SlideShare una empresa de Scribd logo
1 de 22
Descargar para leer sin conexión
エストニアにおける電子政府施策の概観
- 『デジタル庁』に湧く日本への示唆
1
栗本 拓幸
kurimoto@liquitous.com
令和2(2020)年11月27日
CC-BY-NC(表示-非営利 4.0 国際)
*本資料内で示される見解は、筆者個人の見解です
目次
© Liquitous Inc. 2
1. 自己紹介
2. エストニアの電子政府施策の概観
• 1. エストニアについて
• 2. 電子政府の概要
• 3. 個人認証(国民ID)
• 4. e-Residency(電子市民権)
• 5.データ連携基盤「X-Road」
• 6. インターネット投票
• 参考:エストニアの統治構造・選挙制度
• 7. サイバーセキュリティ
3. 電子政府施策の背景
• 1. 電子政府施策の推進体制
• 2. 電子政府施策のコンセプト
• 3. 電子政府施策に関連する法令等
4. なぜ電子政府施策が進んだか
• 1. 歴史・民族意識
• 参考:政府への信頼度比較
• 2. ソ連・ロシアとの関係
• 3. スタートアップ主義
5. 日本への示唆
• 1. 哲学的な視点(べき論)
• 2. 行政DX=質的統治機構改革という視点
6. おわりに・お問い合わせ
1. 自己紹介
© Liquitous Inc. 3
栗本 拓幸 Hiroyuki Kurimoto
所属
・合同会社Liquitous 代表社員/CEO (民主主義のDX)
・特定非営利活動法人Rights 理事 (若者の政治参加)
・慶應義塾大学総合政策学部 ほか
社会活動
・日本若者協議会『学校内民主主義を考える検討会議』座長代理
・産学官連携コンソーシアム” Polyphonic Future” 構成員
・アートプロジェクト『多層都市「幕張市」』コラボレーター ほか
リンクなど
・http://hiroyuki-kurimoto.jp
参考
1999年生まれ、21歳。東京都生まれ、神奈川県横浜市在住。
浅野高等学校(横浜)卒業。
2-1. エストニアについて
© Liquitous Inc. 4
基礎データ
国名:エストニア共和国
政体:共和制
首都:タリン(Tallinn)
人口:132万人
面積:4.5万km2
(九州+沖縄程度)
言語:エストニア語
GDPランキング:103位(IMF)
一人当たりGDP:41位(IMF)
栗本は2018年2月に現地に滞在。
関連施設の視察・関係者とのディスカッションなど
2-2. エストニアの「電子政府」の概要
© Liquitous Inc. 5
電子政府とは何か
• (自身の定義)政府がオンライン上で提供する行政サービス、その
サービスを実現するインフラストラクチャ、そのインフラストラク
チャの設計・実装・持続発展を可能とする政府機構の総称。
• 電子政府の議論に際しては、行政サービス(方法論)のみならず、
技術的基盤やその運用体制に視点を向けて検討することが肝要。
エストニアの電子政府と本資料の位置付け
• エストニアでは、サービス提供のみならず、様々な分野でテクノロ
ジーに基づいた『電子政府化』が進展、常に発展を続けている。
• 電子政府の構築の前提となる(電子政府システム上で、国民として
認識されるために欠かせない)個人認証:ID、データ交換システム、
セキュリティ、電子政府を支える統治機構などについて言及
右スライド画像はいずれも、Enterprise Estonia (EAS)財団が
公開している公式のプレゼンテーション資料より引用
“Presentation Slideshow(Japanese Version)”
https://e-estonia.com/wp-content/uploads/e-estonia-210820-jap.pdf
2-3. 個人認証(e-Identity)について
© Liquitous Inc. 6
e-Identityとは何か
• 政府が提供するオンライン上の行政サービスを利用する際など、本人の個人認証を
オンライン上で行うための仕組みとして機能。
• そのIDの利用者が、ID所有者本人であるという確認が可能である限り、カード式の
IDカードを発行する必要はない
• 電子政府のシステム上で「国民」として扱われるための前提
• メールアドレス( @eesti.ee )を介した行政・住民のコミュニケーション
現在利用することが可能な国民IDの方法
• IDカード:ICチップを埋め込んだプラスチック・カード
• モバイルID:携帯電話のSIMカードを利用することで個人認証を行う手法(特別な仕様)
• スマートID:iOS/AndroidなどのモバイルOS上で、アプリケーションを用いる個人認証
e-Identityの普及率・利用
• 国民の98%がe-Identity・IDカードを保有(そのうち67%が定期的に使用)
• IDカードと同時にカードリーダーを送付することで、ready-to-useの状態に
• インターネット上で、99%の行政手続きが可能
• 結婚・離婚を除く(情緒的要因)
Wikiwandより引用
2-4. e-Residency制度(電子市民権)について
© Liquitous Inc. 7
(2020.11.16現在:
参照: “Total number of e-residents”
https://e-resident.gov.ee/dashboard/)
e-Residency申請数の国別ランキング
1 フィンランド 5629
2 ロシア 5092
3 ウクライナ 4598
4 ドイツ 4449
5 中華人民共和国 3748
6 イギリス 3647
7 米国 3415
8 インド 3384
9 フランス 3246
10 日本 3245
参考 総発給数 74616
e-Residency制度とは
• 従来の国籍を維持しながら、オンライン行政サービス(e-Service)を利用出来
るIDカードを発給する制度。
• 現実世界での市民権や国籍、国境管理における優遇措置などは提供されない。
“Estonian e-Residency provides digital entrepreneurs the freedom to establish and
manage an EU-based company paperlessly, from anywhere in the world. ”
(“What is e-Residency” https://learn.e-resident.gov.ee/hc/en-us/articles/360000711978-What-is-e-Residency)
制度の意義の推測
• 法人開設等による税収の獲得
• 対外広報宣伝活動のツール(e-Estoniaブランドの確立)
• エストニアの「関係人口」の創出・繋ぎ留め
e-Residencyカードを利用する時に利用するポータルの画面。
カードを用いた電子署名などが利用できる。
栗本が実際に取得したe-Residencyカード。
申請後2ヶ月程度で受け取りが可能。カード本体・
カードリーダー・説明書がパッケージに。
参考: 『これからの国家のあり方を考える – エストニアe-Residencyを取得して』
http://hiroyuki-kurimoto.jp/archives/820
2-5. データ連携基盤”X-Road”について
© Liquitous Inc. 8
X-Roadは、インターネットを介して
情報のやり取りを行う「道」の役割を
果たすデータ連携のための基盤
• 公的機関・民間企業のデータベースの間で、
データのやり取りを行うための仕組み
• 厳格なセキュリティ対策
• 高レベルのログ処理と監視
• 暗号化およびタイムスタンプ付きのデー
タトラフィック
• X-Roadを介したすべての送信データは
• デジタル署名および暗号化
• すべての受信データは認証・ログに記録
• データの保有者がその履歴を確認可能
X-Roadの開発・運用
• Cybernetica社によって開発
• 政府外郭団体であるエストニア情報センター(RIA:
Riigi Infosüsteemi Amet)によって運用
• 民間企業も活用。公的機関-住民間、民間企業-顧客
間などの情報交換の幅広い基幹システムに。
2-6. インターネット投票について
© Liquitous Inc. 9
• エストニアは世界で初めてインターネット投票を導入
• 選挙事務自体の電子化を推進
• 選挙人名簿・投票所における投票通知の電子化:2021大統領選挙〜
• 本人確認には、IDカードを使用(モバイル端末からの投票不可)
• 投票の信頼性を担保するため、インターネット投票は複数回の投票が
可能。最終の投票が真正の投票として扱われる
• 「インターネット投票を導入すれば投票率の向上が期待される」とい
う言説は、エストニアの事例を観察する限りは、確かではない。
前回国会選挙(2019)の概要
投票率 | 63.67%
投票総数に占める|
インターネット投票|
43.75%
* Riigikogu Election Actを栗本が邦訳の
上、図解した資料。
参照:
Riigikogu Election Act(1994)“LEGISTLATIONLINE”
https://www.legislationline.org/documents/id/5713
Riigikogu Election Act(2002)“Riigi Teataja”
https://www.riigiteataja.ee/en/eli/ee/Riigikogu/act/504122017004/consolide
参考: エストニアの統治構造
© Liquitous Inc. 10
国政
• エストニアは議会制民主主義に基づく共和制を採用する国家
• 国家元首たる名誉職としての大統領が存在し、行政権の長は議会から選出された首相が担う
• エストニアの議会は完全な比例代表制によって選出される定数101名・任期4年の議会であり、エストニア語ではリー
ギコグ(Riigikogu)と呼称される。
• 複数政党制に基づく議会運営がなされており、政権は複数政党による連立が基本
• 2019年3月3日に施行された選挙において、国会に議席を有する政党は、5つ(改革党、中央党、保守人民党、社会
民主党、祖国・共和国連合)であった。同選挙以前は、中央党、社会民主党、祖国・共和国連合による中道左派の連
立政権、現在は中央党・保守人民党などによる右派政権。
地方自治
• 全土を15のカウンティ(En:County)で分割
• 各カウンティは原則として複数の都市自治体(En:Urban municipalities/towns)及び農村自治体(En:Rural
municipalities/parishes*)から構成
• 都市自治体・農村自治体がエストニアにおける地方自治の基本単位であり、それぞれに地方議会が存在。
• 地方政府の首長は地方議会によって選出され、日本におけるそれの二元代表制とは大きく異なる。
• 一部の都市自治体や農村自治体に関しては、更に細かな行政区画(Ee:linnaosa/osavald)に分割されている。
*Parishesについて:キリスト教圏に散見される地方区分であり、原則として教会の教区に基づいた区分がなされている。
参照:
ELECTORAL SYSTEM https://vm.ee/en/electoral-system (Ministry of Foreign Affairs, Republic of Estonia)
History of Riigikogu(Parliament of Estonia) https://www.riigikogu.ee/en/introduction-and-history/history-riigikogu/
参考: エストニアの選挙制度
© Liquitous Inc. 11
選挙制度に関して
• 選挙の種類
• エストニアにおいては、4種類の「選挙」が存在
• 国政レベルの議会選挙、地方議会の選挙、欧州議会の選挙、そして国民投票
• 大統領職も国会における議決に基づいて選出
• 選挙権年齢と被選挙権年齢
• エストニアにおける選挙権年齢は原則として18歳、被選挙権年齢は21歳
• 選挙権年齢に関しては、一部の地方議会選挙においては16歳ないしは17歳とされている
• 選挙制度
• エストニアにおける選挙は比例選挙
• 国政/地方議会を問わず政党からの立候補か独立候補としての立候補に限定
• 国政に関しては、エストニア全土を12の中選挙区に分割し、各選挙区の定数を6ー12人としている
• 国政選挙に立候補する際には、選挙実施年に政府が示した最低給与額に等しい金額を寄託する必要
• 選挙運動
• 日本の公職選挙法における選挙運動に関する規制と比較して、相当程度緩い規制
• 選挙期間中に候補者・政党等が屋外に何らかの広告を掲示することは法律によって禁止
• エストニアにおける選挙の歴史
• エストニア最終的に独立した1991年の直後には国民投票に基づいて憲法が採択(1992.6)、同憲法に基づいた選挙が暫定的に実
施され、リーギコグ(Riigukogu)の議員が選出(1992.9)された。その後、1994年6月に制定されたRiigikogu Election
Act(1994)に基づく選挙(1995.3)が執行された。これ以降、リーギコグ選挙はその任期である4年毎に実施されている。
• 2002年にRiigikogu Election Actが改正。このRiigigoku Election Act(2002)が今日に至るまで、部分的に改正が行われながら有効
性を保ち続けている。累次に渡る改正の中で、インターネット投票(i-Voting)が制度として確立。
参照:
Riigikogu Election Act(1994)“LEGISTLATIONLINE” https://www.legislationline.org/documents/id/5713
Riigikogu Election Act(2002)“Riigi Teataja” https://www.riigiteataja.ee/en/eli/ee/Riigikogu/act/504122017004/consolide
2-7. サイバーセキュリティ
© Liquitous Inc. 12
サイバーセキュリティ政策の基本方針
• 前提
• 1. 国家安全保障政策とサイバーセキュリティの接続
• “..cyber security will be integrated into national crisis and defense planning and regular drills
will be conducted.” Digital Agenda2020, P33
• 2. サイバーセキュリティ構築のための産官学連携
• “R&D and research-based enterprise in the field of cyber security will be supported and
promoted. “Digital Agenda2020, P35
• 3. 国際協調関係の構築
• “Cooperation with strategic external partners will be made more effective.
“Digital Agenda2020, P35
• NATO共同サイバーディフェンスセンター及びEU・eu-LISA(EU・大規模ITシステムの
運用管理部局)の首都・タリンへの誘致
• Cf) NATO CDC研究文書『サイバー戦に適用される国際法に関するタリン・マニュアル』
• Q. 2007年『青銅の夜』事件は自衛権行使の対象か?という問い→野心的な回答
「データ大使館」による『国家のバックアップ』
• 個人情報・機密情報等を、ルクセンブルク国内に設置したサーバーへ分散保存
• 税金や土地、企業、国民の身元証明書類、年金、法規制、国税調査などのデータ
• サーバーはウィーン条約に基づく「外交公館」として設置
3-1. 電子政府施策の推進体制
© Liquitous Inc. 13
首相
経済通信省
ガバメント・オフィス
The Department of State
Information Systems (RISO)
政府CIO
(経済通信省次官補)
スタートアップ出身民間任用
The Information System
Authority (RIA)
他省庁 RISO
→Digital Agenda 2020 for Estonia 策定
• メインゴール
• スマートICTソリューションの普及と開発
のための成熟した安全な環境の開発
• サブフィールド
• 情報社会の開発
• サイバーセキュリティの強化
外郭団体(相当)
RIA
→技術基盤を実際に運用・管理
• 必要に応じて、RISOをはじめとする他省庁へ
の技術支援を行う
参照
• "[欧州諸国]政府CIOによる改革を支える制度-スペイン、ドイツお
よびエストニアの事例の考察-" (一般社団法人行政システム研究所)
• “「デジタルガバメントに関する先進事例の実態調査」調査報告書
(H28年度電子経済産業省構築事業)」”(BCG)
3-2. 電子政府施策のコンセプト
© Liquitous Inc. 14
• ユーザー目線
• " 政府がサービスを開発し、その効果を民間機関、公的機関、一般市民相手にユーザーテス
トして、フィードバックを得る” (エストニア共和国 首相 ターヴィ・ロイバス氏)
“「デジタルガバメントに関する先進事例の実態調査」調査報告書(H28年度電子経済産業省構築事業)」”(BCG)
• レガシーシステムの抑止
• “No Legacy Policy”の提唱
• 運用開始から13年が経過したITシステムや技術は刷新することが求められるという指針
• 新技術の陳腐化:10年+新技術の導入による新システムの構築:3年=13年
• e-Governmentのコアコンセプト
• Decentralization:分散型のシステム構築
• Interconnectivity:相互接続性
• Integrity:システム同士の整合性
• Open platform :開かれたシステム
• No legacy:「遺産」システムを用いない
• Once-only:重複と官僚主義抑止を目的と
した「一度限り」の情報収集
• Transparency:透明性の確保
e-Estonia guide (full booklet)より
3-3. 電子政府施策に関連する法令等
© Liquitous Inc. 15
• Public Information Act(公共情報法)に次の条文が存在。
§ 33. Access to data communication network
Every person shall be afforded the opportunity to have free access to public information through the
Internet in public libraries, pursuant to the procedure provided for in the Public Libraries Act.
(*注: 公式な英訳)
§ 33. データ通信ネットワークへのアクセス
何人も、公共図書館法に定める手続に従い、公共図書館において、インターネットを利用して無
料で公共の情報を閲覧する機会を与えられなければならない。(*注: 栗本の仮訳)
• Public Libraries Act(公共図書館法)において、インターネットアクセス権を保障す
る為の具体的な図書館の役割が定められる。
§ 15. Readers and services
A person requesting information shall be given the opportunity to use a computer in order to access
information available through the public data communication network, pursuant to the Public Information
Act. (*注: 公式な英訳)
§ 15. 読者とサービス
情報の提供を求める者は、公共情報法に基づき、公開データ通信網を介して利用できる情報を閲
覧するために、コンピューターを使用する機会を与えられなければならない。 (*注: 栗本の仮訳)
→ユニバーサルサービスという位置づけのみならず、
権利としてのインターネットアクセスを法的に保証
(ユニバーサルサービスとしてインターネットアクセスを位置付ける国:フィンランド・トルコなど) *日本は位置付けず
関連リンク:『インターネットは基本的人権なのか』(Liquitous Lisearch Journal, 栗本拓幸, 2020)
https://liquitous.com/lisearch/journal/2020/05/03/242/
4-1. なぜ電子政府施策が進んだのか(歴史・民族意識)
© Liquitous Inc. 16
概史
• 有史以来、同地はドイツ・スウェーデン ・ロシア帝国・ソ連など様々な列強諸国の影響下にある地域。ロシア革命
(1917)以降、独立機運が高まり、1918年2月24日に初めて独立。
• 1918年2月25日以降、ドイツ帝国による占領・独立戦争(内戦)・再独立。1920年に主権国家としての地位を確立
し、エストニア憲法が採択。
• 第1次大戦以降、民族自決原則に基づき、国際連盟加盟などの国際社会の志向や、土地改革政策などによる国内の経
済安定が図られる。ただ、世界恐慌以降、退役軍人による反共・反議会制運動の高まりにより、戒厳令が発令。沈
黙の時代が始まる(〜1938年:新憲法制定による秩序回復)。
• 1939年の第2次大戦以降、中立の追求もむなしく、ソ連による軍事封鎖の後に、ソ連軍の国内展開・親ソ政権の樹
立が行われ、ソ連の占領下に。戦間期にはナチス・ドイツによる占領もあったが、1944年にソ連(エストニア共産
党)による本格的な統治の開始。1991年に再独立。
• 以後、CIS加盟ボイコット、NATO加盟(2003)、EU加盟(2004)、単一通貨ユーロ導入(2011)など、自由主義
陣営の国家として内政・外交政策を展開。
ポイント
• 「国家の脆さ」に対する国民*的な関心の高さ *再国民化と脱国民化の狭間?
• 1990年代以降の「国家の基盤」作り直し
• 人口(130万人)に対して広い領土(4.5万km2 (九州+沖縄程度))
参考: 政府への信頼度(OECD Government at a Glance 2019)
© Liquitous Inc. 17
“OECD Government at a Glance 2019”(OECD, 2019)より引用
http://www.oecd.org/governance/government-at-a-glance-22214399.htm
4-2. なぜ電子政府施策が進んだのか(ソ連・ロシアとの関係)
© Liquitous Inc. 18
概要
• ソ連統治時代(1944〜1991)の恐怖政治。ロシア系住民の入植が進み、『ロシア化』も進展。1970〜1980年代
以降、“脱エストニア化”に対する危機感の加速。ペレストロイカとグラスノスチによるエストニア共産党(ECP)の
指導力低下を発端とする、独立の回復を経験。
• フルシチョフ政権下の1958年、ソ連ではコンピューターエンジニアの養成が国家的課題として位置付けられた。
1950年代後半に、エストニア・タルトゥ大学で、コンピューターサイエンス教育が開始。1960年にはサイバネ
ティクス研究所(Institute of Cybernetics)が開設、ソビエト・バルト地域におけるコンピューター研究開発の拠点
に。同研究所をもとにCybernetica社が発足。
• 1978年、研究所内にコンピューターデザインオフィス”EKTA”を設置。エストニア語対応の教育向けPC “Juku”の開
発。西側・フィンランドとの関係性を生かし、エストニアは東西のコンピューター開発の結節点として多数のエン
ジニアが存在。後年の電子政府構築の際に、重要な役割。
• 今日も複雑なエストニア-ロシア間の関係。係争地の国境画定問題(ヤーニリン地域・旧ぺツェリ県)、エストニア国
内のロシア系住民・ロシア語話者の割合(全人口のうち84.1%がエストニア国籍、ロシア国籍保持者・無国籍ロシア人が
それぞれ7%強:2010)。『青銅の夜』事件(2007)など。
ポイント
• 残ったソ連統治時代の「記憶」
• 生かされたソ連統治時代の「財産」
• 複雑な対露関係とインシデント
参照:
”Beginning of Computing in the Soviet Baltic Region” Enn Tyugu, 2014
https://www.computer-museum.ru/articles/materialy-
mezhdunarodnoy-konferentsii-sorucom-2014/915/
4-3. なぜ電子政府施策が進んだのか (スタートアップ主義)
© Liquitous Inc. 19
概要
• ソ連統治等を経験し、1991年に最終的な独立を果たしたことから、国家が発展途上であることが前提に。スタート
アップ的に、検証を繰り返しながら、完成形を作り上げていかざるを得ないという思考法が一般的(なおかつ、
1990年代以降のテクノロジーの隆盛期と重なる時代)
• オンラインWeb会議システム”Skype”を象徴とする、Estonian Startupsの出現
• エストニアの環境を生かして外国籍のFounderがプロダクトを開発し、Exitするユニコーン企業が特徴的。
Skype社(スウェーデン ・デンマーク)やオンラインゲームを手がけるPlayTech社(イスラエル)など
• エストニア発のスタートアップとして、国際送金サービス・TransferWise社、配車サービス・Bolt社など
• 他のエストニア発のスタートアップの技術を電子政府の構築に際して効果的に活用
• e-Residency制度をはじめとする特徴的な施策の展開による、国際的関心の惹起。
• 『スタートアップ国家』としてのブランドを確立することで、国内外スタートアップのハブに。
ポイント
• 「開発途上である」ことが、ある種の当たり前
• Skypeをはじめとするスタートアップ企業の出現・活用
• 効果的なブランディング
5-1. 日本への示唆 (哲学的な視座)
© Liquitous Inc. 20
• 今日の公共政策的課題を扱う上で、ある程度の技術的知見は欠かせない
• 技術的知見がある者が、公共政策的課題への知見があると限らない(逆も同じ)
• 少数ながら存在する、公共政策的課題に知見のあるテクノロジー畑の人間、テクノロジーに知見の
ある公共政策畑の人間が、「ムラ化」してしまい、課題の認識や手法が、広く周知・理解されない
• 「あるべき論」の議論がない限り、方法論の議論に終始。
• Digitization(デジタル化) は進むかもしれない
• 一方で、DX:デジタル・トランスフォーメーションは進まない(登るべき山はどこの山なのか)
5-2. 日本への示唆 (行政DX=質的統治機構改革)
© Liquitous Inc. 21
• 公共的課題は複雑。故に、既存の制度・枠組みの中で息継ぎをし続けるのではな
く、あるべき論を論じ、新しい枠組みを作り、動かす『DX』という発想が重要
• DX=「あるべき論」× [汎用性のあるテクノロジー] × [利用者視点のUI/UXを追求するデザイン]
• 日本の行政が漫然と抱える課題を克服する機会に
• 前例主義
• 申請主義(社会福祉の文脈で早急に克服すべき課題)
• 一律主義(特区活用による規制へのチャレンジ?) など
• テクノロジーの課題と可能性
• 社会インフラとして「誰ひとり」取り残さない可能性
• テクノフォビア(テクノロジー利用に対する感覚的な恐れ)にどう向き合うか
• 覇権主義的国家のテクノロジー活用と、日本におけるそれの質的・価値の明確な差異は何か
6. おわりに・お問い合わせ
© Liquitous Inc. 22
忘れられないやりとり@エストニア
(2018年)
栗本:
「日本からエストニアの
進んだ電子政府を学びに来ました!」
チュニジアのリポーター:
「えっ!こういう分野は
世界で日本が1番じゃないのかい!?」
お問い合わせ
合同会社Liquitous: https://liquitous.com
栗本メールアドレス: kurimoto@liquitous.com

Más contenido relacionado

La actualidad más candente

情報系技術者のための倫理
情報系技術者のための倫理情報系技術者のための倫理
情報系技術者のための倫理Jun-Ichi Sagara
 
201024 ai koeln (akemi yokota) auf japanisch
201024 ai koeln (akemi yokota)  auf japanisch201024 ai koeln (akemi yokota)  auf japanisch
201024 ai koeln (akemi yokota) auf japanischAkemi Yokota
 
20210507 team datenschutz stammtisch akemi yokota (jp)
20210507 team datenschutz stammtisch akemi yokota (jp)20210507 team datenschutz stammtisch akemi yokota (jp)
20210507 team datenschutz stammtisch akemi yokota (jp)Akemi Yokota
 
UDC2017 講演1「地域IoTの実装推進について」
UDC2017 講演1「地域IoTの実装推進について」UDC2017 講演1「地域IoTの実装推進について」
UDC2017 講演1「地域IoTの実装推進について」CSISi
 
AI と個人情報 ~AI 学習用データとしての個人情報と AI 処理対象としての個人情報~
AI と個人情報 ~AI 学習用データとしての個人情報と AI 処理対象としての個人情報~AI と個人情報 ~AI 学習用データとしての個人情報と AI 処理対象としての個人情報~
AI と個人情報 ~AI 学習用データとしての個人情報と AI 処理対象としての個人情報~Deep Learning Lab(ディープラーニング・ラボ)
 
AI開発を円滑に進めるための契約・法務・知財
AI開発を円滑に進めるための契約・法務・知財AI開発を円滑に進めるための契約・法務・知財
AI開発を円滑に進めるための契約・法務・知財Hirono Jumpei
 
プラットフォームとしてのブロックチェーン
プラットフォームとしてのブロックチェーンプラットフォームとしてのブロックチェーン
プラットフォームとしてのブロックチェーンHiroshi Takahashi
 
181208 inlaw ai utilization in the adminstrative process
181208 inlaw  ai utilization in the adminstrative process181208 inlaw  ai utilization in the adminstrative process
181208 inlaw ai utilization in the adminstrative processAkemi Yokota
 
クラウドをエッジに延伸せよ
クラウドをエッジに延伸せよクラウドをエッジに延伸せよ
クラウドをエッジに延伸せよShunsuke Kikuchi
 
九州シェアリングサミット2018[第1セッション(岩坪)]
九州シェアリングサミット2018[第1セッション(岩坪)]九州シェアリングサミット2018[第1セッション(岩坪)]
九州シェアリングサミット2018[第1セッション(岩坪)]Yuichi Morito
 
どこでも安全に使えるIoTを目指して ~さくらインターネットのIoTへの取り組み~
どこでも安全に使えるIoTを目指して ~さくらインターネットのIoTへの取り組み~どこでも安全に使えるIoTを目指して ~さくらインターネットのIoTへの取り組み~
どこでも安全に使えるIoTを目指して ~さくらインターネットのIoTへの取り組み~法林浩之
 
20181212 シビックテックからみたオープンな科学技術とデータのあり方
20181212 シビックテックからみたオープンな科学技術とデータのあり方20181212 シビックテックからみたオープンな科学技術とデータのあり方
20181212 シビックテックからみたオープンな科学技術とデータのあり方Nobuyuki Shirakawa
 
匿名化と自己情報コントロール
匿名化と自己情報コントロール匿名化と自己情報コントロール
匿名化と自己情報コントロールHiroshi Nakagawa
 

La actualidad más candente (15)

情報系技術者のための倫理
情報系技術者のための倫理情報系技術者のための倫理
情報系技術者のための倫理
 
201024 ai koeln (akemi yokota) auf japanisch
201024 ai koeln (akemi yokota)  auf japanisch201024 ai koeln (akemi yokota)  auf japanisch
201024 ai koeln (akemi yokota) auf japanisch
 
20210507 team datenschutz stammtisch akemi yokota (jp)
20210507 team datenschutz stammtisch akemi yokota (jp)20210507 team datenschutz stammtisch akemi yokota (jp)
20210507 team datenschutz stammtisch akemi yokota (jp)
 
UDC2017 講演1「地域IoTの実装推進について」
UDC2017 講演1「地域IoTの実装推進について」UDC2017 講演1「地域IoTの実装推進について」
UDC2017 講演1「地域IoTの実装推進について」
 
AI と個人情報 ~AI 学習用データとしての個人情報と AI 処理対象としての個人情報~
AI と個人情報 ~AI 学習用データとしての個人情報と AI 処理対象としての個人情報~AI と個人情報 ~AI 学習用データとしての個人情報と AI 処理対象としての個人情報~
AI と個人情報 ~AI 学習用データとしての個人情報と AI 処理対象としての個人情報~
 
AI開発を円滑に進めるための契約・法務・知財
AI開発を円滑に進めるための契約・法務・知財AI開発を円滑に進めるための契約・法務・知財
AI開発を円滑に進めるための契約・法務・知財
 
プラットフォームとしてのブロックチェーン
プラットフォームとしてのブロックチェーンプラットフォームとしてのブロックチェーン
プラットフォームとしてのブロックチェーン
 
CPDP2019 summary-report
CPDP2019 summary-reportCPDP2019 summary-report
CPDP2019 summary-report
 
181208 inlaw ai utilization in the adminstrative process
181208 inlaw  ai utilization in the adminstrative process181208 inlaw  ai utilization in the adminstrative process
181208 inlaw ai utilization in the adminstrative process
 
クラウドをエッジに延伸せよ
クラウドをエッジに延伸せよクラウドをエッジに延伸せよ
クラウドをエッジに延伸せよ
 
九州シェアリングサミット2018[第1セッション(岩坪)]
九州シェアリングサミット2018[第1セッション(岩坪)]九州シェアリングサミット2018[第1セッション(岩坪)]
九州シェアリングサミット2018[第1セッション(岩坪)]
 
190914 foss4g p
190914 foss4g p190914 foss4g p
190914 foss4g p
 
どこでも安全に使えるIoTを目指して ~さくらインターネットのIoTへの取り組み~
どこでも安全に使えるIoTを目指して ~さくらインターネットのIoTへの取り組み~どこでも安全に使えるIoTを目指して ~さくらインターネットのIoTへの取り組み~
どこでも安全に使えるIoTを目指して ~さくらインターネットのIoTへの取り組み~
 
20181212 シビックテックからみたオープンな科学技術とデータのあり方
20181212 シビックテックからみたオープンな科学技術とデータのあり方20181212 シビックテックからみたオープンな科学技術とデータのあり方
20181212 シビックテックからみたオープンな科学技術とデータのあり方
 
匿名化と自己情報コントロール
匿名化と自己情報コントロール匿名化と自己情報コントロール
匿名化と自己情報コントロール
 

Similar a 2020年11月27日_エストニアにおける電子政府施策の概観と日本への示唆

もうひとつのマイナンバー「医療等ID」に関する議論 - OpenID Summit 2015
もうひとつのマイナンバー「医療等ID」に関する議論 - OpenID Summit 2015もうひとつのマイナンバー「医療等ID」に関する議論 - OpenID Summit 2015
もうひとつのマイナンバー「医療等ID」に関する議論 - OpenID Summit 2015OpenID Foundation Japan
 
Conformity assessment of trust services
Conformity assessment of trust servicesConformity assessment of trust services
Conformity assessment of trust servicesToru Yamauchi
 
オンラインストレージ「マイポケット」担当者が語る サービスを企画するポイント
オンラインストレージ「マイポケット」担当者が語るサービスを企画するポイントオンラインストレージ「マイポケット」担当者が語るサービスを企画するポイント
オンラインストレージ「マイポケット」担当者が語る サービスを企画するポイントAPI Meetup
 
Cloud show 141017fin2
Cloud show 141017fin2Cloud show 141017fin2
Cloud show 141017fin2知礼 八子
 
支えあう技術者育成活動とインターネット : 技術者育成活動の観点から
支えあう技術者育成活動とインターネット : 技術者育成活動の観点から支えあう技術者育成活動とインターネット : 技術者育成活動の観点から
支えあう技術者育成活動とインターネット : 技術者育成活動の観点からNISHIHARA Shota
 
IoT×ビジネス活用 ~最先端技術のビジネス活用に向けて~
IoT×ビジネス活用 ~最先端技術のビジネス活用に向けて~IoT×ビジネス活用 ~最先端技術のビジネス活用に向けて~
IoT×ビジネス活用 ~最先端技術のビジネス活用に向けて~法林浩之
 
Public and private sectors data utilization
Public and private sectors data utilizationPublic and private sectors data utilization
Public and private sectors data utilization明平 吉本
 
20140918 センサ・アクチュエータ・マイクロナノ/ウィーク2014 次世代センサ総合シンポジウム
20140918 センサ・アクチュエータ・マイクロナノ/ウィーク2014 次世代センサ総合シンポジウム20140918 センサ・アクチュエータ・マイクロナノ/ウィーク2014 次世代センサ総合シンポジウム
20140918 センサ・アクチュエータ・マイクロナノ/ウィーク2014 次世代センサ総合シンポジウムKeio University
 
NPI publishes "Digital Technology and Economy/Finance Annual Research Report ...
NPI publishes "Digital Technology and Economy/Finance Annual Research Report ...NPI publishes "Digital Technology and Economy/Finance Annual Research Report ...
NPI publishes "Digital Technology and Economy/Finance Annual Research Report ...Yuichi (祐一) Iwata (岩田)
 
SS2019 エッジデバイス開発の難しさ
SS2019 エッジデバイス開発の難しさSS2019 エッジデバイス開発の難しさ
SS2019 エッジデバイス開発の難しさMakoto SAKAI
 
経済モデルからみる、 科学技術イノベーション政策・政府研究開発投資の経済的効果
経済モデルからみる、 科学技術イノベーション政策・政府研究開発投資の経済的効果経済モデルからみる、 科学技術イノベーション政策・政府研究開発投資の経済的効果
経済モデルからみる、 科学技術イノベーション政策・政府研究開発投資の経済的効果scirexcenter
 
学術コンテンツサービスでの活用事例@Lucene/Solr勉強会(2015.5.13)
学術コンテンツサービスでの活用事例@Lucene/Solr勉強会(2015.5.13)学術コンテンツサービスでの活用事例@Lucene/Solr勉強会(2015.5.13)
学術コンテンツサービスでの活用事例@Lucene/Solr勉強会(2015.5.13)Ikki Ohmukai
 
20200522 Blockchain GIG#7 株式会社NTTデータ山下様資料
20200522 Blockchain GIG#7 株式会社NTTデータ山下様資料20200522 Blockchain GIG#7 株式会社NTTデータ山下様資料
20200522 Blockchain GIG#7 株式会社NTTデータ山下様資料オラクルエンジニア通信
 
情報漏えい対策だけでは済まない 最新の脅威へ立ち向かうには
情報漏えい対策だけでは済まない 最新の脅威へ立ち向かうには情報漏えい対策だけでは済まない 最新の脅威へ立ち向かうには
情報漏えい対策だけでは済まない 最新の脅威へ立ち向かうにはTrainocate Japan, Ltd.
 
Kansai Azure IoT, Device & Cloud 20140927
Kansai Azure IoT, Device & Cloud 20140927Kansai Azure IoT, Device & Cloud 20140927
Kansai Azure IoT, Device & Cloud 20140927Ayako Omori
 
Blockchain in europe marta gonzalez
Blockchain in europe   marta gonzalezBlockchain in europe   marta gonzalez
Blockchain in europe marta gonzalezKohei Kurihara
 
日経BP ITpro IoT japanパネル討議資料
日経BP ITpro IoT japanパネル討議資料日経BP ITpro IoT japanパネル討議資料
日経BP ITpro IoT japanパネル討議資料知礼 八子
 

Similar a 2020年11月27日_エストニアにおける電子政府施策の概観と日本への示唆 (20)

もうひとつのマイナンバー「医療等ID」に関する議論 - OpenID Summit 2015
もうひとつのマイナンバー「医療等ID」に関する議論 - OpenID Summit 2015もうひとつのマイナンバー「医療等ID」に関する議論 - OpenID Summit 2015
もうひとつのマイナンバー「医療等ID」に関する議論 - OpenID Summit 2015
 
Conformity assessment of trust services
Conformity assessment of trust servicesConformity assessment of trust services
Conformity assessment of trust services
 
110728 Trust Framework - Akiko Orita
110728 Trust Framework - Akiko Orita110728 Trust Framework - Akiko Orita
110728 Trust Framework - Akiko Orita
 
オンラインストレージ「マイポケット」担当者が語る サービスを企画するポイント
オンラインストレージ「マイポケット」担当者が語るサービスを企画するポイントオンラインストレージ「マイポケット」担当者が語るサービスを企画するポイント
オンラインストレージ「マイポケット」担当者が語る サービスを企画するポイント
 
Cloud show 141017fin2
Cloud show 141017fin2Cloud show 141017fin2
Cloud show 141017fin2
 
支えあう技術者育成活動とインターネット : 技術者育成活動の観点から
支えあう技術者育成活動とインターネット : 技術者育成活動の観点から支えあう技術者育成活動とインターネット : 技術者育成活動の観点から
支えあう技術者育成活動とインターネット : 技術者育成活動の観点から
 
IoT×ビジネス活用 ~最先端技術のビジネス活用に向けて~
IoT×ビジネス活用 ~最先端技術のビジネス活用に向けて~IoT×ビジネス活用 ~最先端技術のビジネス活用に向けて~
IoT×ビジネス活用 ~最先端技術のビジネス活用に向けて~
 
Public and private sectors data utilization
Public and private sectors data utilizationPublic and private sectors data utilization
Public and private sectors data utilization
 
20140918 センサ・アクチュエータ・マイクロナノ/ウィーク2014 次世代センサ総合シンポジウム
20140918 センサ・アクチュエータ・マイクロナノ/ウィーク2014 次世代センサ総合シンポジウム20140918 センサ・アクチュエータ・マイクロナノ/ウィーク2014 次世代センサ総合シンポジウム
20140918 センサ・アクチュエータ・マイクロナノ/ウィーク2014 次世代センサ総合シンポジウム
 
NPI publishes "Digital Technology and Economy/Finance Annual Research Report ...
NPI publishes "Digital Technology and Economy/Finance Annual Research Report ...NPI publishes "Digital Technology and Economy/Finance Annual Research Report ...
NPI publishes "Digital Technology and Economy/Finance Annual Research Report ...
 
SS2019 エッジデバイス開発の難しさ
SS2019 エッジデバイス開発の難しさSS2019 エッジデバイス開発の難しさ
SS2019 エッジデバイス開発の難しさ
 
7 14e gov
7 14e gov7 14e gov
7 14e gov
 
経済モデルからみる、 科学技術イノベーション政策・政府研究開発投資の経済的効果
経済モデルからみる、 科学技術イノベーション政策・政府研究開発投資の経済的効果経済モデルからみる、 科学技術イノベーション政策・政府研究開発投資の経済的効果
経済モデルからみる、 科学技術イノベーション政策・政府研究開発投資の経済的効果
 
IoTプラットフォーム正式版リリース記者説明会
IoTプラットフォーム正式版リリース記者説明会IoTプラットフォーム正式版リリース記者説明会
IoTプラットフォーム正式版リリース記者説明会
 
学術コンテンツサービスでの活用事例@Lucene/Solr勉強会(2015.5.13)
学術コンテンツサービスでの活用事例@Lucene/Solr勉強会(2015.5.13)学術コンテンツサービスでの活用事例@Lucene/Solr勉強会(2015.5.13)
学術コンテンツサービスでの活用事例@Lucene/Solr勉強会(2015.5.13)
 
20200522 Blockchain GIG#7 株式会社NTTデータ山下様資料
20200522 Blockchain GIG#7 株式会社NTTデータ山下様資料20200522 Blockchain GIG#7 株式会社NTTデータ山下様資料
20200522 Blockchain GIG#7 株式会社NTTデータ山下様資料
 
情報漏えい対策だけでは済まない 最新の脅威へ立ち向かうには
情報漏えい対策だけでは済まない 最新の脅威へ立ち向かうには情報漏えい対策だけでは済まない 最新の脅威へ立ち向かうには
情報漏えい対策だけでは済まない 最新の脅威へ立ち向かうには
 
Kansai Azure IoT, Device & Cloud 20140927
Kansai Azure IoT, Device & Cloud 20140927Kansai Azure IoT, Device & Cloud 20140927
Kansai Azure IoT, Device & Cloud 20140927
 
Blockchain in europe marta gonzalez
Blockchain in europe   marta gonzalezBlockchain in europe   marta gonzalez
Blockchain in europe marta gonzalez
 
日経BP ITpro IoT japanパネル討議資料
日経BP ITpro IoT japanパネル討議資料日経BP ITpro IoT japanパネル討議資料
日経BP ITpro IoT japanパネル討議資料
 

Más de Hiroyuki Kurimoto

2020年8月28日 日本若者協議会『学校内民主主義を考える検討会議』栗本資料
2020年8月28日 日本若者協議会『学校内民主主義を考える検討会議』栗本資料2020年8月28日 日本若者協議会『学校内民主主義を考える検討会議』栗本資料
2020年8月28日 日本若者協議会『学校内民主主義を考える検討会議』栗本資料Hiroyuki Kurimoto
 
200706_日本における若者の政治参加の課題と展望 対談「政治とコミュニケーション」を題材に
200706_日本における若者の政治参加の課題と展望 対談「政治とコミュニケーション」を題材に200706_日本における若者の政治参加の課題と展望 対談「政治とコミュニケーション」を題材に
200706_日本における若者の政治参加の課題と展望 対談「政治とコミュニケーション」を題材にHiroyuki Kurimoto
 
200221_領域と手法を越境する試みーこれからの「公共のあり方」について、私の模索と現在地
200221_領域と手法を越境する試みーこれからの「公共のあり方」について、私の模索と現在地200221_領域と手法を越境する試みーこれからの「公共のあり方」について、私の模索と現在地
200221_領域と手法を越境する試みーこれからの「公共のあり方」について、私の模索と現在地Hiroyuki Kurimoto
 
第1回「自分で政治を考えるワークショップ」@みらいけん 武見敬三さんに関する資料
第1回「自分で政治を考えるワークショップ」@みらいけん 武見敬三さんに関する資料第1回「自分で政治を考えるワークショップ」@みらいけん 武見敬三さんに関する資料
第1回「自分で政治を考えるワークショップ」@みらいけん 武見敬三さんに関する資料Hiroyuki Kurimoto
 
エストニア共和国における e-Estonia政策等に関する報告
エストニア共和国における e-Estonia政策等に関する報告エストニア共和国における e-Estonia政策等に関する報告
エストニア共和国における e-Estonia政策等に関する報告Hiroyuki Kurimoto
 
若者の政治参加・参画の概況と諸外国における参考事例、今後の展望
若者の政治参加・参画の概況と諸外国における参考事例、今後の展望若者の政治参加・参画の概況と諸外国における参考事例、今後の展望
若者の政治参加・参画の概況と諸外国における参考事例、今後の展望Hiroyuki Kurimoto
 
森を拓くプロジェクト パンフレット
森を拓くプロジェクト パンフレット森を拓くプロジェクト パンフレット
森を拓くプロジェクト パンフレットHiroyuki Kurimoto
 
生徒会活動の飛躍的可能性:生徒会活動に関する調査研究と自身の経験から
生徒会活動の飛躍的可能性:生徒会活動に関する調査研究と自身の経験から生徒会活動の飛躍的可能性:生徒会活動に関する調査研究と自身の経験から
生徒会活動の飛躍的可能性:生徒会活動に関する調査研究と自身の経験から Hiroyuki Kurimoto
 
190112 liquitous presentation
190112 liquitous presentation190112 liquitous presentation
190112 liquitous presentationHiroyuki Kurimoto
 
水道民営化に関するフリップ
水道民営化に関するフリップ水道民営化に関するフリップ
水道民営化に関するフリップHiroyuki Kurimoto
 
2018年5月13日子どもの権利条約ネットワーク シンポジウム
2018年5月13日子どもの権利条約ネットワーク シンポジウム2018年5月13日子どもの権利条約ネットワーク シンポジウム
2018年5月13日子どもの権利条約ネットワーク シンポジウムHiroyuki Kurimoto
 
2018年5月13日子どもの権利条約ネットワーク シンポジウム 
2018年5月13日子どもの権利条約ネットワーク シンポジウム 2018年5月13日子どもの権利条約ネットワーク シンポジウム 
2018年5月13日子どもの権利条約ネットワーク シンポジウム Hiroyuki Kurimoto
 

Más de Hiroyuki Kurimoto (12)

2020年8月28日 日本若者協議会『学校内民主主義を考える検討会議』栗本資料
2020年8月28日 日本若者協議会『学校内民主主義を考える検討会議』栗本資料2020年8月28日 日本若者協議会『学校内民主主義を考える検討会議』栗本資料
2020年8月28日 日本若者協議会『学校内民主主義を考える検討会議』栗本資料
 
200706_日本における若者の政治参加の課題と展望 対談「政治とコミュニケーション」を題材に
200706_日本における若者の政治参加の課題と展望 対談「政治とコミュニケーション」を題材に200706_日本における若者の政治参加の課題と展望 対談「政治とコミュニケーション」を題材に
200706_日本における若者の政治参加の課題と展望 対談「政治とコミュニケーション」を題材に
 
200221_領域と手法を越境する試みーこれからの「公共のあり方」について、私の模索と現在地
200221_領域と手法を越境する試みーこれからの「公共のあり方」について、私の模索と現在地200221_領域と手法を越境する試みーこれからの「公共のあり方」について、私の模索と現在地
200221_領域と手法を越境する試みーこれからの「公共のあり方」について、私の模索と現在地
 
第1回「自分で政治を考えるワークショップ」@みらいけん 武見敬三さんに関する資料
第1回「自分で政治を考えるワークショップ」@みらいけん 武見敬三さんに関する資料第1回「自分で政治を考えるワークショップ」@みらいけん 武見敬三さんに関する資料
第1回「自分で政治を考えるワークショップ」@みらいけん 武見敬三さんに関する資料
 
エストニア共和国における e-Estonia政策等に関する報告
エストニア共和国における e-Estonia政策等に関する報告エストニア共和国における e-Estonia政策等に関する報告
エストニア共和国における e-Estonia政策等に関する報告
 
若者の政治参加・参画の概況と諸外国における参考事例、今後の展望
若者の政治参加・参画の概況と諸外国における参考事例、今後の展望若者の政治参加・参画の概況と諸外国における参考事例、今後の展望
若者の政治参加・参画の概況と諸外国における参考事例、今後の展望
 
森を拓くプロジェクト パンフレット
森を拓くプロジェクト パンフレット森を拓くプロジェクト パンフレット
森を拓くプロジェクト パンフレット
 
生徒会活動の飛躍的可能性:生徒会活動に関する調査研究と自身の経験から
生徒会活動の飛躍的可能性:生徒会活動に関する調査研究と自身の経験から生徒会活動の飛躍的可能性:生徒会活動に関する調査研究と自身の経験から
生徒会活動の飛躍的可能性:生徒会活動に関する調査研究と自身の経験から
 
190112 liquitous presentation
190112 liquitous presentation190112 liquitous presentation
190112 liquitous presentation
 
水道民営化に関するフリップ
水道民営化に関するフリップ水道民営化に関するフリップ
水道民営化に関するフリップ
 
2018年5月13日子どもの権利条約ネットワーク シンポジウム
2018年5月13日子どもの権利条約ネットワーク シンポジウム2018年5月13日子どもの権利条約ネットワーク シンポジウム
2018年5月13日子どもの権利条約ネットワーク シンポジウム
 
2018年5月13日子どもの権利条約ネットワーク シンポジウム 
2018年5月13日子どもの権利条約ネットワーク シンポジウム 2018年5月13日子どもの権利条約ネットワーク シンポジウム 
2018年5月13日子どもの権利条約ネットワーク シンポジウム 
 

2020年11月27日_エストニアにおける電子政府施策の概観と日本への示唆

  • 2. 目次 © Liquitous Inc. 2 1. 自己紹介 2. エストニアの電子政府施策の概観 • 1. エストニアについて • 2. 電子政府の概要 • 3. 個人認証(国民ID) • 4. e-Residency(電子市民権) • 5.データ連携基盤「X-Road」 • 6. インターネット投票 • 参考:エストニアの統治構造・選挙制度 • 7. サイバーセキュリティ 3. 電子政府施策の背景 • 1. 電子政府施策の推進体制 • 2. 電子政府施策のコンセプト • 3. 電子政府施策に関連する法令等 4. なぜ電子政府施策が進んだか • 1. 歴史・民族意識 • 参考:政府への信頼度比較 • 2. ソ連・ロシアとの関係 • 3. スタートアップ主義 5. 日本への示唆 • 1. 哲学的な視点(べき論) • 2. 行政DX=質的統治機構改革という視点 6. おわりに・お問い合わせ
  • 3. 1. 自己紹介 © Liquitous Inc. 3 栗本 拓幸 Hiroyuki Kurimoto 所属 ・合同会社Liquitous 代表社員/CEO (民主主義のDX) ・特定非営利活動法人Rights 理事 (若者の政治参加) ・慶應義塾大学総合政策学部 ほか 社会活動 ・日本若者協議会『学校内民主主義を考える検討会議』座長代理 ・産学官連携コンソーシアム” Polyphonic Future” 構成員 ・アートプロジェクト『多層都市「幕張市」』コラボレーター ほか リンクなど ・http://hiroyuki-kurimoto.jp 参考 1999年生まれ、21歳。東京都生まれ、神奈川県横浜市在住。 浅野高等学校(横浜)卒業。
  • 4. 2-1. エストニアについて © Liquitous Inc. 4 基礎データ 国名:エストニア共和国 政体:共和制 首都:タリン(Tallinn) 人口:132万人 面積:4.5万km2 (九州+沖縄程度) 言語:エストニア語 GDPランキング:103位(IMF) 一人当たりGDP:41位(IMF) 栗本は2018年2月に現地に滞在。 関連施設の視察・関係者とのディスカッションなど
  • 5. 2-2. エストニアの「電子政府」の概要 © Liquitous Inc. 5 電子政府とは何か • (自身の定義)政府がオンライン上で提供する行政サービス、その サービスを実現するインフラストラクチャ、そのインフラストラク チャの設計・実装・持続発展を可能とする政府機構の総称。 • 電子政府の議論に際しては、行政サービス(方法論)のみならず、 技術的基盤やその運用体制に視点を向けて検討することが肝要。 エストニアの電子政府と本資料の位置付け • エストニアでは、サービス提供のみならず、様々な分野でテクノロ ジーに基づいた『電子政府化』が進展、常に発展を続けている。 • 電子政府の構築の前提となる(電子政府システム上で、国民として 認識されるために欠かせない)個人認証:ID、データ交換システム、 セキュリティ、電子政府を支える統治機構などについて言及 右スライド画像はいずれも、Enterprise Estonia (EAS)財団が 公開している公式のプレゼンテーション資料より引用 “Presentation Slideshow(Japanese Version)” https://e-estonia.com/wp-content/uploads/e-estonia-210820-jap.pdf
  • 6. 2-3. 個人認証(e-Identity)について © Liquitous Inc. 6 e-Identityとは何か • 政府が提供するオンライン上の行政サービスを利用する際など、本人の個人認証を オンライン上で行うための仕組みとして機能。 • そのIDの利用者が、ID所有者本人であるという確認が可能である限り、カード式の IDカードを発行する必要はない • 電子政府のシステム上で「国民」として扱われるための前提 • メールアドレス( @eesti.ee )を介した行政・住民のコミュニケーション 現在利用することが可能な国民IDの方法 • IDカード:ICチップを埋め込んだプラスチック・カード • モバイルID:携帯電話のSIMカードを利用することで個人認証を行う手法(特別な仕様) • スマートID:iOS/AndroidなどのモバイルOS上で、アプリケーションを用いる個人認証 e-Identityの普及率・利用 • 国民の98%がe-Identity・IDカードを保有(そのうち67%が定期的に使用) • IDカードと同時にカードリーダーを送付することで、ready-to-useの状態に • インターネット上で、99%の行政手続きが可能 • 結婚・離婚を除く(情緒的要因) Wikiwandより引用
  • 7. 2-4. e-Residency制度(電子市民権)について © Liquitous Inc. 7 (2020.11.16現在: 参照: “Total number of e-residents” https://e-resident.gov.ee/dashboard/) e-Residency申請数の国別ランキング 1 フィンランド 5629 2 ロシア 5092 3 ウクライナ 4598 4 ドイツ 4449 5 中華人民共和国 3748 6 イギリス 3647 7 米国 3415 8 インド 3384 9 フランス 3246 10 日本 3245 参考 総発給数 74616 e-Residency制度とは • 従来の国籍を維持しながら、オンライン行政サービス(e-Service)を利用出来 るIDカードを発給する制度。 • 現実世界での市民権や国籍、国境管理における優遇措置などは提供されない。 “Estonian e-Residency provides digital entrepreneurs the freedom to establish and manage an EU-based company paperlessly, from anywhere in the world. ” (“What is e-Residency” https://learn.e-resident.gov.ee/hc/en-us/articles/360000711978-What-is-e-Residency) 制度の意義の推測 • 法人開設等による税収の獲得 • 対外広報宣伝活動のツール(e-Estoniaブランドの確立) • エストニアの「関係人口」の創出・繋ぎ留め e-Residencyカードを利用する時に利用するポータルの画面。 カードを用いた電子署名などが利用できる。 栗本が実際に取得したe-Residencyカード。 申請後2ヶ月程度で受け取りが可能。カード本体・ カードリーダー・説明書がパッケージに。 参考: 『これからの国家のあり方を考える – エストニアe-Residencyを取得して』 http://hiroyuki-kurimoto.jp/archives/820
  • 8. 2-5. データ連携基盤”X-Road”について © Liquitous Inc. 8 X-Roadは、インターネットを介して 情報のやり取りを行う「道」の役割を 果たすデータ連携のための基盤 • 公的機関・民間企業のデータベースの間で、 データのやり取りを行うための仕組み • 厳格なセキュリティ対策 • 高レベルのログ処理と監視 • 暗号化およびタイムスタンプ付きのデー タトラフィック • X-Roadを介したすべての送信データは • デジタル署名および暗号化 • すべての受信データは認証・ログに記録 • データの保有者がその履歴を確認可能 X-Roadの開発・運用 • Cybernetica社によって開発 • 政府外郭団体であるエストニア情報センター(RIA: Riigi Infosüsteemi Amet)によって運用 • 民間企業も活用。公的機関-住民間、民間企業-顧客 間などの情報交換の幅広い基幹システムに。
  • 9. 2-6. インターネット投票について © Liquitous Inc. 9 • エストニアは世界で初めてインターネット投票を導入 • 選挙事務自体の電子化を推進 • 選挙人名簿・投票所における投票通知の電子化:2021大統領選挙〜 • 本人確認には、IDカードを使用(モバイル端末からの投票不可) • 投票の信頼性を担保するため、インターネット投票は複数回の投票が 可能。最終の投票が真正の投票として扱われる • 「インターネット投票を導入すれば投票率の向上が期待される」とい う言説は、エストニアの事例を観察する限りは、確かではない。 前回国会選挙(2019)の概要 投票率 | 63.67% 投票総数に占める| インターネット投票| 43.75% * Riigikogu Election Actを栗本が邦訳の 上、図解した資料。 参照: Riigikogu Election Act(1994)“LEGISTLATIONLINE” https://www.legislationline.org/documents/id/5713 Riigikogu Election Act(2002)“Riigi Teataja” https://www.riigiteataja.ee/en/eli/ee/Riigikogu/act/504122017004/consolide
  • 10. 参考: エストニアの統治構造 © Liquitous Inc. 10 国政 • エストニアは議会制民主主義に基づく共和制を採用する国家 • 国家元首たる名誉職としての大統領が存在し、行政権の長は議会から選出された首相が担う • エストニアの議会は完全な比例代表制によって選出される定数101名・任期4年の議会であり、エストニア語ではリー ギコグ(Riigikogu)と呼称される。 • 複数政党制に基づく議会運営がなされており、政権は複数政党による連立が基本 • 2019年3月3日に施行された選挙において、国会に議席を有する政党は、5つ(改革党、中央党、保守人民党、社会 民主党、祖国・共和国連合)であった。同選挙以前は、中央党、社会民主党、祖国・共和国連合による中道左派の連 立政権、現在は中央党・保守人民党などによる右派政権。 地方自治 • 全土を15のカウンティ(En:County)で分割 • 各カウンティは原則として複数の都市自治体(En:Urban municipalities/towns)及び農村自治体(En:Rural municipalities/parishes*)から構成 • 都市自治体・農村自治体がエストニアにおける地方自治の基本単位であり、それぞれに地方議会が存在。 • 地方政府の首長は地方議会によって選出され、日本におけるそれの二元代表制とは大きく異なる。 • 一部の都市自治体や農村自治体に関しては、更に細かな行政区画(Ee:linnaosa/osavald)に分割されている。 *Parishesについて:キリスト教圏に散見される地方区分であり、原則として教会の教区に基づいた区分がなされている。 参照: ELECTORAL SYSTEM https://vm.ee/en/electoral-system (Ministry of Foreign Affairs, Republic of Estonia) History of Riigikogu(Parliament of Estonia) https://www.riigikogu.ee/en/introduction-and-history/history-riigikogu/
  • 11. 参考: エストニアの選挙制度 © Liquitous Inc. 11 選挙制度に関して • 選挙の種類 • エストニアにおいては、4種類の「選挙」が存在 • 国政レベルの議会選挙、地方議会の選挙、欧州議会の選挙、そして国民投票 • 大統領職も国会における議決に基づいて選出 • 選挙権年齢と被選挙権年齢 • エストニアにおける選挙権年齢は原則として18歳、被選挙権年齢は21歳 • 選挙権年齢に関しては、一部の地方議会選挙においては16歳ないしは17歳とされている • 選挙制度 • エストニアにおける選挙は比例選挙 • 国政/地方議会を問わず政党からの立候補か独立候補としての立候補に限定 • 国政に関しては、エストニア全土を12の中選挙区に分割し、各選挙区の定数を6ー12人としている • 国政選挙に立候補する際には、選挙実施年に政府が示した最低給与額に等しい金額を寄託する必要 • 選挙運動 • 日本の公職選挙法における選挙運動に関する規制と比較して、相当程度緩い規制 • 選挙期間中に候補者・政党等が屋外に何らかの広告を掲示することは法律によって禁止 • エストニアにおける選挙の歴史 • エストニア最終的に独立した1991年の直後には国民投票に基づいて憲法が採択(1992.6)、同憲法に基づいた選挙が暫定的に実 施され、リーギコグ(Riigukogu)の議員が選出(1992.9)された。その後、1994年6月に制定されたRiigikogu Election Act(1994)に基づく選挙(1995.3)が執行された。これ以降、リーギコグ選挙はその任期である4年毎に実施されている。 • 2002年にRiigikogu Election Actが改正。このRiigigoku Election Act(2002)が今日に至るまで、部分的に改正が行われながら有効 性を保ち続けている。累次に渡る改正の中で、インターネット投票(i-Voting)が制度として確立。 参照: Riigikogu Election Act(1994)“LEGISTLATIONLINE” https://www.legislationline.org/documents/id/5713 Riigikogu Election Act(2002)“Riigi Teataja” https://www.riigiteataja.ee/en/eli/ee/Riigikogu/act/504122017004/consolide
  • 12. 2-7. サイバーセキュリティ © Liquitous Inc. 12 サイバーセキュリティ政策の基本方針 • 前提 • 1. 国家安全保障政策とサイバーセキュリティの接続 • “..cyber security will be integrated into national crisis and defense planning and regular drills will be conducted.” Digital Agenda2020, P33 • 2. サイバーセキュリティ構築のための産官学連携 • “R&D and research-based enterprise in the field of cyber security will be supported and promoted. “Digital Agenda2020, P35 • 3. 国際協調関係の構築 • “Cooperation with strategic external partners will be made more effective. “Digital Agenda2020, P35 • NATO共同サイバーディフェンスセンター及びEU・eu-LISA(EU・大規模ITシステムの 運用管理部局)の首都・タリンへの誘致 • Cf) NATO CDC研究文書『サイバー戦に適用される国際法に関するタリン・マニュアル』 • Q. 2007年『青銅の夜』事件は自衛権行使の対象か?という問い→野心的な回答 「データ大使館」による『国家のバックアップ』 • 個人情報・機密情報等を、ルクセンブルク国内に設置したサーバーへ分散保存 • 税金や土地、企業、国民の身元証明書類、年金、法規制、国税調査などのデータ • サーバーはウィーン条約に基づく「外交公館」として設置
  • 13. 3-1. 電子政府施策の推進体制 © Liquitous Inc. 13 首相 経済通信省 ガバメント・オフィス The Department of State Information Systems (RISO) 政府CIO (経済通信省次官補) スタートアップ出身民間任用 The Information System Authority (RIA) 他省庁 RISO →Digital Agenda 2020 for Estonia 策定 • メインゴール • スマートICTソリューションの普及と開発 のための成熟した安全な環境の開発 • サブフィールド • 情報社会の開発 • サイバーセキュリティの強化 外郭団体(相当) RIA →技術基盤を実際に運用・管理 • 必要に応じて、RISOをはじめとする他省庁へ の技術支援を行う 参照 • "[欧州諸国]政府CIOによる改革を支える制度-スペイン、ドイツお よびエストニアの事例の考察-" (一般社団法人行政システム研究所) • “「デジタルガバメントに関する先進事例の実態調査」調査報告書 (H28年度電子経済産業省構築事業)」”(BCG)
  • 14. 3-2. 電子政府施策のコンセプト © Liquitous Inc. 14 • ユーザー目線 • " 政府がサービスを開発し、その効果を民間機関、公的機関、一般市民相手にユーザーテス トして、フィードバックを得る” (エストニア共和国 首相 ターヴィ・ロイバス氏) “「デジタルガバメントに関する先進事例の実態調査」調査報告書(H28年度電子経済産業省構築事業)」”(BCG) • レガシーシステムの抑止 • “No Legacy Policy”の提唱 • 運用開始から13年が経過したITシステムや技術は刷新することが求められるという指針 • 新技術の陳腐化:10年+新技術の導入による新システムの構築:3年=13年 • e-Governmentのコアコンセプト • Decentralization:分散型のシステム構築 • Interconnectivity:相互接続性 • Integrity:システム同士の整合性 • Open platform :開かれたシステム • No legacy:「遺産」システムを用いない • Once-only:重複と官僚主義抑止を目的と した「一度限り」の情報収集 • Transparency:透明性の確保 e-Estonia guide (full booklet)より
  • 15. 3-3. 電子政府施策に関連する法令等 © Liquitous Inc. 15 • Public Information Act(公共情報法)に次の条文が存在。 § 33. Access to data communication network Every person shall be afforded the opportunity to have free access to public information through the Internet in public libraries, pursuant to the procedure provided for in the Public Libraries Act. (*注: 公式な英訳) § 33. データ通信ネットワークへのアクセス 何人も、公共図書館法に定める手続に従い、公共図書館において、インターネットを利用して無 料で公共の情報を閲覧する機会を与えられなければならない。(*注: 栗本の仮訳) • Public Libraries Act(公共図書館法)において、インターネットアクセス権を保障す る為の具体的な図書館の役割が定められる。 § 15. Readers and services A person requesting information shall be given the opportunity to use a computer in order to access information available through the public data communication network, pursuant to the Public Information Act. (*注: 公式な英訳) § 15. 読者とサービス 情報の提供を求める者は、公共情報法に基づき、公開データ通信網を介して利用できる情報を閲 覧するために、コンピューターを使用する機会を与えられなければならない。 (*注: 栗本の仮訳) →ユニバーサルサービスという位置づけのみならず、 権利としてのインターネットアクセスを法的に保証 (ユニバーサルサービスとしてインターネットアクセスを位置付ける国:フィンランド・トルコなど) *日本は位置付けず 関連リンク:『インターネットは基本的人権なのか』(Liquitous Lisearch Journal, 栗本拓幸, 2020) https://liquitous.com/lisearch/journal/2020/05/03/242/
  • 16. 4-1. なぜ電子政府施策が進んだのか(歴史・民族意識) © Liquitous Inc. 16 概史 • 有史以来、同地はドイツ・スウェーデン ・ロシア帝国・ソ連など様々な列強諸国の影響下にある地域。ロシア革命 (1917)以降、独立機運が高まり、1918年2月24日に初めて独立。 • 1918年2月25日以降、ドイツ帝国による占領・独立戦争(内戦)・再独立。1920年に主権国家としての地位を確立 し、エストニア憲法が採択。 • 第1次大戦以降、民族自決原則に基づき、国際連盟加盟などの国際社会の志向や、土地改革政策などによる国内の経 済安定が図られる。ただ、世界恐慌以降、退役軍人による反共・反議会制運動の高まりにより、戒厳令が発令。沈 黙の時代が始まる(〜1938年:新憲法制定による秩序回復)。 • 1939年の第2次大戦以降、中立の追求もむなしく、ソ連による軍事封鎖の後に、ソ連軍の国内展開・親ソ政権の樹 立が行われ、ソ連の占領下に。戦間期にはナチス・ドイツによる占領もあったが、1944年にソ連(エストニア共産 党)による本格的な統治の開始。1991年に再独立。 • 以後、CIS加盟ボイコット、NATO加盟(2003)、EU加盟(2004)、単一通貨ユーロ導入(2011)など、自由主義 陣営の国家として内政・外交政策を展開。 ポイント • 「国家の脆さ」に対する国民*的な関心の高さ *再国民化と脱国民化の狭間? • 1990年代以降の「国家の基盤」作り直し • 人口(130万人)に対して広い領土(4.5万km2 (九州+沖縄程度))
  • 17. 参考: 政府への信頼度(OECD Government at a Glance 2019) © Liquitous Inc. 17 “OECD Government at a Glance 2019”(OECD, 2019)より引用 http://www.oecd.org/governance/government-at-a-glance-22214399.htm
  • 18. 4-2. なぜ電子政府施策が進んだのか(ソ連・ロシアとの関係) © Liquitous Inc. 18 概要 • ソ連統治時代(1944〜1991)の恐怖政治。ロシア系住民の入植が進み、『ロシア化』も進展。1970〜1980年代 以降、“脱エストニア化”に対する危機感の加速。ペレストロイカとグラスノスチによるエストニア共産党(ECP)の 指導力低下を発端とする、独立の回復を経験。 • フルシチョフ政権下の1958年、ソ連ではコンピューターエンジニアの養成が国家的課題として位置付けられた。 1950年代後半に、エストニア・タルトゥ大学で、コンピューターサイエンス教育が開始。1960年にはサイバネ ティクス研究所(Institute of Cybernetics)が開設、ソビエト・バルト地域におけるコンピューター研究開発の拠点 に。同研究所をもとにCybernetica社が発足。 • 1978年、研究所内にコンピューターデザインオフィス”EKTA”を設置。エストニア語対応の教育向けPC “Juku”の開 発。西側・フィンランドとの関係性を生かし、エストニアは東西のコンピューター開発の結節点として多数のエン ジニアが存在。後年の電子政府構築の際に、重要な役割。 • 今日も複雑なエストニア-ロシア間の関係。係争地の国境画定問題(ヤーニリン地域・旧ぺツェリ県)、エストニア国 内のロシア系住民・ロシア語話者の割合(全人口のうち84.1%がエストニア国籍、ロシア国籍保持者・無国籍ロシア人が それぞれ7%強:2010)。『青銅の夜』事件(2007)など。 ポイント • 残ったソ連統治時代の「記憶」 • 生かされたソ連統治時代の「財産」 • 複雑な対露関係とインシデント 参照: ”Beginning of Computing in the Soviet Baltic Region” Enn Tyugu, 2014 https://www.computer-museum.ru/articles/materialy- mezhdunarodnoy-konferentsii-sorucom-2014/915/
  • 19. 4-3. なぜ電子政府施策が進んだのか (スタートアップ主義) © Liquitous Inc. 19 概要 • ソ連統治等を経験し、1991年に最終的な独立を果たしたことから、国家が発展途上であることが前提に。スタート アップ的に、検証を繰り返しながら、完成形を作り上げていかざるを得ないという思考法が一般的(なおかつ、 1990年代以降のテクノロジーの隆盛期と重なる時代) • オンラインWeb会議システム”Skype”を象徴とする、Estonian Startupsの出現 • エストニアの環境を生かして外国籍のFounderがプロダクトを開発し、Exitするユニコーン企業が特徴的。 Skype社(スウェーデン ・デンマーク)やオンラインゲームを手がけるPlayTech社(イスラエル)など • エストニア発のスタートアップとして、国際送金サービス・TransferWise社、配車サービス・Bolt社など • 他のエストニア発のスタートアップの技術を電子政府の構築に際して効果的に活用 • e-Residency制度をはじめとする特徴的な施策の展開による、国際的関心の惹起。 • 『スタートアップ国家』としてのブランドを確立することで、国内外スタートアップのハブに。 ポイント • 「開発途上である」ことが、ある種の当たり前 • Skypeをはじめとするスタートアップ企業の出現・活用 • 効果的なブランディング
  • 20. 5-1. 日本への示唆 (哲学的な視座) © Liquitous Inc. 20 • 今日の公共政策的課題を扱う上で、ある程度の技術的知見は欠かせない • 技術的知見がある者が、公共政策的課題への知見があると限らない(逆も同じ) • 少数ながら存在する、公共政策的課題に知見のあるテクノロジー畑の人間、テクノロジーに知見の ある公共政策畑の人間が、「ムラ化」してしまい、課題の認識や手法が、広く周知・理解されない • 「あるべき論」の議論がない限り、方法論の議論に終始。 • Digitization(デジタル化) は進むかもしれない • 一方で、DX:デジタル・トランスフォーメーションは進まない(登るべき山はどこの山なのか)
  • 21. 5-2. 日本への示唆 (行政DX=質的統治機構改革) © Liquitous Inc. 21 • 公共的課題は複雑。故に、既存の制度・枠組みの中で息継ぎをし続けるのではな く、あるべき論を論じ、新しい枠組みを作り、動かす『DX』という発想が重要 • DX=「あるべき論」× [汎用性のあるテクノロジー] × [利用者視点のUI/UXを追求するデザイン] • 日本の行政が漫然と抱える課題を克服する機会に • 前例主義 • 申請主義(社会福祉の文脈で早急に克服すべき課題) • 一律主義(特区活用による規制へのチャレンジ?) など • テクノロジーの課題と可能性 • 社会インフラとして「誰ひとり」取り残さない可能性 • テクノフォビア(テクノロジー利用に対する感覚的な恐れ)にどう向き合うか • 覇権主義的国家のテクノロジー活用と、日本におけるそれの質的・価値の明確な差異は何か
  • 22. 6. おわりに・お問い合わせ © Liquitous Inc. 22 忘れられないやりとり@エストニア (2018年) 栗本: 「日本からエストニアの 進んだ電子政府を学びに来ました!」 チュニジアのリポーター: 「えっ!こういう分野は 世界で日本が1番じゃないのかい!?」 お問い合わせ 合同会社Liquitous: https://liquitous.com 栗本メールアドレス: kurimoto@liquitous.com