SlideShare una empresa de Scribd logo
1 de 14
Descargar para leer sin conexión
中央教育審議会 学校における働き方改革特別部会 第12回
実効性の高い働き方改革に向けて
学校の組織運営体制の在り方に関する検討課題
2018年4月25日
妹尾 昌俊
教育研究家、学校マネジメントコンサルタント
文部科学省 学校業務改善アドバイザー
NPO まちと学校のみらい 理事
senoom879@gmail.com
楽観論で大丈夫か?
実施調査では外形的なものしか分からない。
1
文科省からやってますか?
と聞かれて
よほどじゃないと
「やっていません」
とは言わないでしょう?
楽観論で大丈夫か?
実施調査では外形的なものしか分からない。
2
“研修しました”
“学校評価しました”
で本当に十分か?
カタチだけ、
ポーズだけに
なっていないか?
勤務時間管理は使用者責任なのだから
指導していて「当たり前」。
これを“組織的マネジメント”の取組とは
呼べないし、実施率高くても安心できない。
楽観論で大丈夫か?
本当に主幹教諭配置による効果なのか、かなりアヤシイ。
3
成果と課題について、
矛盾するような回答結果
⇒
主幹の役割が十分理解されていないにも
かかわらず、なぜ、総合調整が図られ、
業務が効率化したなどと言えるのか?
【可能性①】教育委員会としては、税金
をかけて導入しているのに、成果がない
とは言えない。とりあえず、もっともらし
い回答にチェックした。
【可能性②】同じ主幹でも、学校や人に
よってパフォーマンスが全然違う。
【可能性③】成果で述べられていること
の一部は、主幹制でなくても見られたこ
とかもしれない。
不都合な真実!? 主幹制は、ベテラン教諭への処遇改善のためのものになっているのでは?
校長のリーダーシップや組織マネジメント力の向上、
主幹制による組織力向上などに関するデータも、エビデンスも脆弱。
問題意識
本当に校長向けの研修や主幹教諭制等が機能しているならば、
今日の長時間労働は、もっと多少はマシになっていそうなもの。
現実は、過労死ラインを超えるようなひどい毎日が全国各地に。
常識的に考えれば、楽観視はできず、「管理職や主幹の役割として、
長時間労働是正にはこれまであまり機能してこなかった」、と見るべ
きでは?
提案・意見
わたしたちにまず必要なのは、これまでの取組の真摯で冷静な反省。
反省のないまま、従来の答申やお題目を繰り返しても、
学校現場には負担と負担感を増すだけになる(かもしれない)。
4
5
<提案・意見(前ページからつづき)>
校長、副校長・教頭のリーダーシップ、組織マネジメント
前々回(2月8日)に提案した。校長へフィードバックする仕組みが弱い。
教育委員会としては、「この校長は業務量の調整や健康経営ができているか」
実態を知る方法が少ない。
⇒ 校長等には部下評価を突き付け、アクションプランを作ってもらうことを検討。
教職員のストレスチェックの結果を学校内でも、教育委員会内でも、もっと活用して
いくべきではないか?
⇒ ストレスや業務負荷の大きい学校に重点的に教委は入れ。
※ ただし、校長の処遇とリンクさせると副作用も大きいので注意。
研修はスポット的、一回やったきりでは不十分。
3つの壁(記憶、実践、継続)を越えるための施策も打て。
⇒研修後のフォローアップ、継続的なコンサル、コミュニティ・スクールの活用等。
主幹制
主幹を設置して教職員(せめて副校長・教頭)の残業時間が減っているのかどうか、
あるいは業務内容の内訳が変化したのかどうかを検証。
※ 反例として、主幹の多い東京都や神奈川県でも長時間労働は少ないわけではない・・・
上記の検証によるが、予算も人も限れるなか、主幹制に優先順位が高いのかは疑問。
⇒ スクールサポートスタッフや教頭補佐の導入のほうが費用対効果は高いのでは?
6
校長、副校長・教頭のリーダーシップ、
マネジメント力がもっと必要!?
マジックワードでいろいろ入る。
唱えるほうとしては、なんとなく
分かった気、対策した気になってしまう。
いったい、どこに、何が必要なのか?
課題認識や目標共有が曖昧で、漠然としていては、
施策が定まらないのは、当たり前。これでは同僚性や協働性も高まらない。
7
課題と施策(取組)の重点化を検討するステップ 曖昧な課題認識の上に乱立する施策
②めざす教育
(どんな学校にしたい?
どんな教育をしたい?)
①めざす子ども像
(伸ばすべき資質・能力、何が重要か?)
③現状ないし将来の課題
(何に重点的に取り組む必要があるか)
④重点
施策
④重点
施策
漠然とした目標
めざす子ども像
(一応あるが、教職員に浸透していない)
曖昧な課題認識
出所)妹尾昌俊(2017)『先生が「忙しすぎる」をあきらめない―半径3mからの本気の学校改善』に一部加筆
教職員は育っているか?
学校は人材育成の悪循環に陥っていないか?
8
人を育てる時間がない
できる教師には仕事が重なり、
多忙化がさらに加速
できない教師は学級崩壊等の
トラブル。またはモチベーション
ダウンで授業等の質低下
辞めていく人が増加
(転職または出産等の後復帰せず)
残った人(特にできる人)にさらに
仕事が増加、疲弊する人が増加
急増する若手教員
少ない中堅教員
副校長・教頭等の
多忙化
非正規教員で
補充・代替
だが、集まらない
ケースも多発
トラブル対応で
さらに多忙化
出所)妹尾昌俊(2017)『先生が「忙しすぎる」をあきらめない
―半径3mからの本気の学校改善』に一部加筆
9
校務分掌を整理したり
主幹教諭の配置等を進めたり
教員育成指標を設定したりしても、
効果はあるかもしれないが・・・、
おそらく、それらでは十分対処できない
深刻かつ重大な問題が学校にはある。
(参考)教育問題はなぜまちがって語られるのか?
⇒ 3つの問題
10
1. 現状を正確に把握できているか
<事実認識の問題>
2. 問題の原因や背景についてきちんと検討できているか
<診断の問題>
3. 教育という営みの微妙さや副作用の可能性について
留意できているか
<対策の問題>
出所)広田照幸・伊藤茂樹(2010)『教育問題はなぜまちがって語られるのか?―「わかったつもり」からの脱却』をもとに作成
学校事務職員への期待と現実
学校経営への参画、“事務をつかさどる”職と言っても・・・、
具体的になにをやれというのか、明確になっていない。
前述の校長のリーダーシップへの期待と似た問題。
期待は大きくても、インセンティブが弱い。
経営参画というなら、処遇もしっかりしないと。
「仕事は高度にしてね、でも●級までしか昇格しませんよ」でいいのか?
若手と同じような仕事ぶりでも、年功で給与は大きく異なる。
▪ 「同一労働、同一賃金」からはかけ離れた世界?
モチベーションを上げるものは金銭的報酬のみにあらず。
▪ 金銭的報酬は、モチベーションを上げるほうにはあまり働かず(長続きせず)、
むしろ下げるほうに強く働くことが経営学では分かっている。
▪ 校長や副校長・教頭との関係、彼らの事務職員への働きかけが決定的に重要。
▪ 頑張る人にはより面白い仕事で報いる、といった考え方も重要。 11
学校事務職員への期待と現実
事務職員だってヒマじゃない。“ビルド&ビルド”な発想では限界がある。
12
定型的業務非定型的業務
複数学校や全市区町村(場合に
よっては全県)的な対応が可能
各学校ごとの特色や事情
に応じた対応が必要
給与事務(通勤手当、年末調整等)
福利厚生事務
旅費事務
就学援助の手続き
施設点検
文書の収受と管理
学校徴収金の徴収 等
学校予算、決算の管理
備品、消耗品等の管理
学校行事での分担
公務災害に関する手続き 等
学校徴収金のルール策定
事務職員向け研修
若手職員やスキル、モチベーションの
低い職員への育成・支援 等
副校長・教頭等の業務支援・分担
学校徴収金等の見直し、改善
就学援助、奨学金等に関する相談、
家庭支援
文書や情報の学校内での活用促進
(ナレッジマネジメント) 等
※この図はイメージアップのためであり、実際はこれらの
中間的なものや分類が難しい性格の業務もある。
学校事務職員への期待と現実
“つかさどる”職はどこに力を入れるべきか?
13
定型的業務非定型的業務
複数学校や全市区町村(場合に
よっては全県)的な対応が可能
各学校ごとの特色や事情
に応じた対応が必要
給与事務(通勤手当、年末調整等)
福利厚生事務
旅費事務
就学援助の手続き
施設点検
文書の収受と管理
学校徴収金の徴収 等
学校予算、決算の管理
備品、消耗品等の管理
学校行事での分担
公務災害に関する手続き 等
学校徴収金のルール策定
事務職員向け研修
若手職員やスキル、モチベーションの
低い職員への育成・支援 等
副校長・教頭等の業務支援・分担
学校徴収金等の見直し、改善
就学援助、奨学金等に関する相談、
家庭支援
文書や情報の学校内での活用促進
(ナレッジマネジメント) 等
※この図はイメージアップのためであり、実際はこれらの
中間的なものや分類が難しい性格の業務もある。
減らす
教育委員会主体で(業務によっては複数市町村や
県単位で)集中処理したほうが効率的では?事務長が中心に担う
共同事務室かもっと広い
範囲で対応。
事務長は、なるべく定型
的業務からは解放せよ。
(県費職員の加配や
市町村費職員配置等)
各学校配置職員が
もっと力を入れる
スキルや得意不得意はあ
るので、共同事務室等も
活用しながら各学校任せ
にはし過ぎない。

Más contenido relacionado

La actualidad más candente

自治労「男性の育児休業取得促進の必要性」
自治労「男性の育児休業取得促進の必要性」自治労「男性の育児休業取得促進の必要性」
自治労「男性の育児休業取得促進の必要性」
Cozy Azuma
 
熊谷市職員研修「イクボスから始まる働き方改革」
熊谷市職員研修「イクボスから始まる働き方改革」熊谷市職員研修「イクボスから始まる働き方改革」
熊谷市職員研修「イクボスから始まる働き方改革」
Cozy Azuma
 
40代からのワークライフバランス/私と地域のいい関係
40代からのワークライフバランス/私と地域のいい関係40代からのワークライフバランス/私と地域のいい関係
40代からのワークライフバランス/私と地域のいい関係
Cozy Azuma
 
2012spring guidance01&02
2012spring guidance01&022012spring guidance01&02
2012spring guidance01&02
Eiji Tomida
 

La actualidad más candente (20)

170730team senoo
170730team senoo170730team senoo
170730team senoo
 
Minshoku senoo
Minshoku senooMinshoku senoo
Minshoku senoo
 
180325bukatsu senoo
180325bukatsu senoo180325bukatsu senoo
180325bukatsu senoo
 
2016年10月学校マネジメントフォーラム講演資料
2016年10月学校マネジメントフォーラム講演資料2016年10月学校マネジメントフォーラム講演資料
2016年10月学校マネジメントフォーラム講演資料
 
201027douyuukai senoo
201027douyuukai senoo201027douyuukai senoo
201027douyuukai senoo
 
170711bukatsu senoo
170711bukatsu senoo170711bukatsu senoo
170711bukatsu senoo
 
参考資料5働き方改革の現状の再認識(妹尾)
参考資料5働き方改革の現状の再認識(妹尾)参考資料5働き方改革の現状の再認識(妹尾)
参考資料5働き方改革の現状の再認識(妹尾)
 
霧島プロジェクト「ネット熟議かごしま」妹尾プレゼン資料
霧島プロジェクト「ネット熟議かごしま」妹尾プレゼン資料霧島プロジェクト「ネット熟議かごしま」妹尾プレゼン資料
霧島プロジェクト「ネット熟議かごしま」妹尾プレゼン資料
 
200704senoo
200704senoo200704senoo
200704senoo
 
200627senoo
200627senoo200627senoo
200627senoo
 
自治労「男性の育児休業取得促進の必要性」
自治労「男性の育児休業取得促進の必要性」自治労「男性の育児休業取得促進の必要性」
自治労「男性の育児休業取得促進の必要性」
 
川越市役所「イクボス心得講座」
川越市役所「イクボス心得講座」川越市役所「イクボス心得講座」
川越市役所「イクボス心得講座」
 
UAゼンセンイクボスセミナー
UAゼンセンイクボスセミナーUAゼンセンイクボスセミナー
UAゼンセンイクボスセミナー
 
「イクボスから始まるワークライフバランス」
「イクボスから始まるワークライフバランス」「イクボスから始まるワークライフバランス」
「イクボスから始まるワークライフバランス」
 
熊谷市職員研修「イクボスから始まる働き方改革」
熊谷市職員研修「イクボスから始まる働き方改革」熊谷市職員研修「イクボスから始まる働き方改革」
熊谷市職員研修「イクボスから始まる働き方改革」
 
40代からのワークライフバランス/私と地域のいい関係
40代からのワークライフバランス/私と地域のいい関係40代からのワークライフバランス/私と地域のいい関係
40代からのワークライフバランス/私と地域のいい関係
 
TeachForJapanイベント、妹尾プレゼン資料
TeachForJapanイベント、妹尾プレゼン資料TeachForJapanイベント、妹尾プレゼン資料
TeachForJapanイベント、妹尾プレゼン資料
 
ジェンダー社会学「笑っている父親が社会を変える」
ジェンダー社会学「笑っている父親が社会を変える」ジェンダー社会学「笑っている父親が社会を変える」
ジェンダー社会学「笑っている父親が社会を変える」
 
2012spring guidance01&02
2012spring guidance01&022012spring guidance01&02
2012spring guidance01&02
 
withコロナ時代の教職員の働き方を考える
withコロナ時代の教職員の働き方を考えるwithコロナ時代の教職員の働き方を考える
withコロナ時代の教職員の働き方を考える
 

Similar a 180425senoo

Edu sociopsyc2010 01
Edu sociopsyc2010 01Edu sociopsyc2010 01
Edu sociopsyc2010 01
Eiji Tomida
 
2012spring guidance03career2
2012spring guidance03career22012spring guidance03career2
2012spring guidance03career2
Eiji Tomida
 
2011fall guidance05
2011fall guidance052011fall guidance05
2011fall guidance05
Eiji Tomida
 
日本教育学会第71回全国大会 キャリア教育web発表資料(小池)
日本教育学会第71回全国大会 キャリア教育web発表資料(小池)日本教育学会第71回全国大会 キャリア教育web発表資料(小池)
日本教育学会第71回全国大会 キャリア教育web発表資料(小池)
Shota Koike
 
いきいき研究室増産プロジェクトFourm2011報告書
いきいき研究室増産プロジェクトFourm2011報告書いきいき研究室増産プロジェクトFourm2011報告書
いきいき研究室増産プロジェクトFourm2011報告書
Yusuke Yamamoto
 

Similar a 180425senoo (19)

教育と研究を両輪とする高等教育の在り方について~
教育と研究を両輪とする高等教育の在り方について~教育と研究を両輪とする高等教育の在り方について~
教育と研究を両輪とする高等教育の在り方について~
 
単独型の更新講習の企画・運営について―1.5年間の試行錯誤と課題―
単独型の更新講習の企画・運営について―1.5年間の試行錯誤と課題―単独型の更新講習の企画・運営について―1.5年間の試行錯誤と課題―
単独型の更新講習の企画・運営について―1.5年間の試行錯誤と課題―
 
150629 教育評価論 第11講
150629 教育評価論 第11講150629 教育評価論 第11講
150629 教育評価論 第11講
 
Competencies at Work and Japanese Universities
Competencies at Work and Japanese UniversitiesCompetencies at Work and Japanese Universities
Competencies at Work and Japanese Universities
 
Alで授業改善
Alで授業改善Alで授業改善
Alで授業改善
 
Edu sociopsyc2010 01
Edu sociopsyc2010 01Edu sociopsyc2010 01
Edu sociopsyc2010 01
 
2012spring guidance03career2
2012spring guidance03career22012spring guidance03career2
2012spring guidance03career2
 
2011fall guidance05
2011fall guidance052011fall guidance05
2011fall guidance05
 
日本教育学会第71回全国大会 キャリア教育web発表資料(小池)
日本教育学会第71回全国大会 キャリア教育web発表資料(小池)日本教育学会第71回全国大会 キャリア教育web発表資料(小池)
日本教育学会第71回全国大会 キャリア教育web発表資料(小池)
 
150525 教育評価論 第6講
150525 教育評価論 第6講150525 教育評価論 第6講
150525 教育評価論 第6講
 
我子を分析1
我子を分析1我子を分析1
我子を分析1
 
我子を分析1
我子を分析1我子を分析1
我子を分析1
 
いきいき研究室増産プロジェクトFourm2011報告書
いきいき研究室増産プロジェクトFourm2011報告書いきいき研究室増産プロジェクトFourm2011報告書
いきいき研究室増産プロジェクトFourm2011報告書
 
なぜ「教育のためのTOC」か?
なぜ「教育のためのTOC」か?なぜ「教育のためのTOC」か?
なぜ「教育のためのTOC」か?
 
150705 カリキュラム学会
150705 カリキュラム学会150705 カリキュラム学会
150705 カリキュラム学会
 
171128chuukyoushin senoo
171128chuukyoushin senoo171128chuukyoushin senoo
171128chuukyoushin senoo
 
Education column vol01
Education column vol01Education column vol01
Education column vol01
 
160120 教育評価論(三田)第14講
160120 教育評価論(三田)第14講160120 教育評価論(三田)第14講
160120 教育評価論(三田)第14講
 
学校教育と違う組織内医療者養成の提案
学校教育と違う組織内医療者養成の提案学校教育と違う組織内医療者養成の提案
学校教育と違う組織内医療者養成の提案
 

180425senoo