年初のコインチェック事件、仮想通貨価格の乱高下や各国のICO規制を受け、仮想通貨を取り巻く環境は激変しています。3月のG20では投機性の高さから仮想通貨(Virtual Currency)ではなく暗号資産(Crypto Asset)と位置づけ直し、規制の在り方を見直す議論もありました。Blockchainの研究開発や国際標準化の動向、仮想通貨交換業者に求められるセキュリティー要件など、最近の話題を織り交ぜながら、仮想通貨とBlockchainが今後どのように社会から受け入れられ、人々の暮らしを変える可能性があるのか、一緒に考えてみませんか。

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2018年4月20日
Japan Digital Design株式会社
楠 正憲
仮想通貨とBlockchainの課題と展望

2. 自己紹介 – 楠 正憲（くすのき・まさのり）
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Japan Digital Design, Inc. Chief Technology Officer
仮想通貨・Blockchainとのかかわり:
学生時代から電子マネーを研究、日経デジタルマネーシステムで編集記者
2013年秋からBitcoinを研究、MtGOX、The DAO、Coin Check事件などを報じる
2016年 経済産業省「ブロックチェーンに関する検討会」委員 等
2016年 ISO/TC307 Blockchain and Distributed Ledger Technologies 国内委員会 委員長
2017年 一般社団法人 日本ブロックチェーン協会 アドバイザー
2018年 金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」メンバー
現在の社外での活動:
一般社団法人 OpenID Foundation Japan 代表理事
内閣官房 IT総合戦略室 政府CIO補佐官（番号制度担当）
内閣官房 番号制度推進室 番号制度推進管理補佐官
内閣府（本府）情報化参与 CIO補佐官
東京大学大学院 情報理工学系研究科 非常勤講師
福岡市 政策アドバイザー (ICT)
国際大学GLOCOM 客員研究員
FinTech
Identity
Security
Blockchain
API Economy
e-Government

3. 最近のお仕事: 共著＆帯の紹介文
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4. ISO/TC307 Blockchain and Distributed Ledger Technologies
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2017年4月 シドニーで初会合
2017年11月 東京会議、次回は2018年5月 ロンドン

5. ISO/TC307で議論されていること
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WG1: Terminology
SG1: RA, Ontology
SG2: Use Case
SG3: Security
SG4: Identity
SG5: Smart Contract
WG1: Terminology
SG2: Use Case
WG2: Security
Privacy, Identity
WG3: Smart Contract
SG6: Governance
SG7: Interoperability
活動
終了
活動
終了
活動終了
活動継続
SG1としての活動は終了し、以下の2つの
テーマはそれぞれプロジェクトとしてWG1に
おいて活動を引き継ぐ。
• Reference Architecture
• Ontology & Taxonomy
SG2は、次回ロンドン会議までSGとして
活動を継続する。
SG3とSG4としての活動は終了し、両SG
で活動していた内容は新規に設置する
WG2において引き継ぐ。
SG5としての活動は終了し、新規に設置
するWG3において活動を引き継ぐ。
新たに “Governance” をテーマとしたSG
を設置し、ロンドン会議まで活動を行う。
新たに “Interoperability” をテーマとした
SGを設置し、ロンドン会議まで活動を行う。
新規SG
新規SG

6. 語彙が固まり標準開発が始まるには時間を要する
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7. 世間におけるブロックチェーンに対するイメージ
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• 中央集権型から分散型に移行することで、様々な機関が不要になる
・ポイント発行者（電子マネー）
・エスクロー機関（電子商取引）
・登記簿管理者（土地登記）
・仲介者（シェアリング）
・中央銀行（通貨）
×
中央集権型 分散型
将来現在
IBM社資料をもとに経済産業省で加工
出典: 平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備
ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査 2016年3月

8. ブロックチェーン技術による社会変革への期待 (2016)
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出典: 平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備 ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査 2016年3月

9. Blockchain/DLTが情報システムにもたらし得る影響
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個
別
シ
ス
テ
ム
Blockchain
個別の業務を電算化した個別システム・独自スキーマから、共通のデータ・暗号化
方式・プロトコル等を共有することで組織を超えた疎結合システムを実現できる
共通データ構造
共通P2Pプロトコル
共通署名・暗号化方式
共通プロトコル・API
ア
プ
リ
デ
ー
タ
スマート
コントラクト
共通Restful API
サービス
スマート
コントラクト
サービス
組織を超えた相互運用性の実現
ア
プ
リ
デ
ー
タ
ア
プ
リ
デ
ー
タ
オープンシステムで異システム間の通信
そのものは容易になったが、データ構造
やアクセス制御は縦割りで設計されてき
たため、相互接続を実現するには仕様レ
ベルでの複雑な擦り合わせと接続テスト
が必須となり、BCPを実現するには個別
システムで冗長性を確保する必要がある
データ層の設計・運用を共有することで
異システム間の相互連携とBCPを容易に
運用ポリシー・接続試験
境界を突破された途端
に全てデータを抜かれ
てしまう従来型の境界
セキュリティーから、
最初から全てのデータ
にアクセスできる前提
でオブジェクト単位の
署名・匿名加工を行う
Blockchainの発想に

10. Blockchain関連のR&Dが急激に進んでいる背景
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11. ビットコインの歴史と価格の推移
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12. BitcoinとBlockchainの仕組み
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http://www.slideshare.net/11ro_yamasaki/bitcoin2 より抜粋・加筆
新コイン
12.5BTC

13. 仮想通貨を支えるエコシステムと仮想通貨交換業者
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現金経済
仮想通貨経済
採掘業者
計算・生成
Wallet
仮想通貨の保管
操作画面の提供
交換業者
現金・他の仮想通貨との両替
Media
決済業者
決済手段の提供
採掘機器販売
製造・販売
銀行口座
分散台帳
Blockchain

14. いまだに作者が分からないBitcoin
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2008年11月 論文をCryptography MLに投稿
2009年1月に運用開始、2010年ごろ活動を休止
2014年3月 I’m not Dorian Nakamoto”と書き込み
正体については諸説濫立
• Los近郊在住のドリアンナカモト氏
• その近くに住んでいたHal Finney
• Michael Clear – New Yorker
• 京大 望月新一教授 – Ted Nelson
• US 20100042841 A1の発明者
– Updating and Distributing Encryption Keys
– Neal King, Vladimir Oksman, and Charles Bry
• 名乗り出たCraig Wright

15. 暗号マニアの電子肩たたき券が「お金」に化けた瞬間
Copyright (c) 2018, Japan Digital Design, Inc., All rights reserved. 14http://bitcoinmoney.com/post/3109720916/laszlos-pizza

16. なぜ最初の売買が成立したのか
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Pizza for bitcoins? by laszlo
I'll pay 10,000 bitcoins for a couple of pizzas.. like
maybe 2 large ones so I have some left over for the
next day. I like having left over pizza to nibble on
later.
May 18, 2010, 12:35:20 AM
So nobody wants to buy me pizza? Is the bitcoin
amount I'm offering too low?
May 21, 2010, 07:06:58 PM
I just want to report that I successfully traded 10,000
bitcoins for pizza.
Thanks jercos! May 22, 2010, 07:17:26 PM
Bitcoin Market
10kBTC = $41
jercos
先に取引所が立ち上がって
いたので裁定取引が可能

17. 2011年 違法薬物取引サイトでBitcoin決済が普及
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18. 2013年 FinCENガイドラインとキプロス危機で普及
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ニコシア中心部の銀行支店では、店舗に入る
順番を待つ預金者らをメディアが取り囲んだ
＝２０１３年３月２８日、喜田尚撮影
http://webronza.asahi.com/business/themes/2913032800001.html
法定通貨による銀行預金は破綻
した銀行の株式に転換されたが
Bitcoinで蓄財していれば数倍に
膨れ上がった

19. 2013年秋 日本でもBitcoinで支払を受け付ける店が登場
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20. 2013年 ビットコインバブルとMtGOXの破綻
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http://www.coindesk.com/price/

21. FATFガイドラインと資金決済法の改正
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• 2015年 FATFが取引所の口座
開設や、仮想通貨の交換に
対して本人確認を求める
• 2016年 勧告を受け日本でも
資金決済法や犯罪収益移転
防止法を改正「仮想通貨交
換業者」を定義し登録制に
• 平成29年度 税制大綱からは
資金決済に関する法律に規
定する仮想通貨の譲渡につ
いて消費税を非課税とした

22. 中国に集積したBitcoinの採掘、Scaling問題の顕在化
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https://www.weforum.org/agenda/2016/06/these-photos-show-you-inside-an-icelandic-bitcoin-mine

23. 2017年 Bitcoinバブルの再来とBitcoin Cashとの分裂
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24. 実はあまり安くないBitcoinの処理コスト
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25. 実質たったの4tpsだったBitcoinの処理性能
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出典: https://blockchain.info/ja/charts/avg-block-size
出典: https://blockchain.info/ja/charts/n-transactions-per-block

26. SegWit: 署名検証に必要なデータを分離
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ブロックヘッダ
ハッシュツリールート
旧仕様のブロック(イメージ)
入力1
ScriptSig
(電子署名、公開鍵）
前取引TXID
入力2
ScriptSig
(電子署名、公開鍵）
前取引TXID
出力1
ScriptPubKey
(検証命令コード、
支払先アドレス)
支払額
トランザクション(TXID)
ブロックヘッダ
ハッシュツリールート
入力1 前取引TXID
出力1 支払額
Witness無しトランザクション
（TXID)
入力2 前取引TXID
ScriptPubKey
(支払先アドレス)
Witness
(電子署名、公開鍵、
検証命令コード)
Witness付トランザクション
（WTXID)
SegWit仕様のブロック(イメージ)
WTXIDのハッシュツリーはcoinbaseに格納
Witness
を分離可能
出典: http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/16/062400138/110700010/

27. SegWit実施後も処理量は300tpm (5tps) を超えず
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28. 2014年から増え始めた孤立ブロックが解消
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29. 仮想通貨を巡る最近の事件
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時期 仮想通貨交換業者 被害額 要因
2014.2 MtGOX – 日 約470億円 不正アクセス・内部犯行
2015.1 BitStamp – SVN 約5億円 従業員に対するフィッシング
2016.8 Bitfinex – 香港 約65億円 不正アクセス
被害額分のコイン発行、全額償還
2017.12 Youbit – 韓 約18億円 不正アクセス
2018.1 Zaif – 日 約10億円? Web APIに対する不正アクセス
2018.1 CoinCheck – 日 約580億円 未発表
2018.2 BitGrail – 伊 約181億円 未発表
時期 トークン・サービス 被害額 要因
2016.6 The DAO
運営者 Slock.it – 独
約50億円 The DAOのスマートコントラクトの
脆弱性を悪用した攻撃／Ethereum
ハードフォークで返還された
2017.11 Thetherトークン – 米 約34億円 不正アクセス
2017.12 NiceHash - SVN 約68億円 不正アクセス

30. コインチェック事件
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31. 最初の数分で500億円分以上が盗み出された
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32. ホワイトハッカーによる追跡劇
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mizunashi.coincheck_stolen_funds_do_not_acc
ept_trades:owner_of_this_account_is_hacker

33. 流出NEMの受取拒否を求めるメッセージ
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ts:warning_dont_accept_stolen_funds

34. 犯人は独自の交換サイトをダークウェブ上に開設
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35. 追跡モザイクの廃止で盗難XEMの交換は一気に加速
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出典 https://twitter.com/MasafumiNegishi/status/976767126169010176

36. 仮想通貨・暗号資産を巡る今後の論点
⚫ 金融庁 仮想通貨交換業者等に関する研究会
‒ Initial Coin Offerへの対応（法的位置づけ、会計基準）
‒ 仮想通貨交換業者の情報セキュリティー基準
‒ 証拠金取引やICOに対する法律上の取り扱い
‒ 匿名通貨の取り扱いについて
⚫ 仮想通貨は支払い手段として社会から受け入れられるのか、投機対象と捉えるべきか
⚫ Bitcoinの価値の源泉とは何か（発行残高の安定性、送金の利便性、分裂のリスク等）
⚫ 税制上の取り扱い（現在は総合課税の雑所得、源泉分離課税を望む者も）
⚫ 海外の仮想通貨取引所・DEX等の取り扱い
⚫ 中央銀行デジタルマネーが広く使われる可能性はあるのか
⚫ 仮想通貨に運営者がいないというフィクションを、いつまで当局は認めるのか
⚫ ブロックチェーンの価値がどこにあると考えるべきか
‒ 必ずしも低コスト・高性能という訳ではない、仮想通貨は採掘報酬を山分けしてるだけ
‒ Public Chainでは採掘者の集中が起こっているし、Private Chainはトラストレスではない
‒ 組織をまたいだ分散システムで、共通のデータ上で共通のコードを動かすことの価値
‒ 改竄不能な台帳上で人手を介さずに自動処理を実行できることのメリット・デメリット
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37. Copyright (c) 2018, Japan Digital Design, Inc., All rights reserved. 36