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非専門医に求められる
経胸壁心エコー評価について
鈴木健太郎
5つのstepで判読する胸壁心エコー評価
経胸壁心エコーレポートは
パラメータだらけで難解.
今回,5つのstepで判読し,
心臓の病態を理解・評価する.
❶ 収縮能・壁運動
❷ 心腔径(拡大)
❸ 壁厚(肥大)
❹ 弁機能
❺ 圧の評価
当院の経胸壁心エコーレポート
① 収縮能・壁運動
LVEF(左室駆出率)の計算法
• Teichholz法(テイーショルズ法)
傍胸骨左室長軸断面(LAX)の,Mモードエ
コー図による一断面から計算する簡便な方法.
• modified simpson法
(≒method of discs:MOD)
2Dエコー図による心尖部2腔および4腔断面
から得る左室内容積をもとに計算.より正確.
分類 LVEF
LVEFの低下した心不全
(heart failure with reduced
EF:HFrEF ヘフレフ)
40%未満
LVEFの保たれた心不全
(HF with preserved
EF:HFpEF ヘフペフ)
50%以上
LVEFが軽度低下した心不
全(HF with mid-range
EF:HFmrEF
40%以上50%未満
①収縮能・壁運動
範囲
びまん性 diffuse
局所 focal
性状
正常 Normal
無収縮 Akinesis
収縮低下 Hypokinesis
異常(奇異)収縮 Dyskinesis
同期異常 Dyssynchorny
部位
(短軸)
前壁 anterior
側壁 lateral
後壁 posterior
下壁 inferior
中隔 septal
部位
(長軸)
心基部 base
中央部 mid
心尖部 apex
例:「前中隔(antero-septum)の中央部~心
尖部(mid~apex)に軽度収縮低下(mild
hypokinesis)」と記載あれば,左冠動脈前下
行枝領域に虚血による心筋壁運動障害が生じ
ていると解釈できる.
②心腔径(拡大),③壁厚(肥大)
心腔径 正常範囲
LAD left atrial dimension 左房径 ~40mm
AOD aortic dimension 大動脈(基部)径 ~37mm
LVDd left ventricular dimension diastolic 左室拡張末期径 ~55mm
RVDd right ventricular dimension diastolic 右室拡張末期径 ~32mm
壁厚 肥厚は全周(対称的)か.局所(非対称)か.
IVSth(IVS) inter ventricular septum thickness 心室中隔壁厚 7~11mm
LVPWth(PW) left ventricular posterior wall thickness 左室後壁厚 7~11mm
心エコーレポートを読む際に,この基準値に照らして判読することで数値を覚えることができます
④弁機能
弁膜症の程度(視覚的)
trivial 僅か.正常範囲
mild 軽度
moderate 中等度
severe 重度
4つの弁(大動脈弁,僧帽弁,三尖弁,肺動脈
弁)に,様々な成因で狭窄stenosis,逆流症
regurgitationなどの病態を生じる.
大動脈弁狭窄症,僧帽弁逆流症が臨床的に遭遇
する頻度が高い.severe(重度)な弁膜症を見
たとき,重症基準値や手術適応を成書で都度確
認すると,覚えの助けとなる.
レポート内に記載されている弁膜症の視覚的評
価(程度)を確認する.
moderate(中等度)以上から臨床的に問題と
なり,severe(重度)は弁膜症への外科的治療
を検討する状態と考える.Moderate以上の弁
膜症の場合に,逆流量,圧較差,弁口面積など,
各弁膜症に準じた数値評価がさらに追記される.
大動脈弁狭窄症の評価項目 重度の基準
弁口面積(AVA) 1.0 cm2
未満
弁最大血流速度(V max) 4.0 m/s以上
平均圧較差 (mean PG) 40 mmHg以上
重度ASゴロ覚え:「一番シ(四)ビア」
⑤圧の評価
下大静脈径と右房圧(RAP)の推定
静脈圧の亢進とともに血管径が拡張する,
15mm以上を拡張と考える.
肺動脈圧,右室圧,左室拡張末期圧
推定RAP,TR-PG*,PREDP**が得られると,以
下のように肺動脈圧等のの推測ができる.
*tricuspid regurgitation pressure gradient(TR-PG)
**pulmonary regurgitation end-diastolic pulmonary
regurgitation pressure gradient(PREDP)
肺動脈圧(pulmonary artery pressure PAP)
推定収縮期圧:PASP(PASP = TR-PG + RAP)
推定拡張期圧:PADP(PADP= PREDP + RAP)
右室収縮期圧RVSP≒PASP
右室拡張末期圧RVEDP≒RAP
PADP≒肺動脈楔入圧PAWP
≒平均左房圧mLAP≒左室拡張末期圧LVEDP
これらの圧値は「前負荷」の参考値となり,うっ血
性心不全の評価に活かすことができる.
下大静脈観察 推定右房圧
上段:下大静脈径の拡張がなく,吸気時に完全に虚脱する
(50%以上)
5 mmHg
下大静脈径の拡張がなく,呼吸変動あるとき(通常状態) 10 mmHg
下大静脈径15mm以上で,50%未満の呼吸変動のとき 14 mmHg
下段:下大静脈径が20mm以上で,呼吸による変動が全くない 20 mmHg
⑤圧の評価(実演)
① 推定RAPは前項の下大静脈評価から数値を推測する.
② 三尖弁逆流TRを有する場合,ベルヌーイ式*から得
る三尖弁逆流速度をもとに,収縮期の右房-右室圧較
差(三尖弁圧較差TR-PG)が推測できる.右室収縮
期圧RVSPは(三尖弁圧較差TR-PG) + 推定RAP
となる(RVSP≒ PASP≒TR-PG + RAP).
*圧較差PG mmHg =(逆流血流速度 )2 x 4
③ さらに肺動脈弁逆流PRを有する場合, PREDPを測
定できる.PREDPは拡張期の肺動脈-右室圧較差で
あるので,肺動脈拡張期圧PADP≒PREDP + RAPと
推測する.
④ 肺血管内には弁は存在しないため,健常肺では
PADPと平均左房圧mLAPは近似する.mLAP ≒肺動
脈楔入圧PAWP≒左室拡張末期圧LVEDPを推測でき,
理論上は左心系の前負荷の評価も可能となる.
TR-PG
16mmHg
(収縮期)
RAP
5 mmHg
PREDP
4mmHg
(拡張期)
RVSP≒ 16 + 5(21 mmHg)
RVDP≒RAP(5 mmHg)
PADP≒PREDP + RAP
=4+5(9 mmHg)
PASP≒RVSP(21mmHg)
PADP≒PAWP
≒mLAP≒LVEDP
=9mmHg
心内圧基準値:RAP 1~6mmHg,RV s/d 15~30/1~5,PA s/d 15~30/4~12,PAWP 3~13
①
②
③
④
5 stepでレポートを評価する①~③
①収縮能・壁運動 (■マーカ部)
EF(MOD≒Smpson変法)60%と保たれ,
壁運動もnormal
②心腔径(拡大)(■マーカ部)
LAD 40mm未満,(LV)Dd55mm未満で
いずれも正常範囲.
③壁厚(肥大) (■マーカ部)
IVS(中隔),PW(左室後壁)12mm未満で,
正常範囲
5 stepでレポートを評価する④
④弁機能 (■マーカ部)
Trivial TR,MR(-),AS(-)と問題なし.
mild~moderate ARと,moderate(中等度)
以上は注意して評価する.
弁膜症の参考書を手元に置き,
ARについての詳細な数的評価する.
5 stepでレポートを評価する④
④弁機能
ARについての、詳細な数的評価
本症のエコー動画を確認し,ARジェットの到達
点は乳頭筋~僧帽弁レベルの間であった.
一方,PHTおよびLVDdは正常域であった.
mild~moderateの判定で経過観察の方針.
また,RV量を計測するよう,エコー技師に申し
送りする.
AR重症度の判定 軽度 中等度 重度
ARジェット
の到達点
僧帽弁レベル 乳頭筋レベル 心尖部レベル
PHT*(msec) 500以上 500~200 200以下
LVDd 正常範囲 55mm以上
逆流量RV 5ml未満 5~59ml 60ml以上
5 stepでレポートを評価する⑤
⑤圧の評価(■マーカ部)
IVC 呼気時 7mmと,下大静脈径の拡張がなく,呼吸変動
は50%以上はないので,虚脱とは判断せず.推定RAP
10mmHgとなる.
TR-PG 20 mmHgと計測できているため,推定収縮期肺
動脈圧PAsP 30mmHgである.肺高血圧病態(40mmHg
以上)は認めず,正常範囲.
また、PREDP 2mmHgと測定できており,推定PAWP
12mmHg程度と推測される.
心エコー所見では,前負荷は正常範囲と判断(eu-
volemic) .
あくまで推測値のため,前負荷の評価は実際の臨床所見も
加味して総合的に判断する(内頸静脈怒脹,浮腫,肺水腫,
胸水など).
5 stepでレポートを評価する(①~⑤要約)
レポート要約 (循環器医のコメント例)
①EF(%)60,壁運動異常なし
②心房・心室腔拡大なし
③壁肥厚なし
④弁膜症 軽度~中等度大動脈弁逆流あり
⑤下大静脈拡大なし
推定右房圧(mmHg)10
推定肺動脈圧(mmHg) 30
推定左室拡張末期圧(mmHg) 12
(⑥拡張障害はE波↓,A波→,DT140ms以上で軽度拡張障害(弛緩障
害型).E/e’ 概ね10未満で同義域です)
⑦要約・提案
収縮能保たれ,軽度拡張障害のみ.前負荷高値も認め
ず.前回エコーと比較しても,ARパラメータは著変な
く,軽度~中等度の指標範囲内でした.心不全症状有
無の観察,半年~年1回の心エコー評価をお願いしま
す.次回はARの逆流量も計測指示を.
5つのstepで判読し,心臓の病態を評価した.
❶ 収縮能・壁運動
❷ 心腔径(拡大)
❸ 壁厚(肥大)
❹ 弁機能
❺ 圧の評価
心エコーを通じて病態を評価し,
心不全のコントロール状況(例:前負荷),
心不全の原疾患は何が疑われるか
(例:虚血,弁膜症,心筋症)
を評価できるようなりましょう.
今回は,
「拡張障害」の評価,救急・急変の場で役立つ「point of care USにおけるvisually
estimated EF等の簡易評価法」については触れることができませんでした.
まとめ
参考文献
参考文献
心臓超音波テキスト 日本超音波検査学会監修 医歯薬出版株式会社
2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版
急性・慢性心不全診療 日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン
2020年改訂版 弁膜症治療のガイドライン(日本循環器学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会/日本心
臓血管外科学会合同ガイドライン)

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非専門医に求められる経胸壁心エコー評価について【ADVANCED】

Notas del editor

  1. 非専門医に求められる経胸壁心エコー評価について、解説します
  2. 心エコーレポートは数々のパラメータだらけで、難解です 今回、心エコーレポートを以下の5つのステップで判読し、心臓の病態を理解・評価します 最小限に項目を絞っています
  3. まずはステップ①、収縮能の評価です 左室駆出率、EF(イーエフ)は主に二つの計測法で記載されています Teichholz法(テイーショルズ法)とmodified simpson法(モディファイド シンプソン法)です モディファイド シンプソン法は、複数断面から計算し、より正確なEF計測ができます EFは心機能を評価するうえで、第一に注目されます 心不全の分類でも、EFが保たれたヘフペフ、EFが低下したヘフレフに分類されます 近年、ヘフレフに対する薬物治療法がガイドラインに明記され、注目されている領域です
  4. EF評価の、つぎは壁運動に注目します EFに異常がある場合、 異常の範囲、性状について、さらに述べています EFが低下している拡張型心筋症を例にあげると、 心室の全周びまん性に収縮能低下していますので、全周性のdiffuse hypokinesis(ディヒューズ ハイポ カイネシス)と表現します 右の図は、心室の解剖学的部位と、赤字は冠動脈の走行を示したものです 例えば、左室の前中隔の中央部~心尖部に軽度収縮低下と記載あれば,これは局所的な異常所見であり、 その部位を栄養する左冠動脈前下行枝に、血流障害による心筋壁運動障害が生じていると推測できます
  5. つぎのステップ②、③は心腔径と壁厚(へきこう)の評価です 心腔径で主に評価するのが、左房径、大動脈基部径(だいどうみゃくきぶけい)、左室および右室の拡張末期径の、4つです 壁厚は、主に左室中隔や後壁を計測します 壁厚の異常が、心室全周性に対称的に認めるのか、あるいは局所的に非対称に認めるのかも、注目します これらの数値をみて、ある疾患に特徴的な所見がないか判断しています 正常範囲の数値を覚えるのは大変です 心エコーレポートを読む際に,この基準値に照らして判読することで数値を自然と覚えることができます
  6. ④つ目の、ステップは弁機能の評価です 弁膜症の程度は、視覚的に trivial(トリビアル)から、severe(シビア)に分類されます このうち、 moderate(モデレート)以上からが、臨床的に問題となることが多く, severe(シビア)は弁膜症への外科的治療を検討する状態となることが多いです したがって、moderate(モデレート)以上の弁膜症については、病態ごとの数値評価が追記されます 大動脈弁狭窄症や僧帽弁逆流症が臨床的に遭遇する頻度が高い弁膜症です Severe(シビア)な弁膜症を見たときに、重症基準値や手術適応を成書で都度確認すると,覚えの助けとなります 例えば、重度の大動脈弁狭窄症と心エコーレポートで記載があったとしたら、成書に照らして、弁口面積や圧較差などの数値を確認すると、病態理解にも、あるいは数値を覚える助けになります。ちなみに語呂覚えでは、一番・シビアと覚えています
  7. 最後、⑤つめのステップは、圧の評価です まずは、下大静脈と推定右房圧についてです 下大静脈は静脈圧の上昇とともに血管径が拡張します 拡張径と呼吸変動の有無により、左下の表の通りに、右房圧を推測できます 推定右房圧と、加えてTR-PGあるいはPREDPが得られれば、 肺動脈圧や左室拡張末期圧を推測することができます これらの圧値は「前負荷」の参考値となり,うっ血性心不全の評価に活かすことができます 次のスライドで、計測の実演を行います
  8. では、圧の評価を実際に行ってみます ①番目 一つまえのスライドで、下大静脈径から、推定右房圧を計測します ここでは5ミリ水銀柱(すいぎんちゅう)と仮定します ②番目 三尖弁逆流を有する症例に限り、ベルヌーイ式により得られる三尖弁逆流速度をもとに、三尖弁前後である右房ー右室の圧較差が推測できます この三尖弁前後の圧較差が16であった場合、推定右房圧が5であったなら、足して 21が右室収縮期圧となります 三尖弁逆流は収縮期に生じている現象ですので、右室収縮期圧を反映すると理解してください 逆に拡張期は三尖弁が開放し、右心房と右心室の圧がほぼ等圧と考えます すると右室拡張期圧は右房圧とほぼ同等と考えます 以上の考え方から、右室収縮期圧および拡張期圧はそれぞれ21/5と推測されます ③番目 さらに肺動脈弁逆流を有する症例に限り, PREDPを測定できる.PREDPは拡張期の、肺動脈弁前後である、肺動脈-右室の間の圧較差です そこで肺動脈拡張期圧は、PREDPと推定右室拡張期圧、すなわち右房圧を足したものとなります ここでは、PREDPが4であったため、右房圧の5を足して、9となります 肺動脈収縮期圧は、収縮期の肺動脈弁が開放している時の圧ですので、右室収縮期と同等となります 以上の考え方から、肺動脈収縮期圧および拡張期圧はそれぞれ21/9と推測されます ④番目 肺血管内には弁は存在しないため,健常肺では理論上はPADPと平均左房圧mLAPは近似します 平均左房圧は、肺動脈楔入圧や左室拡張末期圧と近似します ここでは肺動脈拡張期圧が9と推測されていますので、肺動脈楔入圧や左室拡張末期圧は9と推測されます
  9. 実際のレポートを評価します まずステップ①収縮能・壁運動です ピンク色のマーカ部です EFは60%と保たれ,壁運動もノーマルです つぎにステップ②心腔径で、黄色マーカ部です LAD 40mm未満,LVDd55mm未満でいずれも正常範囲. 左房も、左室も異常拡張はないと判断できます ステップ③は壁厚です 緑色のマーカ部です IVS中隔,PW左室後壁はいずれも12mm未満で,正常範囲です 左室肥大はないと判断できます
  10. ステップ④は弁機能です 青色のマーカー部です トリビアルわずかなTR(ティーアール)で,MR(エムアール)なし,AS(エーエス)なしと問題ありません. mild~moderate AR(マイルドからモデレート エーアール)とあり, moderate(モデレート)以上は注意して見てみます. 弁膜症の参考書を手元に置き,ARについての詳細な数的評価をしてみます.
  11. ARについての、詳細な数的評価です 本症のエコー動画を実際に確認し,ARジェットの到達点は乳頭筋~僧帽弁レベルの間でありました。 一方で,PHTおよびLVDdは正常域でありました. 総合的に判断して,mild~moderate AR(マイルドからモデレート エーアール)の判定で経過観察の方針とした. また,RV量を計測するよう,エコー技師に申し送りを行いました.
  12. 最後のステップ⑤は圧の評価です 下大静脈IVCは 呼気時 7mmと,下大静脈径の拡張がなく,呼吸変動は50%以上はないので,虚脱とは判断せず.推定RAP 10mmHgとしました. TR-PGは 20 mmHgと計測できているため,推定収縮期肺動脈圧PASPh30mmHgとしました. 肺高血圧病態(40mmHg以上)は認めず,正常範囲と判断しています. また、PREDPは2mmHgと測定できており,推定PAWPは12mmHg程度と推測されます. 心エコー所見では,前負荷は正常範囲と判断と判断されます. 圧の計測値は、あくまで推測値であります 実際の臨床所見も加味して,総合的に判断する必要があります.
  13. 今回の心エコーレポートの要約です ⑦番目には、今回のエコー所見の要約と、専門医からの提案が記載されています。異常値がある場合は、前回心エコー所見とも比較します
  14. このスライドでは、 5つのstepで判読し,心臓の病態を評価しました これにより 前負荷、心不全のコントロール状況が推測でき 心不全の原疾患は何が疑われるのかが、評価できます
  15. 参考文献です (終了)