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リモートワークで知っておきたい
コミュニケーション時の過大な期待
Egocentrismの研究
リズムを使った研究
● リズム実験(Neuton, 1990)
○ 有名な曲を手拍子で再現し、相手に伝わるかどうかを予想する。
○ 手拍子する側は「50%は伝わるだろう」と予想するが、
聴く側には、3%しか伝わらない!
● Egocentrism
○ 他の人の考え・反応を想像する時、自分自身が重要な参照点になる
→ 自分にとって明らかなものが、相手にとってもそうだと考えてしまう。
○ 手拍子する側は、手拍子の合間を埋めるメロディーや歌詞を頭の中で再生している。
しかし実際は、聴き手に聴こえているのは手拍子だけ。
研究
Title: Egocentrism over E-mail: Can we communicate as well as we think?
Year: 2005 (15年以上前!)
Authors: J. Kruger (ダニング•クルーガー現象で有名), N. Epley
Journal: Journal of Personality and Social Psychology
メールでのコミュニケーション
● アメリカでは、2001年にメールの数を手紙が抜いた(!)
○ テキストベースのコミュニケーションは新しくないが、その頻度が急増。
● 「メール」は「対面での会話」と比較して
○ チャンネルが限られている:口調やジェスチャーなどで和らげられない
○ 文字上は多義的な内容や、ネガティブな内容を上手く伝えられるのか?
○ 書き手は、受け手が口調やジェスチャーを再現できないことを考慮してメールを書けるか?
(egocentrismを乗り越えられるか?)
実験①
通常 皮肉
書き手
受け手:皮肉か否か判定
書き手:
1) いくつかのトピックについて、
「直接的な文面」と「皮肉な文面」
の2つを考えてメールに書く
a) 直接的:
「初めてのデートは楽しくありませんでした。」
b) 皮肉(=真意が字面と反対):
「初めてのデートの自意識過剰で慣れない感じは
楽しめました。」
2) 受け手の判定精度を予想する
受け手:
メールを読み、どの文が皮肉かを判定する
→
結果:
書き手の予測 97% vs 受け手の実際 84%
実験②
通常 皮肉
OR
書き手
受け手:皮肉か否か判定
メールだと
受け手の判定精度(”Actual”)は落ちるが、
書き手の予測(”Anticipated”)は変わらない。
= 伝達手段の差分を書き手側が考慮しきれない
ことが、過大な期待の原因
書き手と受け手が知り合いの場合・
伝えたい内容が皮肉に限らず感情の場合も
同様の結果。
実験③
通常 皮肉
書き手:
加えて、
1) 伝わるように OR
2) ニュートラルなトーンで
朗読する(ただし独り言)。
受け手:メールだけを読み、皮肉か否か判定
Egocentrismが働かないように操作すると、
書き手の予想が下がり、
過大な期待は解消される。
まとめ
● 通常のコミュニケーションは、トーンやジェスチャー・文脈などを通じて、
字面の内容以上の意味を伝えている。
● メールコミュニケーションは伝達チャンネルが字面に限られるため、
書き手の意図を、受け手が正しく解読することが難しい。
● しかし、書き手は脳内で抑揚をつけて再生できるため、そのことに気づかず
受け手が理解してくれると過大に期待してしまう。
● ニュートラルなトーンで朗読をすることで、Egocentrismが働かないように
することで過大な期待を下げることができる → 伝わらないことが理解でき
る
チャンネル紹介
● チャンネル名: 【経営xデータサイエンスx開発】西岡 賢一郎のチャンネル
● URL: https://www.youtube.com/channel/UCpiskjqLv1AJg64jFCQIyBg
● チャンネルの内容
○ 経営・データサイエンス・開発に関する情報を発信しています。
○ 例: アジャイル開発、データパイプライン構築、AIで使われるアルゴリズム4種類など
● noteでも情報発信しています → https://note.com/kenichiro

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リモートワークで知っておきたい コミュニケーション時の過大な期待

Notas del editor

  1. 今回は、リモートワークで知っておきたいコミュニケーション時の過大な期待というタイトルでお話します。 リモートワークが働き方の一つで当たり前となってきた今、対面でコミュニケーションをとっていた場合より、言いたいことが伝わらないと感じたことがある人は多いと思います。 文字上のコミュニケーションがなぜ意図した通りに伝わらないのか、 その原因と考えられるものとしてEgocentrismというものがあります。 このEgocentrismがどのようなものであるか、そしてそれを防ぐためにはどうすればよいかを研究した論文をこれから紹介します。
  2. まず、今回の論文を紹介する前に30年以上前に公開された1990年のリズム実験を用いた研究を簡単に紹介します。 この研究では、有名な曲を手拍子で再現し、相手に伝わるかどうかを予想する実験をしています。 手拍子する側は50%は伝わるだろうと予想したんですが、手拍子を聴く側には3%しか伝わらなかったという結果となりました。 50%と3%だと大きな差ですね。 この情報を伝える側と情報を受け取る側のギャップの原因として考えられるものがegocentrismです。 egocentrismとは他人の考え・反応を想像する時、自分自身が重要な参照点となることを言います。 言い換えると、自分にとって明らかなものが、相手にとっても当たり前だと考えてしまうということです。 この実験でいうと、手拍子をする側は、手拍子の合間を埋めるメロディーや歌詞を頭の中で再生していますが、聞き手に聞こえるのは手拍子だけです。 メロディーや歌詞を前提として手拍子しても伝わらないのは当たり前ということです。 エゴセントリズムがコミュニケーションを難しくする状況は一般的であると言われています。
  3. それでは、今回の本題に入っていきます。 今回はEgocentrism over E-mailというタイトルの論文を紹介します。 この論文は、Journal of personality and social psychology (JPSP)という社会心理学で最も権威ある雑誌の一つで発表された論文です。 著者はKrugerとEpleyです。Krugerはダニングクルーガー減少でも有名ですね。 メールでのコミュニケーションにおいてegocentrismが重大な問題になるということを、いくつかの実験によって詳しく示した論文です。 この動画では、論文の中の3つの実験を紹介します。 ダニングクルーガー効果: 能力や専門性や経験の低い人は自分の能力を過大評価する傾向がある
  4. いまでは当たり前となっているメールですが、手紙の数をメールが抜いたのは2001年。 テキストベースのコミュニケーション自体は新しくありませんでしたが、ITの普及によりメールの数が急増したということです。 21世紀初頭の時点でこう言うことが言われていたが、 コロナ禍を通じてslack等でのdocumentを通じたコミュニケーションがより一般的になった現在、 さらに重要な問題!
  5. 結果の解釈:書き手は、多義的な文面でも正しく理解してもらえると過剰に予測している(∵ 書き手の予測>受け手の実際) *ただし、実際受けても84%は正しく判定できているので弱い結果だと個人的には思います。。
  6. 実験1との差分は、ボイスレコーダー条件を作ったこと 書き手:直接的/皮肉な文を「メールで打つ」or「ボイスレコーダーに録音する」・受けての判定精度を予想する 受け手:受け取った文面が皮肉かどうかを判定する・自分の判定精度を予想する 結果の
  7. egocentrismのせいか?操作的に因果関係を調査。 実験1との差分は、メールを書く時に同時に朗読させる 書き手に、①伝わるように(=自分の視点) OR ②ニュートラルなトーンで(=受けての視点)録音させる
  8. 最後にチャンネルの紹介をさせてください。 このチャンネルでは、経営やデータサイエンスや開発の話をしていきます。 聞きたい話のリクエストも募集中です。 もし、この動画が役に立ったら高評価とチャンネル登録をお願いいたします。