1. 職場における組織市民行動の役割を
学習するためのゲーム教材の開発
―成果行動との対比に注目して―
早稲田大学大学院1・カレイドソリューションズ株式
会社2・東京大学大学総合教育研究センター3
福山 佑樹1 高橋興史2 中原 淳3

2. 研究の概要
職場の多忙化により，従業員が成果の出にくい
行動に取り組まなくなっている
↓
成果に直結しないが、職場を円滑にする行動の
重要性は古くから指摘されている
↓
「組織市民行動」の役割を学習するための
ゲーム教材を開発し、評価を行った
2

3. 社会背景
 人員削減による多忙化の結果，従業員が
成果の出にくい仕事に取り組まない
(労働政策研究・研修機構,2006)
 しかし、成果に直結せず組織の機能を円
滑にする行動の重要性は古くから指摘さ
れている (Katz＆Kahn,1966など)
→本研究では組織市民行動に注目

4. 組織市民行動とは？
任意の行動であり，公式の報酬システムによっ
て直接，もしくは明確に承認されているものでは
なく，集合的に組織の効率を促進するもの
である＇Organ,1988（

5. 組織市民行動と社会的ジレンマ
 社会的ジレンマとは…
個人の短期的利益と集団の長期的利益が反す
るような状況である
 組織市民行動では…
 短期的に個人の仕事のコストの増大
 長期的に組織を円滑にし、利益に貢献
→OCBは社会的ジレンマを含む といえる
(Joireman et.al.,2006)

6. 組織市民行動研究の課題
 OCB研究…
 規定要因の研究は数多く行われている
 しかし、個人レベルから組織市民行動を学習
し，行わせるという側面からの研究はほとんど
ない
⇒OCBの知識とその重要性認知を向上させるこ
とを目的とし，ゲームを利用した教育に着目

7. ビジネスゲームと経験
 ゲームを利用した経験学習
複雑な領域における解決策を体験を通して積極的に学
ぶことができる(Gee,2003)
 ビジネスゲーム
日常業務から実際には「経験することが困難な状況」を
想定した訓練まで様々に利用されている
(小嶌,2009)
⇒経験から学ぶビジネスゲームが現在主流
(Faria,2009)

8. 組織市民行動とゲーム
 OCBは日常性の高さからその重要性や，知識を得
づらいことが想定される
 ゲームのメリット(藤本,2007)を生かすことで，OCBの
「全体像を掴み」，「重要な箇所」を強調して経験の
中で学ぶことが出来る
⇒OCBの重要性を体験出来るゲームは、
これまで管見の限り存在していない

9. OCBゲームの特徴とねらい(1)
 ドラフトゲーム
回ってきたカードの中から，「成果行動」「組織市民行
動」のどちらをとるのか選択する．
⇒現実のビジネス環境を想定した体験
 (準)協力ゲーム
成果行動のポイントを最も稼いだ参加者が勝者．
しかし、会社全体の業績が一定水準を下回った場合，
会社は倒産してしまい全員が負けとなる．
→社会的ジレンマによる葛藤学習

10. OCBゲームの特徴とねらい(2)
 異なる環境(ルール)下でのゲーム
「業績がより悪い」会社，「過剰な成果主義が導入され
た」会社という追加ルール
⇒OCBが会社の状況・風土(特に成果主義)に影響さ
れることを体験
 これらの特徴により、OCBの重要性と知識を参加者
は得ることが出来る

11. 組織市民行動ゲーム
ルール
11

12. ゲームの流れ～概要～
１．カードを「１枚」取る
２．時計回りに残りのカード全部を回す
３．回ってきたカードから「１枚」取る
４．３枚のカードが場に出たらカードを補充する
５．６枚が場に出たら終了
６．得点を計算して、勝敗を決める
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13. 勝敗条件
大前提：
会社の目標が達成されている
↓
未達の場合、倒産＝全員GAME OVER
目標達成の場合：
「個人成果」がもっとも多い人の勝ち！
13

14. 終了時の処理
１．成果行動の合計
２．組織市民行動の合計
３．会社の存続判定
４．勝者の決定

15. ゲームで使用するカード
休んでいる
• 組織市民行動カード 人の仕事を手伝う
○○さんは、
日本版組織市民行動尺度 休みか・・・
ちょっと手伝おう
(田中,2008)の項目をカード
化したもの。会社全体の成果 全体成果+30%
に貢献するカード 自分の成果ー１
裏になっているカード１枚を
表にできる
目標に着実に
• 成果行動カード
何はなくとも
会社の中で、個人の成果を まずは
目標達成だね
あげるカード。ビジネスパーソ
ンへのヒアリングから作成 個人成果+2 15
静かに処理順カードの
順位を自分が１番にする

16. 実験と結果
16

17. 実験の手続き
 27歳以上の男女12人を公募で募集
 実験の手順
1. OCBについての簡単な講義(10分)
2. 事前アンケート(10分)
3. ゲーム体験(90分)
4. リフレクション(30分)
5. インタビュー(１人10分)
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18. 評価(分析済み)
 事前事後の選択式アンケート
1.OCB重要性認知尺度
日本版組織市民行動尺度(田中,2004)から４因子１６
項目を一部改訂して使用
2.OCB知識
OCB行動やそのメリット・デメリット・規定要因について
の知識を尋ねる質問５項目
 リフレクションシート
リフレクションの際に参加者にゲームの感想や、
個人・組織としてOCBの効果に関して記入

19. 実験の結果(アンケート)
 事前・事後アンケートを、対応のあるt検定によって分析
 OCB重要性認知尺度
 「対人援助」→有意ではなかった(t(11)=.137,n.s.)
 「誠実さ」，「職務上の配慮」→5％水準で有意
(t(11)=2.31,p<.05 , t(11)=2.39,p<.05)
 「組織支援行動」→有意傾向(t(11)=1.48,p<.10)
 OCB知識
 ５％水準で有意 (t(11)=2.90,p<.05)
19

20. 実験の結果
20

21. 考察(OCB行動の重要性)
 「組織市民行動を重要である」と認識
⇒有意差がなかった「対人援助」は，負荷が高いと
が認識したことが想定される
⇒中央値３．５は超えており、重要性を認知して
いないわけではなかった
リフレクションシートより
「組織市民行動は重要だと思うが自己犠牲を
しすぎるとシンドイ」 21

22. 考察(OCB知識)
 「組織市民行動についての知識」を獲得
⇒組織市民行動の重要性について日常の仕事とリン
クさせながら振り返り、知識を獲得した
リフレクションシートより
「全体への貢献＇組織市民行動（がないと会社が成り
立たないことが分かったが，自分が日常でそれをでき
ているのかということを考えさせられた」
22

23. 考察(成果行動との対比)
 成果行動と対比しながら組織市民行動につい
て考察するリフレクションシートが多かった
⇒組織市民行動について，成果行動との対比の中で
学ぶことが出来た
リフレクションシートより
「成果をあげるTop Playerは尐数で良い，他
の人は平均的にそこそこの成果をあげつつ全
体を助けるような協力行動をする＇ことが会社 23
にとって重要である（」

24. まとめ
 本研究ではOCBを体験して学習するための
カードゲーム教材を作成した
 ゲームを通じて参加者はほとんどのOCBを重
要であると認識し、知識を獲得していた
 参加者は異なるルールを体験することで、
成果主義とOCBの関わりを体験した 24

25. 今後の課題
 公募でなく会社(職場)単位での実践
→組織の問題解決にも資することができるかを明
らかにする(2012年に実施予定)
 ゲーム内でOCBを多く実施した参加者を
報いるような味付け
→現実のOCBには“感謝の言葉”などがあり金銭
的でなくても“満足感がある” (参加者の言葉)