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広告業界の衰退を景気悪化のせいにして良いのか?
- 1. 広告業界の衰退を景気悪化のせいにして良いのか?
―データから今後のヒントを探ってみる―
ボーダーゼロ
2009 年 11 月
1. はじめに
U U
広告業界に元気がないのは、既に多くのところで触れられている通りである。その原因として、広告主の
元気がないから、さらには広告主の最終的な取引先であるエンドユーザーの消費が落ち込んでいるからとい
う指摘が多くを占めている。確かに、要因の 1 つとして間違っていない。しかしこの要因を受け入れて成長に
向けた努力を怠れば、多くの広告会社はたちまち時流に飲まれて転落の一途をたどってしまう。諦めたとき、
残されているのはビジネスからの撤退のみなのだ。
元気がない広告業界にあって、広告会社が生き残り・成長するためのヒントはないものか?広告会社が自
己改善する点はないのか?広告主が広告会社に対しどのような認識を持っているのか。広告主の認識を把
握して広告会社各社が今後進む方向性を見出すことが必要なのではないか?日経広告研究所『広告動態
調査』の 2009 年版と 2008 年版のデータから読み解きたい。
2. パイが縮小する一方で新規取引先獲得を実現する広告会社も
U U
まず、広告業者の倒産件数が多いという発表から、広告業者と広告主との取引件数が大幅に減少してい
るだろうとの仮説に基づき広告主の取引先変更状況を見てみた。すると面白いことに、広告会社を替えたと
いう回答はわずか 15%程に過ぎず(データ間にタイムラグがあることは考慮必要)、その比率は前年度とほぼ
同じである(図 1a)。多くの広告主が広告会社の変更を行っていないにも関わらず業界全体のパイが縮小し
ていること、すなわち広告会社 1 社当りの売上減少および、その結果として体力のない会社が倒産に至った
と理解できる。
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- 2. 取引先を替えたと回答している広告主(図 1a の「緑」)の内、取引広告会社数を減らしたのは前年と同数で
ある一方、取引先数を増やした広告主が減らした広告主よりも多いと同時に増えていることは意外な事実だ
(図 1b)。「広告業界の衰退=取引広告会社数の減少」との仮説がかなりの確度で正しいと予測しがちだが、
実態は全く逆で増大している。こうした状況を生み出した背景に、広告主が既存とは異なる広告会社との取
引関係の構築に積極的に乗り出したことと広告業務を細分化して各専門に強みを持つ広告会社との取引を
強化する方針にシフトするようになったからではと推測できる。近年は、インターネットやデジタルサイネージ
などを活用した広告手法が台頭してきているだけに、これらの広告手法に秀でた広告会社には新規参入の
機会が生まれているのである。
そのほか、取引先数は変わらずとも取引先を替えた広告主が増えている点も注目したい。この点も、広告
主が既存の広告会社との関係をシビアに評価・判断し、成果を求めてコンペを行うなどして積極的に広告会
社の選別を行うようになったとの表れや広告媒体の変更に伴う広告会社の変更によるものだと判断できる。
少なくとも、広告業界全体のパイが縮小していようと、広告の存在意義は失われておらず、一概に広告業
務そのものが不要だと判断することは時期尚早である。むしろコストに敏感な広告主が、価格と品質の観点
から従来と比較してより積極的に発注先を選択するようになったことが顕著になっている。これら広告主と広
告会社との関係は、過去の取引関係の有無や人間関係といった俗人的なつながりなどから直近の課題へ
の解決能力を基準に構築・維持されるように変化してきていると考えられる。
では、こうした状況で、各広告会社はどのような戦略を構築することが求められるのかを次章以降で明ら
かにしたい。
3. 受け身の広告会社に道はない
U
前述のように、取引先を変更した 15%の広告主はどのような経緯から変更に至ったのか。図 2 では、変更
理由を 2008 年のデータの中から多い順に並び替えた。興味深いのが「広告会社からの提案」(2007 年は選
択項目に挙がっていないため変化は把握できず)。逆風が吹く中でも、自ら企画立案して広告主に売り込む
ことが生き残るための正統的な策なのは言うまでもない。
その他に目に付くのが「『新製品発表』に合わ
せて」という回答。新製品発表に合わせて既存取
引先と新規取引先にコンペで競わせて、過去の
実績よりも提案内容の質・価格から最適な取引
先をゼロベースで選び出すように変化してきてい
ると判断できる。既存取引先との取引関係に緊
張感を持たせたり既存の取引条件を見直したり
と、「新製品発表」というタイミングは取引関係の
見直しにおいて好ましいタイミングで、取引関係
を築けていない広告会社にとっては新規開拓の
最大の機会が訪れているとの見方もできる。まさ
に現在の広告業界は下克上の世界にあるといっても過言ではない。ただし、コンペにはすべての広告会社
が参加できるわけではなく、広告主の指名があって初めて参加できるものであるため、新規獲得を目指す広
告会社はコンペに参加できるような仕掛けなどを構築し、広告主の目に留まるようにしておかなければなら
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- 3. ない。
その他に特徴として挙げられるのが、「新製品発表」のように前年は変更のきっかけとして大きな要因を占
めていなかったものが、2008 年には要因の第 2 位に挙げられるように広告主側に大きな変化が生じている
点である。こうした広告主の変化に、絶えず広告会社が敏感に反応できるような体制、いうなれば能動的に
情報を収集する仕組みの構築も求められる。
4. 現状打破には「委託」・「期待」件数の増加が見られる業務を
U
広告業者にとっての取引先である広告主は果たして何を求めているのか。そこを把握しないで今後の策
を打つことは、暗闇に向かって鉄砲を撃つようなもので現在の苦境をさらに泥沼化するだけだ。例えば、既存
取引先のニーズは直接探るという方法が最も手っ取り早い。しかし、広告主全体の傾向を把握するというの
も決して怠ってはならない(図 3a)。というのも、既存広告主のリクエストが常に正しいとは限らず、広告主が
かれらの競合に勝つためにはその業界の動向なども把握した上での客観的な提言に価値が見出せるから
だ。極めて常識的な指摘であるが、広告主の意向にされてしまいがちな中で、一歩引いた目で提案すること
が、広告主の成長に貢献できるのであれば怠ることはできないはずだ。
さて、図 3a.で特に目を引くのが、2008 年の期
待項目上位 5 つのいずれもが 2007 年に比べて
増えている点だ。広告が効きにくいとも言われる
時代だからこそ、広告主の広告会社に対する期
待は増していると理解できるデータだ。また、3 章
で「クリエイティブ能力を考えて既存広告主を変
更した」という回答が多かったことを示したが、図
3a.でもクリエイティブ能力への期待の高さが際
立っている点は見逃せない。クリエイティブ能力
は競争力を業界内で保つ上では欠かせないと断
言できる。何を持ってクリエイティブ能力とするかは各社の判断による部分もあり、ある広告会社はクリエイ
ティブを制作能力と解釈したりある会社は企画力と解釈したりと様々であれ、広告主の成長を後押しする提
案力を広義のクリエイティブ能力と解釈したい。
広告会社への期待は図 3a.で示した通りだ
が、さらに踏み込んで広告主による業務委託件
数と広告会社へ期待の増減をまとめたのが図
3b.だ。横軸が委託業務の増減、縦軸が期待の
増減を示している。この分析に当っては、次の 2
点の留意が必要である。1 つ目は、委託業務と
期待の増減値は、2008 年と 2007 年の値の差
を用いていること。2 つ目は、委託業務と期待へ
の回答でそれぞれの元データから類似したモノ
同士の数を合算するなどデータを加工している
こと。
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- 4. これらを踏まえて、図 3b.の各象限の特徴は表 1.のようにまとめられる。
【表 1.業務委託・期待の増減関係】
U U
業務委託増減 期待増減
象限 特徴
(横軸) (縦軸)
第Ⅰ +(プラス) +(プラス) 今後も発注拡大が期待できる業務
第Ⅱ -(マイナス) +(プラス) 差別化に成功した広告会社に委託集中が見込まれる業務
第Ⅲ -(マイナス) -(マイナス) 規模の縮小が見込まれる業務
第Ⅳ +(プラス) -(マイナス) 価格優位性のある広告会社に委託集中が見込まれる業務
第Ⅰ象限に属する業務は委託件数・期待がともに増えていることなどから、多くの広告会社にとってこれからの
収益源として期待がもてる。また、第Ⅰ象限に分類される業務には、第Ⅱ、Ⅳ象限に属するものに比べて差別化・
価格競争が激しくなく、中堅の広告会社にとっても参入してトップの地位を築くことが可能なものでもある。もし、現
状のままでは成長が見込めないのなら、第Ⅰ象限に分類されている業務に進出してみる戦略を採用してはどうだ
ろうか。広告主の期待を上回るアウトプットの提供によって、新たな収益源の確保と安定的な受注を実現できるか
もしれない。ちなみに、期待が「-(マイナス)」を示す項目も元データではあるが、業務委託でのデータが取得でき
ておらず図 3b.に反映できないため、図 3b.では第Ⅲ・第Ⅳ象限のデータがないことを加えておく。
5. まとめ
データの一部を活用して、広告業界の置かれている状況を広告主の視点から明らかにしてみた。活用し
たデータ・サンプル数はほんの一部であり(活用した設問においても、回答件数が多いもののみ)、日常業務
で出くわす実態と乖離しているとの指摘はあるだろうが、一般的な傾向として業務に活用することは一概に
的外れとは断定できない。各広告会社は置かれた現状に嘆くのでなく、既存取引広告主との関係を絶たな
いよう与えられた機会を確実にモノにすると同時に、次々と誕生する広告のカタチに置き去りにされよう日々
成長していかなければならない。自社のリソースや広告主および広告主全体の傾向に基づき、これから注力
すべき業務を選択し集中していくことがより求められていくことはいうまでもない。
他社より魅力的かつ説得力に富んだ広告主の成長が見込める提案を行ったとき、広告主が貴社を選ぶ
確率は否が応でも上昇するだろう。そして、未だに 85%にも及ぶ広告主が広告会社の変更を行っていない
ことから、信頼を獲得して関係を構築した広告主からリピート発注を獲得できる確率も高まるかもしれない。
現状を嘆いて下を向くのではなく、前を向きピンチに果敢に挑みながら新たな競争に勝ち抜くための戦略
構築に取り組むことを強く勧めたい。
以上
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