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カフェイン中毒
疾患各論
聖路加国際病院
救命救急センター
清⽔ 真⼈
聖路加国際病院 救急部について
l 年間11,000台の救急⾞と 45,000⼈の外来患者を
ほぼ全て救急部初療(⼩児科や産婦⼈科を除く)にて診療.
l 都内では珍しい⼤規模ER型救命センターです.
l スタッフ構成 (指導医3名, 専⾨医2名, 後期研修医7名)
l ⾒学, 研修はいつでも募集中です!
l 連絡先:清⽔真⼈ (  shimasa@luke.ac.jp)
2015年12⽉21⽇ 報道
九州に住む20代男性が昨年, カフェインを過剰に
摂取し, 中毒死していたことが分かった.
解剖した福岡⼤法医学教室の久保真⼀教授が21⽇,
記者会⾒で明らかにした.
カフェインを含む清涼飲料⽔などを短時間に
たくさん飲んだとみられ, 久保教授は過剰摂取に
注意を呼びかけている (以下略)
l  カフェイン過量服薬患者はしばしば来院
l  対応と臨床的特徴を確認しておこう
カフェイン中毒について
l  ⼊⼿が容易なOTC製剤含有成分であるが,
時として致死的となる.
l  嘔気・頻拍・低⼒リウム・乳酸アシドーシスを
認める場合, カフェイン中毒の可能性を考える.
l  テオフィリンと同様, キサンチン誘導体の1つ.
違いはメチル基1つであることもあり,
その中毒症状はテオフィリンと類似している
分⼦量 
分布容積 
蛋⽩結合率
半減期 
212.21
0.6L/kg
36%
2-10h
キサンチン誘導体
中毒研究 21:69-73. 2008
中毒量と致死量
l  経⼝摂取された場合,ほぼ100%が吸収される
l  中毒量は1~3g (中毒濃度≧25µg/ml)
l  致死量は5~50g (致死濃度≧80~100µg/ml)
l  半減期はおよそ5~8時間
チトクロームP450系により代謝される.
7本で中毒量!150mg/本10錠で中毒量!100mg/錠
Modern Physician 34(2): 191 -195 2014
中毒量と致死量
20杯で中毒量! 50mg/杯
推定作⽤機序
①  アデノシン受容体に対する競合拮抗作⽤
–  アデノシンと構造式が類似している
–  痙攣の閾値低下, 期外収縮惹起
②  内因性⼒テコラミン遊離の促進作⽤
–  βアドレナリン受容体刺激作⽤
③  呼吸中枢への直接刺激作⽤
–  頻呼吸, ⼤呼吸
④  PDE阻害作⽤による細胞内cAMP増加作⽤
–  ⾎管拡張, ⼼筋刺激作⽤, 中枢神経刺激作⽤
Modern Physician 34(2): 191 -195 2014
利尿作⽤
Kの細胞内移⾏
呼吸性アルカローシス
低K⾎症の原因
レニン分泌促進作⽤
⼼拍出量増加
近位尿細管再吸収阻害
低K⾎症
βアドレナリン
刺激作⽤
アデノシン受容体
拮抗作⽤
呼吸中枢への
直接刺激作⽤
PDE阻害作⽤
Modern Physician 34(2): 191 -195 2014
カフェイン中毒の症状
l  消化器症状が出やすい
l  致死的になるのは,
循環器症状
l  濃度と症状の関連性に
ついて症例報告等は
あるが, エタノールの
ように決まったものは
ない
Modern Physician 34(2): 191 -195 2014
循環器症状が致死的となる
多源性の⼼室性期外収縮
Modern Physician 34(2): 191 -195 2014
カフェイン中毒の治療
l  服⽤後1時間以内であれば胃洗浄を考慮
l  活性炭投与は吸収阻害において
⾮常に効果的であるとされている.
–  初療において活性炭1g/kg経管投与
–  活性炭0.5~1g/kg 2~4時間ごとに反復投与
–  カフェイン⾎中濃度25 µg/mL未満を⽬安にする
l  βブロッカーが有効なことも
Modern Physician 34(2): 191 -195 2014
カフェイン中毒の治療
l  排泄促進のため,急性⾎液浄化法の導⼊も考慮
l  循環破綻した場合, PCPSも加療の選択肢.
Modern Physician 34(2): 191 -195 2014
カフェイン中毒疑い
YES NO
βブロッカーの使⽤検討
重篤な頻脈性不整脈, ⾎圧低下
⾎中濃度⾼値 80µg/ml
痙攣発作, 重篤な頻脈性不整脈
臨床症状が悪化傾向
YES NO
⾎液浄化療法, PCPS 最低24時間の⼊院加療
参考:臨床中毒学

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