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Human
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誰が学校に適応し、何がそれを
⽀支えたのかを考える
松嶋 秀明
(滋賀県⽴立立⼤大学)
⽇日本教育⼼心理理学会第57回総会.
⾃自主シンポ『学校適応はどのようにとらえられるのか(7)』
場所:朱鷺鷺メッセ(新潟コンベンションセンター)302B室
⽇日時:2015年年8⽉月28⽇日 13:30-‐‑‒15:30
h9p://www.slideshare.net/secret/3PyCa06z1VugWh
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「学校適応」とはなにか?
• 学業的機能、社会的機能、⾏行行動的機能(例例えば、⼤大
対・⼤大⽵竹・松⾒見見, 2007)
→ 学校への規範的な参加を前提。
→「適応」は望ましいことか?
• 個⼈人と環境の相互作⽤用、調和(例例えば佐々⽊木,1992)
→ 環境を独⽴立立変数とする?
→ 環境と主体のつくりつくられる関係
• 何が「適応」を⽀支えるのか?
– 潜在的な⽀支援がどのように提供され、それがどのよう
に意味づけられるのか?
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荒れた中学校の
フィールドワークから
• ある「荒れ」た中学校への3年年間の実践関与的観察。
– 都市部にある中学校。全校⽣生徒、約700⼈人で、この地域の
⼤大規模校にあたる。 ⽣生活環境が厳しいなかで育つ⼦子ども
が多い地区を学区にもつ。
– 1年年時、対教師暴暴⼒力力や授業妨害、授業エスケープなどがあ
り、騒然とした雰囲気。2年年時からは次第に落落ち着いてき
た。
• いずれも1年年当初から上記⾏行行動をおこしていたアキオ、
コウヘイ、カイトをとりあげる。
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廊下
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アキオ、コウヘイ、カイトらが
たまっていたところ
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カイトの径路
コウヘイの径路
アキオの径路
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• 教師は当初、教室にい
れようと試みたが失敗。
「ぶつかるよりも話を
きいてやる」ことに気
づく。
• 同時に教師は「⼀一般⽣生
徒を育てる」という⽅方
向性をうちだす。
• カイトは授業エスケー
プする集団のなかでの
イジメにあうなど、廊
下にいられなくなる。
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(カイト)プラスにならんやつは切切る
• カイトは廊下でたむろしていたグループから最近はなれて単独
⾏行行動をしている。数週間前、教室内でふざけているところを注
意されたのにキレて、注意した⼥女女性教師に暴暴⼒力力をふるってし
まったことで、親にひどく怒怒られた後からだ。
(...)
• 筆者は、カイトが2⼈人になると素直に考えていることをしゃ
べってくれる⽣生徒であるという印象をもった。「最近1⼈人でい
ることが多いみたいだけど、どうしたの?」と聴いてみたとこ
ろ、「⾃自分のプラスにならんやつは切切ることにした」ときっぱ
りと⾔言う。
教室には⼊入っているものの、授業中は寝てばかり。
3年年⽣生になると、新しい友⼈人とつるんで再び授業
エスケープするようになる。
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「⼀一般⽣生徒を育てる」⽅方針は功
を奏して、学校は落落ち着きはじ
め、授業エスケープする⽣生徒は
減少した。
⼀一般⽣生徒から教室に誘う動きも
あらわれた。
コウヘイは⼩小学校時代から所属
していたサッカー少年年団のつな
がりで、「⾃自分は(他の⽣生徒)
とは違う」というアイデンティ
ティを持ち始める。
⼀一⽅方、アキオは孤⽴立立感をふかめ
ていく。
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(コウヘイ)
不不良良グループにつきあってた
• 体育館裏裏で5⼈人の⽣生徒の喫煙に出くわす。・・・コウ
ヘイに「どうしてたの?」と軽い調⼦子で聞いてみたと
ころ「不不良良グループがたまってるのにつきあってて
ん」と笑って答える。そして「俺はすってへんぞ」と
念念をおすようにいう。・・・(筆者からそのことをき
いた)Y先⽣生はタバコを吸っていないことも含め、コ
ウヘイにはサッカーがあるし、⾃自分でもその場にいた
4⼈人と⾃自分は違うんだという認識識をもっているのでは
ないかという。・・・事実、1学期に(どのような話
題だったかは曖昧だったが)Y先⽣生が今⽇日のメンバー
らとともに指導したところ「あいつらと⼀一緒にすん
な」といってすごく怒怒ったという。(今回も)おそら
くそういう気持ちが⼊入ってるのではないかとY先⽣生。
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(アキ)思ってるんやけどな
• (アキは廊下にすわって携帯電話をさわり「暇
やー」とつぶやく。昔は廊下にたまる友⼈人がたく
さんいたが、いまは⾃自分だけになってしまったか
ら「つまらない」という)・・・私はたいしてよ
い返事が帰ってくると期待せず「だからさアキも
授業に⼊入って勉強したほうがええんと違うか。外
にいても暇なだけやんか」とすすめてみる。
アキは⼩小声で「⼊入らなあかんとは思ってるんや
けどな・・・」とつぶやく。「・・・思ってるけ
ど。どうなん?」とさらに聞くと「つまらん。教
室にはいるのが⾯面倒くさい」といい、再び携帯
ゲームに興じ始める。会話はとぎれる(X+1年年12
⽉月)
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教室に⼊入るアイデンティティ
• カイトは「⾮非⾏行行⽣生徒の集団からはじかれたこと」と
「親からの叱責」によって、「プラスにならんやつ
は切切る」というアイデンティティを構築して教室に
⼊入ったが、必ずしもクラスのなかに居場所があった
わけではない。
• 教師の「⼀一般⽣生徒を育てる」という関わりによって
「荒れ」は収束し、⽣生徒集団が成熟したが、そのこ
とはコウヘイの「⾃自分は(周囲とは)違う」という
アイデンティティ構築とあいまって、教室に⼊入れる
ことにつながる
• と同時に、アキオを孤⽴立立させて排除することになっ
た。
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①アキオは校内で疎外感を感
じ、校外の⾮非⾏行行集団に近づく
↓
②教師はこれを⽌止めるのでは
なく、何でも話せる関係をつ
くった。
↓
③⾮非⾏行行集団のネットワークを
モニターしつつ関わった。
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授業に⼊入らないアキオに対して
教師は、
①無理理に授業に⼊入れるよりも、
校舎の補修や、庭⽊木の世話など
の活動に誘った。
↓
②そこでの⼿手先の器⽤用さをみい
だしてほめた。
↓
③アキオに⾃自信をもたせ、進路路
の具体化に結びついた。
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教室に⼊入っていたが・・・・
① 受験期になって、プレッ
シャーから不不登校気味となった。
↓
② 教師はコウヘイの「⾃自信の
なさ」を問題化したが
↓
③登校しないために、実効ある
対策にはならなかった。
↓
結果としてコウヘイは進路路未決
定のまま卒業した。
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教師の関わりと結果
• モニターしつつの関わり
– 教師との⼈人間関係から学校とつながれた
– 教師の指⽰示のもと、校外の⾮非⾏行行集団と後輩とのトラブルを
解決するために活躍し、⺟母親から感謝されるという体験が
できた。
• ストレングスに注⽬目した関わり
– 進路路の明確化にともなって、①⾃自分がいま学校にくること
の意味を深化させ、②(⾮非⾏行行集団とつるむ)これまでの⽣生
活を批判的にみはじめた。
– ⼀一⽅方で、コウヘイには効果的な関わりができなかった
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まとめ
• ⼀一般的には「不不適応」とみなせる⾏行行動の維持さ
れる過程に、ある種の「適応」がみいだせる。
– 廊下にいることは簡単ではない。
• ⾏行行動への規範的な判断のみならず、当事者にも
たらされる意味をみることが、⽀支援につながる。
「教室に⼊入っている」ことが⽀支援を阻害する可能性