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医療等分野における番号制度の制度設計公表
「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会」報告書
 厚生労働省は、「医療等分野における番号制度
の活用等に関する研究会」(以下、研究会)の報
告書を 2015 年 12 月 10 日に公表した。具体的
な制度設計が示されており、非常に興味深い内容
である。
 報告書は、研究会の「中間まとめ」(2014 年
12 月 10 日)までの検討の成果に加えて、その後
の法整備(番号法等や国民健康法等の改正)、閣
議決定(「日本再興戦略改訂 2015」2015 年 6 月
30 日)、日本医師会の「医療分野等 ID 導入に関
する検討委員会」の「中間とりまとめ」(2015 年
7 月 15 日)等を踏まえ、検討結果を取りまとめ
たものである。
 以下、報告書に基づいて、医療機関に関係が深
い「オンライン資格確認の仕組み」と、「情報連
携に用いる識別子(ID)」について紹介する。
医療保険のオンライン資格確認
2018 年度から段階的に導入
 支払基金と国保中央会が保険者の委託を受け、
共同で「オンライン資格確認サービス機関」の役
割を担い、マイナンバー制度のインフラと医療保
険制度の既存インフラ(レセプトオンライン請求
ネットワーク)を活用した、極力コストがかから
ず、安全で効率的なオンライン資格確認の仕組み
を、2018 年度から段階的に導入し、2020 年ま
での本格運用を目指すという。
 具体的な運用イメージ(図表 1)は、まず、患
者が保険医療機関の窓口で①個人番号カードを
提示、窓口担当者が②本人確認を行い、③個人
番号カードの IC チップから電子証明書をカード
リーダーで読み取り、レセプトオンライン請求の
回線を利用して資格確認サービスを行う機関(支
払基金と国保中央会の共同運営)に④照会をかけ、
⑤資格情報データが返され、窓口で資格確認とレ
セプトシステムへの取り込みが行われる。
 個人番号カードは、裏面のマイナンバーが見え
ないようカードケースを用い、窓口ではカードを
リーダーで読み取るだけでカードは預からない。
 なお、個人番号カードを持たない患者が保険者
を異動しても識別できるよう「資格確認用番号(仮
●図表 1 医療保険のオンライン資格確認のイメージ
出所:厚生労働省「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会 報告書」(2015 年 12 月 10 日)
称)」を被保険者証に記載
するなどの方法でオンライ
ン資格確認や診療報酬請求
用の番号として利用する仕
組みを検討するという。
「地域医療連携用 ID(仮
称)」で患者情報共有
 現在、全国で医療機関や
介護事業者等が加入する地
域医療連携ネットワークの
整備が進められているが、
地域のネットワークを超え
ての必要な情報連携が、円
滑にできないという課題が
32 JAHMC 2016 February
ある。
 こうした課題に対して、患者本人を把握するた
めの共通の識別子(ID)として「地域医療連携用
ID(仮称)」を発行し、異なる地域ネットワーク
間の情報連携に用いるとしている(図表 2)。
 「地域医療連携用 ID」は、保険医療機関などの
窓口で、先述した個人番号カードによる医療保険
のオンライン資格確認の仕組みを通じて保険資格
を確認する際に、「資格確認サービス機関」が発
行する仕組みを想定している。
 また、発行された「地域医療連携用 ID」を、
医療機関 A が属する地域ネットワークの患者 ID
管理に位置づける仕組みとする。それにより、た
とえば同じ地域ネットワークに加入していれば介
護事業者 B でも、医療機関 A に発行された地域
医療連携用 ID を利用することが可能になるとし
ている。
 ところで、「資格確認サービス機関」が地方公
共団体システム機構(J-LIS)から発行された「機
関別符号」(患者の住民票コードと対応)に基づき、
医療等分野における「キーとなる識別子」を生成
する。セキュリティ上、電磁的な符号(見えない
番号)で当該機関から外部に出さないとしてい
る。この「キーとなる識別子」から、目的別に「資
格確認用番号(仮称)」、「地域医療連携用 ID(仮
称)」、研究活動のための「データ収集に用いる識
別子(ID)」など複数の識別子(ID)を 1 人の患者
に発行する仕組みが考えられている。あくまで
キーとなる ID は原則として外部には出さず、そ
の ID から目的別に複数のサブ ID を生成し外部
に発行する階層化を構想している。
国民への周知に向けた取り組みが必要
 保険医療機関では、番号カードの IC チップの
読取り装置と、通知された資格情報を安全に管理
するレセプト請求システムの改修が必要になるた
め、初期費用の対策を別途検討するとしている。
 一方、個人情報の機微性も踏まえた本人への説
明と同意も必要となる。患者の十分な理解なしに、
ID を用意するだけでは、情報連携の基盤を活用
することはできない。したがって、個人番号カー
ドの利用方法を含めて、医療情報を活用する目的
や意義について、様々な機会を活用して国民への
周知に取り組むことが求められると締めくくって
いる。
(NPO 法人 公的病院を良くする会 小川 敏治)
●図表 2 医療等分野の識別子 (ID) の体系のイメージ
出所:厚生労働省「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会 報告書」(2015 年 12 月 10 日)
AW T C H
33JAHMC 2016 February

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  • 2. ある。  こうした課題に対して、患者本人を把握するた めの共通の識別子(ID)として「地域医療連携用 ID(仮称)」を発行し、異なる地域ネットワーク 間の情報連携に用いるとしている(図表 2)。  「地域医療連携用 ID」は、保険医療機関などの 窓口で、先述した個人番号カードによる医療保険 のオンライン資格確認の仕組みを通じて保険資格 を確認する際に、「資格確認サービス機関」が発 行する仕組みを想定している。  また、発行された「地域医療連携用 ID」を、 医療機関 A が属する地域ネットワークの患者 ID 管理に位置づける仕組みとする。それにより、た とえば同じ地域ネットワークに加入していれば介 護事業者 B でも、医療機関 A に発行された地域 医療連携用 ID を利用することが可能になるとし ている。  ところで、「資格確認サービス機関」が地方公 共団体システム機構(J-LIS)から発行された「機 関別符号」(患者の住民票コードと対応)に基づき、 医療等分野における「キーとなる識別子」を生成 する。セキュリティ上、電磁的な符号(見えない 番号)で当該機関から外部に出さないとしてい る。この「キーとなる識別子」から、目的別に「資 格確認用番号(仮称)」、「地域医療連携用 ID(仮 称)」、研究活動のための「データ収集に用いる識 別子(ID)」など複数の識別子(ID)を 1 人の患者 に発行する仕組みが考えられている。あくまで キーとなる ID は原則として外部には出さず、そ の ID から目的別に複数のサブ ID を生成し外部 に発行する階層化を構想している。 国民への周知に向けた取り組みが必要  保険医療機関では、番号カードの IC チップの 読取り装置と、通知された資格情報を安全に管理 するレセプト請求システムの改修が必要になるた め、初期費用の対策を別途検討するとしている。  一方、個人情報の機微性も踏まえた本人への説 明と同意も必要となる。患者の十分な理解なしに、 ID を用意するだけでは、情報連携の基盤を活用 することはできない。したがって、個人番号カー ドの利用方法を含めて、医療情報を活用する目的 や意義について、様々な機会を活用して国民への 周知に取り組むことが求められると締めくくって いる。 (NPO 法人 公的病院を良くする会 小川 敏治) ●図表 2 医療等分野の識別子 (ID) の体系のイメージ 出所:厚生労働省「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会 報告書」(2015 年 12 月 10 日) AW T C H 33JAHMC 2016 February