【国の堤防復旧案に意見】 「堤防をかさ上げしないのか」 「決壊しない堤防に」 「矢板を入れてほしい」 長沼住民自治協議会長・柳見沢宏氏が発言を求めると、四〇〇人余りの参加者から次々に手が挙がる。人口流出が心配される被災地において、再度災害への懸念を払う工法の採用は、地域共同体を維持する鍵となる。質問する声には熱があり、真剣だ。 【危機管理型ハード対策工法】 国が信濃川水系沿川自治体と取りまとめた緊急治水対策プロジェクトは、これまでに必要性が指摘されてきた河床浚渫、立ヶ花狭窄部開削、遊水池設置等を五年間で実施するもの。防災ステーションという先進的な施設の新設もあり、これらについては概ね評価する声が高い。一方で堤防復旧工法案は、、今次災害で崩れた堤防裏については肩部・のり面下部だけを強化するもので、それらに挟まれたのり面は土のまま(危機管理型ハード対策工法)。決壊の原因は「水が堤防を越え、堤防を削ったこと」との国の説明に、地域住民の間では、この工法では再度災害への懸念が残ると考える傾向が強い。 【アーマーレビー工法】 これに対し、住民からも要望のあった「アーマーレビー工法」は、堤防裏を含め全面を遮水する手法で、フロンティア堤防とも呼ばれ、かつては国が推進する工法だった。だが、なぜか二〇〇二年から明確な理由が示されないまま、採用されなくなってしまった経緯がある。これは耐越水性能と費用対効果が優秀であったため、ダム建設を推進する立場の者から疎んじられた結果との説がある。 【遮水鋼矢板工法】 堤防の下に砂利があったとの仮説が、議論を複雑にしている。旧長沼城の北三日月掘の推定位置が破堤部と一致し、堀を砂利で埋めていた疑いがあるというのだ。越水による堤防裏の洗堀だけでなく、堤防基盤にあった砂礫層に浸透した水についても、破堤の原因である可能性を指摘している(新潟大学卜部厚志教授「TBS報道特集」)。 下流の赤沼、対岸の須坂市相之島では、かつて増水の際に漏水が確認されたため、河川側に水の浸透を防ぐ鋼矢板を打ち込んで対策している。今次災害では、鋼矢板を打っていない箇所だけが破堤したことから漏水を疑い、施工を希望する意見がある。 国は被災後の現地調査から浸透が破堤の原因となった可能性は低いとしている。一方で、施工にあたって「現地で玉石を確認しているので仮堤防撤去の際に確認をする」、「基礎地盤処理の置換盛土材料によっては透水抑制や遮水矢板の設置等の検討を行う」等としている。 【より強い工法と情報公開を】 長沼地区復興対策企画委員会委員長を兼ねる柳見沢氏は、「住民は堤防復旧の方法について納得していない。のり面の補強は、強く要望していきたい」と表明している(毎日新聞長野)。 アーマーレビー工法等の要望に対し、国の「絶対に壊れない堤防を造る技術は確立されていない」との反論は、分かりにくい。絶対に壊れない堤防が造れないとしても、相対的に頑強な堤防を目指すのは当然ではないか。堤防裏も含めて遮水すれば、今次災害の様な越水に対する堤防の耐水性は増し、再度災害の可能性は減るとする住民の考えには、一定の合理性がある。 住民の一部には国の河川行政に対する不信がある。出水期までに残された時間は潤沢とは言えないが、土質調査と住民要望を受けての工法検討の結果について丁寧な説明と議論が求められている。国にとってはタフな折衝の場面が続くことになろうが、より一層の困難に向き合っている被災住民が日常の穏やかな生活を取り戻すため、汗をかいていただきたい。