため、強い磁石や電子機器、スピーカーなどの 付近で保管すると、データの劣化や破損が起こります。さらにテープ類の場合、再生途中などでテープが 巻き戻っていない状態で保管するとテープが変形する恐れがあるので、完全に巻き戻して保管します。  磁気メディアは長期保存のために要求される環境水準が比較的高く、さらに中のデータ類も重要である ことが多いので、保管にあたっては十分な環境作りが重要です。会社内でそのような環境を整えることが 難しいようであれば、倉庫会社などで専用のサービスも行われていますので、それらを利用することも検 討します。 2.3.2 磁気メディアについて
  • 32. 31 ○ 光学ディスクの種類の例  光学ディスクは磁気メディアに代わり広く普及した記録メディアで、アニメーションの制作現場でも 様々なデータの記録に使われています。  アニメーションの制作現場で主に使用されている光学ディスクは、CD、DVD、Blu-ray Disc(BD) などが あります。またメディアの規格以外にも、データの書き込みが可能かどうかで以下のように分けられます 読み取り専用:CD-ROM、DVD-ROM 等 一度だけ書き込みが可能:CD-R、DVD-R、BD-R 等 複数回の書き込みが可能:CD-RW、DVD-RW、BD-RE 等 ○ 光学メディアの特徴    光学メディアは広く一般にも普及しているため、市販のプレイヤーや対応したディスクドライブの付い た PC などであれば容易に再生・閲覧が可能です。アニメーションの制作現場では、主に部署間のデータ のやり取りに使用されています。また音楽・音声の納品データも光学メディアに収められて届いたり、短 い映像などを納品する際に使用されることもあります。  光学メディアの寿命については諸説あり、メーカーや種類によって大きく異なるようです。中には適切 な環境下であっても数年で劣化が始まるものもあり、また比較的新しいメディアなので実際に何年保存で きるのかは実証されていないこともあって、寿命はそれほど長くないと考えています。 ○ 光学メディアの保管  光学メディアは長期間の保存が難しくまたスペースを圧迫するため、データを HDD などの別のメディ アへ移し替えて保存することが理想です。ただしこの作業のコストは小さくないため、実際には光学メデ ィアのまま保管することもあります。  光学メディアを保管する場合、種類や作品ごとにまとめて保管します。基本的には磁気メディアと同様 に回収時に入れられていたケースや付属のラベルや資料とセットで保存しますが、場合によってはディス ク用のファイルケースに移し替えて保存することもあります。 別のメディアやファイルケースで保管する場合は、元のケースのラベルや資料の情報も可能な限り残し、 資料とデータが相互に参照できるようにします。 ○ 光学ディスクを保管する時の注意点  まず光学ディスクは光に弱く、特に太陽光などがあたると数日で再生不可能なダメージを負うことがあ ります。また、湿気によって酸化が引き起こされる危険性もあるため、光をさけ、湿度が低く温度が安定 している場所で保管します。  また光学ディスクは物理的な損傷にも脆弱です。記録面(裏側)だけでなくラベル面(表面)も傷や汚 れをつけないよう注意してください。特にラベル面は記録面よりも保護層が薄く、ペンや鉛筆などで書き 込むと記録層まで傷が達する可能性があります。書き込みが可能なディスクであっても、ペン先の柔らか いものを使うようにします。 2.3.3 光学ディスクについて
  • 33. 32 第 2 部 資料共通の作業と注意点 ○ HDD について   近年、アニメーションの制作工程では大量のデジタルデータが発生するようになり、既存の磁気メディ アや光学ディスクよりも大容量のメディアが必要になりました。HDD(ハードディスクドライブ)はこの ような大量のデータを作品ごとに管理する際などに利用される機器です。  HDD は PC などに内蔵、あるいは外付けできる機器で、光学ディスクなどよりも大容量のデータを記録 できます。反面、精密機器であるため寿命が非常に短く(適性環境下でも 5 年程度)、また衝撃に極めて 弱い性質をもっています。  アニメーションの制作現場では、HDD は原動画のスキャンデータや仕上げのデータ、背景データや広報 データ等、制作中に発生する多種多様なデジタルデータを作品ごとにまとめて管理、保存するために使用 されています。またアーカイブでは、このような制作データや他メディアのデータのバックアップにも利 用します。 ○ HDD の保管    後述するように、HDD は極めて衝撃に弱いため、段ボールなどにまとめて保管することは避け、部屋の 棚や引き出しの中などに並べて保管します。この際 HDD を横に重ねて置いたり、隙間を作ってしまうと 扉の開け閉めの際などに HDD が倒れ損傷する可能性があるので、専用の箱に入れる、隙間ができないよ う緩衝材を挟むなどして、絶対に HDD が倒れたりしないよう注意します。  一部の外付け HDD を除き、基本的に HDD にはペンなどで書き込みをすることができません。よって管 理表などを作成し、HDD の側面などにシールなどでラベルを貼り管理表と対応させるなどして管理します。 ○ HDD を保管する時の注意点  HDD は精密機器であるため、温度変化や湿度に弱く、またホコリやチリが混入するとデータの再生がで きないばかりか PC に損傷を与える可能性もあります。よって、低温・低湿度でクリーンな環境下で保管 する必要があります。また静電気や衝撃などにも極めて弱いため、取り扱いには注意が必要です。特に衝 撃は机の上で倒れる程度でも破損する可能性があるため、常に気を付けるようにしてください。  HDD は大量のデータを記録することができますが、それは同時に HDD の損傷によって大量のデータが 消失してしまうことも意味しています。そのため、常に同じデータを記録したものを二つ以上残すように しています。 ○ マイグレーションについて  HDD は大量のデータを保存できる反面寿命が短く脆いため、数年ごとに別の HDD や他メディアにデー タを移し替える「マイグレーション」を行う必要があります。マイグレーションについては「マイグレー ションとその課題」(p35)を参照してください。 2.3.4 ハードディスクの保存と管理
  • 34. 33 ○ 記録メディアの受け入れタイミング  記録メディアの多くは素材データや納品データが記録されており、制作現場からアーカイブへ他の資料 とともに届きます。また、テレビ局や映像ソフトなどのメーカーで制作されたものが直接アーカイブへ送 られることもあります。いずれの場合も、作品ごと・種類ごとにまとめて届くことが多いです。 ○ 記録メディアの受け入れ~保管作業  記録メディアの受け入れか保管までの作業は、一般的に次のような流れで行われます。 具体的な作業手順や、各工程で記録する情報、管理目録への入力作業については、第 3 部の各資料の具体 的な保管作業を参照してください。 受け入れ作業:箱の状態、ラベル(送り状など)の記録・撮影 内容物確認での作業:メディアの個数・本数の確認とタイトル、ラベル情報の確認と記録 詳細調査での作業:1 本ずつ管理番号を振り、管理番号のラベルを張った状態で撮影 ○ 作業の進め方と保管場所の環境  記録メディアは環境の変化、重さや衝撃に弱いため、回収から早急に保管場所へ移す必要があります。 よって受け入れから一連の作業をなるべく早く行うようにしていますが、難しい場合は「受け入れ作業」 の後で保管庫に一時移すこともあります。  記録メディアの保存は、温度 25℃前後、湿度 50%前後が理想的な環境だと考えています。人が快適に 過ごせる環境であれば大きな問題はないので、I.G アーカイブでは仕事場の棚やロッカーなどに収納してい ます。 ○ バックアップとマイグレーション  記録メディアの情報は完成映像や納品データ等、極めて重要なものが多いため、保管作業の後も適宜バ ックアップを取っていく必要があります。また、メディアには耐用年数があるため、別のメディアへデー タを移し替える「マイグレーション」も必須です(p35 参照)。 2.3.5 記録メディアの受け入れと保管作業
  • 35. 34 第 2 部 資料共通の作業と注意点 ○ アニメーション制作とサーバ  近年、制作現場ではデータを社内サーバによって管理することが増えてきました。基本的にサーバ自体 の管理運用はアーカイブの管轄ではありませんが、サーバで管理されているデータをアーカイブが回収す る場合があります。    アニメーション制作会社では、主に作品の制作データや広報データ、あるいは人や予算の管理データな どをサーバで管理し、許可された人の間で共有しています。サーバの維持・運用には専門的な知識やメン テナンスが必要なため、基本的には社内の専門部署が担当します。  アーカイブがサーバに関わるのは、主にサーバにある作品のデータを回収する作業が発生した時です。 ○ サーバで管理しているデータの回収  サーバで管理しているデータの回収は、制作現場のプロデューサーと、サーバを管理する部署のスタッ フ(システム部門など)の両者と連携しながら行います。データ回収の際にもっとも注意すべき点は、こ れらの連携不足によって回収前にデータが消去されてしまうことです。こうした事故を防ぐために、作業 完了の報告や消去前の確認などを密に行うようにします。  データの回収の際、データの移動先は主に以下の 2 つです。 1. サーバのアーカイブ管轄領域へのコピー 2. HDD など別メディアへのコピー いずれの場合も、事前に空き容量を確認し完全にデータを移せるようにします。  ○ サーバで管理しているデータの回収手順 1. システム部門や制作現場から、データの回収依頼が届きます。この時点で、回収スケジュールやデータ の移行先などの打ち合わせを行い、また広報や企画などの他部門への連絡と確認も行います。 2. 各所への確認後、データを移し替えます。移し替えの作業をアーカイブの担当者が行う場合は、漏れが 無いよう確実にコピーするようにします。 3. 移し替えが終わったら、データにコピー漏れやファイルの欠損が無いか、データ容量やファイルの数を 確認します。確認が終わったら、システム部門や制作現場の担当者にその旨を報告し、元のデータが削除 されます。 4. データのバックアップを取ります。サーバで管理しているデータは変更や消去が発生しやすいため、同 じデータを記録した HDD を二つ作成するなど、バックアップは 2 重にします。また 1 つの作品で制作と 広報など複数のデータがあった場合、重複するデータを削除する作業を行うことがあります。  繰り返しになりますが、データの回収前に元データが誤って削除されないよう、制作現場、システム部門、 アーカイブの間でデータの移し替え、削除などの担当者や作業期限などの確認や、作業の完了報告などを 逐次行うように注意して、一連の作業を進める必要があります。 2.3.6 サーバでのデータ管理について
  • 36. 35 ○ マイグレーションについて  記録メディアは映像や音声、作業データなど多様な資料を大量に記録することができます。しかし、多 くの記録メディアは耐用年数が数年~数十年と短く、その都度データを新しいメディアへ移し替えていく 必要があります。このデータの移し替えを「マイグレーション(データ・マイグレーション)」と呼びます。  アニメーションのアーカイブの場合、映像を扱うこと、また多種多様なメディアを利用してきたことか ら、マイグレーションにはコストや作業時間などの点で幾つかの課題が発生しています。 ○ 一作品あたりで発生するデータ容量の大きさ  制作過程で発生するデータ量は作品によって大きく異なりますが、目安としてはハイビジョンの TV 用 作品で 1 作品当たり 1.5TB 前後(ファイル数は 100 万以上)、劇場用作品で 2TB 前後(ファイル数は 150 万以上)となります(映像や音声のデータは除く)。 ○ 映像のデータ量    映像のデータ量も作品の分数によって変動しますが、テレビ用作品(25 分前後)の映像をテレビ用の標 準画質(SD)サイズ(720 × 486)で、長期保管用の無圧縮の QuickTime ファイル(.mov)で保存した場合、 約 70GB となります。  映像データは放送・パッケージの利用のためには無圧縮保存が必要です。また、今後テレビ放送などで 4K や 8K などのより高画質の映像を制作・保存することになれば、この何倍ものデータ容量が必要となり ます。 ○ 多様なメディアからのデータ変換  制作会社では、デジタルデータだけではなく古いビデオテープやフィルムなども保存されている場合が あります。これらの資料も劣化が進行していくため、早急なデジタル化が必要ですが、マイグレーション 同様の問題点や、デジタル化の際のデータの変換方法やコストなどの点で、多くの課題が残っています。 ○ マイグレーションのコスト    マイグレーションは費用や作業の負担が大きく、現在のアニメーション制作会社の中で作業をスムーズ に行う環境を整えることは難しいのが現状です。特に HDD は耐用年数が 5 年ほどと短い反面、大容量が 収録されているため頻繁にマイグレーションを行う必要があり、作業時間や経費コストを圧迫します。    しかし、制作データや完成映像を確実に、長期間保存する為にはマイグレーションは必須の作業です。 耐用年数が長く大容量を保存できる LTO(Linear Tape-Open)などの新しいメディアの開発・改良も進ん でおり、またデータの保管サービスや記録メディアを長期間保管できる倉庫サービスなどもあります。こ れらも活用しつつ、状況に合わせて可能な限りマイグレーションを進めていくよう努めています。 2.3.7 マイグレーションとその課題
  • 37. 36 第 2 部 資料共通の作業と注意点 ○ アニメーション制作とフィルムについて  ビデオテープが普及する以前、アニメーションの完成映像はフィルムに記録されていました。磁気テー プの普及以降も、2000 年代前半までフィルムは制作され続けていました。また写真も、その元となるフィ ルムと共に同時期まで広く利用されていました。いずれも現在のアニメーション制作で発生することは稀 ですが、過去の資料の整理の際などで扱う可能性があります。 ○ フィルムの「ネガ」と「ポジ」    ここでは深い解説は行いませんが、フィルムには「ネガフィルム」と「ポジフィルム」の 2 種類があり ます。「ネガフィルム」は実際に撮影したり放送したりする画とは色と明暗が反転したフィルムです。「ポ ジフィルム」は実際の画と同じ色と明暗で、上映用のフィルムや場面写真などはこちらの「ポジフィルム」 が使われます。  フィルムを使用する時は、目的によって必要なのが「ネガ」か「ポジ」かが変わるため、アーカイブで 回収する際、および取り出し依頼が来た際にはフィルムの「ネガ」「ポジ」を確認する必要があります。 ○ 映像用フィルムについて  アニメーションの制作では、主に「素材用のフィルム」と「上映用のフィルム」の2種類が発生します。 「素材用のフィルム」はその名の通り、撮影等の各工程で制作され、編集(カッティング)で実際に切り 貼りされたフィルムです。「上映用のフィルム」もまた名前の通り社内外での上映のために制作されたフ ィルムで、ポジフィルムです。 ○ 映像用フィルムの回収作業について  現行作品では基本的にフィルムが制作されることはないため、アーカイブがフィルムを回収するのは倉 庫などから発見された時などの場合で、数も多くはありません。よって回収作業もシンプルで、まず資料 の基本目録(p45、p110 参照)のデータを収集しつつ、「ネガ」か「ポジ」か、「素材用」か「上映用」か、 その他ラベルの情報などを記録します。これらの記録を録ったのちフィルムを専用の箱や缶に収めて保管 します。  一方で、フィルムは保存の環境がとても厳しく、また一度劣化が始まるとその停止・修復が難しいもの でもあります。フィルムの保管条件などに関しては次ページの「フィルムの保存について」を参照してく ださい。 ○ 紙焼き(プリント)・写真用のフィルムについて  写真は、「ロケハン写真」(p79)や「広報素材」(p106 参照)などで利用されていました。特に場面写 真や版権イラストなどの広報素材などは、ポジフィルムで制作されることがかつては一般的で、今でもフ ィルムを高解像度でスキャンすれば高画質の画像を得ることができます。具体的な回収・保管作業は第3 部の各項目を参照してください(p82、p107 参照)。また、フィルムの保管環境については、映像用フィ ルムと同様に次ページを参照してください。またフィルムを現像(プリント)した「紙焼き」については、 スキャンを行いデータで保管し、「紙焼き」自体は保管していません。 2.3.8 フィルム・写真について
  • 38. 37 ○ フィルムの劣化  フィルムは現在のアニメーション制作では基本的に制作されておらず、アーカイブで扱うのは稀なケー スです。このような残されたフィルムは古く貴重で、保存する価値の高いものも多く存在します。    フィルムは大変痛みやすく、容易に深刻なダメージを負う可能性があります。フィルムの劣化は化学的 な劣化が主で、変形や色の変色、カビの発生などがあります。さらに 90 年代までのフィルムは火災や、 有毒なガスが発生する「ビネガーシンドローム」などが発生する危険性もあります。これらの劣化は通常 の人間の生活環境下でも容易に引き起こされてしまうため、注意が必要です。また軽度のカビや汚れはク リーニングで取り除ける場合もありますが、一度劣化したフィルムは劣化を止めたり、修復することはで きません。フィルムの保管は、適切な保管環境を作ることと、デジタル化などのフィルムの映像を残すこ とが重要です。 ○ ビネガーシンドローム  「ビネガーシンドローム」はフィルムの劣化のうち最も深刻な症状の一つで、フィルムの薬品が大気中 の水分と反応し、酢酸を発生させフィルム自体を溶かしてしまう現象です。フィルムの支持体(ベース) にアセテートと呼ばれる素材を利用した、1980 年代から 90 年代前半まで使用されていたフィルムで発生 する可能性があります。一度ビネガーシンドロームが発症すると、この進行を止めることはできず、修復 も不可能です。さらに発生した酢酸が周囲のフィルムや資料へもダメージを与えるため、早急に隔離する 必要があります。  ビネガーシンドロームが発生したフィルムは、劣化そのものを止めることはできませんが、換気をした 後冷凍保存するなどで進行を遅らせることは可能です。よって、発症した資料は他と隔離しより低温・低 湿度の環境へ移し、無事な部分のスキャンなどを行う必要があります。また酢酸は人体にも影響を与える ため、扱う際は素手で触らず、換気などを充分に行います。 ○ フィルムの劣化を防ぐには  フィルムの劣化を防ぐためには、保存のための環境を整えることが何よりも重要です。 温度・湿度の管理  最も重要なのは、フィルムを低温・低湿度で保存することです。具体的な数字には諸説ありますが、温 度20℃以下・湿度50%以下であれば 100 年以上保存できるといわれています。また作業などで室内に 入る場合、人間の体温や呼吸で温度・湿度が変化するため、長時間作業しないよう注意します。 定期的な換気  低温度でも少量ですが酢酸は発生するため、定期的にケースなどを開けて換気を行います。 ケースの環境を整える  一度酢酸が発生するほどの劣化が始まると、密閉容器ではガスがたまってしまうため通気性の良いケー スで保管します。ケースには缶、プラスチック、紙など様々な種類があるので、フィルムや周囲の環境に 合わせて使い分けます。また発生したガスの吸収剤なども販売されており、こちらも有効です。  一方でこれら全ての対策を行うことは、アニメーション制作会社単独では難しいのが実状です。よって 倉庫会社を利用したり、フィルムのアーカイブを行う組織などと相談しつつフィルムの長期保管に努めて います。また、これでもフィルムの劣化を完全に抑えることはできないため、複製やスキャンなどでこれ らのバックアップの作成も行っています。 2.3.9 フィルムの保存について