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構造主義医療の挑戦
新しい疾患定義を考える
名郷直樹
自己紹介
• 1986年 自治医大卒
• 同年 名古屋第二赤十字病院研修医
• 1988年 作手村国保診療所
• 1992年 自治医大地域医療学
• 1995年 作手村国保診療所
• 2003年 社)地域医療振興協会
東京北社会保険病院臨床研修センター
• 2011年 武蔵国分寺公園クリニック
• 専門領域 構造主義医療
最初に質問
• 愛って何ですか?
愛
• そんなものスライド一枚に書けるか
• ことばを超えるもの
• コトバとそれのギャップが埋められないもの
さらに質問
• 健康って何ですか?
WHO
• 健康とは身体的・精神的・霊的・社会的に
完全に良好な動的状態であり、たんに病
気あるいは虚弱でないことではない
• なんとスライド一枚に収まる
名郷
• 日々失われるもの
• いずれ必ず完全に失われるもの
• わずか2行
健康
• 様々な定義か可能
• あるいは定義が不可能
• ふつうそういうものだ
• 変なるもの
• 時間を含む同一性
• 健康だってコトバを超えている
記述の束としての現象
• 健康とは?
• 愛でなくても本1冊書ける
• 100冊でも
• 私も書きました
• 健康第一は間違っている
• 健康第一でないのが健康
構造主義医療の枠組み
• コトバを積み重ねることで現象とのギャップを埋める
実体 現象 コトバ
私
GAP GAP
本題に
• 糖尿病とは?
糖尿病診断基準
スライド1枚
診断基準は正しいか?
• 診断基準と現象のギャップ
• 診断基準には時間軸がない
糖尿病だって
• 健康と同じでしょう
• 愛と同じでしょう
• 糖尿病と愛を同列でとらえるために
• 愛について考えるように、糖尿病について
考える
構造主義科学論では
• 時を含まない名によって指示される同一性は実在しない
• 時を含まない名によって指示される同一性は「コトバ」である
• 診断基準で診断された「糖尿病」は実在せず、概念だけが
ある
• 時間を含む現象としての「糖尿病」とは何か
• 時間を含む現象としての「糖尿病」の再定義
時間と同一性
同一性担保のために時間を捨てる
診断基準と構造主義医療
• 自然言語は時間を含むが、診断基準は時間を含まない
• ゆえに現象とのギャップが大きい
実体 現象 診断基準
私
GAP GAP
→時間を捨てる
糖尿病の診断と時間
• 糖尿病は一時点の情報で診断される
• 時間を含まない診断
• 個別の違いを無視して同一性を担保する
• その後糖尿病は時間とともに変化する
• 時間を含む診断の必要性
• 個別の時間の中で観察する
変なる現象としての糖尿病
• 糖尿病は時間を含む変なる現象である
• 診断基準は時間を含まない約束に過ぎない
診断基準が時間を含まないわけ
• 話が通じなくなる
• 糖尿病かどうか一時点で判断しないと先
に進めない
血糖と冠動脈疾患死亡
血糖と死亡
DIABETES CARE 1998; 21: 360
治療効果
個別の時間
• グラフで示されるのは集団の時間
• 個別の時間はそこには示されていない
時間以外に何を捨てているか
• 隣同士話し合ってみてください
現実の治療で:インスリン
Lancet. 2010 Feb 6;375(9713):481-9
死
亡
率
何を付け加えているか
• 隣同士話し合ってみてください
合併症が問題というけれど
UKPDS33:メトホルミン SAVOR-TIMI 53:DPP4阻害薬
HR 0.68(0.53~0.87) HR 1.00(0.89~1.12)
HR 0.90(0.80~1.02)
DPP4阻害薬が第一選択
• 血糖が下がるから
• 合併症予防の事実は無視
100人の糖尿病患者がいると
• 101の糖尿病がある
• どういうこと?
• 100人の誰にも当てはまらない診断基
準が示す実在しない糖尿病患者がもう
一人
捨てたものの一部
四分割表で
四分割表で現象をとらえる
イベント+ イベントー
疾患+ a c
疾患― b d
 捨てられやすいもの
 c:疾患がありイベントを起こさなかったもの
 b:疾患がなくイベントを起こしたもの
糖尿病:合併症が3倍
合併症+ ー
糖尿病+ 10 90
糖尿病― 3 97
糖尿病があっても90%は合併症を起こさず
糖尿病がなくても3%は合併症を起こす
時間を含まない同一性の限界
• 病名は時間を含まない同一性で、対応する実体なしに議論ができる
• しかし、実体から離れて議論しているということは肝に銘じるべき
• 現実は
• 時間を含まず、予後を示していないにもかかわらず
• 概念だけが独り歩きして
• あたかも時間も含む同一性を表すかのように伝わっていく
• すべての糖尿病が時間とともに合併症を起こすかのように
コトバは時間を生み出す形式
である
自然言語と学術用語
構造主義医療に基づく
新しい疾患定義
• 学術用語と自然言語
• 時間を含まない定義と含む定義
• 捨てたものと付け加えたもの
• これらを上手に使い分けて患者に説明する
健診で見つかった糖尿病の説明
• 時間を含む、変なる現象としての糖尿病を
定義しよう
• 個人個人で
• 隣同士で
• 実際に患者に説明するとどうなるだろう
こんな感じ?
• 健診で糖尿病と診断されました(学術用語)
• 糖尿病なんて嫌ですよね(自然言語)
• 放置したとしても10年後20年後合併症を起こしていない可能性もあり
ます(捨てたもの)
• 糖尿病は進行が遅く、合併症を起こすまでに数十年を要する場合が
多いからです(捨てたもの)
• もちろん1年後には合併症が出ている可能性もあります(付け加えた
もの)
• 糖尿病には多くの治療があり、その進行を先送りすることができます
• 考える時間は十分にありますから、あわてず相談しながら決めていき
ましょう
参考図書
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