情報職業論2016 第10回

1. 情報職業論 ⑩
著作権法と経済

2. ASKA容疑者問題
フジテレビが9時間半
にわたりタクシーを専有
し，「執行猶予の身であ
り，社会的に必要な情報
は配信しなければならな
い。責任は負う」とデー
タの提供を依頼した
「東京交通新聞」2016年12月12日付 3面

3. 親告罪
著作権法は“親告罪”
侵害を提訴できるのは権利者だけ
同様の行為でも，権利者Aは笑って許すが，権利
者Bは激怒することもある
オマージュであれば権利者は敬意を感じ，悪意の
存在を感じればパクリ
当事者以外は何を論評しても雑音
著作のジャンルごとに，明文化されない約束事や
作法が存在する
損害の算定が難しく，権利者の立場で“名誉の相
場”がきまる

4. 明確な基準
「盗用か盗用ではないかを明確に判断
できる基準を公表するべきだ」
情報学部生らしい真面目なコメントだ
ろう
ただ，想像してみよう。「◯◯なら
セーフで□□ならアウト」という基準
が明示されたとき，人はどういう行動
にでるものかを

5. 著作権の裁判
民事(主に名誉毀損)
慰謝料を要求し提訴
判決が下る/和解協議を促される
刑事(主に損害賠償)
著作権者(原告)が警察に告発
受理されると事件となり，捜査が始まる
被告を起訴/書類送検(略式命令)/不起訴
判決(禁錮・懲役/罰金→国庫/賠償金→原告/無
罪)
民事・刑事両面で争うケースもある

6. 類似性
比較対象となる表現が「似ている」だ
けでは不十分で，著作物中の「創作性
のある箇所が再現されていること」が
類似性の認定で大きな役割
アイディアやインスピレーションなど
創作過程の問題は著作権法では問われ
ない。「表現そのものの依拠性」が判
断基準となる

7. 『絶唱カラオケマンの歌』
山本正之とピンク・ピッギーズ
ＯＶＡ『タイムボカンカラオケ
博覧會』イメージソング、一九
九二年

8. JASRAC 守ろう著作権!
多くの人から常に悪者扱いされ
る日本音楽著作権協会(JASRAC)
ネットではカスラックの蔑称で呼ばれる
音楽著作権の集中管理機構
音楽著作権使用のあらゆる局面で，「著
作権使用料」を“権利者として”取り立て
JASRACの過去の活動が，日本人に著
作権の存在・重要さを知らしめてきた

9. JASRACの概要
著作権管理(信託)業務(著作権等管理事
業法)

10. http://www2.jasrac.or.jp/eJwid/
スピッツの草野正宗はJASRACには「無信託」。音楽出版社は部分信託/全信託

14. 「禁止」が原則の著作権法
例外として列挙された適用除外の公正
利用(フェアユース)以外は，著作権者
の明示的な許諾(同意)がない限り，著
作物を使用することは禁止されている
許諾とは契約であり，当事者間の合意
ところが，「誰にどういう方法で許諾
を求めればよいのか」(あるいは著作
権者は誰なのか)さえ不明なケースが
多く，権利侵害が横行する

15. 集中許諾システム
著作権者から財産権を信託されている
楽曲に関しては，JASRACが権利者と
して即時に許諾できる(権利管理の集
中)。データベース(J-WID)で信託状況
を把握し，申込，規定の使用料を払え
ば著作物を利用できる
強制許諾なので，著作権者の意向に左
右されることなく，使用希望者を差別
待遇することもない

16. 支分権
著作財産権は，利用態様ごとに支分権
として著作権法に規定されており，著
作権者はそれぞれの態様の利用につい
て排他的独占的権利を有する
複製権，上演権・演奏権，上映権，公
衆送信権，口述権，展示権，頒布権，
譲渡権，貸与権，翻訳(翻案)権，二次
的著作物の利用に関する原著作権者の
権利など

17. JASRACができないこと
CM，映画，ゲームなど使用料算定が
難しいケース。JASRACに信託しない
原権利者と相対取引になる
JASRACに信託しない権利者もいる
支分権単位で競争的著作権管理会社に
信託している(著作権管理業務におけ
る競争)
著作人格権は判断できない。人格権は
譲渡・信託の対象にならないため

18. 『おふくろさん』騒動(原曲)
詞:川内康範/曲:猪俣公章，1971年

19. 『おふくろさん』(バース付き)
二〇〇六年「紅白」で森進一はバー
ス(序章)付きで歌唱。作詞家・川内康
範が著作権侵害(同一性不保持)を訴え、
「もう森には歌ってもらいたくな
い」と非難した

20. JASRACの声明
2007年3月8日，JASRACは
「改変版の歌唱・使用許諾はできな
い」と声明を発表した(人格権は管轄外
で，改変版:保富康午は信託していない
のに? JASRACは強制許諾なのに?)
川内康範がJASRACの会員で，会員を
守る道義的責任がJASRACにあった?
川内が死去し，2008年11月に“和解”
が成立した

21. JASRAC使用料徴収額推移

22. レコード産業の売上額推移
(単位:億円)

23. JASRAC種目別徴収額
パッケージ関連の種目が減少するが、
放送・演奏・ネット関連など用途の変
化にともない、確実に著作権使用料を
徴収し、全体のパイは変わらない(著
作権ビジネスの極意)

24. パッケージからネット/ライブへ
CDからネットへと頒布メディアが代わ
り，ライブへの集客が伸びるなど，音
楽の楽しみ方は変化したが，「音楽著
作権使用料徴収額」は横ばいを堅持
他の分野に先駆けてノン・パッケージ
化への移行が進む
「(複製物の)頒布・所有」だけでなく，
「多様な局面での利用」で報酬を得る
という著作権ビジネスが設立している

25. ゴールデン・ボンバーの「Zany Zap」もインディーズ・
レーベル

28. シングルCDの売上分配

30. 放送
ブランケット(包括)契約: 放送局の放
送事業収入(売上高)に一定の掛け率を
音楽著作権使用料とみなす
放送局はJASRACに，使用楽曲のデー
タを提供する
ネットは包括に含まれるか?
JASRACが競争的事業者の参入を阻害
していないか?

31. レンタルCD
貸与権: 月間貸与回数に応じて，芸団協
(→歌唱者)とJASRAC(→著作者)に使用
料を支払う。レコード会社(隣接権者)に
は納品時に上乗せ徴収する(サーチャー
ジ:85～330円)
貸与禁止期間: アルバムは発売翌々週土
曜，シングルは火・水発売は当該週の
水曜(アルバム扱いも)

32. カラオケ
6165億円(減少)
店舗面積・定員などで事業者が定額を
JASRACに支払い
全国カラオケ事業者協会調べ
『カラオケ白書２０１６』

33. インターネット
動画配信での音楽利用(商用配信)
動画投稿(共有)サイト
YouTubeやニコニコ動画などはJASRACと包括契約を結んでいるので，
動画投稿者は基本的に音楽著作権を意識することはない(歌ってみた，
弾いてみた，踊ってみたなど)。
歌詞・楽譜の利用(商用配信)
音楽配信(商用配信)
非商用配信
個人Webサイトで内国曲の歌詞を掲載する
学校のWebサイトで生徒の合唱や吹奏楽部が演奏した曲をBGMとして
流す
アマチュアバンドのWebサイトでカバー演奏の動画を掲載する

34. 私的録音録画補償金制度

35. 補償金制度の狙い
録音録画機器標準価格の65%×2%(上
限1000円)
録音録画媒体(ディスクなど)標準価格
の50%×3%
DVD-Rなどでデータ用/録画用の区分
があるのもこのため
補償金というよりは，団体でプールし
て著作権の啓蒙に利用する

38. 今後に向けて
音楽分野では「所有」から「使用」へ
と権利概念が転換し，著作権者に報酬
をもたらしている
文芸(例:Kindle)，映画(ネットレンタ
ル)，ゲーム(月額課金)などでも「使
用」の併用が進む
JASRAC類似の著作権集中管理機構は
実現できるか?

39. 年末年始課題
「WELQ」などまとめサイトが提示し
た課題について概要をまとめ，情報提
供者の立場から，どう対応していけば
よいのかを論じよ。
字数: 約1000～1200字
提出:reportアットaka.oops.jp
締切:2017年1月16日(月)23:59:59
次回の授業は1月10日です!