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口腔機能アセスメントシート①
観察・評価等 評価項目
①右側の咬筋の緊張の触診
(咬合力)
1強い 2弱い 3無し
②左側の咬筋の緊張の触診
(咬合力)
1強い 2弱い 3無し
③歯や義歯のよごれ 1ない 2ある 3多い
④舌のよごれ 1ない 2ある 3多い
⑤RSST*の積算時間 1回目( )秒
(必要に応じて実施) 2回目( )秒
*反復唾液嚥下テスト: 飲み込む力を評価 3回目( )秒
⑥オーラルディアドコキネシス* パ( )回/秒 ※パ、タ、カをそれぞれ10秒間に言える
(必要に応じて実施) タ( )回/秒 回数を測定し、1秒あたりに換算
*口唇、舌の運動機能を評価 カ( )回/秒
⑦ブクブクうがい
(空ブクブクでも可)
1できる 2やや不十分 3不十分
8. 第18回日本早期認知症学会8
口腔機能アセスメントシート②
質問項目・観察項目等 評価項目
質
問
①固いものは食べにくいですか 1. いいえ 2. はい
②お茶や汁物でむせることがありますか 1. いいえ 2. はい
③口の渇きが気になりますか 1. いいえ 2. はい
④自分の歯また入れ歯で左右の奥歯を
しっかりとかみしめられますか
1. 両方できる 2. 片方だけできる 3. どちらもできない
⑤ 全 体 的 に み て 、 過 去 1 ヶ 月 間 の
あなたの健康状態はいかがですか
1. 最高によい 2. とても良い 3. 良い
4. あまり良くない 5. 良くない 6. ぜんぜん良くない
⑥お口の健康状態はいかがですか 1 よい 2 やや良い 3 ふつう 4 やや悪い 5 悪い
観
察
⑦口臭 1 ない 2 弱い 3 強い
⑧自発的な口腔清掃習慣 1 ある 2 多少ある 3 ない
⑨むせ 1 ない 2 多少ある 3 ある
⑩食事中の食べこぼし 1 ない 2 多少ある 3 多い
⑪表情の豊富さ 1 豊富 2 やや豊富 3 ふつう 4 やや乏しい 5 乏しい
11. 第18回日本早期認知症学会
0
5
10
15
20
25
60-64 65-69 70-74 75-79 80-84 85-89 90-94 95-99
11
結果③
(歳)
対象者
ヒストリカルコントロール†
ヒストリカルデータに比べ、現在歯数の減少が
緩やかであり、歯数が維持されている
†平成23年 歯科疾患実態調査結果
コントロール
n 数
440 395 444 340 225 106 - -
ケース
n 数
12 31 44 104 180 212 132 29
P 値 0.025 < 0.001 0.002 0.134 0.120 0.030 - -
現
在
歯
数
(
本
)
* ***
*
vs ヒストリカルコントロール, Student’s t 検定, Mean±SE
**
14. 第18回日本早期認知症学会
認知症患者のQOL評価スケール
(Terada S, 2015)
14
口腔ケアとQOLの関連②
口腔ケアが認知症患者のQOLに
与える影響についても調査
これまでの認知症患者に対するOQL評価
主に知的機能や生活能力を評価するスケール
Terada S, et al.のQOL評価スケール
笑顔や喜び (ポジティブな感情)・怒りや叫び (ネガティブ
な感情) など、個人の感情を重視したスケール
16. 第18回日本早期認知症学会
Sumi Y, et al. Arch Gerontol Geriatr 2010; 51(2): 125-128.
Furuta M, et al. Dent Oral Epidemiol 2013; 41(2), 173-181.
日本歯科医師会. 健康長寿社会に寄与する歯科医療・口腔保健のエビデ
ンス 2015.
Okamoto N, et al. Behavioral and Brain Functions 2010, 6: 77.
厚生労働省. 介護予防マニュアル (改訂版: 平成24年3月),第5章
口腔機能向上マニュアル, 別添資料
花井 正歩ら.高齢者の味覚機能に及ぼす要因に関する研究.老年歯科医
学. 2004; 19(2): 94-103.
Woschnagg H, et al. Loss of taste is loss of weight. Lancet. 2002;
359: 891.
Terada S, et al. Development and evaluation of a short version of the
quality of life questionnaire for dementia. Int Psychogeriatr. 2015;
27(1): 103-110.
16
参考文献
Editor's Notes 開示すべきCOIはありません。 これまでに、口腔機能の低下は、認知機能や全身的な疾患、運動機能、生活機能とも密接に関連することが報告され、
認知機能は歯の喪失とも関連性があるとの報告もあります。
このように、口腔機能の低下は、認知機能や運動機能の低下、
ひいてはQOLの低下をもたらす可能性があると考えられています。
そのため、認知症患者に対して口腔ケアを施した研究が行われ、
口腔ケアによって栄養状態が回復すること、嚥下機能、飲み込む力が回復することのほかに
日常生活動作が向上することが確認されています。
これは、口腔ケアにより口腔衛生が向上すると、咀嚼機能が維持され、
それによって食生活が改善、そして生きる喜びにつながるといった、
このようなサイクルを口腔ケアによって維持することができます。
つまり、口腔ケアは認知症患者のQOLの維持に極めて重要であると言えます。
そこで、本研究では定期的な口腔ケアが、認知症患者の口腔衛生状態に及ぼす影響を調査いたしました。
本研究の対象者は東京都・神奈川県・埼玉県内にあるグループホームに入居している認知症患者760名です。
介入として、週に1回、歯科医師または歯科衛生士による
歯磨き・舌の清掃・口腔内マッサージを行いました。 評価項目は、介護度、現在歯数、口腔機能とし、
口腔機能の評価には厚生労働省の介護予防マニュアルに記載されている
口腔機能アセスメントシートを用いました。
また、本試験のプロトコルはUMIN-CTRに登録されています。 こちらは、口腔機能アセスメントシートの内容です。
噛む力を評価する項目、歯や義歯、舌のよごれを評価する項目、
RSSTという反復唾液嚥下テスト: 飲み込む力を評価する項目、
オーラルディアドコキネシスという口、唇、舌の巧緻性を評価する項目などがあります。 また、他にも口腔ケアを受ける患者の状態を把握する質問項目や
観察項目があります。 結果です。
左上が要介護度、右上が現在歯数・残っている歯、左下がRSST・飲み込む力を
示したグラフで、それぞれ口腔ケアの経過年数ごとに比較しています。
どのグラフもケアによって有意な推移は認められず、口腔ケアによって要介護度・歯数・飲み込む力
が維持されています。 こちらは、口腔機能アセスメントシートの質問項目と観察項目を得点化した結果です。
左上が質問得点、右上が観察得点、左下が質問項目と観察項目を合わせた合計得点を
示すグラフで、口腔ケア経過年数ごとに比較した結果です。
いずれの得点も口腔ケアによる有意な推移は認められず、口腔機能は維持される結果となりました。 こちらのグラフは、対象者の歯数を年齢ごとに分けたグラフで、コントロールデータには
平成23年 歯科疾患実態調査結果を用いました。
コントロールデータでは、加齢とともに歯数が減少していますが、対象者はコントロールデータ
に比べ、歯数が維持されています。特に、85歳~89歳の間ではコントロールよりも
歯数は有意に多い結果となりました。 総括です。
認知症患者に対して、口腔ケアを行うことで、
要介護度の維持、歯数の維持、口腔機能の維持が確認されました。
定期的な口腔ケアは口腔機能の維持に有効であり、
認知症患者のQOL維持に寄与する可能性があります。
今後、口腔ケアとQOLとの関連を検証していくうえで、
我々は現段階で2点の課題を検討しています。
まず、一つ目として、口腔ケアと味覚との関連です。
冒頭で示した図にもあるように、口腔ケアによる
口腔衛生の向上は食生活の改善・生きる喜びに寄与するとされています。
これまでの研究から、口腔内の乾燥は食の味わいに影響を与える可能性があること、
口腔内の乾燥による味覚障害は食欲低下・体重減少と関連があることが明らかとなっています。
ヒトが味を感じる際には、唾液に味物質が溶解し、舌にある味蕾と結合することで、
はじめて味を感じることができます。
唾液量が少ない状態であると、舌苔(ぜったい)が付着しやすい環境が生じやすくなります。
つまり、恒常的に口腔内が乾燥状態にある場合では、味物質の唾液への溶解が不十分なうえに、
舌苔により物理的に味物質と味蕾の結合が妨げられ、味が感じにくくなると考えられます。
したがって、口腔ケアによって唾液量を増量し、舌苔を除去することで、
味を楽しむ食事が可能となり、食生活の改善にもつながると予測され、
ひいては生きる喜びにつながると考えられます。
そこで、今後は味覚検査用試薬を用いて、味覚について評価することを検討しています。
二つ目の課題として、口腔ケアと認知症患者のQOLについてです。
認知症患者のOQL評価はこれまでにも、研究が行われていますが、
多くの評価スケールが知的機能や生活能力を評価する内容にとどまっていました。
しかし、2015年岡山大学大学院の寺田先生らのグループによって開発された
QOL評価スケールでは、ポジティブな感情・ネガティブな感情など、個人の感情を
重視した項目となっています。
やはり、QOLを評価するうえで感情は重要な指標の一つと考えられますので、
今後はこちらの評価スケールを使用し、口腔ケアが認知症患者の口腔衛生および
QOLに与える影響について引き続き調査を行う予定です。
認知症患者のQOL評価スケール
岡山大学大学院 精神神経病態学教室 寺田整司准教授・内富庸介教授らの研究グループ
※評価の仕方を確認 本研究は、多くの方々のご協力により実施することができました。
ご協力いただきました皆様に感謝申し上げます。