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ISSN 2187-4115
LRGライブラリー・リソース・ガイド 第10号/2015年 冬号
発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社
Library Resource Guide
特別寄稿 梅澤貴典
ライブラリアンの講演術
“伝える力”の向上を目指して
司書名鑑 No.6 磯谷奈緒子(海士町中央図書館)
特集 編集部
離島の情報環境
LRG Library Resource Guide
ライブラリー・リソース・ガイド
第10号/2015年 冬号
発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社
特別寄稿 梅澤貴典
ライブラリアンの講演術
“伝える力”の向上を目指して
司書名鑑 No.6 磯谷奈緒子(海士町中央図書館)
特集 編集部
離島の情報環境
002 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
巻頭言
2012年11月に創刊という第一歩を踏み出した本誌も、このたびついに二桁の
第10号を刊行する運びとなりました。これまでの足跡は、読者のみなさまのお
かげで、私どもなりの実りとなっています。ここまでのご支援に心から御礼申し
上げます。さて、今号は、
● 特別寄稿「ライブラリアンの講演術ーー 伝える力 の向上を目指して」
梅澤貴典
● 特集「離島の情報環境」編集部 
● 司書名鑑No.6「磯谷奈緒子」(海士町中央図書館)
● 羊の図書館めぐり第4回「男木島図書館」水知せり
という構成です。節目の第10号ということもあり、今回は数々の念願の企画が
実現しています。いずれの記事も、相当な読みごたえがあることを約束します。
まず、中央大学職員として日々業務に邁進しながら、同時に学術情報リテラ
シーの啓発と普及に努める梅澤貴典さんには、「ライブラリアンの講演術ーー 伝
える力 の向上を目指して」をご寄稿いただきました。実は梅澤さんと直接お目
にかかったのは比較的最近です。しかし、そのご高名は当然ながら、存じ上げて
いました。そして、実際に相対してみて、その巧みな話術と高潔な人格に接し、
いつかは必ずこの方にご寄稿いただきたいと考え、この1年ほど、企画を温めて
きました。梅澤さんの講演機会を徹底的にチェックし、可能な限りその内容を追
い、聴講された方々の評判を分析し、ようやくまとまった案をもって梅澤さんに
相談できたのが昨年末のことでした。
ご寄稿を依頼する以上は、こちらも当然真剣です。突出した才能を持ちつつ、
同時に徹底的に努力の人である梅澤さんの持ち味をさらに引き出したく、あえて
無理な注文もお願いしました。結果、読者のみなさまにとっても、充分に納得で
きる内容となっているはずです。図書館の世界において、梅澤さんは名講師の一
人として知られています。読者のみなさまには、あえてその手の内をさらけ出し
てくれた梅澤さんの真意を汲み、ただ称賛するのではなく、一人でも多くの図書
館関係者が第二、第三の梅澤さんとなり、互いに切磋琢磨する関係を築いていく、
巻頭言 情報環境と私たちの未来
003ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
巻頭言
そのための一助となればと願っています。
特集の「離島の情報環境」は、創刊当初から温めてきた企画です。この企画を実
現するために、及ばずながら私もこの3年間、できる限り離島を訪れてきました。
とはいえ、日本の有人離島は300以上。とうてい、周りきれるものではありま
せんが、それなりの島々をめぐり、また島にお住いの方々、あるいは離島経済新
聞(リトケイ)のような島をめぐるメディアの方々との交流を通して、今回の特集
が実現しました。関係者のみなさまには、心から御礼申し上げます。
今回の特集は、すべての有人離島に徹底した調査を行い、文字通りの悉皆調査
となっています。また、特集タイトルをあえて「情報環境」としているように、今
回の調査は、公共図書館だけではなく、学校図書室や公民館図書室、さらには書
店といった広く知識・情報の提供に関わる関係機関までを対象にしています。こ
の種の調査としては、日本で初めて「離島の情報環境」をある程度までは概観でき
るものと確信しています。
離島というと、本州・本土の自治体からすれば、どこか「他人事」のように思わ
れるかもしれません。しかし、本特集でも大きく扱っている島根県隠岐諸島の海
士町が特にそう言われているように、離島には島国である日本の将来が凝縮され
ています。少子高齢化や過疎・限界集落どころか、ついには「消滅自治体」の可能
性までが取りざたされるようになりました。賛否両論ありますが、1,700超の自
治体のうち、900近い自治体の存続が危ぶまれるという説が大きな反響を呼ぶい
まこそ、離島のあり方、そして離島の情報環境のあり方は「自分事」として捉えな
ければいけないと考えます。本特集が、みなさんや、みなさんがお住まいのまち
の未来を照射する材料の一つとなりますことを願っています。
そして恒例のお願いです。手前味噌な発言であることは重々承知のうえですが、
本誌には、今回のような充実した特集をつくりあげるだけの力があります。また、
現在、日本の図書館界において、本誌編集部が相当程度に重要な調査機関として
の役割を果たしているという自負もあります。この機能・役割を維持し、さらに
は発展させていけるよう、引き続きのご支援を心からお願い申し上げます。
編集兼発行人:岡本真
巻 頭 言 情報環境と私たちの未来[岡本真]………………………………………………… 002
特 別 寄 稿 ライブラリアンの講演術 ─ 伝える力 の向上を目指して[梅澤貴典]… 005
特   集 離島の情報環境[編集部] ……………………………………………………………… 044
LRG CONTENTS
Library Resource Guide
ライブラリー・リソース・ガイド 第10号/2015年 冬号
司書名鑑 No.6 磯谷奈緒子(海士町中央図書館)
羊の図書館めぐり 第4回「男木島図書館」[水知せり]
アカデミック・リソース・ガイド株式会社 業務実績 定期報告
定期購読・バックナンバーのご案内
次号予告
県立図書館による市町村支援の取り組み
地理的制約を超えた松浦市の離島支援体制
[column] 離島の情報源
書店と図書館が一体の「BOOK愛ランドれぶん」
海士町(中之島)、島まるごと、独自の図書館づくり
相互乗り入れによる八重山列島の図書館機能
[column] 離島資料と図書館
島を渡るセブンアイランド移動図書館
海上輸送ルートを活用した鳥羽市の戦略
[column] 離島への旅
オンバを使った男木島の移動図書館
市艇を利用した笠岡市の配本の取り組み
[column] 移動図書館船
離島の情報環境リスト
……………………………………………………… 046
…………………………………………………… 054
………………………………………………………………………… 055
……………………………………………… 056
…………………………………………… 058
………………………………………………… 064
…………………………………………………………………… 065
………………………………………………………… 066
……………………………………………………… 068
…………………………………………………………………………… 069
…………………………………………………………… 070
……………………………………………………… 074
………………………………………………………………………… 076
…………………………………………………………………………… 078
………………………………………………… 140
…………………………………………… 146
…………………………………………………… 148
……………………………………………………………………………… 152
…………………………………………………………………………………………………………… 155
特別寄稿 梅澤貴典
ライブラリアンの講演術
“伝える力”の向上を目指して
006 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
本稿では、公共や大学などの各図書館で「利用者のための講習会」を担当される
職員の方々に向けて、限られた時間の中でより良く内容を伝えるための「心構え
とコツ」、「内容の作り方」、「講習の実例」について紹介する。 
とりわけ、「人前で話すのが苦手だ」とか「ちゃんと伝わっている気がしない」、
あるいは「相手が興味をもって聴いているか不安だ」という方々にこそ、大いに活
用していただき「聴き手・話し手どちらにとっても実り多く、楽しい講習」となる
ことを目的としている。
筆者は、ちょうど電子化の波が押し寄せていた時代(2001 ∼ 2008年)に、理
工学系の大学図書館に勤務して情報リテラシー教育を担当していた。理工学部の
新入生向けの導入教育(高校までの学習を大学教育に円滑に導入するための教育
のこと)から、研究室のテーマで個別デザインした大学院生向けのオーダーメイ
ド型まで、それぞれレベルに応じた講習会を企画・実施してきたが、上手く伝
わったこともあれば失敗したこともある。ここでは、それらの経験を踏まえて
「講習の心構え7ケ条」(どのように話すか)、「伝えるべき7ケ条」(何を話すか)、「大
学新入生向け講習の誌上実演」の3章を順に紹介する。
ライブラリアンの講演術
“伝える力”の向上を目指して
中央大学 学事部学事課 副課長。青山学院大学Ⅱ部文学部英米文学科
卒業。在学中は学生雇員として4年間大学図書館に勤務。中央大学の
理工学部図書館では7年間、電子図書館化と学術情報リテラシー教育
を担当。働きながら東京大学の大学院教育学研究科(大学経営・政策
コース)修士課程を修了し、現在は社会人や一般市民も対象として「学
術情報リテラシー教育による知的生産力・企画立案力の向上」を目指
し、研究と実践を続けている。
1. はじめに
梅澤貴典(うめざわ・たかのり)
007ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
読者の中には、筆者よりも経験が豊富な方も多いと思われるので恐縮だが、「こ
んな考え方、やり方もある」という参考にしていただければ幸いである。
まずは、図書館という場に限らず「人前で話す」際の全般に言える心構えとコツ
を7つのポイントにまとめた。これは「企画案のプレゼンテーション」や「研究会
での発表」など、さまざまな場面に応用して役立てられるはずだ。
1)「今日の話を聴くと、何が得られるのか」を始めに宣言する
2)「この人の話を聴いてみたい!」と思わせる
3)「ここがポイント!」と分かるように話す
4)「たとえ話」を使って、具体的なイメージをもたせる
5)単に「聴く」だけでなく、レクチャーに参加させる
6)先の読めない展開で、ワクワクさせる
7)「ご清聴ありがとう」から「質問をどうぞ!」へ
1)「今日の話を聴くと、何が得られるのか」を始めに宣言する
「始めに結論を述べる」のはスピーチの基本だが、これが意外に守られていない
ことも多い。今日話そうとしている内容が「図書館の活用法」であり、ゴールは
「蔵書検索システムで資料を探せるようになること」であり、それが身につくと
「これまで我流で探していた時よりも、効率的に多くの信頼できる情報が見つか
ること」を、必ず冒頭で宣言しているだろうか?
「そんなことは自明であり、わざわざ説明する必要はない」と考えてしまって、
「はい。まずは『キーワード』の欄に、『憲法』と入力して検索ボタンを押してみま
しょう」などと、前置きなく始めていないだろうか。
「いったい何の役に立つのだろう?」と疑問に思いながら長い話を聴くのは、誰
しも苦痛なものだ。そして聴き手の表情や態度からそれが話し手にも伝われば、
お互いにとってますます辛い時間になるだろう。それを防ぐためにも、シンプル
2. 講習の心構え7ケ条
008 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
なメッセージとして「この話を聴くメリット」を始めに宣言するのは、最も大切な
ことの一つだ。
筆者が山梨県の公立大学・都留文科大学で非常勤講師として担当している「図
書館情報技術論」の授業(図書館司書の資格取得を目指す3年生のための3日間の
集中講義)では、初日の朝1時限目の冒頭で「皆さんには、この授業で 一生の宝
になるスキル を身に付けてもらいます」と宣言した。
本から電子データベースまで、さまざまな「裏付けある情報」の探し方に精通す
ることは、「学生・社会人・市民として、これから遭遇するあらゆる問題に対し
て、解決策を見つけて乗り越える力」になるからだ。ましてや「教える側 」として
の知識・技術を学ぶことは、さまざまな利用者のニーズを想定しなければならず、
「探す側」として1回の講習を聴くだけの効果とは格段の差がある。そのように理
由を説明した上で、「皆さんには、今日で検索エンジンとフリー百科事典に頼る
生き方を卒業してもらいます」とも付け加えた。その理由は「どこの誰が言ったか
分からない情報に頼っていると、いつか無意識に間違った情報を拡散することに
なり、周囲からの信頼を失う」からだ。ましてや、図書館の職員や学校の教員の
発言には、友人同士や家族の間でやりとりされる日常会話としての情報交換とは
異なり、責任が生じる。
この理由を説明せずに、いきなり「Web情報は、玉石混交なので危険です」と
か「フリー百科事典は、信用できないのでレポートに使ってはいけません」という
話から始めると、幼い頃からWebに慣れ切った世代の学生達にはたちまち拒否
反応を起こされ、ますます身構えられてしまうだろう。
講習にあたっては、「何を伝えるべきか」より前に、まずは「どのような相手か」
を認識することが第一歩となる。たとえば、「これだけ情報がWeb化された時代、
図書館なんて、カフェ的な勉強部屋としての役割以外に、何があるのだろう?」
と考えている相手には、こちらが予定していた「本の探し方」を伝える前に、まず
は「なぜ本を探すのか?」という話から講習をスタートさせるほうが、格段に興味
をもたれるだろう。
009ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
2)「この人の話を聴いてみたい!」と思わせる
講演の成否は第一印象に大きく左右されるため、まずは笑顔と挨拶が大切であ
る。仏頂面の人や、小声で下を向いている人の話を長時間にわたって聴くのは、
避けたいものだ。
しかし、誰もが「人前で話すこと」を得意としているわけではない。むしろ、図
書館の職員になることを望んで学び、実際に働いている方々は「本は好きだが、
どちらかと言えば人と接するのは苦手だ」という層も多いのではないだろうか。
「生まれながらに人前で話すのが得意で、緊張もしないし、全く苦痛ではない」
という資質をもった人は非常に稀な存在であり、もし居たとしても多くは図書館
職員という仕事は選ばないか、そもそも思い浮かばないだろう。なので、本稿で
は「人前で話すのが苦手な読者」を想定することとしたい。誰もが「得意」にまでな
る必要は、全くない。講習には付き物である「緊張」についても、筆者も新たな場
に立つ度に毎回必ず苦しめられており、恐らくなくなることはないだろう。話す
のを「楽しい」とまで感じられれば理想的だが、その少し前の段階として、まずは
「どのようにすれば、少なくとも苦痛ではなくなるか」について考えたい。
そこで、「伝える内容の精査」を提案したい。一見「人前で話すコツ」にはあまり
結びつかないようだが、実は大いに関係があると考えている。それは、「褒めら
れる経験を繰り返すと、もっと褒めてほしくなる」のと同じように、「相手に喜ん
でもらえたり、しっかり話が伝わったりした経験を繰り返すと、もっと話してみ
たくなる」からだ。「正直、こんな内容ではきっと退屈だろうな∼」と内心で思い
ながら話す講習は、お互いに不幸な時間となってしまう。
そのために、後述するような受講者アンケートなどを駆使して「相手が何を求
めているか」を毎回精査して伝える内容を加除し、順番や見せ方などの工夫を繰
り返していくと、「この講習ならば、必ず学びの役に立つはずだ!」という自信が
生まれる。この時点では「次回は、堂々と話せそうだ」とまでは思えなくても構わ
ない。「少なくとも、内容については充実しているぞ」という自信だけで良い。
ところが、話す本人が納得できる内容をつくってしまえば、誰しも「せっかく
なので活用してほしい」、「相手に伝えたい」と思うものだ。そのような自信は態
度として聴き手に伝わる。少しでも興味をもって聴いてもらえれば、聴き手が
「面白い」と感じている箇所(頷いたり、笑ったり、ふとメモを取ったり、「そう
だったのか!」という顔をするはずだ)が分かり、「ああ、こういうことが知りた
010 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
かったのだな」というポイントを(想定外だったことを含めて)少しずつ次の講習
に反映していけば、回を重ねるごとにますます自信をもって臨めるようになるだ
ろう。
実は、かつては筆者自身も人前で話すことは大の苦手で、発表などはとても苦
痛だった。少しずつ変わったのは、中学生の頃から社会人になるまで続けた子供
キャンプ引率の野外教育ボランティア活動を通して、少しずつ「聴き手が喜んで
くれる楽しさ」を味わった経験による。毎年、夏休みになると100人の小学生を
連れて八ヶ岳に3日間のキャンプに行くのだが、行き帰りのバスやキャンプファ
イヤー、雨の日の体育館などでさまざまなレクリエーションを行う。何かゲーム
をする際、もしもルールの説明が少しでも曖昧だと、前のほうに座った元気な子
供から厳しい突っ込みを受ける。たとえば「リーダー 1人VS子供100人で、勝
ち抜きジャンケン」をする場合を考えてみよう(実際にはより複雑なゲームのほう
が盛り上がるのだが、あくまでも例として)。「負けた人は座って、最後に勝ち
残った人が優勝です」と言ったら、必ず「あいこの人はどうするの?」と訊ねられ
る。この時、経験の浅い初心者のリーダーだと、その質問をした目の前の相手一
人にだけ視線を向けて「あいこは負けと同じように、座ってください」と答える。
すると、後ろのほうに座った大勢が「今、何て言ったの?」とザワザワし始める。
こうなると1対100のコミュニケーションを取るのは難しくなり、当然ゲームも
盛り上がらず、辛い(しかし貴重な)失敗の経験となってしまう。次善の手は、そ
う訊かれて「それは全員に伝えるべきポイントだったな」と気づいたら「良い質問
ですね。あいこは負けと同じですよ∼!」と全員に向けて大きな声で伝えること。
そして最善の手は、最初からシンプルに漏れなく要点を説明することであり、そ
れができれば小学生はすぐにルールを理解してゲームに集中できるため、場は大
いに盛り上がる。
小学生は素直なので「分からない」と感じれば集中力を切らして「つまらない」と
いう態度を示し、私語や周りとのつつき合いが始まって騒ぎ出し、話し手にとっ
ても「伝わらなかった。失敗した」ことが実感できる。
ところが、大学生や大人が相手の場合は、たとえ「分からない」、「つまらない」
と感じても、一応は最後まで話を聴いてくれる(例外もあるが)。ましてや、単位
に関わる必修科目のガイダンスとして実施した場合は尚更であり、いくら内容が
退屈であっても、どれだけ図書館職員が義務的な態度で話したとしても、その講
習の評判いかんに関わらず「大学としての恒例行事」として毎年継続されることも
011ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
多いだろう。しかし、それが落とし穴なのである。
新入生にとって、入学して最初のガイダンスで「図書館って、本当はすごいん
だ。ここで真剣に学べば、大きく成長できるかも知れない」と感じられるか、あ
るいは「ちょっと考えれば分かるような内容で、退屈だった。やはりWebがあれ
ば図書館なんて不要だ」と思わせてしまうかでは、その後の学び方や生き方が大
きく変わってしまう。これは、大学図書館に限らず、公共あるいは学校図書館で
も同じことが言えよう。
「最初に聴き手の興味を惹きつけられるかどうか」によって、時には相手の人生
をも左右する可能性があり、一つ一つの講習を担当する職員にとっては、ここが
正念場であり、「腕の見せ所」となる。
とはいえ、始めの前提の通り、誰もが「話の達人」になる必要はない。ましてや、
子供向け教育テレビの「歌のお姉さん」や「体操のお兄さん」のような過剰な笑顔
とサービス精神を発揮する必要も全くない。大切なのは、その講習が「聴き手に
とって、必ず役立つ」と信じ、その内容を「伝えたい」と自身が願っているかどう
かである。「役立つ」と心の底から思えないならば内容の再検討が必要だし、役立
つならば、必ず「伝えたい」と思えるはずだ。その意思は必ず、話し手の表情と第
一声の挨拶にも表れる。
不思議なことに「心からの笑顔」かどうかは、聴き手には伝わってしまう。また、
小さな子供ほど鋭く見破るものである。したがって、いわゆる「営業スマイル」は
通用しない。小学生が相手だとしても「聴き手への敬意」を忘れないことが大切だ。
筆者が小学6年生80人を相手にアメリカやスウェーデンなど「世界の図書館探
訪記」について話した際、アンケートに「あやすような口調など、子供扱いをしな
いでくれて嬉しかった」と書かれた経験がある。これは、12歳というその時点で
の年齢だけを基準にしないで「将来、ハーバード大学に留学して、君もこのワイ
ドナー記念図書館で勉強するかも知れない」、「ノーベル平和賞を取って、君がこ
の受賞会場(ノルウェーのオスロ市庁舎)に立つ日が来るかも知れない」という「い
つかは、大人になる相手だ」という視点で話したからだろうと考えている。
「子供は無知なものだ」という決めつけが聴き手との間に見えないバリアを生ん
でしまうように、「利用者はマナーが悪いものだ」という決めつけもまた危険であ
る。「本を汚さないこと」、「静かにすること」などの「べからず集」ばかりのガイダ
ンスもしばしば見受けられるが、まだ入学したばかりの1年生にとっては、本を
012 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
汚したのも騒いだのも、全く身に覚えのない濡れ衣である。そんな話からスター
トする講習が、聴き手の興味を惹くはずがない。飲食物の持ち込み制限などを
「その図書館のルール」として伝える必要はもちろんあるが、「学びの楽しさ」に目
覚めた者は、自然と「本や情報に対する敬意」を払うようになるものだ。汚損や騒
音の予防策としては「マナー違反者予備軍への事前指導」よりも講習によって「学
びにワクワクさせる」ほうが、遥かに有効だ。
同じように、会場がざわついた際に「静かにしなさい!」と怒鳴ってばかりの講
習も、貴重な時間を無駄にしてしまう失敗例である。筆者は最大で1会場500人
( 2回)の新入生向けガイダンスの経験があるが、だいたいの割合で言えば前列
に座った3割は、そもそも自らの「学びたい」という意思で熱心に聴く。中央の5
割は、必要を感じれば集中するが、もしも興味を感じなかったとしても一応は最
後まで聴く。問題は後ろのほうに座った2割で、この層を惹き込めるかどうかが
成否を分ける。最初に興味をもたせられなかったらたちまち私語が始まるだろう
が、それを注意して黙らせるのに時間を取っていては、最初から前のほうで一生
懸命聴いている学生達に申しわけない。
比率の違いこそあれ、いずれの現場でもこのような現象は起きているはずだが、
「つまらなくとも、黙って座っていなさい」という話し手の要求を聞き入れてもら
うより、最初のインパクトで「今日の話は、ひょっとしたら聴き逃すと損かもし
れないぞ!?」と自分で気づかせるほうが、結果的には手っ取り早く静かになる。
筆者は、このような手強い講習の場合「一番後ろに座っているあのブロックが、
自らの意思で全員スマホを置いたら、自分の勝ち」というルールを心の中で設け
て挑んでいる。その瞬間はだいたい最初の5分間が経過した頃に訪れるが、成功
すると、コツコツと準備してきた苦労が全て報われるような嬉しい気持ちになる。
このような場を、「図書館がいかに知的生産活動の助けとなり、人生を豊かに
するか」に自ら気づかせるような、「図書館ファンを増やす活動の一環」と考えて
みてはいかがだろうか。
3)「ここがポイント!」と分かるように話す
笑顔と挨拶の次に大切なのは、話し方である。
終始、お経のように抑揚なく平板なトーンで話してしまっては、伝わるものも
013ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
伝わらない。ましてや昼休み直後(大学で言うと3時限目)の「魔の時間帯」におい
ては、聴き手は睡魔という強敵とも戦わなければならない。
ここでも「講習全体の目的」と同じように、まずは要点を箇条書きで見せてしま
うことが大切である。話の全体像が見えず「どこが区切りか」、「どこがゴールか
(いつ終わるか)」が分からない状態でダラダラと聴き続けた場合、よっぽど興味
のある内容でない限りは睡魔のほうが勝ってしまうだろう。
また、ひと固まりの文章の中で「最も重要な言葉」を強調して話すように心掛け
ると、講習にリズムとドラマ性が生まれ、聴き手が理解しやすい。たとえば「皆
さんが日頃いろいろな場面で使っている『Web情報』と『図書館が集めた資料』と
の違いは、『責任の有無』です。つまり『誰が言ったのか?』と後から辿れるかどう
かです」と話すとしても、終始同じトーンではなく、『 』内の言葉に意識的に力
点を置くと伝わりやすい。これについては既知の読者も多いと思われるが、自身
が話した講習の録画や録音を見返して(聴き返して)みた経験はあるだろうか。も
しなければ、一度でも試してみることをお勧めしたい。筆者が補講用の録画を見
返してみたところ、まさに「反省点の山」であった。たとえば「早口である(伝えた
い内容を詰め込み過ぎ)」、「話が脱線する(そして、なかなか戻って来ない)」、「話
が飛ぶ(前提となる知識を伝える前に、より応用的な話をしてしまう)」など、見
逃せない欠点を多く知ることができた。
できれば他者(同僚)にも聴かせて意見を求めるとより良いのだが、もちろん自
分一人が聴くだけでも構わない。音声だけでも、ぜひ一度ICレコーダ(スマホに
も録音機能があるものが増えてきた)を使って、聴き返してみる機会を設けてみ
てほしい。
4)「たとえ話」を使って、具体的なイメージをもたせる
平易な文章に「たとえ話」を加えることによって、聴き手はより具体的にイメー
ジして理解できる。筆者が大学図書館職員向けの研修で70分間話した講演録の
文字起こし原稿録では、「たとえば」という言葉を54回も使っていた。ほぼ1.3
分間に1回の「たとえ話」をしていた計算となる。さすがにこれは多過ぎるかも知
れないが、少しずつでも活用することを勧めたい。
さっそく例を挙げると、「レポートや仕事では、裏付けのある情報源しか使っ
014 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
てはいけません」と言われても、実感までは湧かない。そこで、以下のように話
してみてはどうだろうか。
「あなたがもしも病気にかかった時、主治医が治療法をフリー百科事典で調べ
ていたら、どう思いますか?『ちょっと待って! 医学なら医学で、専門の機関
がつくったデータベースがあるんじゃないの? そんな情報源で調べて、万が一
にも間違っていたら、誰が責任を取るの?』と、考えるでしょう。
今の『医学』の部分を、そのまま将来あなたが就く仕事の分野に置き換えてみて
ください。『法律』でも、『農業』でも、『輸出入』でも、『株式投資』でも、何でも構
いません。
命に関わる問題だと人は真剣になるので医学という分野を例に出しましたが、
『プロとして責任を取らなければならない』という意味で、『不確かかも知れない
情報源を使っても構わない』という分野は、この世に一つもありません」。
「伝えるべき要素」を単に過不足なく話すのと、このように「たとえ話」に落とし
込んで話すのでは、「実感として受け取るメッセージ」に違いが出るはずだ。
5)単に「聴く」だけでなく、レクチャーに参加させる
相手が数人であれ、500人であれ、「一方的に話し、聴く」講習と「お互いにや
り取りして、聴き手の意思が反映される」講習では、後者のほうが興味と理解を
得られやすいのは当然であろう。
少人数のゼミなどであれば、簡単な自己紹介をして互いの素性を知った上で話
し始め、時々話を振って意見を求めながら進めるのが理想的だが、大人数が相手
の場合や時間が限られている際は、なかなかそこまではできない。そんな時は
「今日お話しする○○という言葉について、既に知っていた方はどれくらいいま
すか?」と挙手を求めたり、「この図書館には、何冊の本があると思いますか?
①1,000冊 ②1万冊 ③5万冊のうちから、1つだけ選んでください」とクイズ
を出してみるなど、双方向性をもたせることが可能である。
「どうやら会場の大部分が、初めて知った言葉のようですね」という流れになれ
ば、聴き手は「自分だけが知らなかったわけではない」と安心できるし、話し手は
「基礎から説明したほうが良さそうだ」と、結果を講習に反映して内容をアレンジ
することができる。
015ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
「ほとんどの方が1万冊以下と答えましたが、実はこの図書館には約5万冊の
本があります。1日に1冊読んだとしても、130年以上かかる計算になります。
これだけの知識が得られる場だということを、ご存知でしたか?」と話せば、始
めから単なる事実として紹介するよりも数を実感できる。
ただし、初対面の講演者の前で積極的に手を挙げるのは、誰しも緊張するもの
である。また、強要するとかえって心理的な負担になる場合もある。このような
問いかけは、あくまでも会場とのコミュニケーションを促す手段として捉え、必
ずしも全員に挙手や参加を求める必要はない。
大切なのは「講演者が一方的に話しているだけの場ではなく」、「聴き手の存在
を忘れておらず」、「双方向的な意思疎通を望んでいる(求めている、ではない)」
ことであり、この3つが伝われば成功はほぼ間違いない。
6)先の読めない展開で、ワクワクさせる
 
3つ目に挙げた「講習の全体像を見せる」とい点と矛盾するようだが、「先の見
えてしまっている話」というのは退屈なものだ。また、余りにも詳細なパワーポ
イント資料などを配布してしまうと、先走ってざっと読み、「内容を理解したよ
うな」気になって身が入らない場合も多い。したがって、始めから全てを見せて
しまわずに、講習を聴き進めていくうちに謎が解けていくようなドラマ性のあ
る演出も有効である。そのために、講習内容を「著作権と引用表記の方法」など
と素直には示さず、あえて「Webからのコピペは、何故ダメなのか!?」のような、
いったん考えさせる表記にするのも一つの手となる。
ここでも、クイズのような双方向性が功を奏する。しかも、できれば聴き手の
予想を裏切るようなものが望ましい。意外な結果が示されると、人は「何故そう
なるんだ?」とか「そんなに○○なのか!」「これが違法ならば、どうすれば良い
んだ?」と考えて興味をもち、浮かんだ疑問について自ら調べるようになる。そ
れが分かった時に「そういう意味だったのか!」と膝を打つような「罠を仕掛ける」
のも有効である。これが狙い通りに運ぶと、講習はますます苦痛ではなくなり、
楽しみになっていく。
「要点の箇条書き」は、コース料理でいうと「お品書き」に過ぎない。実際にテー
ブルに運ばれて味わってみた時に初めて気づく意外性があると、より深く印象に
016 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
残り、「次の一皿」が楽しみになり、気づいたらデザートまで平らげていて、時間
があっという間に感じてしまう。そうなれば講習は大成功だったと言えよう。
ただし、この方法はあくまでも「応用編」であり、必ずしも全ての講習で盛り込
まなければならないわけではない。一つ一つの基礎的な内容がしっかり伝わるこ
とが最優先で、その上でこそ初めて活きる手法であることは、ここで強調してお
きたい。
7)「ご清聴ありがとう」から「質問をどうぞ!」へ
講習中の反応のみならず、聴き手による質問から学ぶことも多い。そこで、最
後に5分間だけでも質疑応答のコーナーを設けることをお勧めしたい。そのため
にも、時間を守ることは大切だ。ここでも、録音による振り返りとリハーサルが
活きる。
筆者が毎年研究発表を行っている学会では「15分間の発表+5分間の質疑応答」
というルールがあり、質疑応答を行うべき5分間まで使ってしまうと、会場とや
り取りする機会を得られない。これでは「自身が伝えたいこと」はより多く話せる
かもしれないが、発表者自身が「新たな気づき」を得ることはできない。特に学会
の場合は、会場に居るのは「単なる情報の受け手」ではなく、同じ分野の研究者
たちなので、「異なる視点からのアドバイス」や「自身では気づかなかった弱点の
指摘」を受けられるなど、質疑応答がもたらすメリットは計り知れない。むしろ、
それこそが学会の最大の特長の一つである。講習会においても、内容の改善に役
立つはずだ。
また、アンケートも同じように重要である。「講習は役立ったか?」だけではな
く、各種の検索ツールを教えるならば、それぞれについて「知っていたか?」「利
用しているか?」なども訊ね、集計をする際に「学年によって、各ツールの認知度
や利用度にどんな違いがあるか?」や「どのような受講者が『役立つ』と感じる傾向
があるか?」を分析してみるとよい。そうすると、たとえば「高学年になっても、
認知度や利用度が伸びていない。3年生(就職活動準備)向けや4年生(卒業論文
執筆)向けにも内容をアレンジして実施して、各段階ならではの興味を呼び覚ま
してみよう」など、より意義のある講習が目指せるだけでなく、「どんな利用者が、
何を求めているのか」を知れば、図書館そのものの運営にも役立つ。
017ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
日本の大学は7年以内ごとに1度、文部科学大臣の認証を受けた評価機関に総
合的な評価を受けることが義務づけられているが、その中で「図書館の評価基準」
は昔からほとんど変わっておらず、蔵書数・来館者数・床面積・机の数、椅子の
数・開館時間といった要素が中心となっている。ところが、アメリカでは2004
年から「大学図書館の利用によって、4年間でどれだけ情報活用能力が伸びたか」
という 成長度 が盛り込まれている。そのため、アンケートやインタビューな
どで客観的なデータを取って蓄積する必要があるのだ※1
。
日本の大学は現在、18歳人口の減少などによる財政難が続き、図書館の予算
や専任職員が削減されている傾向がある。これは、自治体など公共図書館でも同
じことが言えよう。
このようなアンケートの蓄積は、講習の改善に役立つだけでなく、図書館が利
用者の知的活動に寄与してきた証ともなる。「職員は専門的な知識をもって講習
を行い、それが利用者の学びや問題解決に貢献している」と経営者や自治体に訴
える場合に、このような客観的な証拠となるデータがあるとないとでは将来像が
左右されかねない。
さらに、アンケートの「自由記述欄」はヒントの宝庫である。質問項目として設
けることすら思いつかなったような鋭いコメントに「ハッ!」とさせられることも
多い。また、この欄は「聴き手からのメッセージ」でもある。「今日の講習を聴か
なかったら、ネット情報に頼るだけの人生を歩んでいたかも知れない。目からウ
ロコが落ちた思いです。ありがとうございました」というような言葉を受け取る
と、どれほど苦労して準備をしてきたとしても一瞬で報われ、疲れも吹っ飛んで
しまい「次の講習をより良いものにしよう!」という元気が湧きあがってくる。一
つ一つを紹介することはできないが、業務ではなく筆者が個人として行った講演
会のアンケートは、全て大切に取ってある。
アンケートの最後には「ご感想・ご質問・改善すべき点・もっと知りたかった
点など、どのようなコメントでも結構ですので、どうぞ自由にお書きください
(次回に役立てさせていただきます)」と書いた、なるべくスペースの大きな自由
記述欄を設けることを大いにお勧めしたい。
018 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
筆者が講演の内容をデザインする上で心掛けている点を、以下7つにまとめた。
1)受講者が「知らないこと」、「役立つこと」
2)図書館は、無限につながっていること
3)情報の信頼性を疑うこと
4)価値ある情報は、有料であること
5)万能のデータベースは存在しないこと
6)知に敬意を払うこと
7)図書館職員自身も学び続けていること
1)受講者が「知らないこと」、「役立つこと」
講習にあたってまず留意すべきなのが、ついつい「情報を収集・提供する側」の
立場で考えてしまいがちな点である。たとえば「蔵書検索システムの書誌データ
構造」に視点をあてた講習も多いが、利用者はあくまでも「求めている情報を得た
い」のであって「図書館情報学を学びたい」のではない。「ミニ司書課程講座」や「図
書館職員の新人研修」のようになっては、受講者のニーズと齟齬が生まれてしま
う。
日頃から検索エンジンを使っている層ならば、それと同じ感覚でかなりの部分
までOPACを使いこなすことはできるので、多くの説明は必要ない。また、書
籍通販サイトなどに慣れている受講者は、検索結果で「著者名」がハイパーリンク
になっていれば「同じ人が書いた他の本も見つかるのではないか?」とは、容易に
想像がつく。
図書館職員の専門知識が活きるのはその先で、たとえば「NDCの分類番号や件
名がハイパーリンクになっている場合は、それをクリックすれば同じ分野の本が
芋づる式に見つかる」という点は、意外と思い浮かばない。なぜなら「分類番号」
や「件名」は、多くの受講者にとっては「よく知らないからクリックしない意味不
明の記号」に過ぎないからだ。
このように、図書館側にとっては「必ず話さなければならない」と思っているこ
3. 伝えるべき7ケ条
019ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
とが聴き手にとっては「既に知っていること・予想がつくこと」であったり、逆に
「こんなことは言わなくても分かるだろう」と思っていた点こそが「未知の有用な
スキル」であることは多い。思い込みを捨てて、各回のアンケートなどを参考に
内容を再構築してみてほしい。筆者が行うOPAC講習の実例については、後述
する。
2)図書館は、無限につながっていること
小さな公共図書館であっても、その市区町村の中央館や他機関との提携による
「取り寄せサービス」で、より多くの本や資料が使えることも、利用者にはあまり
知られていない。
大学図書館でも同じで、多少のお金(郵送料・複写料)と数日の待ち時間を使え
ば、どんなに小さい大学でも、あるいは不便な地域であっても、巨大な大学や一
流の研究大学にも匹敵するだけの情報を手に入れられる事実は、必ず説明する必
要がある。
さらに、各省庁が公開している統計データベースや、大学などの研究機関が発
信している機関リポジトリのように、「その図書館が収集しているわけではない
が、信頼できるWeb情報」についても、図書館資料と組み合わせることによって
学びに役立つならば、大いに紹介するべきであろう。これは、図書館を主語とし
た「利用法のガイダンス」から脱却し、「あなた(聴き手)が問題を解決するために、
こんな情報の見つけ方がある」という視点をもつための立脚点にもなる。
利用者が図書館の評価をする際、まずは建物の大きさや並んだ本の量だけを見
てしまうのは無理もないことだが、これらを紹介すれば、その図書館を見る目が
変わるだけでなく、世界を見る視野が格段に広がるだろう。
3)情報の信頼性を疑うこと
よく「Web情報と図書館資料のどっちが優れているか?」のような対比がなさ
れるが、両者は相反する存在ではない。大切なのは「信頼できる情報か否か」で
あって、「印刷されているか否か」ではない。
020 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
たとえば政府が提供する統計データや法規は、Web情報であっても大いに活
用すべきである。いっぽう本の世界も玉石混交であり、同じ「ビジネス書」という
分野でも、客観的なデータ分析や調査を基にした研究や提言もあれば、単に有名
な経営者が自身の経験を語る汎用性の低いものや、タレント的な経済評論家が極
端な持論を展開するようなものもある。もちろん図書館には資料を購入する基準
があるので書店よりは水準の高い情報が集まるが、それでも最後は自分自身がそ
れらの情報を取捨選択しなければならない。その際に、やはりどうしても基礎知
識が必要となる。情報の量が肥大化し、さまざまな方法で大量に手に入るように
なった現代こそ、広い視野をもって日頃から学び続けることが、真偽の見極めに
は大切だ。これは、図書館職員にも同じことが言えよう。
基礎知識があれば、疑わしい点のある情報には自ずと「本当かな?」という本能
的な嗅覚が働くようになる。また、日頃から意識的に「裏付けのある情報」のみを
使うようにしていると、だんだん個人のブログやフリー百科事典などにはそもそ
も目がいかないようになる。その情報を使う時には後でいちいち検証しなければ
ならないし、もっと恐ろしいのは、無意識に自身の中に蓄積した大量の情報の中
に「裏付けのある情報」と「間違っているかも知れない(そして誰も誤りに責任を取
らない)情報」が混在し、自分でも見分けがつかなくなることだ。
丹精を込めてつくったワインの樽にたった一滴の泥水が入っても売り物になら
ないのと同じように、自身が発する言葉に関しても、仕事や学びの場では責任が
ともなう。その点を踏まえた人の話は周りからも信頼されるだろうが、必ずしも
根拠があるわけではない話をしばしば口にする人の言葉は、必ずいつか誰かが疑
い始めるだろう。
4)価値ある情報は、有料であること
Webの世界に転がっている情報があまりにも多く、しかも簡単に無料で手に
入るので、人はついつい水や空気のように「当たり前に受け取れるもの」と捉えて
しまい、「情報は、お金を払ってまで手に入れる必要はない」と思い込んでしまう。
ところが、たとえば新聞の電子版などは、新聞社が記者を雇い、時間をかけて
教育し、給料を払い、取材をさせ、記者が情報を分析して文章を推敲し、上位職
がチェックし、責任をもって発信した情報である。その価値は紙に印刷された
021ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
新聞と全く劣らないため、相応の対価が必要となる。全てを無料でWebに公開
したらそもそも事業として成り立たないが、やはり「月々の購読料を払ってでも、
手に入れる価値がある」と判断する読者が多く存在し、契約を交わして「読む権
利」を手に入れている。
いっぽう、政府が公開している統計データは誰でも無料で使えるが、膨大な情
報を集めて精査するのには当然ながら税金が使われており、国民全員が間接的に
費用の負担をしている。だからこそ、無料で受け取る権利が誰にもあるのだ。
「責任ある情報には価値があり、価値がある情報には対価が必要である」という
大原則は、講習の中(できれば冒頭)で必ず伝えるべきメッセージである。この点
に立脚しなければ、「このWeb時代に、図書館なんて要るのかな?」という聴き
手の思い込みを払拭できず、「せっかくだから、この講習でしっかりと情報の集
め方を学んでみよう!」と思わせることは難しくなる。
5)万能のデータベースは存在しないこと
筆者は、毎回の講習会で必ずどこかで「この世に完璧なデータベースは存在し
ない」と言うようにしている。たとえば日本の雑誌記事を探す場合にしても、収
録対象が違う以上「国立国会図書館サーチ」も完璧ではないし、「CiNii Articles」
も完璧ではない。つまり、大切なのは「データベースにはそれぞれの特性がある
ので、その都度の目的に応じて最適なものを選べる」ようにすることである。
限られた講習時間(大学の講義1コマならば90分間)の中で全ての資料や情報
ツールを教えられるわけではないので、「受講後に自分自身で各種のデータベー
スを実際に使ってみて『情報の引き出し』を増やすこと」を勧めるのが不可欠とな
る。
これを伝えないと、せっかく文献から統計・法令などさまざまな情報ツールを
教えても、最後の質疑応答で「要するに、どのデータベースが一番網羅的なので
すか?」と訊かれてしまうだろう。この質問が出た場合、この大切なメッセージ
が伝わっていないため、講習内容の再構築が必要となる。
022 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
6)知に敬意を払うこと
「人類が本や論文の形で蓄積してきた叡智と、無料でWebに転がっている情報
との違い」に加えて、「他の研究者が苦心して書いた著作物を、自分のアイデアの
ように使うこと」(剽窃)や、「自分にとって都合の良いデータをでっち上げること」
(捏造)の罪の重さを説明するのに、これまで図書館職員などの情報リテラシー教
育担当者はたいへんな苦労をしてきた。ところが、幸か不幸かSTAP細胞の事件
以降はこの問題への認知度がぐっと上がり、非常に説明がしやすくなった。
科学者にとっては尚更だが、どのような分野で糧を得る者にとっても「あの人
の言うことは信用できない」という評価を得たら社会的には致命的なダメージと
なるため、情報倫理の意識喚起は今後さらに重要になっていくだろう。
ただし、人間は「定められたルール」よりも、「自分の意思で決めた方針」をより
重んずるものである。自らが目的をもって学び、考えることを繰り返していくと、
同じような問題について過去に研究したり提言したりした先人達への敬意が、自
然と生まれてくる。そうなれば、「このアイデアをこっそり盗んでやろう」ではな
く、「この点を踏まえて、自分がさらに発展させ、実現させてみよう」という考え
方に変わっていく。そこに行き着く前に「安易なコピペでお茶を濁してレポート
を書き、ギリギリの評価で単位を得ること」を覚えてしまっては成長できないの
で、学びのスタート地点に立った早い段階で教えることが必要なのである。
これについても、基礎的なルール説明は必要だが、館内マナーと同じく「違反
者予備軍への事前指導」よりも「未知の世界を学ぶこと」や「世界初の研究に挑戦す
ること」にワクワクさせることのほうが、長い目で見ればずっと有効であろう。
7)図書館職員自身も学び続けていること
図書館職員も仕事であれ、趣味であれ、どんな分野でも良いので「自分自身が
学ぶ場」を設け、真剣に取り組んでみると、「情報の探し方」を教える際に、単な
る知識ではなく「血の通った言葉」としての説得力が増す。
たとえば、誰しも仕事の上で「報告書」を書くことは多いが、「企画書」や「提案
書」を書いてみると、相手を説得できるだけの裏付けある情報がどうしても必要
になる。ましてや図書館系の専門誌に論文などの原稿を書くとなれば、その分野
023ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
の専門家達に読まれてしまうだけに、「これまでに同じような提言がされていな
いか」、「失敗事例や、反証はないか」という先行研究を踏まえた上で執筆するこ
ととなる。そういった経験は、図書館職員としてまたとない成長の機会となる。
学部時代に卒業論文すら書かなかった筆者にとって、30歳を過ぎて働きなが
ら通った大学院での修士論文が、生まれて初めて挑戦した「研究者の目に晒され
る文章」であった。図書館で働き、曲がりなりにも著作権や引用ルールについて
教えている以上、信頼できない情報源を使ったり不適切な引用をしたりは、絶対
にできない。
それまで長い期間と多くの場で図書館と学術データベースの活用法を教えてき
たが、こうして自分自身が「情報を必要とし、活用する側」になってみると、7年
間(学生雇員時代を含めると11年間)にわたる図書館職員としての経験は、あく
までも「情報を提供する側」としての「知識」の蓄積であったことに気づいた。「求
める情報が見つからないことの苦しみ」や「指導教員に弱点を指摘された時の驚き
や悔しさ」、そして「見つけた情報が研究に役立った時の喜び」や「論文が後の誰
かに引用された時の嬉しさ」は、実際に体験してみて初めて知ったことばかりで、
それが翻って「情報を提供する側」に立ち戻った時に、血肉となっている。
筆者が、中央大学のビジネススクール(働きながら学ぶ社会人のための経営系
専門職大学院)事務室に勤務していた際、ある女性の在学生が、自分の子供に「仕
事に加えて大学院にまで通って、忙しくてごめんね」と言ったところ、「『勉強し
なさい』と言うだけのお母さんより、自分も勉強しているお母さんのほうがずっ
と好きだ」と言われた経験を話してくれたことがある。「血の通った言葉」は、「理
に適った言葉」よりもずっと深く人の心に届くものだ。
「図書館職員自身も、日進月歩の情報化社会において日々学び続けている」とい
う事実を伝えることで、この講習会自体が最新の知識・技術であることも分かり、
言葉に説得力が増し、より聴き手を惹き込むことができるだろう。
024 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
大学入学直後の時期に全ての学部共通で90分間(1コマ)で実施すことを想定し、
誌上で模擬講習を行う。ただし、前章までに触れてきたポイントについては割愛
するので、必要に応じて講習に盛り込んでいただきたい。
こんにちは。今日の講習のテーマは「裏付けある情報の探し方」です。
皆さんがこれからレポートに挑んだり、卒業論文を執筆したり、実際に社会に
出て出逢うさまざまな問題を解決するためには、まずは必要な情報を探し、それ
を材料に考えて結論を導き出し、自分の言葉で人に伝える必要があります。
今日はまずはその第一歩として、図書館がもっている膨大な本や、さまざまな
専門雑誌に載っている記事、さらに公的機関が提供している統計情報などを、各
種のデータベースを使って探す方法を学びます。この知識と技術を身に付けるこ
とによって、効率的に多くの信頼できる情報を見つけ出し、より説得力のある文
章を書いたり、発言できるようになります。
きっと皆さんはそれぞれの夢や目標をもっていると思いますが、それがどのよ
うな分野であっても、実現のためには周囲の人に信頼されることが大切です。そ
のために、自分の言葉に責任をもてるよう、「裏付けある情報の探し方」を身に付
けましょう。
この講習では、以下の7つのテーマについて順にお話をします(配布資料にも
印刷)。
それでは、さっそく始めましょう。
1)あなたにとって、なぜ図書館が役立つのか
2)情報の評価基準をもちましょう
3)学術情報の流れ
4)本を探す
5)雑誌の記事や論文を探す
6)公的機関のデータベース(統計・法令)を活用する
7)著作権と引用の決まり
4. 大学新入生向け講習の誌上実演
025ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
1)あなたにとって、なぜ図書館が役立つのか
Webが急速に発達した現在「図書館なんて、必要なのか?」と疑問をもたれる
方もいるかも知れません。そこで、皆さんにクイズを出します。次の文章のうち、
どの点が間違っていると思いますか?
「どんな情報でも、誰でも、いつでも、どこでも、無料で手に入るようになっ
た」
(手が挙がれば、発言を促す。なければ「たとえば、初めの『どんな情報でも』は
どうですか?」と訊いてみる。「間違っていても、全然構いませんよ」とも付け加
える。全く発言が出ない場合には強要せず、少しずつ説明を進める)。
たとえばFacebookなどのSNSでは、本人が公開を希望しない写真には閲覧
制限をかけられますね。企業がもっている技術データであれば、制限をかける以
前にそもそもWeb上には置かないでしょう。一部の技術者・経営者以外は見ら
れないよう守られているはずです。つまり、「どんな情報でも、誰でも」というの
はまず嘘ですね。
「いつでも、どこでも」というのも嘘です。機器が故障したり、電源が切れた
時や認証IDやパスワードを忘れた時、ネット環境がない場所、飛行機内のよう
に禁じられた場所など、少しでも条件が整わなければWeb接続は遮断されます。
頭の中で、その状況を想像してみてください。何か解決しなければならない問題
に直面した際、自分自身の頭の中に、知識の蓄積と「ものの考え方の基礎」がなけ
れば解決策が出せないことが想像できるでしょう。
「無料で」はどうでしょうか。新聞の電子版などに代表されるように、会員制の
有料情報サイトはたくさんあります。つまり「お金を払った人だけが手に入れら
れる付加価値のある情報」にはアクセス制限がかかっているので、「無料で」も嘘
だということになります。それでは、価値ある情報を得るためにその都度料金を
払わなければならないかと言えば、必ずしもそうではありません。たとえば大学
図書館では、学びや研究に必要と判断した電子情報については、学生・教職員
ならば学内のパソコンや無線LAN、あるいは自宅からのID認証によっても閲覧
できるよう契約を結んで、利用者に提供しています。つまり皆さんは大学在学
中、玉石混交のWeb情報の中でも厳選された「発信元が辿れる、責任ある情報」
を、いちいちお金を払わずに手に入れられるわけです。
026 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
これは本や雑誌についても言えることです。図書館では、皆さんから預かった
学費の一部を使い、学びに必要となる資料を選んで集め、書名や著者名から本を
探したり、雑誌であれば一つ一つの記事までも検索できるようにデータベース化
しているのです。
分からないことにぶつかった時に、検索エンジンやフリー百科事典で調べる術
しか知らないか、あるいは図書館と有料データベースの活用法を知っているかで
は、情報収集・企画立案の能力に大きく差が出ます。
本でしっかりと基礎知識を学び、専門雑誌の記事で関心ある分野の最新事情を
知り、場合によっては統計データなどを集めて分析して考え、文章や発表で提言
することを繰り返せば、たとえWeb環境のない場所で1対1の対話の中で何か
を問われたとしても、皆さんが発する言葉には説得力と信頼性が生まれます。
これこそが、図書館で学ぶ意義です。
2)情報の評価基準をもちましょう
たくさん情報が手に入る中で、皆さんは取捨選択をしなければなりません。検
索エンジンで出てきた結果を上から順に見て適当そうな情報を選び、切り貼りを
して体裁を整えてレポートを書いても、きっと先生方は見破ってしまうでしょう
し、皆さん自身も成長できません。大学時代の4年間は、実はこのような小さな
課題を一つ一つ乗り越えることによって、知識や思考力を養って大きな力を得ら
れるように教育カリキュラムが設計されています。ですので、どうかレポートを
「面倒な存在」と捉えず、「自分が成長できるチャンスなんだ」と早めに頭を切り替
えてみてください。この発想の転換ができた人から、一歩ずつ確実に問題解決力
を身に付け始めることとなります。
さて、まずは情報の「信頼性・正確性・客観性」について考えてみましょう。こ
れから皆さんが企業などに勤める社会人となり、責任をもって情報を発信したり
企画立案したりする際には、一般の検索エンジンやフリー百科事典に頼って仕事
をすることは許されません。また、先入観や主観に基づいた偏見ある情報も排除
する必要があります。たとえば上司に提案書を持っていく時に、そこに書いた全
ての情報について「どこから取ってきたデータなのか、他人の意見が入っている
とすれば、いつ、どこで、誰が、発した言葉なのか」を全て説明できなければな
027ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
らず、それ以前に、訊かれるまでもなく分かるように記載しなければなりませ
ん。新聞や雑誌の記事などで統計データに基づいて作成したグラフ(たとえば人
口の増減や分布など)などが載る際に「出典:2015年度 国勢調査(総務省)より」
などと必ず表記されているのは、そのためです。誰が見ても「その情報をどこか
ら取ったのか。そして、偏りのない信頼できる情報源なのか」が確認できるよう
にしなければなりません。「Webのどこかに載っていました」、「誰が言っていた
のかは、思い出せません」では通用しませんし、フリー百科事典も確かな出典の
記載がなければ「匿名、つまり誰が言ったかを示せない」情報なので、大学でのレ
ポートや会社での仕事に使うには適しません。
そうなると、「こんな種類の情報を探す時には、この資料あるいはデータベー
スが使える」という知識が必要になります。たとえば統計だったらここ、法律
だったらここ、というふうに「情報の引き出し」が多い人ほど、最短距離で的確に
情報を集められるようになります。この能力のことを、「情報リテラシー」とよび
ます。「リテラシー」とは、本来「読み書き能力」の意味ですが、ここでは情報を取
り扱う能力として使われています。それは、単に検索エンジンで大量の情報を集
められるという意味ではなく、それを取捨選択したり、そもそも裏付けある情報
028 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
だけに限定して集められる力が大切になります。
次に「専門性・網羅性・鮮度」です。情報の発信者が特定できたとしても、個人
がブログに書いた日記のような記事では、「その人がどれだけの知識をもち、調
査を経て、客観性をもって書いているのか」は分かりません。また、間違ってい
た時に責任を追及することも難しいでしょう。その点、たとえば新聞記事であれ
ば、その新聞社が雇った記者に書かせ、発信に値するだけの基準を満たした情報
と言えます。「この新聞に載っていた」と記載すれば、万が一間違っていたことが
後から発覚した場合にも、あなた自身ではなく新聞社が責任を負うことになりま
す。もう一つ付け加えると、ある事柄、たとえば政治的な判断について常に全て
の新聞が同じことを書いているわけではなく、それぞれ視点が異なることがあり
ます。なので、一つの情報源ではなく、網羅的に集めて複数の意見を比較する多
角的な視点をもつことが必要となります。もしも意見の対立点があれば、それこ
そがその問題の本質を見抜くヒントとなります。どれだけ裏付けある情報を集め
られたとしても、「この記事ではこう言っている」、「あの記事ではああ言っている」
と羅列して紹介するだけでは、レポートに求められる「考察」、つまり自分の考え
と意見を欠いていることになります。
網羅性という意味では、書店と大学図書館の違いも意識してください。大学で
取り扱う専門分野の本は、特に卒業論文のようなレベルになると、大きい書店に
行ってもなかなか見つかりません。なぜなら書店があらゆる分野の本を置く義務
はなく、売れる本を置くのは商売として当然だからです。しかし、大学図書館で
はその大学が置く学部や学科で取り扱う専門分野についての基礎的な本は必ず集
めていますし、見つからない場合でも他大学と連携して取り寄せたり、購入リク
エストを出すことも可能です。
そして、情報には鮮度があります。数学や物理学の分野では何千年経っても変
わらない真理もありますが、実社会での国際情勢・ビジネス・政治などの問題を
取り扱う場合には、歴史や背景を踏まえた上で、常に最新の情報を知る必要があ
ります。「Web情報に比べると、本の情報は古いのではないか」というのは、確
かに正しい考えです。なぜなら、本に載っているのは既に熟慮し尽くされた「重
要で基礎的な知識」であり、今日この瞬間に起こった出来事を知るための情報源
ではないからです。いっぽう、スピードの速いWeb情報にも、先ほどの電子新
聞や通信社サイトなど、責任の所在の明確な情報源もあります。つまり「本と
029ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
Webのどちらが優れているか」ではなく、用途が異なるので両者を必要に応じて
使い分けることが大切なのです。
次に「費用対効果」ですが、同じくらいのページ数の本にも値段の差があること
をご存知でしょうか。ベストセラー小説ならば1,000円台で買えても、大学図書
館が取り扱うような専門性が高い本では5,000円や1万円するものは結構ありま
す。これは買う人の数による違いで、専門性の高い本はそれほどたくさんの人が
買うわけではないため、どうしても値段が高くなってしまいます。卒業までに読
むべき本を全て自費で買っていたら、アルバイト代は底をついてしまうし、部屋
も本で埋め尽くされてしまうでしょう。だからこそ、高価な大量の専門書を共有
できる図書館には、利用価値があるのです。
そして、最後に最も大切なのが「再生産性」です。Web情報の切り貼りで何度
レポートを書いてもどのような力も身につきませんが、今日お話しするやり方で
基礎となる情報を集めて、そこから何が言えるかを考察し、解決策を打ち出して
文章や言葉にすることを何度も経験すると、他の課題にも応用が可能な問題解決
力・発信力が身についていきます。そして、その時に手にした資料やデータベー
スの特性や使い方は、もしも最終的にはレポートで使わなかったとしても、必ず
記憶と経験として自分の中に残ります。すると、次に何か別の問題について考え
る時に、自分が蓄積した知識の中から、「日本と中国の貿易収支だったら、あの
データベースを見れば分かるはずだ」と閃いて、すぐに引き出せるようになりま
す。この力は、あなたにとって一生の宝物になることを約束します。
初めてのレポートを書くのは、誰にとっても苦しいものです。ついつい、検索
エンジンで適当な情報を集めて切り貼りしたくなってきます。しかし、そこで一
度踏みとどまって自分がなりたい将来像を思い描き、楽な道に流されずに正々
堂々と自力で考えることに挑戦してみてください。もしも数枚のレポートを書く
ために1週間を費やしてしまったとしても、それは決して無駄な時間にはなりま
せん。その経験を何度も繰り返すことによって、未知の高度な課題に対しても、
より短時間で効率的に解決策を導き出せるようになっていくはずです。その力を
獲得できるのが大学であり、その推進力となるのが図書館なのです。
030 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
3)学術情報の流れ
資料の探し方の前に、「学術情報の流れ」についてお話します。何か新しい発見
や技術が生まれた場合、たとえば「iPS細胞が開発された」という時、皆さんはま
ず新聞やネットのニュースで知ることになるでしょう。ところが、そこには一般
向けのごく表層的な事実しか載っていません。開発した研究者は「どのような実
験を経て結果(開発)にいたったか」を詳細なデータと共に論文として記述します。
その論文は、専門雑誌に載る前に同じ分野の業績ある研究者たちが組んだチーム
によるチェック(査読)を受けて「充分な実験データが示され、結論にいたる研究
の過程にも問題がない」ことが認められると、『Nature』や『Science』などの権威
ある学術雑誌に論文が載ります。このプロセスは、理学・工学のみならず、経
済・社会などあらゆる分野で共通です。このように厳しくチェックを受けている
から、専門雑誌とWeb上の匿名情報は全く質が異なるのです。
そして、専門誌に掲載された論文などの情報を世界中で共有をして、それを踏
まえてさまざまな研究がなされた後で、その分野の基礎知識が本になります。で
すから、まず概要を掴むためにはしっかりと本で学び、ある特定の問題について
031ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
の最新事例や掘り下げた情報を知りたい場合には専門雑誌の記事を探す、という
「使い分け」が大切になります。つまり、本と雑誌とは、役目に違いがあるのです。
したがって、本日は「本の探し方」と「雑誌記事の探し方」の両方を皆さんに知って
いただきます。この両者を組み合わせながら、また次の世代が大学で学習や研究
を続けることで、未来の発見につながります。以上が、「学術情報の流れ」です。
こうした専門雑誌や新聞は、責任をもって刊行しているため基本的には有料で
す。電子版についても、お金を払った購読者以外にはロックがかかっていて、誰
でも読めるわけではありません。データベース会社や新聞社は利用料金を取り、
それを基に執筆料金や記者の給与を払っています。お金には、責任が伴います。
つまり、個々の記事を書いた人はいい加減な情報は出せないし、料金を負担して
いる利用者は、その情報が間違っていた場合には情報元に責任を問うことができ
ます。ところが、たとえばフリー百科事典の記事のような情報には、誰も責任を
負わないし、誰に対しても責任を問えません。だから、大学での学びや社会に出
てからの仕事では「裏付けある情報」、つまり「どこの誰が言ったのかを辿れる情
報」しか使えないわけです。この点を、大学生となった皆さんは肝に銘じてくだ
さい。
032 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
4)本を探す
それでは、いよいよ「本の探し方」に進みましょう。これが、「OPAC」と呼ば
れる図書館の蔵書検索サイトです。聴きなれない言葉だと思いますが「O」はオン
ライン、つまり「Webで使える」という意味です。「PA」はパブリック・アクセス、
「公開されている」という意味です。「C」はカタログ、日本語では「目録」と言って、
図書館がもつたくさんの本を一覧・検索できるようにしたデータベースです。本
1冊1冊のタイトルや書いた人の名前などの情報が記録されているので、それぞ
れ「書名」や「著者名」の検索ボックスに入れて検索すれば、探している本が見つか
ります。ここまでは皆さん知っているか、本を通販で買ったことがあれば想像が
できるでしょう。それでは、「検索結果画面」が出てお目当ての本が見つかった時
に、「ここがゴールだ。さあ、数字をメモして、本棚へ探しに行こう」と思ってい
ませんか? それでは、毎回1冊の本しか見つからなくて少しもったいないです。
今日はせっかくなので、もう少しワクワクすることを教えましょう。
ここでは、大学生になった皆さんにお薦めの『知的生産の技術』(岩波書店・
1969年)という本を例に見てみましょう。この本はタイトルはお堅いですが、「学
び方・考え方・伝え方」という大切な力の修得法についてとてもやさしく書かれ
た本で、今から50年近く昔に書かれたのに、Webが発達した現在でも全く色褪
せずに読まれ続けています。残念なことに私は大人になってから初めて読んだの
ですが、「大学1年生の時に出逢っていれば良かった!」と強く後悔しており、今
日の講習会に参加してくれた皆さんへ先輩からのプレゼントとしてこの本を紹介
します。
さて、本のタイトルで検索すると、この結果画面が出ます。まず「著者名」の
「梅棹忠夫」が青字でアンダーラインが付いているのでクリックすると、この方が
書いた他の本がたくさん見つかります。これは本の通販サイトと同じ要領なので、
ほとんどの人が予想できていたと思います。それでは、その下の「件名」はどうで
しょうか。この本には「学術」と「情報処理」という全く異なる2つの件名がついて
います。試しに「学術」をクリックしてみると、あの福澤諭吉の『学問のすすめ』な
ど、たくさんの「学ぶこと」や「学び方」に関する本がヒットしました。このように
同じ件名をもつ本、つまり同じ分野の本がリストアップできるのです。そしてこ
の本には「学術」という面の他に、学んだ上で得た情報を整理するための技術とし
て「情報処理」という件名も付いています。ここをクリックすると、同じように
033ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
「情報処理」に関する本のリストを見ることができます。「学術」も「情報処理」も、
『知的生産の技術』というこの本のタイトルには1文字も含まれていません。とこ
ろが、図書館ではOPACのデータをつくる際にそれぞれの本に書かれた内容を
踏まえてテーマごとに件名を付けているため、このように近い分野の本を芋づる
式にまとめて探すことができるわけです。これらの関連書は、単なるタイトル検
索だけでは見つからなかったはずですね。
次に「分類」という項目を見てみると、「NDC8:002.7」という謎の数字がありま
す。この数字は「請求記号」とも呼ばれますが、実は「件名」よりも高い精度で近い
分野の本を探せる「魔法のカギ」となる数字なのです。
「NDC」とは、「日本十進分類法」の略です。大学図書館を始め、公共図書館に
行くとよく本の背表紙にシールが貼ってありますが、あの番号です。図書館では、
この分類法によって本をテーマごとに分類して並べています。その考え方は、ま
ずこの世の全ての事象・森羅万象を「0.総記」、「1.哲学・宗教」、「2.歴史・
地理」など10のカテゴリーに分けます。「広すぎでどこにも分類できないもの」が
0番台に中に入っています。『知的生産の技術』や『学問のすすめ』のように「全て
034 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
に関わるもの」は、まさに0番です。
次に、たとえば3つ目の「300 社会科学」を見ると、さらに「政治、法律」から
「国防・軍事」まで10に分かれ、7つ目の「370 教育」がさらに10に分かれて…
というふうに、階層化され、377番は「大学、高等・専門教育、学術行政」を指
します。この時点で1000分の1の精度で特化したテーマですが、小数点以下で
さらに詳しく細分化されます。その本のテーマによってここまで細かく分かれ
た番号が振られ、しかも近い分野の本が近くの番号になるようにできています。
NDCのおかげで、たまたま本棚に行った時に「あっ! 隣の本も参考になりそう
だ」という出逢いが生まれます。また、日本全国共通のルールなので、この法則
さえ知っていれば、北海道から沖縄まで公共・大学などほぼ全ての図書館で本が
探しやすくなります。
このように「件名」や「分類」などから芋づる式に関連書を探す方法を知っている
のと知らないのとでは、大きな差が生まれます。検索結果画面を「最終ゴール」と
見てしまうか、それとも「さまざまな関連する本に広がる入り口」と捉えるかで、
一生のうちで出逢える本は量的にも質的にも違ってくるでしょう。つまり検索結
果画面はゴールではなく、 無限の知的冒険の、始まりの扉 なのです。
ところで、大学図書館は頼れる存在ですが、万能ではありません。なぜなら、
この世にある全ての本を収めた図書館はどこにもないからです。たとえば、この
大学の図書館は法学の分野ならば日本有数の存在ですが、医学・美術・音楽など
特殊な分野に関する本については、それを専門とする大学には勝てません。しか
し、実は大学の図書館同士はつながっていて、一つの大学でもっていない本や雑
誌は取り寄せることが可能です。
たとえば、お寺のことを調べていて『月刊住職』という雑誌に載った記事を読み
たいとします。今、皆さんはちょっと笑顔になりましたが、世の中には膨大な数
の専門雑誌があり、それぞれを必要とする専門家や研究者が居るのです。たとば
『月刊廃棄物』や『月刊糖尿病』、『接着』、『ねじの世界』、『外交』、『養豚界』などと
いう雑誌もあり、もちろん各分野では重要な情報源となっています。皆さんも将
来、何かの分野のプロフェッショナルと呼ばれる存在となった際には「これだけ
は欠かせない」という専門誌をいくつか読むことになり、それらには一般の人か
らはきっと想像もしなかったタイトルがついているでしょう。さて、OPACで『月
刊住職』を検索してみると、やはり「該当する資料は見つかりません」というメッ
035ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
セージが出ます。ここで「ああ、自分の大学の図書館ではもっていなかった。残
念ながら諦めよう」と思ってしまっていないでしょうか? よく見ると、その先
に「別の検索語で再度検索するか『CiNii Books※2
(国立情報学研究所の総合目録
データベース)』で他大学等の所蔵を検索することができます」と続いています※3
。
そこで試しに、その下の「CiNii Books」のアイコンを押してみると、仏教系を中
心に全国で15の大学図書館にこの雑誌があり、そのうち11大学では1974年の
創刊号からもっていることが分かります。ここまで分かれば、図書館に相談して
コピーを取り寄せたり、近くならば紹介状を書いてもらって訪問して閲覧するこ
とができます。雑誌の論文であれば数ページ程度であることが多く、郵送代を足
しても数百円で日本中の論文を手に入れることができます。さすがに本の場合は、
現物を郵送してもらって館内など許される範囲で利用することになりますが、同
じように「CiNii Books」で他の大学がもつ本を探すことができます。
もう一つ、本の便利な探し方として、同じく国立情報学研究所の「Webcat
Plus※4
」をご紹介します。たとえば「ソーシャルネットワーク」という言葉を「一
致検索」で探してみると181件ヒットしましたが、「連想検索」だと、同じ言葉で
も50,807件に増えます。これは、言葉と言葉のつながりの強さによって近いも
のを連想して探せる機能によるもので、本のタイトルに検索ワードが含まれてい
なくても、その言葉に関連するより多くの本を見つけられるのです。さすがに5
万件は多過ぎるので、右側に出る「出版年」で絞り込んだり、画面の右側に表示さ
れた連想ワードの一覧の中から「それを検索対象に入れるか、入れないか」を選ぶ
ことによって、さらに自分の興味関心に近い本に絞り込んで探すことができます。
対象は1,000万冊以上なので、一つの大学図書館ではとても収蔵できないほどの
本の中から選べます。この「Webcat Plus」と「CiNii Books」に加えて図書館の取
り寄せサービスを知っていれば、稀少本を除けば日本で手に入らない本はほとん
どありません。先ほど例に出したように、本学で扱っていない研究分野の資料に
ついても入手を諦める必要はないので、どうか妥協しないで「知の包囲網」を広げ
てみてください。
5)雑誌の記事や論文を探す
専門書や論文の最後には「参考文献リスト」が載っていて、そのテキストを書く
036 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
上で参考にした資料が示されています。同じ分野に関心をもつ人にとって、この
リストはまさに宝の山であり、学びの助けとなります。皆さんは既に、本につい
てはこれまでに話した方法で探して手に入れることができるでしょう。本ではな
く雑誌に載った記事でも、OPACで雑誌タイトルを検索して、該当の巻・号が
あればその記事を読むことができます。よくある間違いは、それぞれの記事や論
文のタイトルをOPACに入れて検索してしまうことです。OPACは「日経ビジネ
ス」など雑誌のタイトルはデータとしてもっていますが、個々の号に掲載された
記事や論文一つ一つのタイトルはもっていません。
そうなると、参考文献などで「論文が載った雑誌のタイトルや巻号」が分かって
いる場合は良いのですが、「こういうテーマについて、またはある研究者によって、
これまでに書かれた記事・論文にはどんなものがあって、どの雑誌の何巻・何号
に載っているんだろう?」と思った時に、OPACでは探せないことに気づくでしょ
う。
そこで役に立つのが、個々の論文を探すためのデータベースです。今日はまず、
「CiNii Books」と同じく国立情報学研究所が提供している「CiNii Articles※5
」を
ご紹介しましょう。
お話ししたように、専門雑誌には本よりも詳しい事例や研究、焦点の絞られた
専門性の高いトピック・最新の情報が記事・論文として載っており、特に3年生
や4年生になってくると、本で学んだ基礎的な情報だけでは歯が立たなくなって
くるはずです。
「CiNii Articles」は、日本国内の論文を探すためのデータベースです。キー
ワードや著者名で検索すると「どんな論文があるか、どの雑誌の何巻・何号に
載っているか」という一覧リストが表示されます。そこまで分かれば、検索結果
の「収録刊行物」(雑誌のタイトル)を自分の大学図書館でOPAC検索して読むか、
もしもなければ先ほど例に出した『月刊住職』と同じ手順で「CiNii Books」を使っ
て、他大学の蔵書も探して取り寄せることが可能です。
なかには、「抄録」として、その論文の要点や概要を簡単に紹介した文章が載っ
ているものもあります。これは、実際に手にする前に「その内容が自分にとって
参考になるかどうか」を見極めるのに役立ちます。
さらに、もしも無料で公開されている場合は「CiNii PDF オープンアクセス」
などのアイコンが表示されますので、その場でPDFを開いて読めてしまいます。
つまり、夜中でも海外でも、図書館に行かないでも読める論文もあるのです。こ
037ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
れは、これまで話した「価値ある情報は有料である」という原則に反するようです
が、たとえば政府など公的機関の刊行物であったり、「機関リポジトリ」といって、
大学や研究所が成果報告として責任をもった情報を無料で公開する例も増えてき
ました。これらの情報は無料であっても、レポートの参考として充分に活用する
価値があります。
もう一度だけ強調しますが、情報の取捨選択で大切なのは「誰が言ったのかを
辿れるか否か」であり、「Webか印刷物か」ではありません。ただし発信者を特定
できるからといって、単なる有名ブロガーやタレント評論家の言葉を引用する人
のレポートや提案は、それ相応の評価しか得ることができません。ここでも「情
報の価値基準」をもつことが大切になります。
日本の論文を探すための情報ツールとしては、他にも「国立国会図書館サーチ
※6
」など、公的機関が運営しているデータベースがあります。海外の文献を調べ
る際には、「WorldCat※7
」などもあり、こちらは世界中の7万を超える主要な図
書館・研究機関から20億件を超える所蔵情報を調べられるデータベースです。
ここで皆さんに「完璧なデータベースは存在しない」という点をお伝えしておき
たいと思います。これまでに紹介した各データベースは、いずれも政府などの団
038 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号
ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して
体が膨大な量の情報を集めていますが、それぞれ収録している対象に違いがあり
ますので、漏れがないよう常に複数を見比べてみる習慣をつけてください。
たとえば「CiNii Articles」は、いわゆる大衆雑誌や娯楽雑誌は扱っていません。
もしも社会学的な興味関心などから芸能人関連の情報を集める必要がある時は、
大衆雑誌を専門とした「大宅壮一文庫※8
」のデータベースのほうが遥かに役立つ
という場合もあります。このように、物事を調べる際にはどれだけ多くの「情報
の引き出し」を選択肢としてもち、その中で最適なものを選べるかが大切な力に
なります。「検索エンジンのように、巨大な1つの引き出しがあれば良いではな
いか」と思われるかも知れませんが「ゴミの山の中から一つ一つ選別して宝物を
見つけ、しかもそれが本当に宝であることを自力で検証する作業」が必要となり、
しかも始めにお話ししたように、実は「価値と責任のある情報」は検索エンジンで
見つからないものが大部分です。
今日、皆さんが学んでいる「情報リテラシー」とは、「その時の必要に応じて、
最適な情報源を選んで知りたいことを引き出せる力」でもあるのです。
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  • 1. ISSN 2187-4115 LRGライブラリー・リソース・ガイド 第10号/2015年 冬号 発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社 Library Resource Guide 特別寄稿 梅澤貴典 ライブラリアンの講演術 “伝える力”の向上を目指して 司書名鑑 No.6 磯谷奈緒子(海士町中央図書館) 特集 編集部 離島の情報環境
  • 2. LRG Library Resource Guide ライブラリー・リソース・ガイド 第10号/2015年 冬号 発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社 特別寄稿 梅澤貴典 ライブラリアンの講演術 “伝える力”の向上を目指して 司書名鑑 No.6 磯谷奈緒子(海士町中央図書館) 特集 編集部 離島の情報環境
  • 3. 002 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 巻頭言 2012年11月に創刊という第一歩を踏み出した本誌も、このたびついに二桁の 第10号を刊行する運びとなりました。これまでの足跡は、読者のみなさまのお かげで、私どもなりの実りとなっています。ここまでのご支援に心から御礼申し 上げます。さて、今号は、 ● 特別寄稿「ライブラリアンの講演術ーー 伝える力 の向上を目指して」 梅澤貴典 ● 特集「離島の情報環境」編集部  ● 司書名鑑No.6「磯谷奈緒子」(海士町中央図書館) ● 羊の図書館めぐり第4回「男木島図書館」水知せり という構成です。節目の第10号ということもあり、今回は数々の念願の企画が 実現しています。いずれの記事も、相当な読みごたえがあることを約束します。 まず、中央大学職員として日々業務に邁進しながら、同時に学術情報リテラ シーの啓発と普及に努める梅澤貴典さんには、「ライブラリアンの講演術ーー 伝 える力 の向上を目指して」をご寄稿いただきました。実は梅澤さんと直接お目 にかかったのは比較的最近です。しかし、そのご高名は当然ながら、存じ上げて いました。そして、実際に相対してみて、その巧みな話術と高潔な人格に接し、 いつかは必ずこの方にご寄稿いただきたいと考え、この1年ほど、企画を温めて きました。梅澤さんの講演機会を徹底的にチェックし、可能な限りその内容を追 い、聴講された方々の評判を分析し、ようやくまとまった案をもって梅澤さんに 相談できたのが昨年末のことでした。 ご寄稿を依頼する以上は、こちらも当然真剣です。突出した才能を持ちつつ、 同時に徹底的に努力の人である梅澤さんの持ち味をさらに引き出したく、あえて 無理な注文もお願いしました。結果、読者のみなさまにとっても、充分に納得で きる内容となっているはずです。図書館の世界において、梅澤さんは名講師の一 人として知られています。読者のみなさまには、あえてその手の内をさらけ出し てくれた梅澤さんの真意を汲み、ただ称賛するのではなく、一人でも多くの図書 館関係者が第二、第三の梅澤さんとなり、互いに切磋琢磨する関係を築いていく、 巻頭言 情報環境と私たちの未来
  • 4. 003ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 巻頭言 そのための一助となればと願っています。 特集の「離島の情報環境」は、創刊当初から温めてきた企画です。この企画を実 現するために、及ばずながら私もこの3年間、できる限り離島を訪れてきました。 とはいえ、日本の有人離島は300以上。とうてい、周りきれるものではありま せんが、それなりの島々をめぐり、また島にお住いの方々、あるいは離島経済新 聞(リトケイ)のような島をめぐるメディアの方々との交流を通して、今回の特集 が実現しました。関係者のみなさまには、心から御礼申し上げます。 今回の特集は、すべての有人離島に徹底した調査を行い、文字通りの悉皆調査 となっています。また、特集タイトルをあえて「情報環境」としているように、今 回の調査は、公共図書館だけではなく、学校図書室や公民館図書室、さらには書 店といった広く知識・情報の提供に関わる関係機関までを対象にしています。こ の種の調査としては、日本で初めて「離島の情報環境」をある程度までは概観でき るものと確信しています。 離島というと、本州・本土の自治体からすれば、どこか「他人事」のように思わ れるかもしれません。しかし、本特集でも大きく扱っている島根県隠岐諸島の海 士町が特にそう言われているように、離島には島国である日本の将来が凝縮され ています。少子高齢化や過疎・限界集落どころか、ついには「消滅自治体」の可能 性までが取りざたされるようになりました。賛否両論ありますが、1,700超の自 治体のうち、900近い自治体の存続が危ぶまれるという説が大きな反響を呼ぶい まこそ、離島のあり方、そして離島の情報環境のあり方は「自分事」として捉えな ければいけないと考えます。本特集が、みなさんや、みなさんがお住まいのまち の未来を照射する材料の一つとなりますことを願っています。 そして恒例のお願いです。手前味噌な発言であることは重々承知のうえですが、 本誌には、今回のような充実した特集をつくりあげるだけの力があります。また、 現在、日本の図書館界において、本誌編集部が相当程度に重要な調査機関として の役割を果たしているという自負もあります。この機能・役割を維持し、さらに は発展させていけるよう、引き続きのご支援を心からお願い申し上げます。 編集兼発行人:岡本真
  • 5. 巻 頭 言 情報環境と私たちの未来[岡本真]………………………………………………… 002 特 別 寄 稿 ライブラリアンの講演術 ─ 伝える力 の向上を目指して[梅澤貴典]… 005 特   集 離島の情報環境[編集部] ……………………………………………………………… 044 LRG CONTENTS Library Resource Guide ライブラリー・リソース・ガイド 第10号/2015年 冬号 司書名鑑 No.6 磯谷奈緒子(海士町中央図書館) 羊の図書館めぐり 第4回「男木島図書館」[水知せり] アカデミック・リソース・ガイド株式会社 業務実績 定期報告 定期購読・バックナンバーのご案内 次号予告 県立図書館による市町村支援の取り組み 地理的制約を超えた松浦市の離島支援体制 [column] 離島の情報源 書店と図書館が一体の「BOOK愛ランドれぶん」 海士町(中之島)、島まるごと、独自の図書館づくり 相互乗り入れによる八重山列島の図書館機能 [column] 離島資料と図書館 島を渡るセブンアイランド移動図書館 海上輸送ルートを活用した鳥羽市の戦略 [column] 離島への旅 オンバを使った男木島の移動図書館 市艇を利用した笠岡市の配本の取り組み [column] 移動図書館船 離島の情報環境リスト ……………………………………………………… 046 …………………………………………………… 054 ………………………………………………………………………… 055 ……………………………………………… 056 …………………………………………… 058 ………………………………………………… 064 …………………………………………………………………… 065 ………………………………………………………… 066 ……………………………………………………… 068 …………………………………………………………………………… 069 …………………………………………………………… 070 ……………………………………………………… 074 ………………………………………………………………………… 076 …………………………………………………………………………… 078 ………………………………………………… 140 …………………………………………… 146 …………………………………………………… 148 ……………………………………………………………………………… 152 …………………………………………………………………………………………………………… 155
  • 7. 006 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 本稿では、公共や大学などの各図書館で「利用者のための講習会」を担当される 職員の方々に向けて、限られた時間の中でより良く内容を伝えるための「心構え とコツ」、「内容の作り方」、「講習の実例」について紹介する。  とりわけ、「人前で話すのが苦手だ」とか「ちゃんと伝わっている気がしない」、 あるいは「相手が興味をもって聴いているか不安だ」という方々にこそ、大いに活 用していただき「聴き手・話し手どちらにとっても実り多く、楽しい講習」となる ことを目的としている。 筆者は、ちょうど電子化の波が押し寄せていた時代(2001 ∼ 2008年)に、理 工学系の大学図書館に勤務して情報リテラシー教育を担当していた。理工学部の 新入生向けの導入教育(高校までの学習を大学教育に円滑に導入するための教育 のこと)から、研究室のテーマで個別デザインした大学院生向けのオーダーメイ ド型まで、それぞれレベルに応じた講習会を企画・実施してきたが、上手く伝 わったこともあれば失敗したこともある。ここでは、それらの経験を踏まえて 「講習の心構え7ケ条」(どのように話すか)、「伝えるべき7ケ条」(何を話すか)、「大 学新入生向け講習の誌上実演」の3章を順に紹介する。 ライブラリアンの講演術 “伝える力”の向上を目指して 中央大学 学事部学事課 副課長。青山学院大学Ⅱ部文学部英米文学科 卒業。在学中は学生雇員として4年間大学図書館に勤務。中央大学の 理工学部図書館では7年間、電子図書館化と学術情報リテラシー教育 を担当。働きながら東京大学の大学院教育学研究科(大学経営・政策 コース)修士課程を修了し、現在は社会人や一般市民も対象として「学 術情報リテラシー教育による知的生産力・企画立案力の向上」を目指 し、研究と実践を続けている。 1. はじめに 梅澤貴典(うめざわ・たかのり)
  • 8. 007ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 読者の中には、筆者よりも経験が豊富な方も多いと思われるので恐縮だが、「こ んな考え方、やり方もある」という参考にしていただければ幸いである。 まずは、図書館という場に限らず「人前で話す」際の全般に言える心構えとコツ を7つのポイントにまとめた。これは「企画案のプレゼンテーション」や「研究会 での発表」など、さまざまな場面に応用して役立てられるはずだ。 1)「今日の話を聴くと、何が得られるのか」を始めに宣言する 2)「この人の話を聴いてみたい!」と思わせる 3)「ここがポイント!」と分かるように話す 4)「たとえ話」を使って、具体的なイメージをもたせる 5)単に「聴く」だけでなく、レクチャーに参加させる 6)先の読めない展開で、ワクワクさせる 7)「ご清聴ありがとう」から「質問をどうぞ!」へ 1)「今日の話を聴くと、何が得られるのか」を始めに宣言する 「始めに結論を述べる」のはスピーチの基本だが、これが意外に守られていない ことも多い。今日話そうとしている内容が「図書館の活用法」であり、ゴールは 「蔵書検索システムで資料を探せるようになること」であり、それが身につくと 「これまで我流で探していた時よりも、効率的に多くの信頼できる情報が見つか ること」を、必ず冒頭で宣言しているだろうか? 「そんなことは自明であり、わざわざ説明する必要はない」と考えてしまって、 「はい。まずは『キーワード』の欄に、『憲法』と入力して検索ボタンを押してみま しょう」などと、前置きなく始めていないだろうか。 「いったい何の役に立つのだろう?」と疑問に思いながら長い話を聴くのは、誰 しも苦痛なものだ。そして聴き手の表情や態度からそれが話し手にも伝われば、 お互いにとってますます辛い時間になるだろう。それを防ぐためにも、シンプル 2. 講習の心構え7ケ条
  • 9. 008 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して なメッセージとして「この話を聴くメリット」を始めに宣言するのは、最も大切な ことの一つだ。 筆者が山梨県の公立大学・都留文科大学で非常勤講師として担当している「図 書館情報技術論」の授業(図書館司書の資格取得を目指す3年生のための3日間の 集中講義)では、初日の朝1時限目の冒頭で「皆さんには、この授業で 一生の宝 になるスキル を身に付けてもらいます」と宣言した。 本から電子データベースまで、さまざまな「裏付けある情報」の探し方に精通す ることは、「学生・社会人・市民として、これから遭遇するあらゆる問題に対し て、解決策を見つけて乗り越える力」になるからだ。ましてや「教える側 」として の知識・技術を学ぶことは、さまざまな利用者のニーズを想定しなければならず、 「探す側」として1回の講習を聴くだけの効果とは格段の差がある。そのように理 由を説明した上で、「皆さんには、今日で検索エンジンとフリー百科事典に頼る 生き方を卒業してもらいます」とも付け加えた。その理由は「どこの誰が言ったか 分からない情報に頼っていると、いつか無意識に間違った情報を拡散することに なり、周囲からの信頼を失う」からだ。ましてや、図書館の職員や学校の教員の 発言には、友人同士や家族の間でやりとりされる日常会話としての情報交換とは 異なり、責任が生じる。 この理由を説明せずに、いきなり「Web情報は、玉石混交なので危険です」と か「フリー百科事典は、信用できないのでレポートに使ってはいけません」という 話から始めると、幼い頃からWebに慣れ切った世代の学生達にはたちまち拒否 反応を起こされ、ますます身構えられてしまうだろう。 講習にあたっては、「何を伝えるべきか」より前に、まずは「どのような相手か」 を認識することが第一歩となる。たとえば、「これだけ情報がWeb化された時代、 図書館なんて、カフェ的な勉強部屋としての役割以外に、何があるのだろう?」 と考えている相手には、こちらが予定していた「本の探し方」を伝える前に、まず は「なぜ本を探すのか?」という話から講習をスタートさせるほうが、格段に興味 をもたれるだろう。
  • 10. 009ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 2)「この人の話を聴いてみたい!」と思わせる 講演の成否は第一印象に大きく左右されるため、まずは笑顔と挨拶が大切であ る。仏頂面の人や、小声で下を向いている人の話を長時間にわたって聴くのは、 避けたいものだ。 しかし、誰もが「人前で話すこと」を得意としているわけではない。むしろ、図 書館の職員になることを望んで学び、実際に働いている方々は「本は好きだが、 どちらかと言えば人と接するのは苦手だ」という層も多いのではないだろうか。 「生まれながらに人前で話すのが得意で、緊張もしないし、全く苦痛ではない」 という資質をもった人は非常に稀な存在であり、もし居たとしても多くは図書館 職員という仕事は選ばないか、そもそも思い浮かばないだろう。なので、本稿で は「人前で話すのが苦手な読者」を想定することとしたい。誰もが「得意」にまでな る必要は、全くない。講習には付き物である「緊張」についても、筆者も新たな場 に立つ度に毎回必ず苦しめられており、恐らくなくなることはないだろう。話す のを「楽しい」とまで感じられれば理想的だが、その少し前の段階として、まずは 「どのようにすれば、少なくとも苦痛ではなくなるか」について考えたい。 そこで、「伝える内容の精査」を提案したい。一見「人前で話すコツ」にはあまり 結びつかないようだが、実は大いに関係があると考えている。それは、「褒めら れる経験を繰り返すと、もっと褒めてほしくなる」のと同じように、「相手に喜ん でもらえたり、しっかり話が伝わったりした経験を繰り返すと、もっと話してみ たくなる」からだ。「正直、こんな内容ではきっと退屈だろうな∼」と内心で思い ながら話す講習は、お互いに不幸な時間となってしまう。 そのために、後述するような受講者アンケートなどを駆使して「相手が何を求 めているか」を毎回精査して伝える内容を加除し、順番や見せ方などの工夫を繰 り返していくと、「この講習ならば、必ず学びの役に立つはずだ!」という自信が 生まれる。この時点では「次回は、堂々と話せそうだ」とまでは思えなくても構わ ない。「少なくとも、内容については充実しているぞ」という自信だけで良い。 ところが、話す本人が納得できる内容をつくってしまえば、誰しも「せっかく なので活用してほしい」、「相手に伝えたい」と思うものだ。そのような自信は態 度として聴き手に伝わる。少しでも興味をもって聴いてもらえれば、聴き手が 「面白い」と感じている箇所(頷いたり、笑ったり、ふとメモを取ったり、「そう だったのか!」という顔をするはずだ)が分かり、「ああ、こういうことが知りた
  • 11. 010 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して かったのだな」というポイントを(想定外だったことを含めて)少しずつ次の講習 に反映していけば、回を重ねるごとにますます自信をもって臨めるようになるだ ろう。 実は、かつては筆者自身も人前で話すことは大の苦手で、発表などはとても苦 痛だった。少しずつ変わったのは、中学生の頃から社会人になるまで続けた子供 キャンプ引率の野外教育ボランティア活動を通して、少しずつ「聴き手が喜んで くれる楽しさ」を味わった経験による。毎年、夏休みになると100人の小学生を 連れて八ヶ岳に3日間のキャンプに行くのだが、行き帰りのバスやキャンプファ イヤー、雨の日の体育館などでさまざまなレクリエーションを行う。何かゲーム をする際、もしもルールの説明が少しでも曖昧だと、前のほうに座った元気な子 供から厳しい突っ込みを受ける。たとえば「リーダー 1人VS子供100人で、勝 ち抜きジャンケン」をする場合を考えてみよう(実際にはより複雑なゲームのほう が盛り上がるのだが、あくまでも例として)。「負けた人は座って、最後に勝ち 残った人が優勝です」と言ったら、必ず「あいこの人はどうするの?」と訊ねられ る。この時、経験の浅い初心者のリーダーだと、その質問をした目の前の相手一 人にだけ視線を向けて「あいこは負けと同じように、座ってください」と答える。 すると、後ろのほうに座った大勢が「今、何て言ったの?」とザワザワし始める。 こうなると1対100のコミュニケーションを取るのは難しくなり、当然ゲームも 盛り上がらず、辛い(しかし貴重な)失敗の経験となってしまう。次善の手は、そ う訊かれて「それは全員に伝えるべきポイントだったな」と気づいたら「良い質問 ですね。あいこは負けと同じですよ∼!」と全員に向けて大きな声で伝えること。 そして最善の手は、最初からシンプルに漏れなく要点を説明することであり、そ れができれば小学生はすぐにルールを理解してゲームに集中できるため、場は大 いに盛り上がる。 小学生は素直なので「分からない」と感じれば集中力を切らして「つまらない」と いう態度を示し、私語や周りとのつつき合いが始まって騒ぎ出し、話し手にとっ ても「伝わらなかった。失敗した」ことが実感できる。 ところが、大学生や大人が相手の場合は、たとえ「分からない」、「つまらない」 と感じても、一応は最後まで話を聴いてくれる(例外もあるが)。ましてや、単位 に関わる必修科目のガイダンスとして実施した場合は尚更であり、いくら内容が 退屈であっても、どれだけ図書館職員が義務的な態度で話したとしても、その講 習の評判いかんに関わらず「大学としての恒例行事」として毎年継続されることも
  • 12. 011ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 多いだろう。しかし、それが落とし穴なのである。 新入生にとって、入学して最初のガイダンスで「図書館って、本当はすごいん だ。ここで真剣に学べば、大きく成長できるかも知れない」と感じられるか、あ るいは「ちょっと考えれば分かるような内容で、退屈だった。やはりWebがあれ ば図書館なんて不要だ」と思わせてしまうかでは、その後の学び方や生き方が大 きく変わってしまう。これは、大学図書館に限らず、公共あるいは学校図書館で も同じことが言えよう。 「最初に聴き手の興味を惹きつけられるかどうか」によって、時には相手の人生 をも左右する可能性があり、一つ一つの講習を担当する職員にとっては、ここが 正念場であり、「腕の見せ所」となる。 とはいえ、始めの前提の通り、誰もが「話の達人」になる必要はない。ましてや、 子供向け教育テレビの「歌のお姉さん」や「体操のお兄さん」のような過剰な笑顔 とサービス精神を発揮する必要も全くない。大切なのは、その講習が「聴き手に とって、必ず役立つ」と信じ、その内容を「伝えたい」と自身が願っているかどう かである。「役立つ」と心の底から思えないならば内容の再検討が必要だし、役立 つならば、必ず「伝えたい」と思えるはずだ。その意思は必ず、話し手の表情と第 一声の挨拶にも表れる。 不思議なことに「心からの笑顔」かどうかは、聴き手には伝わってしまう。また、 小さな子供ほど鋭く見破るものである。したがって、いわゆる「営業スマイル」は 通用しない。小学生が相手だとしても「聴き手への敬意」を忘れないことが大切だ。 筆者が小学6年生80人を相手にアメリカやスウェーデンなど「世界の図書館探 訪記」について話した際、アンケートに「あやすような口調など、子供扱いをしな いでくれて嬉しかった」と書かれた経験がある。これは、12歳というその時点で の年齢だけを基準にしないで「将来、ハーバード大学に留学して、君もこのワイ ドナー記念図書館で勉強するかも知れない」、「ノーベル平和賞を取って、君がこ の受賞会場(ノルウェーのオスロ市庁舎)に立つ日が来るかも知れない」という「い つかは、大人になる相手だ」という視点で話したからだろうと考えている。 「子供は無知なものだ」という決めつけが聴き手との間に見えないバリアを生ん でしまうように、「利用者はマナーが悪いものだ」という決めつけもまた危険であ る。「本を汚さないこと」、「静かにすること」などの「べからず集」ばかりのガイダ ンスもしばしば見受けられるが、まだ入学したばかりの1年生にとっては、本を
  • 13. 012 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 汚したのも騒いだのも、全く身に覚えのない濡れ衣である。そんな話からスター トする講習が、聴き手の興味を惹くはずがない。飲食物の持ち込み制限などを 「その図書館のルール」として伝える必要はもちろんあるが、「学びの楽しさ」に目 覚めた者は、自然と「本や情報に対する敬意」を払うようになるものだ。汚損や騒 音の予防策としては「マナー違反者予備軍への事前指導」よりも講習によって「学 びにワクワクさせる」ほうが、遥かに有効だ。 同じように、会場がざわついた際に「静かにしなさい!」と怒鳴ってばかりの講 習も、貴重な時間を無駄にしてしまう失敗例である。筆者は最大で1会場500人 ( 2回)の新入生向けガイダンスの経験があるが、だいたいの割合で言えば前列 に座った3割は、そもそも自らの「学びたい」という意思で熱心に聴く。中央の5 割は、必要を感じれば集中するが、もしも興味を感じなかったとしても一応は最 後まで聴く。問題は後ろのほうに座った2割で、この層を惹き込めるかどうかが 成否を分ける。最初に興味をもたせられなかったらたちまち私語が始まるだろう が、それを注意して黙らせるのに時間を取っていては、最初から前のほうで一生 懸命聴いている学生達に申しわけない。 比率の違いこそあれ、いずれの現場でもこのような現象は起きているはずだが、 「つまらなくとも、黙って座っていなさい」という話し手の要求を聞き入れてもら うより、最初のインパクトで「今日の話は、ひょっとしたら聴き逃すと損かもし れないぞ!?」と自分で気づかせるほうが、結果的には手っ取り早く静かになる。 筆者は、このような手強い講習の場合「一番後ろに座っているあのブロックが、 自らの意思で全員スマホを置いたら、自分の勝ち」というルールを心の中で設け て挑んでいる。その瞬間はだいたい最初の5分間が経過した頃に訪れるが、成功 すると、コツコツと準備してきた苦労が全て報われるような嬉しい気持ちになる。 このような場を、「図書館がいかに知的生産活動の助けとなり、人生を豊かに するか」に自ら気づかせるような、「図書館ファンを増やす活動の一環」と考えて みてはいかがだろうか。 3)「ここがポイント!」と分かるように話す 笑顔と挨拶の次に大切なのは、話し方である。 終始、お経のように抑揚なく平板なトーンで話してしまっては、伝わるものも
  • 14. 013ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 伝わらない。ましてや昼休み直後(大学で言うと3時限目)の「魔の時間帯」におい ては、聴き手は睡魔という強敵とも戦わなければならない。 ここでも「講習全体の目的」と同じように、まずは要点を箇条書きで見せてしま うことが大切である。話の全体像が見えず「どこが区切りか」、「どこがゴールか (いつ終わるか)」が分からない状態でダラダラと聴き続けた場合、よっぽど興味 のある内容でない限りは睡魔のほうが勝ってしまうだろう。 また、ひと固まりの文章の中で「最も重要な言葉」を強調して話すように心掛け ると、講習にリズムとドラマ性が生まれ、聴き手が理解しやすい。たとえば「皆 さんが日頃いろいろな場面で使っている『Web情報』と『図書館が集めた資料』と の違いは、『責任の有無』です。つまり『誰が言ったのか?』と後から辿れるかどう かです」と話すとしても、終始同じトーンではなく、『 』内の言葉に意識的に力 点を置くと伝わりやすい。これについては既知の読者も多いと思われるが、自身 が話した講習の録画や録音を見返して(聴き返して)みた経験はあるだろうか。も しなければ、一度でも試してみることをお勧めしたい。筆者が補講用の録画を見 返してみたところ、まさに「反省点の山」であった。たとえば「早口である(伝えた い内容を詰め込み過ぎ)」、「話が脱線する(そして、なかなか戻って来ない)」、「話 が飛ぶ(前提となる知識を伝える前に、より応用的な話をしてしまう)」など、見 逃せない欠点を多く知ることができた。 できれば他者(同僚)にも聴かせて意見を求めるとより良いのだが、もちろん自 分一人が聴くだけでも構わない。音声だけでも、ぜひ一度ICレコーダ(スマホに も録音機能があるものが増えてきた)を使って、聴き返してみる機会を設けてみ てほしい。 4)「たとえ話」を使って、具体的なイメージをもたせる 平易な文章に「たとえ話」を加えることによって、聴き手はより具体的にイメー ジして理解できる。筆者が大学図書館職員向けの研修で70分間話した講演録の 文字起こし原稿録では、「たとえば」という言葉を54回も使っていた。ほぼ1.3 分間に1回の「たとえ話」をしていた計算となる。さすがにこれは多過ぎるかも知 れないが、少しずつでも活用することを勧めたい。 さっそく例を挙げると、「レポートや仕事では、裏付けのある情報源しか使っ
  • 15. 014 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して てはいけません」と言われても、実感までは湧かない。そこで、以下のように話 してみてはどうだろうか。 「あなたがもしも病気にかかった時、主治医が治療法をフリー百科事典で調べ ていたら、どう思いますか?『ちょっと待って! 医学なら医学で、専門の機関 がつくったデータベースがあるんじゃないの? そんな情報源で調べて、万が一 にも間違っていたら、誰が責任を取るの?』と、考えるでしょう。 今の『医学』の部分を、そのまま将来あなたが就く仕事の分野に置き換えてみて ください。『法律』でも、『農業』でも、『輸出入』でも、『株式投資』でも、何でも構 いません。 命に関わる問題だと人は真剣になるので医学という分野を例に出しましたが、 『プロとして責任を取らなければならない』という意味で、『不確かかも知れない 情報源を使っても構わない』という分野は、この世に一つもありません」。 「伝えるべき要素」を単に過不足なく話すのと、このように「たとえ話」に落とし 込んで話すのでは、「実感として受け取るメッセージ」に違いが出るはずだ。 5)単に「聴く」だけでなく、レクチャーに参加させる 相手が数人であれ、500人であれ、「一方的に話し、聴く」講習と「お互いにや り取りして、聴き手の意思が反映される」講習では、後者のほうが興味と理解を 得られやすいのは当然であろう。 少人数のゼミなどであれば、簡単な自己紹介をして互いの素性を知った上で話 し始め、時々話を振って意見を求めながら進めるのが理想的だが、大人数が相手 の場合や時間が限られている際は、なかなかそこまではできない。そんな時は 「今日お話しする○○という言葉について、既に知っていた方はどれくらいいま すか?」と挙手を求めたり、「この図書館には、何冊の本があると思いますか? ①1,000冊 ②1万冊 ③5万冊のうちから、1つだけ選んでください」とクイズ を出してみるなど、双方向性をもたせることが可能である。 「どうやら会場の大部分が、初めて知った言葉のようですね」という流れになれ ば、聴き手は「自分だけが知らなかったわけではない」と安心できるし、話し手は 「基礎から説明したほうが良さそうだ」と、結果を講習に反映して内容をアレンジ することができる。
  • 16. 015ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 「ほとんどの方が1万冊以下と答えましたが、実はこの図書館には約5万冊の 本があります。1日に1冊読んだとしても、130年以上かかる計算になります。 これだけの知識が得られる場だということを、ご存知でしたか?」と話せば、始 めから単なる事実として紹介するよりも数を実感できる。 ただし、初対面の講演者の前で積極的に手を挙げるのは、誰しも緊張するもの である。また、強要するとかえって心理的な負担になる場合もある。このような 問いかけは、あくまでも会場とのコミュニケーションを促す手段として捉え、必 ずしも全員に挙手や参加を求める必要はない。 大切なのは「講演者が一方的に話しているだけの場ではなく」、「聴き手の存在 を忘れておらず」、「双方向的な意思疎通を望んでいる(求めている、ではない)」 ことであり、この3つが伝われば成功はほぼ間違いない。 6)先の読めない展開で、ワクワクさせる   3つ目に挙げた「講習の全体像を見せる」とい点と矛盾するようだが、「先の見 えてしまっている話」というのは退屈なものだ。また、余りにも詳細なパワーポ イント資料などを配布してしまうと、先走ってざっと読み、「内容を理解したよ うな」気になって身が入らない場合も多い。したがって、始めから全てを見せて しまわずに、講習を聴き進めていくうちに謎が解けていくようなドラマ性のあ る演出も有効である。そのために、講習内容を「著作権と引用表記の方法」など と素直には示さず、あえて「Webからのコピペは、何故ダメなのか!?」のような、 いったん考えさせる表記にするのも一つの手となる。 ここでも、クイズのような双方向性が功を奏する。しかも、できれば聴き手の 予想を裏切るようなものが望ましい。意外な結果が示されると、人は「何故そう なるんだ?」とか「そんなに○○なのか!」「これが違法ならば、どうすれば良い んだ?」と考えて興味をもち、浮かんだ疑問について自ら調べるようになる。そ れが分かった時に「そういう意味だったのか!」と膝を打つような「罠を仕掛ける」 のも有効である。これが狙い通りに運ぶと、講習はますます苦痛ではなくなり、 楽しみになっていく。 「要点の箇条書き」は、コース料理でいうと「お品書き」に過ぎない。実際にテー ブルに運ばれて味わってみた時に初めて気づく意外性があると、より深く印象に
  • 17. 016 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 残り、「次の一皿」が楽しみになり、気づいたらデザートまで平らげていて、時間 があっという間に感じてしまう。そうなれば講習は大成功だったと言えよう。 ただし、この方法はあくまでも「応用編」であり、必ずしも全ての講習で盛り込 まなければならないわけではない。一つ一つの基礎的な内容がしっかり伝わるこ とが最優先で、その上でこそ初めて活きる手法であることは、ここで強調してお きたい。 7)「ご清聴ありがとう」から「質問をどうぞ!」へ 講習中の反応のみならず、聴き手による質問から学ぶことも多い。そこで、最 後に5分間だけでも質疑応答のコーナーを設けることをお勧めしたい。そのため にも、時間を守ることは大切だ。ここでも、録音による振り返りとリハーサルが 活きる。 筆者が毎年研究発表を行っている学会では「15分間の発表+5分間の質疑応答」 というルールがあり、質疑応答を行うべき5分間まで使ってしまうと、会場とや り取りする機会を得られない。これでは「自身が伝えたいこと」はより多く話せる かもしれないが、発表者自身が「新たな気づき」を得ることはできない。特に学会 の場合は、会場に居るのは「単なる情報の受け手」ではなく、同じ分野の研究者 たちなので、「異なる視点からのアドバイス」や「自身では気づかなかった弱点の 指摘」を受けられるなど、質疑応答がもたらすメリットは計り知れない。むしろ、 それこそが学会の最大の特長の一つである。講習会においても、内容の改善に役 立つはずだ。 また、アンケートも同じように重要である。「講習は役立ったか?」だけではな く、各種の検索ツールを教えるならば、それぞれについて「知っていたか?」「利 用しているか?」なども訊ね、集計をする際に「学年によって、各ツールの認知度 や利用度にどんな違いがあるか?」や「どのような受講者が『役立つ』と感じる傾向 があるか?」を分析してみるとよい。そうすると、たとえば「高学年になっても、 認知度や利用度が伸びていない。3年生(就職活動準備)向けや4年生(卒業論文 執筆)向けにも内容をアレンジして実施して、各段階ならではの興味を呼び覚ま してみよう」など、より意義のある講習が目指せるだけでなく、「どんな利用者が、 何を求めているのか」を知れば、図書館そのものの運営にも役立つ。
  • 18. 017ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 日本の大学は7年以内ごとに1度、文部科学大臣の認証を受けた評価機関に総 合的な評価を受けることが義務づけられているが、その中で「図書館の評価基準」 は昔からほとんど変わっておらず、蔵書数・来館者数・床面積・机の数、椅子の 数・開館時間といった要素が中心となっている。ところが、アメリカでは2004 年から「大学図書館の利用によって、4年間でどれだけ情報活用能力が伸びたか」 という 成長度 が盛り込まれている。そのため、アンケートやインタビューな どで客観的なデータを取って蓄積する必要があるのだ※1 。 日本の大学は現在、18歳人口の減少などによる財政難が続き、図書館の予算 や専任職員が削減されている傾向がある。これは、自治体など公共図書館でも同 じことが言えよう。 このようなアンケートの蓄積は、講習の改善に役立つだけでなく、図書館が利 用者の知的活動に寄与してきた証ともなる。「職員は専門的な知識をもって講習 を行い、それが利用者の学びや問題解決に貢献している」と経営者や自治体に訴 える場合に、このような客観的な証拠となるデータがあるとないとでは将来像が 左右されかねない。 さらに、アンケートの「自由記述欄」はヒントの宝庫である。質問項目として設 けることすら思いつかなったような鋭いコメントに「ハッ!」とさせられることも 多い。また、この欄は「聴き手からのメッセージ」でもある。「今日の講習を聴か なかったら、ネット情報に頼るだけの人生を歩んでいたかも知れない。目からウ ロコが落ちた思いです。ありがとうございました」というような言葉を受け取る と、どれほど苦労して準備をしてきたとしても一瞬で報われ、疲れも吹っ飛んで しまい「次の講習をより良いものにしよう!」という元気が湧きあがってくる。一 つ一つを紹介することはできないが、業務ではなく筆者が個人として行った講演 会のアンケートは、全て大切に取ってある。 アンケートの最後には「ご感想・ご質問・改善すべき点・もっと知りたかった 点など、どのようなコメントでも結構ですので、どうぞ自由にお書きください (次回に役立てさせていただきます)」と書いた、なるべくスペースの大きな自由 記述欄を設けることを大いにお勧めしたい。
  • 19. 018 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 筆者が講演の内容をデザインする上で心掛けている点を、以下7つにまとめた。 1)受講者が「知らないこと」、「役立つこと」 2)図書館は、無限につながっていること 3)情報の信頼性を疑うこと 4)価値ある情報は、有料であること 5)万能のデータベースは存在しないこと 6)知に敬意を払うこと 7)図書館職員自身も学び続けていること 1)受講者が「知らないこと」、「役立つこと」 講習にあたってまず留意すべきなのが、ついつい「情報を収集・提供する側」の 立場で考えてしまいがちな点である。たとえば「蔵書検索システムの書誌データ 構造」に視点をあてた講習も多いが、利用者はあくまでも「求めている情報を得た い」のであって「図書館情報学を学びたい」のではない。「ミニ司書課程講座」や「図 書館職員の新人研修」のようになっては、受講者のニーズと齟齬が生まれてしま う。 日頃から検索エンジンを使っている層ならば、それと同じ感覚でかなりの部分 までOPACを使いこなすことはできるので、多くの説明は必要ない。また、書 籍通販サイトなどに慣れている受講者は、検索結果で「著者名」がハイパーリンク になっていれば「同じ人が書いた他の本も見つかるのではないか?」とは、容易に 想像がつく。 図書館職員の専門知識が活きるのはその先で、たとえば「NDCの分類番号や件 名がハイパーリンクになっている場合は、それをクリックすれば同じ分野の本が 芋づる式に見つかる」という点は、意外と思い浮かばない。なぜなら「分類番号」 や「件名」は、多くの受講者にとっては「よく知らないからクリックしない意味不 明の記号」に過ぎないからだ。 このように、図書館側にとっては「必ず話さなければならない」と思っているこ 3. 伝えるべき7ケ条
  • 20. 019ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して とが聴き手にとっては「既に知っていること・予想がつくこと」であったり、逆に 「こんなことは言わなくても分かるだろう」と思っていた点こそが「未知の有用な スキル」であることは多い。思い込みを捨てて、各回のアンケートなどを参考に 内容を再構築してみてほしい。筆者が行うOPAC講習の実例については、後述 する。 2)図書館は、無限につながっていること 小さな公共図書館であっても、その市区町村の中央館や他機関との提携による 「取り寄せサービス」で、より多くの本や資料が使えることも、利用者にはあまり 知られていない。 大学図書館でも同じで、多少のお金(郵送料・複写料)と数日の待ち時間を使え ば、どんなに小さい大学でも、あるいは不便な地域であっても、巨大な大学や一 流の研究大学にも匹敵するだけの情報を手に入れられる事実は、必ず説明する必 要がある。 さらに、各省庁が公開している統計データベースや、大学などの研究機関が発 信している機関リポジトリのように、「その図書館が収集しているわけではない が、信頼できるWeb情報」についても、図書館資料と組み合わせることによって 学びに役立つならば、大いに紹介するべきであろう。これは、図書館を主語とし た「利用法のガイダンス」から脱却し、「あなた(聴き手)が問題を解決するために、 こんな情報の見つけ方がある」という視点をもつための立脚点にもなる。 利用者が図書館の評価をする際、まずは建物の大きさや並んだ本の量だけを見 てしまうのは無理もないことだが、これらを紹介すれば、その図書館を見る目が 変わるだけでなく、世界を見る視野が格段に広がるだろう。 3)情報の信頼性を疑うこと よく「Web情報と図書館資料のどっちが優れているか?」のような対比がなさ れるが、両者は相反する存在ではない。大切なのは「信頼できる情報か否か」で あって、「印刷されているか否か」ではない。
  • 21. 020 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して たとえば政府が提供する統計データや法規は、Web情報であっても大いに活 用すべきである。いっぽう本の世界も玉石混交であり、同じ「ビジネス書」という 分野でも、客観的なデータ分析や調査を基にした研究や提言もあれば、単に有名 な経営者が自身の経験を語る汎用性の低いものや、タレント的な経済評論家が極 端な持論を展開するようなものもある。もちろん図書館には資料を購入する基準 があるので書店よりは水準の高い情報が集まるが、それでも最後は自分自身がそ れらの情報を取捨選択しなければならない。その際に、やはりどうしても基礎知 識が必要となる。情報の量が肥大化し、さまざまな方法で大量に手に入るように なった現代こそ、広い視野をもって日頃から学び続けることが、真偽の見極めに は大切だ。これは、図書館職員にも同じことが言えよう。 基礎知識があれば、疑わしい点のある情報には自ずと「本当かな?」という本能 的な嗅覚が働くようになる。また、日頃から意識的に「裏付けのある情報」のみを 使うようにしていると、だんだん個人のブログやフリー百科事典などにはそもそ も目がいかないようになる。その情報を使う時には後でいちいち検証しなければ ならないし、もっと恐ろしいのは、無意識に自身の中に蓄積した大量の情報の中 に「裏付けのある情報」と「間違っているかも知れない(そして誰も誤りに責任を取 らない)情報」が混在し、自分でも見分けがつかなくなることだ。 丹精を込めてつくったワインの樽にたった一滴の泥水が入っても売り物になら ないのと同じように、自身が発する言葉に関しても、仕事や学びの場では責任が ともなう。その点を踏まえた人の話は周りからも信頼されるだろうが、必ずしも 根拠があるわけではない話をしばしば口にする人の言葉は、必ずいつか誰かが疑 い始めるだろう。 4)価値ある情報は、有料であること Webの世界に転がっている情報があまりにも多く、しかも簡単に無料で手に 入るので、人はついつい水や空気のように「当たり前に受け取れるもの」と捉えて しまい、「情報は、お金を払ってまで手に入れる必要はない」と思い込んでしまう。 ところが、たとえば新聞の電子版などは、新聞社が記者を雇い、時間をかけて 教育し、給料を払い、取材をさせ、記者が情報を分析して文章を推敲し、上位職 がチェックし、責任をもって発信した情報である。その価値は紙に印刷された
  • 22. 021ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 新聞と全く劣らないため、相応の対価が必要となる。全てを無料でWebに公開 したらそもそも事業として成り立たないが、やはり「月々の購読料を払ってでも、 手に入れる価値がある」と判断する読者が多く存在し、契約を交わして「読む権 利」を手に入れている。 いっぽう、政府が公開している統計データは誰でも無料で使えるが、膨大な情 報を集めて精査するのには当然ながら税金が使われており、国民全員が間接的に 費用の負担をしている。だからこそ、無料で受け取る権利が誰にもあるのだ。 「責任ある情報には価値があり、価値がある情報には対価が必要である」という 大原則は、講習の中(できれば冒頭)で必ず伝えるべきメッセージである。この点 に立脚しなければ、「このWeb時代に、図書館なんて要るのかな?」という聴き 手の思い込みを払拭できず、「せっかくだから、この講習でしっかりと情報の集 め方を学んでみよう!」と思わせることは難しくなる。 5)万能のデータベースは存在しないこと 筆者は、毎回の講習会で必ずどこかで「この世に完璧なデータベースは存在し ない」と言うようにしている。たとえば日本の雑誌記事を探す場合にしても、収 録対象が違う以上「国立国会図書館サーチ」も完璧ではないし、「CiNii Articles」 も完璧ではない。つまり、大切なのは「データベースにはそれぞれの特性がある ので、その都度の目的に応じて最適なものを選べる」ようにすることである。 限られた講習時間(大学の講義1コマならば90分間)の中で全ての資料や情報 ツールを教えられるわけではないので、「受講後に自分自身で各種のデータベー スを実際に使ってみて『情報の引き出し』を増やすこと」を勧めるのが不可欠とな る。 これを伝えないと、せっかく文献から統計・法令などさまざまな情報ツールを 教えても、最後の質疑応答で「要するに、どのデータベースが一番網羅的なので すか?」と訊かれてしまうだろう。この質問が出た場合、この大切なメッセージ が伝わっていないため、講習内容の再構築が必要となる。
  • 23. 022 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 6)知に敬意を払うこと 「人類が本や論文の形で蓄積してきた叡智と、無料でWebに転がっている情報 との違い」に加えて、「他の研究者が苦心して書いた著作物を、自分のアイデアの ように使うこと」(剽窃)や、「自分にとって都合の良いデータをでっち上げること」 (捏造)の罪の重さを説明するのに、これまで図書館職員などの情報リテラシー教 育担当者はたいへんな苦労をしてきた。ところが、幸か不幸かSTAP細胞の事件 以降はこの問題への認知度がぐっと上がり、非常に説明がしやすくなった。 科学者にとっては尚更だが、どのような分野で糧を得る者にとっても「あの人 の言うことは信用できない」という評価を得たら社会的には致命的なダメージと なるため、情報倫理の意識喚起は今後さらに重要になっていくだろう。 ただし、人間は「定められたルール」よりも、「自分の意思で決めた方針」をより 重んずるものである。自らが目的をもって学び、考えることを繰り返していくと、 同じような問題について過去に研究したり提言したりした先人達への敬意が、自 然と生まれてくる。そうなれば、「このアイデアをこっそり盗んでやろう」ではな く、「この点を踏まえて、自分がさらに発展させ、実現させてみよう」という考え 方に変わっていく。そこに行き着く前に「安易なコピペでお茶を濁してレポート を書き、ギリギリの評価で単位を得ること」を覚えてしまっては成長できないの で、学びのスタート地点に立った早い段階で教えることが必要なのである。 これについても、基礎的なルール説明は必要だが、館内マナーと同じく「違反 者予備軍への事前指導」よりも「未知の世界を学ぶこと」や「世界初の研究に挑戦す ること」にワクワクさせることのほうが、長い目で見ればずっと有効であろう。 7)図書館職員自身も学び続けていること 図書館職員も仕事であれ、趣味であれ、どんな分野でも良いので「自分自身が 学ぶ場」を設け、真剣に取り組んでみると、「情報の探し方」を教える際に、単な る知識ではなく「血の通った言葉」としての説得力が増す。 たとえば、誰しも仕事の上で「報告書」を書くことは多いが、「企画書」や「提案 書」を書いてみると、相手を説得できるだけの裏付けある情報がどうしても必要 になる。ましてや図書館系の専門誌に論文などの原稿を書くとなれば、その分野
  • 24. 023ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して の専門家達に読まれてしまうだけに、「これまでに同じような提言がされていな いか」、「失敗事例や、反証はないか」という先行研究を踏まえた上で執筆するこ ととなる。そういった経験は、図書館職員としてまたとない成長の機会となる。 学部時代に卒業論文すら書かなかった筆者にとって、30歳を過ぎて働きなが ら通った大学院での修士論文が、生まれて初めて挑戦した「研究者の目に晒され る文章」であった。図書館で働き、曲がりなりにも著作権や引用ルールについて 教えている以上、信頼できない情報源を使ったり不適切な引用をしたりは、絶対 にできない。 それまで長い期間と多くの場で図書館と学術データベースの活用法を教えてき たが、こうして自分自身が「情報を必要とし、活用する側」になってみると、7年 間(学生雇員時代を含めると11年間)にわたる図書館職員としての経験は、あく までも「情報を提供する側」としての「知識」の蓄積であったことに気づいた。「求 める情報が見つからないことの苦しみ」や「指導教員に弱点を指摘された時の驚き や悔しさ」、そして「見つけた情報が研究に役立った時の喜び」や「論文が後の誰 かに引用された時の嬉しさ」は、実際に体験してみて初めて知ったことばかりで、 それが翻って「情報を提供する側」に立ち戻った時に、血肉となっている。 筆者が、中央大学のビジネススクール(働きながら学ぶ社会人のための経営系 専門職大学院)事務室に勤務していた際、ある女性の在学生が、自分の子供に「仕 事に加えて大学院にまで通って、忙しくてごめんね」と言ったところ、「『勉強し なさい』と言うだけのお母さんより、自分も勉強しているお母さんのほうがずっ と好きだ」と言われた経験を話してくれたことがある。「血の通った言葉」は、「理 に適った言葉」よりもずっと深く人の心に届くものだ。 「図書館職員自身も、日進月歩の情報化社会において日々学び続けている」とい う事実を伝えることで、この講習会自体が最新の知識・技術であることも分かり、 言葉に説得力が増し、より聴き手を惹き込むことができるだろう。
  • 25. 024 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 大学入学直後の時期に全ての学部共通で90分間(1コマ)で実施すことを想定し、 誌上で模擬講習を行う。ただし、前章までに触れてきたポイントについては割愛 するので、必要に応じて講習に盛り込んでいただきたい。 こんにちは。今日の講習のテーマは「裏付けある情報の探し方」です。 皆さんがこれからレポートに挑んだり、卒業論文を執筆したり、実際に社会に 出て出逢うさまざまな問題を解決するためには、まずは必要な情報を探し、それ を材料に考えて結論を導き出し、自分の言葉で人に伝える必要があります。 今日はまずはその第一歩として、図書館がもっている膨大な本や、さまざまな 専門雑誌に載っている記事、さらに公的機関が提供している統計情報などを、各 種のデータベースを使って探す方法を学びます。この知識と技術を身に付けるこ とによって、効率的に多くの信頼できる情報を見つけ出し、より説得力のある文 章を書いたり、発言できるようになります。 きっと皆さんはそれぞれの夢や目標をもっていると思いますが、それがどのよ うな分野であっても、実現のためには周囲の人に信頼されることが大切です。そ のために、自分の言葉に責任をもてるよう、「裏付けある情報の探し方」を身に付 けましょう。 この講習では、以下の7つのテーマについて順にお話をします(配布資料にも 印刷)。 それでは、さっそく始めましょう。 1)あなたにとって、なぜ図書館が役立つのか 2)情報の評価基準をもちましょう 3)学術情報の流れ 4)本を探す 5)雑誌の記事や論文を探す 6)公的機関のデータベース(統計・法令)を活用する 7)著作権と引用の決まり 4. 大学新入生向け講習の誌上実演
  • 26. 025ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 1)あなたにとって、なぜ図書館が役立つのか Webが急速に発達した現在「図書館なんて、必要なのか?」と疑問をもたれる 方もいるかも知れません。そこで、皆さんにクイズを出します。次の文章のうち、 どの点が間違っていると思いますか? 「どんな情報でも、誰でも、いつでも、どこでも、無料で手に入るようになっ た」 (手が挙がれば、発言を促す。なければ「たとえば、初めの『どんな情報でも』は どうですか?」と訊いてみる。「間違っていても、全然構いませんよ」とも付け加 える。全く発言が出ない場合には強要せず、少しずつ説明を進める)。 たとえばFacebookなどのSNSでは、本人が公開を希望しない写真には閲覧 制限をかけられますね。企業がもっている技術データであれば、制限をかける以 前にそもそもWeb上には置かないでしょう。一部の技術者・経営者以外は見ら れないよう守られているはずです。つまり、「どんな情報でも、誰でも」というの はまず嘘ですね。 「いつでも、どこでも」というのも嘘です。機器が故障したり、電源が切れた 時や認証IDやパスワードを忘れた時、ネット環境がない場所、飛行機内のよう に禁じられた場所など、少しでも条件が整わなければWeb接続は遮断されます。 頭の中で、その状況を想像してみてください。何か解決しなければならない問題 に直面した際、自分自身の頭の中に、知識の蓄積と「ものの考え方の基礎」がなけ れば解決策が出せないことが想像できるでしょう。 「無料で」はどうでしょうか。新聞の電子版などに代表されるように、会員制の 有料情報サイトはたくさんあります。つまり「お金を払った人だけが手に入れら れる付加価値のある情報」にはアクセス制限がかかっているので、「無料で」も嘘 だということになります。それでは、価値ある情報を得るためにその都度料金を 払わなければならないかと言えば、必ずしもそうではありません。たとえば大学 図書館では、学びや研究に必要と判断した電子情報については、学生・教職員 ならば学内のパソコンや無線LAN、あるいは自宅からのID認証によっても閲覧 できるよう契約を結んで、利用者に提供しています。つまり皆さんは大学在学 中、玉石混交のWeb情報の中でも厳選された「発信元が辿れる、責任ある情報」 を、いちいちお金を払わずに手に入れられるわけです。
  • 27. 026 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して これは本や雑誌についても言えることです。図書館では、皆さんから預かった 学費の一部を使い、学びに必要となる資料を選んで集め、書名や著者名から本を 探したり、雑誌であれば一つ一つの記事までも検索できるようにデータベース化 しているのです。 分からないことにぶつかった時に、検索エンジンやフリー百科事典で調べる術 しか知らないか、あるいは図書館と有料データベースの活用法を知っているかで は、情報収集・企画立案の能力に大きく差が出ます。 本でしっかりと基礎知識を学び、専門雑誌の記事で関心ある分野の最新事情を 知り、場合によっては統計データなどを集めて分析して考え、文章や発表で提言 することを繰り返せば、たとえWeb環境のない場所で1対1の対話の中で何か を問われたとしても、皆さんが発する言葉には説得力と信頼性が生まれます。 これこそが、図書館で学ぶ意義です。 2)情報の評価基準をもちましょう たくさん情報が手に入る中で、皆さんは取捨選択をしなければなりません。検 索エンジンで出てきた結果を上から順に見て適当そうな情報を選び、切り貼りを して体裁を整えてレポートを書いても、きっと先生方は見破ってしまうでしょう し、皆さん自身も成長できません。大学時代の4年間は、実はこのような小さな 課題を一つ一つ乗り越えることによって、知識や思考力を養って大きな力を得ら れるように教育カリキュラムが設計されています。ですので、どうかレポートを 「面倒な存在」と捉えず、「自分が成長できるチャンスなんだ」と早めに頭を切り替 えてみてください。この発想の転換ができた人から、一歩ずつ確実に問題解決力 を身に付け始めることとなります。 さて、まずは情報の「信頼性・正確性・客観性」について考えてみましょう。こ れから皆さんが企業などに勤める社会人となり、責任をもって情報を発信したり 企画立案したりする際には、一般の検索エンジンやフリー百科事典に頼って仕事 をすることは許されません。また、先入観や主観に基づいた偏見ある情報も排除 する必要があります。たとえば上司に提案書を持っていく時に、そこに書いた全 ての情報について「どこから取ってきたデータなのか、他人の意見が入っている とすれば、いつ、どこで、誰が、発した言葉なのか」を全て説明できなければな
  • 28. 027ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して らず、それ以前に、訊かれるまでもなく分かるように記載しなければなりませ ん。新聞や雑誌の記事などで統計データに基づいて作成したグラフ(たとえば人 口の増減や分布など)などが載る際に「出典:2015年度 国勢調査(総務省)より」 などと必ず表記されているのは、そのためです。誰が見ても「その情報をどこか ら取ったのか。そして、偏りのない信頼できる情報源なのか」が確認できるよう にしなければなりません。「Webのどこかに載っていました」、「誰が言っていた のかは、思い出せません」では通用しませんし、フリー百科事典も確かな出典の 記載がなければ「匿名、つまり誰が言ったかを示せない」情報なので、大学でのレ ポートや会社での仕事に使うには適しません。 そうなると、「こんな種類の情報を探す時には、この資料あるいはデータベー スが使える」という知識が必要になります。たとえば統計だったらここ、法律 だったらここ、というふうに「情報の引き出し」が多い人ほど、最短距離で的確に 情報を集められるようになります。この能力のことを、「情報リテラシー」とよび ます。「リテラシー」とは、本来「読み書き能力」の意味ですが、ここでは情報を取 り扱う能力として使われています。それは、単に検索エンジンで大量の情報を集 められるという意味ではなく、それを取捨選択したり、そもそも裏付けある情報
  • 29. 028 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して だけに限定して集められる力が大切になります。 次に「専門性・網羅性・鮮度」です。情報の発信者が特定できたとしても、個人 がブログに書いた日記のような記事では、「その人がどれだけの知識をもち、調 査を経て、客観性をもって書いているのか」は分かりません。また、間違ってい た時に責任を追及することも難しいでしょう。その点、たとえば新聞記事であれ ば、その新聞社が雇った記者に書かせ、発信に値するだけの基準を満たした情報 と言えます。「この新聞に載っていた」と記載すれば、万が一間違っていたことが 後から発覚した場合にも、あなた自身ではなく新聞社が責任を負うことになりま す。もう一つ付け加えると、ある事柄、たとえば政治的な判断について常に全て の新聞が同じことを書いているわけではなく、それぞれ視点が異なることがあり ます。なので、一つの情報源ではなく、網羅的に集めて複数の意見を比較する多 角的な視点をもつことが必要となります。もしも意見の対立点があれば、それこ そがその問題の本質を見抜くヒントとなります。どれだけ裏付けある情報を集め られたとしても、「この記事ではこう言っている」、「あの記事ではああ言っている」 と羅列して紹介するだけでは、レポートに求められる「考察」、つまり自分の考え と意見を欠いていることになります。 網羅性という意味では、書店と大学図書館の違いも意識してください。大学で 取り扱う専門分野の本は、特に卒業論文のようなレベルになると、大きい書店に 行ってもなかなか見つかりません。なぜなら書店があらゆる分野の本を置く義務 はなく、売れる本を置くのは商売として当然だからです。しかし、大学図書館で はその大学が置く学部や学科で取り扱う専門分野についての基礎的な本は必ず集 めていますし、見つからない場合でも他大学と連携して取り寄せたり、購入リク エストを出すことも可能です。 そして、情報には鮮度があります。数学や物理学の分野では何千年経っても変 わらない真理もありますが、実社会での国際情勢・ビジネス・政治などの問題を 取り扱う場合には、歴史や背景を踏まえた上で、常に最新の情報を知る必要があ ります。「Web情報に比べると、本の情報は古いのではないか」というのは、確 かに正しい考えです。なぜなら、本に載っているのは既に熟慮し尽くされた「重 要で基礎的な知識」であり、今日この瞬間に起こった出来事を知るための情報源 ではないからです。いっぽう、スピードの速いWeb情報にも、先ほどの電子新 聞や通信社サイトなど、責任の所在の明確な情報源もあります。つまり「本と
  • 30. 029ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して Webのどちらが優れているか」ではなく、用途が異なるので両者を必要に応じて 使い分けることが大切なのです。 次に「費用対効果」ですが、同じくらいのページ数の本にも値段の差があること をご存知でしょうか。ベストセラー小説ならば1,000円台で買えても、大学図書 館が取り扱うような専門性が高い本では5,000円や1万円するものは結構ありま す。これは買う人の数による違いで、専門性の高い本はそれほどたくさんの人が 買うわけではないため、どうしても値段が高くなってしまいます。卒業までに読 むべき本を全て自費で買っていたら、アルバイト代は底をついてしまうし、部屋 も本で埋め尽くされてしまうでしょう。だからこそ、高価な大量の専門書を共有 できる図書館には、利用価値があるのです。 そして、最後に最も大切なのが「再生産性」です。Web情報の切り貼りで何度 レポートを書いてもどのような力も身につきませんが、今日お話しするやり方で 基礎となる情報を集めて、そこから何が言えるかを考察し、解決策を打ち出して 文章や言葉にすることを何度も経験すると、他の課題にも応用が可能な問題解決 力・発信力が身についていきます。そして、その時に手にした資料やデータベー スの特性や使い方は、もしも最終的にはレポートで使わなかったとしても、必ず 記憶と経験として自分の中に残ります。すると、次に何か別の問題について考え る時に、自分が蓄積した知識の中から、「日本と中国の貿易収支だったら、あの データベースを見れば分かるはずだ」と閃いて、すぐに引き出せるようになりま す。この力は、あなたにとって一生の宝物になることを約束します。 初めてのレポートを書くのは、誰にとっても苦しいものです。ついつい、検索 エンジンで適当な情報を集めて切り貼りしたくなってきます。しかし、そこで一 度踏みとどまって自分がなりたい将来像を思い描き、楽な道に流されずに正々 堂々と自力で考えることに挑戦してみてください。もしも数枚のレポートを書く ために1週間を費やしてしまったとしても、それは決して無駄な時間にはなりま せん。その経験を何度も繰り返すことによって、未知の高度な課題に対しても、 より短時間で効率的に解決策を導き出せるようになっていくはずです。その力を 獲得できるのが大学であり、その推進力となるのが図書館なのです。
  • 31. 030 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 3)学術情報の流れ 資料の探し方の前に、「学術情報の流れ」についてお話します。何か新しい発見 や技術が生まれた場合、たとえば「iPS細胞が開発された」という時、皆さんはま ず新聞やネットのニュースで知ることになるでしょう。ところが、そこには一般 向けのごく表層的な事実しか載っていません。開発した研究者は「どのような実 験を経て結果(開発)にいたったか」を詳細なデータと共に論文として記述します。 その論文は、専門雑誌に載る前に同じ分野の業績ある研究者たちが組んだチーム によるチェック(査読)を受けて「充分な実験データが示され、結論にいたる研究 の過程にも問題がない」ことが認められると、『Nature』や『Science』などの権威 ある学術雑誌に論文が載ります。このプロセスは、理学・工学のみならず、経 済・社会などあらゆる分野で共通です。このように厳しくチェックを受けている から、専門雑誌とWeb上の匿名情報は全く質が異なるのです。 そして、専門誌に掲載された論文などの情報を世界中で共有をして、それを踏 まえてさまざまな研究がなされた後で、その分野の基礎知識が本になります。で すから、まず概要を掴むためにはしっかりと本で学び、ある特定の問題について
  • 32. 031ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して の最新事例や掘り下げた情報を知りたい場合には専門雑誌の記事を探す、という 「使い分け」が大切になります。つまり、本と雑誌とは、役目に違いがあるのです。 したがって、本日は「本の探し方」と「雑誌記事の探し方」の両方を皆さんに知って いただきます。この両者を組み合わせながら、また次の世代が大学で学習や研究 を続けることで、未来の発見につながります。以上が、「学術情報の流れ」です。 こうした専門雑誌や新聞は、責任をもって刊行しているため基本的には有料で す。電子版についても、お金を払った購読者以外にはロックがかかっていて、誰 でも読めるわけではありません。データベース会社や新聞社は利用料金を取り、 それを基に執筆料金や記者の給与を払っています。お金には、責任が伴います。 つまり、個々の記事を書いた人はいい加減な情報は出せないし、料金を負担して いる利用者は、その情報が間違っていた場合には情報元に責任を問うことができ ます。ところが、たとえばフリー百科事典の記事のような情報には、誰も責任を 負わないし、誰に対しても責任を問えません。だから、大学での学びや社会に出 てからの仕事では「裏付けある情報」、つまり「どこの誰が言ったのかを辿れる情 報」しか使えないわけです。この点を、大学生となった皆さんは肝に銘じてくだ さい。
  • 33. 032 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 4)本を探す それでは、いよいよ「本の探し方」に進みましょう。これが、「OPAC」と呼ば れる図書館の蔵書検索サイトです。聴きなれない言葉だと思いますが「O」はオン ライン、つまり「Webで使える」という意味です。「PA」はパブリック・アクセス、 「公開されている」という意味です。「C」はカタログ、日本語では「目録」と言って、 図書館がもつたくさんの本を一覧・検索できるようにしたデータベースです。本 1冊1冊のタイトルや書いた人の名前などの情報が記録されているので、それぞ れ「書名」や「著者名」の検索ボックスに入れて検索すれば、探している本が見つか ります。ここまでは皆さん知っているか、本を通販で買ったことがあれば想像が できるでしょう。それでは、「検索結果画面」が出てお目当ての本が見つかった時 に、「ここがゴールだ。さあ、数字をメモして、本棚へ探しに行こう」と思ってい ませんか? それでは、毎回1冊の本しか見つからなくて少しもったいないです。 今日はせっかくなので、もう少しワクワクすることを教えましょう。 ここでは、大学生になった皆さんにお薦めの『知的生産の技術』(岩波書店・ 1969年)という本を例に見てみましょう。この本はタイトルはお堅いですが、「学 び方・考え方・伝え方」という大切な力の修得法についてとてもやさしく書かれ た本で、今から50年近く昔に書かれたのに、Webが発達した現在でも全く色褪 せずに読まれ続けています。残念なことに私は大人になってから初めて読んだの ですが、「大学1年生の時に出逢っていれば良かった!」と強く後悔しており、今 日の講習会に参加してくれた皆さんへ先輩からのプレゼントとしてこの本を紹介 します。 さて、本のタイトルで検索すると、この結果画面が出ます。まず「著者名」の 「梅棹忠夫」が青字でアンダーラインが付いているのでクリックすると、この方が 書いた他の本がたくさん見つかります。これは本の通販サイトと同じ要領なので、 ほとんどの人が予想できていたと思います。それでは、その下の「件名」はどうで しょうか。この本には「学術」と「情報処理」という全く異なる2つの件名がついて います。試しに「学術」をクリックしてみると、あの福澤諭吉の『学問のすすめ』な ど、たくさんの「学ぶこと」や「学び方」に関する本がヒットしました。このように 同じ件名をもつ本、つまり同じ分野の本がリストアップできるのです。そしてこ の本には「学術」という面の他に、学んだ上で得た情報を整理するための技術とし て「情報処理」という件名も付いています。ここをクリックすると、同じように
  • 34. 033ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 「情報処理」に関する本のリストを見ることができます。「学術」も「情報処理」も、 『知的生産の技術』というこの本のタイトルには1文字も含まれていません。とこ ろが、図書館ではOPACのデータをつくる際にそれぞれの本に書かれた内容を 踏まえてテーマごとに件名を付けているため、このように近い分野の本を芋づる 式にまとめて探すことができるわけです。これらの関連書は、単なるタイトル検 索だけでは見つからなかったはずですね。 次に「分類」という項目を見てみると、「NDC8:002.7」という謎の数字がありま す。この数字は「請求記号」とも呼ばれますが、実は「件名」よりも高い精度で近い 分野の本を探せる「魔法のカギ」となる数字なのです。 「NDC」とは、「日本十進分類法」の略です。大学図書館を始め、公共図書館に 行くとよく本の背表紙にシールが貼ってありますが、あの番号です。図書館では、 この分類法によって本をテーマごとに分類して並べています。その考え方は、ま ずこの世の全ての事象・森羅万象を「0.総記」、「1.哲学・宗教」、「2.歴史・ 地理」など10のカテゴリーに分けます。「広すぎでどこにも分類できないもの」が 0番台に中に入っています。『知的生産の技術』や『学問のすすめ』のように「全て
  • 35. 034 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して に関わるもの」は、まさに0番です。 次に、たとえば3つ目の「300 社会科学」を見ると、さらに「政治、法律」から 「国防・軍事」まで10に分かれ、7つ目の「370 教育」がさらに10に分かれて… というふうに、階層化され、377番は「大学、高等・専門教育、学術行政」を指 します。この時点で1000分の1の精度で特化したテーマですが、小数点以下で さらに詳しく細分化されます。その本のテーマによってここまで細かく分かれ た番号が振られ、しかも近い分野の本が近くの番号になるようにできています。 NDCのおかげで、たまたま本棚に行った時に「あっ! 隣の本も参考になりそう だ」という出逢いが生まれます。また、日本全国共通のルールなので、この法則 さえ知っていれば、北海道から沖縄まで公共・大学などほぼ全ての図書館で本が 探しやすくなります。 このように「件名」や「分類」などから芋づる式に関連書を探す方法を知っている のと知らないのとでは、大きな差が生まれます。検索結果画面を「最終ゴール」と 見てしまうか、それとも「さまざまな関連する本に広がる入り口」と捉えるかで、 一生のうちで出逢える本は量的にも質的にも違ってくるでしょう。つまり検索結 果画面はゴールではなく、 無限の知的冒険の、始まりの扉 なのです。 ところで、大学図書館は頼れる存在ですが、万能ではありません。なぜなら、 この世にある全ての本を収めた図書館はどこにもないからです。たとえば、この 大学の図書館は法学の分野ならば日本有数の存在ですが、医学・美術・音楽など 特殊な分野に関する本については、それを専門とする大学には勝てません。しか し、実は大学の図書館同士はつながっていて、一つの大学でもっていない本や雑 誌は取り寄せることが可能です。 たとえば、お寺のことを調べていて『月刊住職』という雑誌に載った記事を読み たいとします。今、皆さんはちょっと笑顔になりましたが、世の中には膨大な数 の専門雑誌があり、それぞれを必要とする専門家や研究者が居るのです。たとば 『月刊廃棄物』や『月刊糖尿病』、『接着』、『ねじの世界』、『外交』、『養豚界』などと いう雑誌もあり、もちろん各分野では重要な情報源となっています。皆さんも将 来、何かの分野のプロフェッショナルと呼ばれる存在となった際には「これだけ は欠かせない」という専門誌をいくつか読むことになり、それらには一般の人か らはきっと想像もしなかったタイトルがついているでしょう。さて、OPACで『月 刊住職』を検索してみると、やはり「該当する資料は見つかりません」というメッ
  • 36. 035ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して セージが出ます。ここで「ああ、自分の大学の図書館ではもっていなかった。残 念ながら諦めよう」と思ってしまっていないでしょうか? よく見ると、その先 に「別の検索語で再度検索するか『CiNii Books※2 (国立情報学研究所の総合目録 データベース)』で他大学等の所蔵を検索することができます」と続いています※3 。 そこで試しに、その下の「CiNii Books」のアイコンを押してみると、仏教系を中 心に全国で15の大学図書館にこの雑誌があり、そのうち11大学では1974年の 創刊号からもっていることが分かります。ここまで分かれば、図書館に相談して コピーを取り寄せたり、近くならば紹介状を書いてもらって訪問して閲覧するこ とができます。雑誌の論文であれば数ページ程度であることが多く、郵送代を足 しても数百円で日本中の論文を手に入れることができます。さすがに本の場合は、 現物を郵送してもらって館内など許される範囲で利用することになりますが、同 じように「CiNii Books」で他の大学がもつ本を探すことができます。 もう一つ、本の便利な探し方として、同じく国立情報学研究所の「Webcat Plus※4 」をご紹介します。たとえば「ソーシャルネットワーク」という言葉を「一 致検索」で探してみると181件ヒットしましたが、「連想検索」だと、同じ言葉で も50,807件に増えます。これは、言葉と言葉のつながりの強さによって近いも のを連想して探せる機能によるもので、本のタイトルに検索ワードが含まれてい なくても、その言葉に関連するより多くの本を見つけられるのです。さすがに5 万件は多過ぎるので、右側に出る「出版年」で絞り込んだり、画面の右側に表示さ れた連想ワードの一覧の中から「それを検索対象に入れるか、入れないか」を選ぶ ことによって、さらに自分の興味関心に近い本に絞り込んで探すことができます。 対象は1,000万冊以上なので、一つの大学図書館ではとても収蔵できないほどの 本の中から選べます。この「Webcat Plus」と「CiNii Books」に加えて図書館の取 り寄せサービスを知っていれば、稀少本を除けば日本で手に入らない本はほとん どありません。先ほど例に出したように、本学で扱っていない研究分野の資料に ついても入手を諦める必要はないので、どうか妥協しないで「知の包囲網」を広げ てみてください。 5)雑誌の記事や論文を探す 専門書や論文の最後には「参考文献リスト」が載っていて、そのテキストを書く
  • 37. 036 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 上で参考にした資料が示されています。同じ分野に関心をもつ人にとって、この リストはまさに宝の山であり、学びの助けとなります。皆さんは既に、本につい てはこれまでに話した方法で探して手に入れることができるでしょう。本ではな く雑誌に載った記事でも、OPACで雑誌タイトルを検索して、該当の巻・号が あればその記事を読むことができます。よくある間違いは、それぞれの記事や論 文のタイトルをOPACに入れて検索してしまうことです。OPACは「日経ビジネ ス」など雑誌のタイトルはデータとしてもっていますが、個々の号に掲載された 記事や論文一つ一つのタイトルはもっていません。 そうなると、参考文献などで「論文が載った雑誌のタイトルや巻号」が分かって いる場合は良いのですが、「こういうテーマについて、またはある研究者によって、 これまでに書かれた記事・論文にはどんなものがあって、どの雑誌の何巻・何号 に載っているんだろう?」と思った時に、OPACでは探せないことに気づくでしょ う。 そこで役に立つのが、個々の論文を探すためのデータベースです。今日はまず、 「CiNii Books」と同じく国立情報学研究所が提供している「CiNii Articles※5 」を ご紹介しましょう。 お話ししたように、専門雑誌には本よりも詳しい事例や研究、焦点の絞られた 専門性の高いトピック・最新の情報が記事・論文として載っており、特に3年生 や4年生になってくると、本で学んだ基礎的な情報だけでは歯が立たなくなって くるはずです。 「CiNii Articles」は、日本国内の論文を探すためのデータベースです。キー ワードや著者名で検索すると「どんな論文があるか、どの雑誌の何巻・何号に 載っているか」という一覧リストが表示されます。そこまで分かれば、検索結果 の「収録刊行物」(雑誌のタイトル)を自分の大学図書館でOPAC検索して読むか、 もしもなければ先ほど例に出した『月刊住職』と同じ手順で「CiNii Books」を使っ て、他大学の蔵書も探して取り寄せることが可能です。 なかには、「抄録」として、その論文の要点や概要を簡単に紹介した文章が載っ ているものもあります。これは、実際に手にする前に「その内容が自分にとって 参考になるかどうか」を見極めるのに役立ちます。 さらに、もしも無料で公開されている場合は「CiNii PDF オープンアクセス」 などのアイコンが表示されますので、その場でPDFを開いて読めてしまいます。 つまり、夜中でも海外でも、図書館に行かないでも読める論文もあるのです。こ
  • 38. 037ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して れは、これまで話した「価値ある情報は有料である」という原則に反するようです が、たとえば政府など公的機関の刊行物であったり、「機関リポジトリ」といって、 大学や研究所が成果報告として責任をもった情報を無料で公開する例も増えてき ました。これらの情報は無料であっても、レポートの参考として充分に活用する 価値があります。 もう一度だけ強調しますが、情報の取捨選択で大切なのは「誰が言ったのかを 辿れるか否か」であり、「Webか印刷物か」ではありません。ただし発信者を特定 できるからといって、単なる有名ブロガーやタレント評論家の言葉を引用する人 のレポートや提案は、それ相応の評価しか得ることができません。ここでも「情 報の価値基準」をもつことが大切になります。 日本の論文を探すための情報ツールとしては、他にも「国立国会図書館サーチ ※6 」など、公的機関が運営しているデータベースがあります。海外の文献を調べ る際には、「WorldCat※7 」などもあり、こちらは世界中の7万を超える主要な図 書館・研究機関から20億件を超える所蔵情報を調べられるデータベースです。 ここで皆さんに「完璧なデータベースは存在しない」という点をお伝えしておき たいと思います。これまでに紹介した各データベースは、いずれも政府などの団
  • 39. 038 ライブラリー・リソース・ガイド 2015年 冬号 ライブラリアンの講演術  伝える力 の向上を目指して 体が膨大な量の情報を集めていますが、それぞれ収録している対象に違いがあり ますので、漏れがないよう常に複数を見比べてみる習慣をつけてください。 たとえば「CiNii Articles」は、いわゆる大衆雑誌や娯楽雑誌は扱っていません。 もしも社会学的な興味関心などから芸能人関連の情報を集める必要がある時は、 大衆雑誌を専門とした「大宅壮一文庫※8 」のデータベースのほうが遥かに役立つ という場合もあります。このように、物事を調べる際にはどれだけ多くの「情報 の引き出し」を選択肢としてもち、その中で最適なものを選べるかが大切な力に なります。「検索エンジンのように、巨大な1つの引き出しがあれば良いではな いか」と思われるかも知れませんが「ゴミの山の中から一つ一つ選別して宝物を 見つけ、しかもそれが本当に宝であることを自力で検証する作業」が必要となり、 しかも始めにお話ししたように、実は「価値と責任のある情報」は検索エンジンで 見つからないものが大部分です。 今日、皆さんが学んでいる「情報リテラシー」とは、「その時の必要に応じて、 最適な情報源を選んで知りたいことを引き出せる力」でもあるのです。