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BASIC

( Banking System for Interaction and Creation )
--- 協業と創造のための SOHO 間決済システム ---

アドマネー推進プロジェクト ARCH

1
目次
1、地域通貨とは? --------------------------------------------3
2、なぜ地域通貨なのか? -----------------------------------5
   (1)グローバルレベル ----------------------------------------7
   (2)ローカルレベル ------------------------------------------9
   (3)事業者レベル(マーケティング支援) -------------------11
   (4)事業者レベル(コラボレーション促進) ----------------13
3、地域通貨で何ができるのか?
   (1) QOL の向上 ---------------------------------------------15
   (2)企業の孵化 ---------------------------------------------17  
   (3)域内取引の促進 -----------------------------------------19
   (4)受注力(利益)の向上 ----------------------------------21  
  (5)受注力(価格競争力)の向上 ---------------------------23
 参考1 協業促進の仕組み -----------------------------------25  
 参考2 地域通貨と地域開発戦略 ----------------------------27   
4、白鷹町の現状 ----------------------------------------------29
5、今後の方向性と地域通による解決策 ----------------30
6、地域通貨( BASIC )の仕組み
   (1)概要 ----------------------------------------------------31
   (2)全体イメージ -------------------------------------------32

   (3)基本原理 -----------------------------------------------34
  (4)取引方法 -----------------------------------------------35
(5)決済方法 ------------------------------------------------36
   (6)消滅貨幣方式と基礎所得の給付 -------------------------38
   (7)取引税の徴収と基礎所得の給付 -------------------------40
   (8)円貨との併用 -------------------------------------------42
   (9)貨幣発行権について ------------------------------------43
   (10) X さんの口座の動きから ------------------------------45

7、課税について ----------------------------------------------46
8、取引循環イメージ ----------------------------------------47
9、従来の地域通貨の問題点 -------------------------------48
10、取引促進策
  (1)概要 -----------------------------------------------------49
(2)需要者&供給者をウエブ上で公開 ------------------------51
(3) DB 連動オプトインメール配信&入札システム(入札) ---53
(4)カタログ配付 --------------------------------------------55
  (5)屋台市場の創設 ------------------------------------------56
11、おすそわけドットコムとの連携 --------------------57

2
1 地域通貨とは?
物々交換の発展形=多角間バーター取引システム
基本形= LETS

「結い」の現代的形態

A (有機野菜)

「結い」:昔の農村でみられた農繁期に
労働力を貸し借りする相互扶助システム

0cc

結いのメリット
1000cc
1000cc

(ソフト開発)

B

-1000cc

貨幣がなくても協業が可能になる

(デザイン)

2000cc

C

IT 時代でも、とくに新規事業の立ち上げ時に
は労働力の貸し借り(コラボレーション)は
(とりわけ貨幣不足の場合には)重要

+1000cc

全体の残高合計は常に+ーゼロ

3
地域通貨 とは?
 地域通貨とは、ある一定地域でのみ流通する法定通貨以外の「貨幣」をさす。現在、世界で約2000以上、日
本でもおよそ150以上の地域通貨運営グループがあるという。
基本原理 は 多角間 の 物 々 交換
 地域通貨の基本原理は、多角間バーター取引である。要するに、物々交換の発展形だ。代表的なのは、カナダの
マイケル・リントンが1980年代にはじめた LETS ( Local Exchange Trading System )である。このシステム
の最大の特徴は、どんなに取引が活発化しても、全体の貸し借りの総和は常にプラスマイナスゼロになることだ。
なぜなら、このシステムにおいては、利子はつかないし、そのため、物財と貨幣の量は常に対称性を保っているか
らである。
歴史
 地域通貨の歴史は少なくともイギリスのオーエンの労働証明書やフランスのプルードンの交換銀行にまでさかの
ぼる。一般の人々の関心を集めるようになったのは、世界大恐慌後の1930年代である。当時、景気対策の一環
として、ドイツやオーストリアの一部で地域通貨が導入されたのを皮切りに、やがてアメリカやカナダなどにも導
入されるようになった。それらの試みは、一定の成果をあげたものの、直後に台頭した国家社会主義的な風潮を背
景にその多くが中央政府によって禁止されてしまった。
現代 の 「結 い 」
 日本にもかつて「結い」と呼ばれる地域通貨に似た仕組みがあった。「結い」は農繁期における相互扶助の仕組
みとして発達した日本独自のシステムであり、戦前まで全国各地の農村で普通にみられるものであった。
 一方、現在は IT 技術の進歩を背景にワークスタイルが大きく変化しつつある。象徴的なのは、大企業における巨
大組織の歯車として働くのではなく、小規模な事業所で身の丈に合った働き方を模索する人がふえていることだ。
だが、こうした小規模事業所にももちろん弱点はある。なかでも最大のそれは組織力の弱さである。すなわち、そ
れぞれが独立した存在であるため、協業(コラボレーション)が困難であること、そのためみすみす目の前のビジ
ネスチャンスを逃してしまうことだ。
 ここに地域通貨のもうひとつの意義がある。それは、地域通貨が小規模事業者同士の協業を促進する手段として
有効だということである。その意味で、地域通貨はいわば IT 時代の「結い」、現代版「結い」といえるかもしれな
い。

4
2 なぜ地域通貨なのか?
グローバルレベル
南北問題、環境問題、人権問題 , 、戦争 etc

根本には利子経済

ローカルレベル
デフレ不況からの脱却

不足する「貨幣」の補填

コミュニティ再生

「冷たい」お金から「温かい」お金へ

事業レベル
マーケティング支援

顧客の囲い込み機能

コラボレーション促進

組織化(取引先の囲い込み)機能

5
地域通貨 の 必要性
 いまなぜ地域通貨が必要とされるのだろうか。そこには現代社会が抱えるさまざまな問題がからんでいる。それらを整
理したのが、この図式である。地域通貨の全体像をとらえるには、われわれはすくなくともこれら三つのレベルからアプ
ローチしなければならないだろう。
 ひとつはグローバルなレベルである。ここには、南北問題をはじめ環境問題や人権問題、そして戦争といった地球レベ
ルでの問題が存在する。これらの原因をさぐっていくと、最終的には利子経済へと行き着く。そして現在の利子経済とい
うシステムを変更しない限り、これらの問題は解決不可能、というのが地域通貨の考え方である。
 もうひとつはローカルレベルの問題がある。ここには、おもに地域の問題が含まれる。地域はいま経済的不況にあえい
でいる。また都市化の進展とともに昔ながらのコミュニティが崩壊の危機にひんしている。これらの問題もまたその根底
には利子経済が原因としてあるというのが、地域通貨の考え方である。
 またこれまであまり注目されなかったことだが、地域通貨には事業レベルでの効用もある。それは、地域通貨がもつ組
織化機能によるものである。組織化機能が、顧客に働きかければ、それはマーケティングでいう「囲い込み」になるし、
取引先に働きかければ、それはコラボレーション(協業)促進策となる。
 このように地域通貨が対象としているのはなにも地球レベルの問題ばかりではない。それは地域レベルの問題に対して
も一定の解決策を提示しうるものだし、さらに応用次第では企業の販売促進や組織活性化の手段としても使えるものなの
だ。

6
2 なぜ地域通貨なのか?
(1)グローバルレベル

利子の存在が経済成長を強制する
利子経済は、成長を停めればそれ自体が崩壊するシステム
無理な経済成長は環境破壊をもたらす
利子経済は、貧富の格差を拡大する

利子のない貨幣システムは可能か?
地域通貨の原点は、減価する貨幣

7
利子経済 は 成長 を 強制 する
 私たちは、利子を当然のものとして受け入れている。だが、それが社会にどのような影響をおよぼすかを十分に理解
している人はそう多くない。利子経済がもたらす問題。その最大のものは、それが成長を強制するシステムであるとい
うことだ。具体的に説明しよう。
  A さんが銀行から事業資金として100万円を借りたとしよう。年利は5%である。1年後には105万円にして返
済しなければならない。そのため A さんは1年間、懸命に働いた。そのかいあって、翌年には金利分をあわせて105
万円を銀行に返済することができた。
 だが、この5万円はいったいどこから出てきたのだろうか。はじめ A さんの手元には100万円しかなかった。とい
うことは、他の人のところからもってきたものに違いない。ならば、その他の人はいったいどこからその5万円を手に
入れたのか?
  こうやって考えていくと、最終的にたどりつくのが、経済成長の問題である。それはどういうことかといえば、利
子を返済するためには、社会全体が利子率以上に成長しなければならない、ということである。 A さんの例でいえば、
A さんが属する市場全体が年間5%以上の経済成長を達成できないかぎり、 A さんが借りた5万円は絶対に返済不可能
だということである。仮に経済成長率が5%以下の場合、この5万円に関しては誰かが再びどこかから借金するか、あ
るいは誰かが破産の憂き目にあわない限り、全体としての帳尻が合わなくなってしまうからだ。それは単純な算数の問
題である。つまり、利子経済というのは、金利以上の経済成長を続けない限り、崩壊してしまうシステムなのである。
利子経済 がもたらすもの
 だが、その一方、無理な経済成長は環境破壊をまねく。これについては、あらためて説明するまでもないだろう。ま
た利子経済とは、つまりお金がお金を生むシステムである。そうしたシステムは必然的に貧富の格差を拡大する方向に
働く。しかも、貧富の格差が開くことはたんなる倫理的な問題にとどまるものではない。貧富の格差が拡大すると、市
場全体の有効需要が縮小する。有効需要の縮小は過剰生産を生み出し、やがて恐慌の到来を招く。そして恐慌の到来は
、戦争の危機を高めることになろう。こうして、貧富の格差拡大は、企業活動にとっても、また私たちの日常生活に
とっても重大な影響を与えることになるのだ。
お 金 が 減価 するという 考 え 方
 だが、利子のない貨幣システムなど実現可能なのだろうか? 利子そのものを完全になくすことは少なくとも現時点
ではほぼ不可能だ。だが、それがもたらす弊害を軽減する方法はある。それが、ドイツの生まれの思想家、シルビオ・
ゲゼルが提唱した「減価する貨幣」である。といってもそれはけっして社会主義の復活を意味するものではない。それ
はあくまでも市場にもとづいた市場経済システムである。むしろいま以上に市場主義的な市場経済システムであると
いってもよい。20世紀を代表する著明な経済学者ケインズは、かつてこう語っている。「後世の人はマルクスよりも
ゲゼルからより多くを学ぶであろう」。

8
2 なぜ地域通貨なのか?
(2)ローカルレベル

マネーは経済の血液
経
済
の
グ
ロ

地
域
経
済
の
停
滞

マ
ネ

ー

の
域
外
流
出

ー

バ
ル
化

輸血

白鷹町

山形市

仙台市

東京

「輸出」型産業の振興

解決策
造血

自己金融システム(地域通貨等)

9
お 金 は 経済 の 血液
 お金は経済の血液である。企業の生産活動や私たちの消費生活をはじめあらゆる経済的取引が効率よくスムーズにおこ
なわれるのは、ひとえにこのお金があるおかげである。ところが、その大事なお金が不足してしまったらどうだろう。血
液がとどかなくなった細胞がやがて壊死してしまうように、お金が十分にゆきわたらない地域経済もまた停滞をよぎなく
されるであろう。
地域 から 「 お 金」 が 消 えていく
 じつはいま経済のグローバル化の名の下でおこっているのは、まさにこうした現象である。ここで仮に中央資本の大手
流通業 X 社が町内に進出してきたとしよう。
 これは、町にとってどのような意味をもつのだろうか。雇用機会を創出するという点では、たしかに X 社は地域に貢献
しているといえるだろう。だが、その一方で、 X 社が地元の取引で得た収益は、地元の取引先と地元の被雇用者への支払
いを除いて、すべて本社へと流れていくことを忘れてはならない。つまりそこで起こっているのはまさに「マネーの域外
流出」なのである。
 同じことは、交通機関の発達による商圏の拡大にもあてはまる。道路網が整備されることによって、白鷹町と山形市と
の距離は以前よりずいぶん近くなった。だが、まさにそのゆえにこれまで白鷹町内で買い物をしていた町民の多くが、い
まや山形市で買い物をするようになっているのだ。これもまた「マネーの域外流出」という現象にほかならない。
 こうして地域内の経済循環は縮小の一途をたどり、経済の血液として不可欠な「お金」が地域からどんどん消えていっ
ているのだ。
造血手段 としての 地域通貨
 こうした「お金」不足の解決策にはふたつある。ひとつは、町外からお金を持ってくるという方法である。だが、その
ためには全国レベルで通用するだけの商品力をもつ企業を育成する必要がある。いわば「輸出型」産業の育成だ。このた
めにはマーケティング力の強化をはじめ多くの取り組みがなされねばならない。もうひとつは、自己金融システムの整備
である。これは、本来ならば地元の金融機関の役目である。地元の金融機関が金融機関だけにみとめられた特権である信
用創造機能によって、町内企業にお金を貸し出し、町内の貨幣流通量を増やすのだ。ところが、いまは金融機関がその機
能を果たしていない。というよりその本来の役割をほとんど放棄してしまっている。そこで、いまや金融機関とは別の
「造血」手段が必要になっている。その手法のひとつが「地域通貨」である。
コミュニティ 再生 ツールとしての 地域通貨
 地域通貨にはもうひとつの面がある。それは人々の間に信頼を生み出すお金だということである。一般に円貨は、別名
縁切り貨幣ともいわれる。それは「手切れ金」という言葉があることからもわかるだろう。一方、地域通貨は別名縁結び
貨幣ともいわれる。なぜなら地域通貨は、それを使う人々の間の信頼の絆をさらに強める効果があるからだ。その意味で
、地域通貨はコミュニティ再生のツールとしても期待されている。

10
2 なぜ地域通貨なのか?
(3)事業者レベル(マーケティング支援)

マスマーケティングから 1to1 マーケティングへ

力点は、顧客獲得から顧客つなぎ止めへ

顧客の囲い込み戦略が有効

地域通貨と囲い込み戦略との親和性
会員制、ポイント制、クーポン、ブランド戦略 etc

11
マーケティングパラダイムの転換
 いまマーケティングの世界では、マスマーケティングから 1to1 マーケティングへ、という大きなパラダイム転換が起
こっている。 1to1 マーケティングとは、一人ひとりのお客さまを大切にしよう、リピート客としていつまでもおつきあ
いいただけるよう大事にしていこう、という考え方である。その背景には、高度成長時代が終わったことがあげられる。
成長が頭打ちになった以上、市場の急拡大はのぞめない。そのため、新規に顧客を獲得するよりも既存顧客を維持し、育
てるほうにコストをかけたほうがよい、となったわけである。
地域通貨 は 囲 い 込 み 戦略
 ところで顧客を育てるためには、その前提として顧客を DB 化しなければならない。これがすなわち、マーケティング
でいうところの囲い込み戦略である。そして、容易に理解できるように、じつは地域通貨は、この囲い込み戦略とはきわ
めて相性がよい。そもそも地域通貨は、会員を囲い込んだところで機能するものであり、さらにその活動自体、地域通貨
ネットワークへのロイヤルティ(忠誠心)を高めることになるからだ。
マーケティングから 地域通貨 へ
 そのせいかどうか、いまマーケティングの世界で試みられている囲い込み戦略の手法は、きわめて地域通貨的である。
もちろん、その根本にある思想は、地域通貨本来のそれとはまるで異なるものであることはいうまでもない。だが、そこ
に見られる類似は、今後の経済社会のあり方を占う上できわめて興味深い現象であるといえよう。

12
2 なぜ地域通貨なのか?

(4)事業者レベル(コラボレーション促進)

ウエブデザイナー B さんの場合

有機農業家 A さんの場合
オンラインショップを立ち上げて
全国に野菜を売りたい

こんなプログラムがあれば
面白いビジネスモデルができるのだが⋯。

ウエブデザイナーに頼むにはお金がかかる

プログラム開発を外注するとお金がかかる

お金はないけど、野菜ならあるんだが⋯。

お金はないけど、デザインなら
いくらでも提供できるんだが⋯。

野菜

デザイン

プログラム
プログラマー C さんの場合
有機野菜が欲しいんだけど⋯。
お金を出してまで買うのもなあ⋯。
プログラム開発の代わりに
有機野菜を譲ってもらえないかなあ⋯。

13
お 金 はないが 野菜果物 ならある
 有機農業を営む A さんはいま、オンラインショップの立ち上げを計画中だ。それを使って自慢の有機野菜を全国に売
ろうというわけである。ところが、困ったことに HP の制作をデザイナーに頼むだけの現金がない。 A さんがこぼす。
「現金はないけど、野菜ならいくらでもあるんだけどなあ⋯」。
 同じ頃、ウエブデザイナーの B さんも頭を抱えていた。「こういった仕組みのプログラムがあれば、面白い HP がで
きるんだけどなあ。プログラマーに頼んだら、けっこうお金がかかるんだろうなあ⋯」。
 またプログラマーの C さんにもちょっとした悩みがあった。「体によい有機野菜が食べたいんだけど、とはいえお金
を出してまで買うというのもなあ。もしだれかが有機野菜をくれるというのなら、お礼にちょっとしたプログラムを
作ってあげてもいいんだけどなあ⋯」。
お 金 がなくとも 物 々 交換 で
 このケースでは、3人は各自の需要と供給において、互いに補完的な関係にある。そのため3人は、お互い納得さえ
すれば、通常のお金を介することなく、それぞれ欲しいものを物々交換の形で入手できるはずだ。じつはそれを可能に
するのが、多角間バーター取引という仕組みである。そして、これこそが、地域通貨の基本的な仕組みなのである。

14
3 地域通貨で何ができるか?
(1) QOL の向上→住みやすい地域づくり

グローバル経済に対抗するセーフティネットとして
● 購買力の域外流出を防止
● 景気変動の影響を最小化
●失業を防止
●過度な競争による QOL 低下を防止

経済振興ツールとして
● 貨幣供給量の増大による取引促進効果
●地産地消の促進
●コミュニティビジネスの創造
●ベンチャービジネスの孵化

コミュニティの再構築ツールとして
● 地域に運命共同体意識(連帯感と愛郷心)がうまれる
●対外的な評価(ブランド価値)が高まる
●コミュニケーションの多様化(グレーゾーンの拡大等)

15
QOL 向上 を助 ける地域通貨
 地域通貨にはいくつかの機能がある。代表的なのは、「グローバル経済に対抗するセーフティネット機能」「経済振
興機能」「コミュニティの再構築機能」の三つである。そして、これらの三つの機能がうまく発揮された時には
QOL(Quality of Life )の向上、つまり住みやすい町が実現されることになる。
グローバル 経済 に 対抗 するセーフティネット 機能
 グローバル経済の地域への浸透は、まず購買力(お金)の域外流出となって現われる。また世界経済と直接リンクさ
れる割合が増えるため、世界的な景気変動など外部的な不安定要因に翻弄される危険性も増す。さらに購買力の域外流
出は、地元企業の存立基盤をあやうくさせ、やがて企業の倒産とそこで働く社員の失業をまねくことになる。倒産や失
業がいやなら、そこで働く人は人よりもよけいに働かねばならない。だが、働く時間がふえればその分、家庭生活にさ
く時間や余暇を楽しむ時間が失われる。その結果、 QOL は低下する。それらをある程度ふせぐセーフティネットとし
ての役割も地域通貨には期待されている。
経済振興 ツール
 貨幣は市場の支配者である。なぜなら、商取引のためには、その大前提としてまず「お金」がなければならないから
だ。お金がなければ取引はおこなわれないし、取引が期待できなければ商品そのものが生産されない。いっぽう、グ
ローバル経済の下では、ほうっておけば「お金」は地域からどんどん流出していく。局地的なデフレ現象はますますひ
どくなり、そのデフレがまた商取引を抑制しそれが生産を抑制し、雇用を抑制し、その結果ますます貨幣不足(デフ
レ)をもたらす、という悪循環に陥ってしまう。地域通貨は、そうした貨幣不足を補うと同時に、円貨との併行通貨制
を採ることで、円貨が域外に流出することを防止する機能をもつ。
 また地域内でしか通用しない地域通貨の使用は、必然的に地産地消をうながす。同時に地域通貨による商取引の増加
は、損益分岐点の相対的低下をもたらし、その結果、地域の課題を地域で解決するコミュニティビジネスが生まれる可
能性も高くなる。さらにコミュニティビジネスで訓練をつむことで、本格的なベンチャービジネスが生まれる可能性も
高くなる。
コミュニティの再構築
 地域通貨は、人と人をつなぐ紐帯としての役割をもつ。そのため、地域通貨を導入した地域には、ひとつの運命共同
体としての連帯感と愛郷心が生まれる。また地域通貨の導入によってもたらされる QOL の向上は、町全体のイメージ
アップにもつながり、訪れたい観光地、あるいは永住したい町として、対外的なブランド価値が高くなる。またそれま
でビジネスライクなつきあい(お金をもとにしたドライなつきあい)と、信頼をもとにしたつきあい(友人同士のウ
エットなつきあい)とのふたつに二極分化されていたコミュニケーションのありかたにも多様性が生まれ、それがまた
QOL を向上させるという好循環を生むことが予想される。

16
3、地域通貨で何ができるか?
( 2 )交流人口の拡大と経済活性化→その好循環サイクルの形成

地域通貨

QOL の向上

(町としての)
ブランドイメージ向上

人材流入

コラボレーションの活発化

観光客増大

雇用の場の創出

ソフト小村

17
3、地域通貨で何ができるか?
(3)企業の孵化→コミュニティビジネスからグローバルビジネスへ
併行通貨制度が可能にする
各ビジネスレベル間の住み分け

グローバルビジネス

コ
ミ
ュ
ニ
テ
ィ
ビ
ジ
ネ
ス

地ロ
域
カ
通
貨ル
5ビ
0ジ
%ネ
ス

ー

孵
化
・
成
長

地
域
通
貨
1
0
0
%

地グ
域ロ
通
貨バ
0ル
%ビ
ジ
ネ
ス

ー

ビジネスの発展段階

ローカルビジネス

円貨ベースの取引
コミュニティビジネス

地域通貨ベースの取引

円貨ベースでは利益が出ない超ニッチ市場でも地域通貨ベースなら利益を出すことが可能。
基礎所得給付による
起業モチベーションの増大
(衣食足りて、ボランティア興る)

コミュニティビジネスの創出へ

18
コミュニティビジネスは存立不可能
 コミュニティビジネスは、そのままではビジネスとして成立しない。なぜか? 本来、資本主義というのは、利益のあ
るところ、どこへでも侵入するどん欲な運動体である。それは倫理的にふさわしくない領域でさえ、利益が出るのであれ
ば、法の目をかいくぐってでも浸透していく性質をもっている。ところが、コミュニティビジネスが対象としているのは
、そのどん欲な企業ですら、手を出さなかった領域である。なぜ手を出さなかったのか? 答えは簡単だ。利益が出ない
からである。ではなぜ利益がでないのか? 損益分岐点を下回るからである。
問題 は 損益分岐点
 損益分岐点というのは、どれだけの量を売れば利益が出るか、あるいは出ないかというポイントのことだ。損益分岐点
を上回るだけの量の商品を売らないと企業は、利益が出ない。この損益分岐点は、通常、市場の大きさに左右される。市
場が一定以上の規模がないと損益分岐点を上回ることはない。つまり、コミュニティビジネスが、ビジネスとして成立し
てこなかったのは、ひとえにその市場規模が小さすぎたためである。
 このような市場で無理矢理ビジネスを起こそうとしても、失敗するのは目にみえている。だが、方法がないわけではな
い。要は損益分岐点を下げてやればよいのだ。では、損益分岐点をさげるには、どうするか? もっとも簡単なのは、被
雇用者の給料を下げることだ。被雇用者の給料を下げれば、人件費がさがって、その分、損益分岐点も下がることになる。
だが、給料が下がってもやっていけるのは、生計費を配偶者や親に頼っている主婦や学生アルバイトなどに限られよう。
家計を支える一般の成人男子が被雇用者の場合、それではとてもやっていけないはずだ。
補助金 によるコミュニティビジネス 支援 は 危険
 ではどうするか? ひとつは補助金を出すという方法がある。補助金でもって下がった人件費分を補ってやれば、被雇
用者の給料は以前と同じレベルのままである。そのうえ損益分岐点はあいかわらず下がったままだから、企業としても利
益を出すことは可能になる。だが、このような方法は、コミュニティビジネスとローカルビジネスの境界線上で、ほそぼ
そとやっていた企業に対して深刻な打撃を与えることになろう。しかもそれは正当な市場競争によらないいかにも不公平
な打撃である。コミュニティビジネスを無理矢理創出した結果、ローカルビジネスをつぶしてしまったというのではもと
もこもない。それこそ、角を矯めて牛を殺す、ということになってしまうだろう。
併行通貨制 が 解決策
 それではコミュニティビジネスを創出するのはまったく不可能なのだろうか? 方法はある。それは地域通貨をからめ
ることだ。具体的には円貨と地域通貨を両方組み合わせる形で流通させることである。こうすれば、企業はその商品力に
応じて、どれだけ円貨を稼げるか市場による正当な評価を受けることになる。たとえばコミュニティ市場でしか通用しな
い商品の場合、必然的に円貨の割合は小さくなるだろう。反対にグローバル市場でも十分通用するだけの商品に対しては
、円貨100%という値付けでもかまわないだろう。そして、中間のローカルビジネスレベルであれば、円貨50%+地
域通貨50%といった割合になるはずだ。

19
3 地域通貨で何ができるか?
( 4 )域内取引の促進

C社

B社
8万円+2万 CC

10万円
■ 発注先選択のケース

A社

地域通貨ネットワーク内での取引の
方が有利になる。

20
域内取引 の促進 ー発注先選択 のケース
 ここに、 HP デザインを外注したい A 社があるとする。外注先を募集したところ最終的に B 社と C 社の二社に絞り
込まれた。 B 社と C 社が提供できるサービスは、いずれもまったく同じレベルである。あとは、どちらがより安い価
格を提示できるか、という部分が決め手になる。それに対して、両社が提示してきた価格は、それぞれ A 社が8万円+
2万 cc 、 B 社が10万円であった。ここでもし A 社が2万 cc の地域通貨をもっていたとしよう。その場合、 A 社は
間違いなく B 社を選ぶことになるだろう。
 この例でわかるように、商取り引きをおこなう場合、地域通貨ネットワーク内での域内取引の方が、発注先(消費者
側)にとって有利になる。また受注者(生産者側)にとっても、域外のライバル企業に対して地域通貨使用の分だけ優
位性をもつことになる。

21
3 地域通貨で何ができるか?
( 5 )受注力(利益)の向上

■ 対外取引のケース1

X社
100 万円

域内の外注先と地域通貨で取引することで
円貨の利益が増える

A社

プランニング
30 万 CC

B社

100 万円

デザイン

Y社

X社

30 万 CC

域内取引を内部貨幣
で代替=疑似組織化

30 万 CC

C社

ソフト開発

100 万円

Z社
100 万円

A社

30 万円

B社

残高= 40 万円 30 万円

X社

100 万円

A社

30 万 CC

B社

残高= 100 万円 30 万 CC

C社

C社

22
対外取引 の促進 ー受注利益向上 のケース
  A 社は X 社から HP 構築を100万円で受注した。しかし、 A 社だけでは力不足なので、 A 社が企画を、 B 社がデザ
インを、そして C 社がプログラム部分を担当する、という形で分担して仕事を進めることにした。通常ならば、 B 社に
30万円、 C 社に30万円を外注費として支払い、 A 社のもとに残るのは、40万円だけである。ここでもし、外注費
を地域通貨で支払ったらどうだろうか?  A 社には100万円まるまる残ることになる。もちろん A 社は B 社、 C 社に
それぞれ30万円、計60万円相当の地域通貨を提供する(すなわち労力を提供する)という負債は残るだろう。だが
、円貨の60万円を獲得するのと、60万円相当の地域通貨を獲得するのと、 A 社にとってはどちらがより容易であろ
うか? いうまでもなく後者である。
 この例でわかるように、域外企業から仕事を受注した場合、受注企業は地域通貨ネットワーク内で外注先を探した方
が、域外企業に外注に出すよりも有利となる。

23
3 地域通貨で何ができるか?

( 6 )受注力(価格競争力)の向上

X社

■ 対外取引のケース2

40 万円

域内企業は、域外企業に対し地域通貨取引
分だけ価格競争力をもつことができる。

A社

プランニング
30 万 CC

B社

40 万円

デザイン

Y社

X社

30 万 CC

P社
30 万 CC

C社

ソフト開発

100 万円

40 万円

Z社
100 万円

A社

30 万円

B社

残高= 40 万円 30 万円

X社

40 万円

A社

残高= 40 万円

C社

30 万 CC

B社

30 万 CC

C社

24
対外取引 の促進 ー価格競争力向上 のケース
  A 社が X 社から HP 構築を100万円で受注したとしよう。通常ならば、 A 社に残る利益は外注先に支払った残りの
40万円であった。ここで、仮に外注先への支払いをすべて地域通貨でまかなえるとしたらどうだろうか。 A 社は受注
金額を40万円まで引き下げることが可能になるはずだ。なぜなら、 A 社は最終的に40万円さえ手元に残ればよいの
だから。
 この例からもわかるように、仕事を受注する場合、地域通貨参加企業は域外企業に対して価格競争力をもつことにな
る。

25
3、地域通貨で何ができるか?
(7)協業促進の仕組み(参考)

協業の形態

ピラミッド型組織

アウトソーシング

プロジェクトチーム

利益動機

イメージ

短期

×

内部貨幣

○

円貨

○

円貨

長期

ロイヤルティ
(ブランド)

○

高

△

中

×

低

昇進
昇給

取引の長期
安定性

BtoB 型地域通貨は、域内取引からの短期利益を犠牲(内部貨幣化による外部貨幣の放棄)にして
対外取引からの長期利益を期待するという意味で、また内部貨幣使用の副産物として
ネットワークへの忠誠心が高まるという意味で(擬似的)組織化 のツール ともいえる。

26
協業 のための組織形態
 ここで協業のために必要な組織形態について考えてみよう。協業のための組織形態としては、「ピラミッド型」
「アウトソーシング型」「プロジェクトチーム型」などが代表的である。ここでは、それぞれの組織形態における
長所、短所を「短期的な利益動機」「長期的な利益動機」「ロイヤルティ(組織への忠誠心=対外的にはその組織
のブランド力)」という視点から整理してみた。
アメーバ型組織 としての地域通貨 ネットワーク
 このうち地域通貨はどのタイプに当てはまるのだろうか。じつはどれにもあてはまらない。しいていえば、ピラ
ミッド型とプロジェクトチーム型の折衷型であり、それぞれが独立したメンバーが自主的に集合したゆるやかな組
織体である。あえて名付ければアメーバ型組織といえよう。
内部貨幣 による外部貨幣 の代替
 ただ BtoB 型地域通貨は、域内取引からの短期利益を犠牲(内部貨幣化による外部貨幣の放棄)にすることで対
外取引からの長期利益を期待するという意味では、ピラミッド型組織に似ているといえないこともない。それはま
た(内部貨幣使用の副産物として)ネットワークへの忠誠心が高まるという意味からもいえるだろう。しかしそう
した縛りの中にあっても、個々のメンバーはあいかわらず独立性を保っているという点ではむしろプロジェクト
チーム型に近い。
擬似的 な組織化 のツール
 こうしてみてくると BtoB 型地域通貨というのは、個々の独立したメンバーを一定の枠組の中に組織化するため
の手段とみなせないこともない。その意味では、 BtoB 型地域通貨はいわば擬似的 な組織化 のツールといえるだ
ろう。

27
参考2 地域通貨と地域開発戦略
産業資本主義時代

モノ、金が主役

金融ネットワーク

工場誘致

雇用創出
技術移転

知識資本主義時代

地場産業の育成

人、情報が主役
情報ネットワーク≒地域通貨

人材誘致

協業
起業

雇用創出

28
モノ、金 が主役 の産業資本主義時代
 20世紀の資本主義を特徴づけた大量生産・大量消費型の経済システムは、モノの生産に最大の価値を見い出す産業
資本主義であった。その時代における地域開発戦略は、工場の誘致からはじまった。新たに誘致された大工場は、雇用
を生み出し、地域を豊かにする。さらにそこから地域へと移転される高度な技術は、新たな工場群を生み出し、地場産
業を創出した。そして、そうした好循環を形成する上で重要な役割をになったのが、金融である。産業資本主義時代に
おける主役は、モノであり、お金であったのだ。
人 、情報 が主役 の知識資本主義時代
 一方、これからは知識や情報が価値を生む知識資本主義の時代といわれる。では、知識資本主義時代における地域開
発戦略のトリガーとなるのは、一体なんだろうか。それは人材である。ユニークな知識や技術をもつ人材とのコラボ
レート(協業)は、企業に新たな付加価値をもたらす。と同時に人材と企業、人材と人材とのコラボレートはやがて新
規事業を生み出す。そしてその新規事業が雇用を生み出すことになろう。そして、ここでの主役は、もはやモノやお金
ではない。それは、人であり、情報(地域通貨)なのである。

29
4 白鷹町の現状

デフレ不況・グローバル経済化

地元企業の低迷

地元市場の縮小

人口流出

雇用の場(所得)の減少

QOL の低下
 全国的に景気が低迷する中、地方経済にも先のみえない閉塞感が漂っている。それは白鷹町も例外ではない。そ
こには、地元企業の低迷→雇用の場(所得)の減少→ QOL の低下→人口流出→地元市場の縮小→地元企業の低迷とい
う悪循環がみられる。
 ところで、なぜこのような悪循環がつくられたのだろうか。そのトリガーとなったのは、グローバル経済化とそ
れがもたらすデフレ不況である。ではなぜそれらがこのような悪循環をもたらすのか。そのあたりを理解するには
、地域における「お金」の流れをみていく必要がある。

30
5 今後の方向性と地域通貨による解決策

地域通貨

マーケティング

協業支援

地元企業の活性化

マネーの域外流出阻止

地元市場の拡大

人口流入

雇用の場(所得)の増大

QOL の向上

 われわれは、こうした悪循環を断ち切らなければならない。それもできれば悪循環を逆回転させ、好循環を創りだ
さねばならない。ではどうするか。新しいトリガーの投入が必要だ。新しいトリガーとは何か。ここではマーケティ
ング、協業支援、そしてマネーの域内循環の三つをあげたい。そして、こうしたトリガーを創り出す具体的な手法と
して、地域通貨の活用を提案したい。地域通貨はもともとマネーの域内循環をつくるための手法であるが、応用次第
ではそれにとどまらない様々な効果が期待できる。図3は、そのあたりを整理したものである。

31
6 地域通貨( BASIC )の仕組み
(1)概要

オンライン LETS 方式
消滅貨幣方式
基礎所得の給付
円貨との併用
貨幣発行権を上場組合に限定
 ここで提案するのは、 BASIC ( Banking System for Interaction and Creation )という地域通貨である。その特徴は、
(1)オンライン LETS 方式 (2)消滅貨幣方式 (3)基礎所得の給付 (4)円貨との併用 (5)貨幣発行
権を限定、という5つのポイントにある。なかでも、「基礎所得の給付」という部分は、世界でも初めての試みであ
り、現在運営されている中ではもっとも先進的な地域通貨システムのひとつといえるだろう。
 もちろん初めての試みとはいえ、それはけっして「実験的」とか「実現性が薄い」といった意味をもつものではな
い。むしろそれは白鷹町が置かれている環境の優位性を示すものである。
 じつはこの BASIC が適切に機能するためには、いくつかの条件がある。それは、参加者の多くがインターネットに
アクセスできること、市民社会として成熟した民主的な共同体であること、食料資源が豊富であること、多様な技能
をもつ参加者が得られること等々である。そして、こうした条件をクリアできる地域は世界的にみてもそう多くない。
その点、テクノロジーが高度に発達した日本という民主主義国家のなかにあって、しかも自然にめぐまれた東北地方
にある白鷹町は、まさにうってつけの環境にあるといえる。いいかえれば、この BASIC は、そのような優位性をもつ
白鷹町だからこそ実現可能な「世界でもっとも先進的な」地域通貨システムなのだ。

32
6 地域通貨( BASIC )の仕組み
(2)全体イメージ
管理委員会
担保証書の提出

CC 発行
基礎所得として還元

取引税および
減価分を徴集
上場組合

事業者

一般参加者

33
システムの概要
  BASIC の参加メンバーは、三つのグループに分かれる。一般参加者、事業者、上場組合である。さらにその上部機
関として管理委員会が存在する。
 この管理委員会の最大の機能は貨幣発行である。 BASIC における貨幣発行の仕組みは、次の通りである。
 まず、上場組合のメンバーが、管理委員会に対して担保として「労力あるいは財」の提供を約した証書を提出する。
管理委員会はその証書と引き換えに「貨幣」をそのメンバーに対して発行する。発行された貨幣は、そのまま「お
金」として使用できる。それは上場組合内部だけでなく、事業者レベル、さらに一般参加者レベルにおいても自由に
転々流通する。
市民所得 の 徴収・分配
 管理委員会は、市民所得の給付をも司る。その原資となるのは、取引毎にかけられる所得税と、自然減価分である。
そのため、メンバー間の取引が活発になればなるほど、メンバーが受け取る市民所得の額も増えることになる。なお
この市民所得給付に関しては、インターネット上ですべて自動的に徴収・分配がなされるので、そのための追加的な
コストがかかることはない。

管理委員会
 上場組合員、事業者、一般参加者から選ばれた委員により構成。貨幣流通量を司る。
上場組合
 事業者の中で信用と実績のあるメンバーのみがなれる。 CC 発行権をもつ。ただし発行額にみあった受け入れ実績
がないと管理委員会により貨幣発行権を縮小、または剥奪される。
事業者
  SOHO 、農家、自営業、 NPO 、一芸市民およびそのグループ等、円貨市場において評価可能な専門的サービスを
提供できるメンバー。 CC 発行権はない。
一般参加者
 円貨市場で評価されるだけの技能をもたない上記以外のメンバー。 CC 発行権はない。

34
6 地域通貨( BASIC )の仕組み
(3)基本原理

LETS ( Local Exchange Trading System )=多角間決済システム

A (有機野菜)
0cc

1000cc
1000cc

(ソフト開発)

B

-1000cc

特徴

2000cc

C
+1000cc

・総取引額の合計は常に +- ゼロ
・紙幣類似証書を使わないため、法的規制がゆるい
・インターネットを使えば、決済がより容易に

基本原理 は LETS
  BASIC の基本的な原理としては、前述した LETS ( Local Exchange Trading System )を採用する。その特徴は
、取引額の総計が常にプラスマイナスゼロであること、インターネットを使えば決済をはじめ、管理が容易である
ことなどがあげられる。また紙幣類似証書を使わないため、法的規制にも抵触しにくいなどのメリットがある。

35
6 地域通貨( BASIC )の仕組み
(4)取引方法
A の口座

100CC を振り込み

+100CC

B の口座

-100CC

100CC 相当の財を提供

A

B

インターネット or
携帯
で振り込み

・メンバーはあらかじめネット上に各自の口座をもつ
・ A (販売者)は、 B (購買者)へ 100CC 相当の財・サービスを提供する
・ B はその見返りに自分の口座から A の口座へ 100CC を振り込む
ネット 口座 による 取引
 具体的な取引方法は次の通りである。
  A が B に100 cc 相当の財・サービスを提供したとする。それに対して、 B はまずパソコンあるいは携帯電話を
使って HP 上に開設された自らの口座にアクセスする。そこで、 B は自らの口座にある100 cc を引き出し、同時に
A の口座に振り込む -- 。これで取引は完了である。ちなみにこれはすべて HP 上で完結する作業である。

36
6 地域通貨( BASIC )の仕組み
(5)決済の方法

● ウエブまたは携帯画面上で決済
・購買者が販売者の口座にネット(ウエブ&携帯)を利用して直接振り込む方法。
BtoB 取引、またはお互いに信頼関係で結ばれている場合に推奨

● 代用紙幣(小切手)で決済(要検討)
・購買時点では代用紙幣を渡して仮決済、その後、管理委員会へ持ち込み、本決済す
る方法。
・店頭での取引等、ネット決済が難しい場合に推奨。なお代用紙幣は月末まで、原則とし
て一度しか使えない(一度取引に使われた後は無効となる)。有効期限を明示するため月
別に色分けすることも検討。

代用紙幣の入手方法
・管理委員会からネット口座の減額と引き換えに入手できる。ただし代用紙幣には有
効期限を設け(または月別に色分けする)、退蔵およびそれ自体の転々流通を防ぐ。

37
原則 はオンライン 決済
  BASIC の決済は、原則としてインターネット上に開設された各自の口座(ホームページ)を使っておこなわれる。そ
こへアクセスする手段としてはパソコンまたは携帯電話を利用することになろう。だが、ここには問題もある。それは
、決済をいつ行うか、という問題だ。商品の販売には、通常リスクがともなう。購入者が、代金を支払うことなく商品
を持ち逃げしてしまう可能性があるからだ。したがって、オンライン決済は、(商品の受け渡しと代金支払いがその場
でできるのでない限り)たがいに顔見知りである等、当事者同士が一定の信頼関係で結ばれていることが前提条件とな
るだろう。一般に BtoB 取引においては、その場での現金決済というのはそれほど多くない。その点、これはそう大きな
問題ではないかもしれない。だが、一般の小売り業のように不特定多数の客を相手にせざるをえない業態の場合、これ
ではやはり不便であろう。
代用紙幣
 そこで、ここでは代用紙幣の使用を提案したい。代用紙幣の仕組みは、次のようなものである。
1、代用紙幣は、オンライン決済における口座(残高)と同様、通常の取引において「通貨」として使用できる。
2、代用紙幣を受け取った者は、それを管理委員会に持ち込むことで、自分の口座にそれを加算することができる。
3、代用紙幣は、管理委員会からネット口座の減額と引き換えに入手できる。
 ただし、この方法には問題もある。それは、取引税の徴収ができないことと、減価させることができないことだ。そ
こで、次のような方法を採ることも考えられる。
1、代用紙幣には有効期限を設ける(有効期限を明示するため発行月毎に色を変える方法もある)。
2、代用紙幣を発行する際、転々流通を見越してあらかじめ、一定比率の税を課す。
 このあたりは、今後検討を要する部分である。なお、これに関しては次のような案も考えられる。
1、個人発行の小切手方式にする。
2、広告スペースを設け、そこへの広告掲載の見返りに協賛企業から紙代、印刷代、市民所得分等を負担してもらう。

38
6 地域通貨( BASIC )の仕組み
(6)消滅貨幣方式と基礎所得の給付
減価率5%の場合
5CC
3CC

基礎所得基金
1000CC

A の口座

600CC

B の口座
4CC

4CC

すべての口座について、
毎月口座残高の2〜5%分を減価させる。

減価分はいったん基礎所得基金にプールされた後、
基礎所得としてメンバーに公平に再分配される。

39
減価 する 貨幣
  BASIC では、消滅貨幣方式を採用する。これは一定期間毎に一定比率で価値が減少する、というものだ。具体的に
は、すべての口座について、毎月残高の2〜5%分を減価させる、という仕組みである。そして、この減価分は、基礎
所得基金にいったんプールされた後、メンバーに公平に再分配される。また一定期間(たとえば3ヶ月)動かない(支
払いのない)口座については、減価率を高める、という手法も検討に価しよう。それは取引の促進とともに幽霊会員の
淘汰にも効果を発揮するだろう。
※ 基礎所得基金は管理委員会が管理する。
※ 減価させる比率は取引状況をみながら管理委員会が決定・調整する。
※ 口座から減価分を引き出す期日、および基礎所得として再配分する期日は別途管理委員会が決定する。
ところで、なぜ消滅貨幣方式を採るのか、その理由については前述したが、ここであらためてまとめれば次のようにな
る。
1、退蔵とそれによる貨幣不足、すなわち取引手段の不足の解消
2、消費(取引)の促進
3、貨幣保持者の特権の縮小(それはすなわち生産者の復権でもある)
4、無理な経済成長からくる環境と人間への負担軽減

「あらゆる生産物はその価値を劣化させる。それが自然の摂理であるのなら、貨幣もまた劣化せねば
ならない」ーーシルビオ・ゲゼル

40
6 地域通貨( BASIC )の仕組み
(7)取引税の徴収と基礎所得の給付

税率10%の場合

100CC
基礎所得基金

取引
1000CC

900CC
50CC

購買者

販売者
50CC

取引税として取引毎に
一律5〜10%を販売者から徴収

基礎所得としてメンバーに公平に再分配

41
取引税 を 基礎所得 の 原資 に
  BASIC では、取引毎に取引税を徴収する。そして、それを原資として、メンバー全員に基礎所得を給付する。この取
引税を負担するのは、販売者側である。すなわち、それは一種の所得税である。ではなぜ、購買者が負担する消費税方式
にしないのか。消費税方式にすると、買い物の度「よけいに支払わせられる」感覚が強くなり、購買者の購買動機を低下
させてしまうおそれがあるからだ。それでは減価型貨幣がもつせっかくの購買促進効果が相殺されてしまうことになろう
。
 なおこの仕組みでは、取引が活発化すればするほど、基礎所得の給付額も大きくなることになる。これはメンバーにし
てみれば、取引増大のためのインセンティブとなろう。それはいわば一種のストックオプションとしてメンバー全員の取
引動機を高めることになるはずである。
※ ストックオプション=上場前のベンチャー企業などが社員のやる気を引き出すため、未公開株を社員に提供する方法。
※ 税率は取引状況をみながら、管理委員会が決定・調整することになろう。
※ 基礎所得を給付する期日は別途管理委員会が決定する。
基礎所得
「ポスト工業社会の人間が SHE ビジョン(健全で人間的でエコロジー的な生き方)の夢を実現するのに必要な基礎的所得
を、都市に住む人にも農村に住む人にも一律に給付する基礎所得」(『21世紀の経済システム展望』/ジェームズ・ロ
バートソン著/シュマッハー双書)
基礎所得給付 のメリット
● 必要最低限の収入が確保されるため、生活の不安からくるストレスが少なくなる。
● 生活にゆとりが出るため、自発性の発露が促され、ボランティアや起業、芸術創作など、創造的な活動が活発化する。
● 犯罪が減り、社会的なコストがおさえられる。
● 富の遍在による有効需要の傾向的低下がくいとめられ、より公平な社会が実現できる。
● 一定の市場(有効需要)が毎年確保されるため、企業にとっては景気の変動にあまり左右されずにすむ

42
6 地域通貨( BASIC )の仕組み
(8)円貨との併用
地域通貨は原則として円貨と併用する。

Ex.  円貨:地域通貨=80%:20%
並行通貨制 の原則
  BASIC は、原則として円貨と並行して用いられる。なお BASIC の受け入れ比率は、1%〜100%まで各事業者が無理
のない範囲で、また事業活動にとってもっとも有益と思う比率でみずからの意志で決定してもらう。この並行通貨制のメ
リットは、次のようなものがある。
1、地域通貨分は実質的な値引きとなり、事業者は市場で優位に立てる(同時に円貨も獲得できる)。
2、円貨獲得が地域通貨使用の最終目的となることで、事業者の使用動機が高まる。
3、円貨を地域内にとどめ、域内での流通を促す効果をもつ(地域通貨による国民通貨の内部化)。
 たとえば、ここに同じ農家レストランを営む A 社と B 社があるとする。 A 社と B 社の BASIC の受け入れ比率は、それぞ
れ20%、40%であったとしよう。その場合、1000円の料理に対して、 A 社では800円と200 cc 、 B 社では、
600円と400 cc を、それぞれ支払わねばならない。
 さて、どちらがより多くの客を集めるだろうか。 B 社である。なぜなら、 A 社は円貨を800円を支払わねばならない
のに対して、 B 社では600円しか支払わなくてよいからだ。もちろん地域通貨による支払い分を忘れてはいけない。だ
が、一般に円貨を獲得するより、地域通貨を獲得することのほうが、比較的容易である。そのため、600円しか円貨を
支払わなくともよい B 社の方が、最終的に客を集めることとなろう。
 もっとも、 B 社にしても、一定量の円貨は必要であろう。したがって、 BAISC の受け入れ比率をどのレベルに設定する
かは、その利益構造とからめて最終的に各事業主が決定すべき戦略的な事項といえる。

43
6 地域通貨( BASIC )の仕組み
(9)貨幣発行権について

貨幣発行権は上場組合員に限定

(一般)事業者&一般参加者へ

担保証書預け入れ

上場組合

管理委員会

CC 発行

44
貨幣発行権 は上場組合員 に限定
  BASIC では、原則として上場組合員のみに貨幣発行権が与えられる。それは、第一にシステムの信頼性を維持するため
であり、第二に貨幣流通量を増やすためである。
● システムの信頼性維持
一般に参加メンバー全員に貨幣発行権を付与した場合、フリーライダー(ただ乗り)が出てくる可能性が高い。フリーライダーが多くなると、そ
こで取引される通貨の信頼性が損なわれ、やがてシステムそのものの崩壊を招いてしまう。そのため、 BASIC では、一定の条件を満たす者(ここ
では上場組合員)のみに貨幣発行権を与え、信用度の低い一般のメンバーには与えない。ただし、一般メンバーにも一定の上限付で貨幣発行権を
与えることは、取引促進の効果をもつ。このあたりは、取引状況をみながら管理委員会がその都度、判断することになろう。
● 貨幣流通量の増大
LETS 型の地域通貨においては、システム全体としての総取引額は常にプラスマイナスゼロである。ということはつまり、そこでの貨幣発行量は
、参加メンバーに対してどこまで貨幣発行を認めるか(赤字を認めるか)に左右される。一方、取引が活発になるためには、それに応じた十分な
量の貨幣が必要となる。だが、フリーライダーが出てくる危険性を考えるとやたらに貨幣発行を認めるわけにもいかない。このジレンマを解決す
るため、 BASIC では。一定の条件を満たすメンバー(上場組合員)に限って十分な量の貨幣発行権を与えるようにしている。ちなみにこれは、上
場組合がちょうど中央銀行のような存在になるものといえるだろう。

 ただし、貨幣発行権という特権をもつ上場組合員は、その代わりに一定の義務を負う。以下は、上場組合員の権利と義
務、そして上場組合員となる資格である。
上場組合員 の 権利
● 上場組合員は、「担保証書(労働もしくは物財提供を約した文書)」を管理委員会に預け入れ、代わりに額 面相当の地
域通貨( CC )を受け取ることができる。受け取った地域通貨はメンバーの間で円貨と同様、転々流通する。
上場組合員 の 義務
● 上場組合員は、発行額に見合った分を一定期間内に受け入れなければならない。
● 上場組合員は、定期的(年1回または半年に1回)に決済会議を開き、互いに収支を調整しあう。
●貨幣発行可能額は、前回の発行ー受け入れバランス実績をみながら管理委員会が決定する。
●発行ー受け入れバランスが回復不能と管理委員会が判断した場合、資格をはく奪されることがある。
● 万一、上場組合員のだれかが債務不履行に陥った場合、他の組合員は連帯してその債務を負わなければならない。
上場組合員 の 資格
● 事業者の中で一定レベル以上の技能をもち、かつ信用力のある者で、最低1人以上のメンバーからの推薦があった場合、
管理委員会で討議の上資格を付与する。

45
6 地域通貨( BASIC )の仕組み
(10) X さんの口座の動きから
年月日  
残高 
1 月 10 日
1 月 25 日

   取引内容  
プログラム開発受注( A 事業者から)
HP デザイン依頼( B デザイナーへ)

1 月 31 日

減価

1 月 31 日

基礎所得

2 月 28 日

減価

2 月 28 日

基礎所得

3 月 10 日

取引税=10% 減価率=5%
 入金額 
+20000

  出金額 

 

-2000 (取引税) +18000

0

-10000

+8000

0

-40

+7960

+210

0

+8170

0

-408

+7762

+352

0

+8114

有機野菜購入( C 農家から)

0

-5000

+3114

3 月 31 日

減価

0

-155

+2959

3 月 31 日

基礎所得

+186

0

+3145

4 月 12 日

プログラム開発受注( D 事業者から)

4 月 30 日

減価

4 月 30 日

基礎所得

+32000

-3200 (取引税) +31945

0

-1597

+30348

+652

0

+31000

46
7 課税について
地域通貨への課税(所得税)について、税務署は現状模様眺め
どう対応するか?
対応策1 地域通貨には非課税を主張
課税対象と目されるのは本来、地域通貨がなければ取引がまったくあるいは一部しかなかった分
であり、地域通貨分への課税はその本来の趣旨からいっても不適当であるとする考え方。税務処
理としては地域通貨分は割り引き扱い、もしくは宣伝費等の経費扱いとする。

対応策2 地域通貨分を別枠で計算し、課税。ただし納税も地域通貨で。
この場合、100%地域通貨を受け入れている事業者にとって円貨での納税はおおきな負担とな
る。そのため、納税も地域通貨でおこなうようにする。

対応策3 地域通貨分を含めた全売上高に対して課税。すべて円貨で納税する。
地域通貨の受け入れ比率が高いところほど不利になるためこれはできれば避けたい。また地域通
貨分の税金を自治体の借金返済にあてるのは不適当と思われる。地域通貨分の税金は、あくまで
も自治体住民のために使用すべきことを主張する。

47
8 取引循環イメージ

飲食店 A
営業 C

漬け物屋 B

飲食店 B

プログラマー A

WEB デザイナー H

農家レストラン N

大工 A

上場組合
プランナー H
有機農業家 L

旅館 B

デザイナー K

コピーライター B

デザイナー K
建築設計士 J

農家レストラン S

大工 B

有機農業家 E

ペンション M

飲食店 B

48
9 従来の地域通貨の問題点
取引が活発でない
対策

・ CtoC から BtoB へ(財・サービスの魅力をアップ)
・交換可能性(流動性)の増大
・消滅貨幣方式による取引促進
・円貨との連動による取引促進
・信用力向上
・基礎所得給付による運命共同体意識の向上

フリーライダーの存在
対策

・貨幣発行権者を限定
・基礎所得給付による運命共同体意識の向上

決済の手間が大きい
対策

・インターネットおよび携帯での決済を主とし、
 さらに代用紙幣(小切手等)を併用

対策

・ LETS 方式
・税務処理については別途説明

法的問題

49
10 取引促進策
(1)概要

オンライン
需要者&供給者リストをウエブで公開
DB 連動オプトインメール配信&入札システムの利用

オフライン
カタログ配付
屋台マーケット(市民市場)の創設

50
地域通貨市場 でも販売努力 は必要
 地域通貨にまつわる問題としてよく指摘されるのは、取引が活発でないということだ。しかし、よく考えてみたい。
そもそも事業主側がなんの努力もせず商品が自動的に売れるなどということがあるだろうか。円貨市場においても、事
業主は巨額な費用を投じて広告を打ったり、これまた年間何百万円ものコストをかけて営業マンを雇うなど多大な努力
を払っていることを忘れてはならない。全国市場で通用する商品を扱っている事業主でさえそうなのだ。ましてや、そ
れほど商品力のないローカルな商品を扱っている事業主が、地域通貨を導入したからといって、何もせずただだまって
いて売れると考えるのは、あまりにも虫がよすぎるとはいえないだろうか。
 そこで、 BASIC ではメンバー同士の取引を支援するため以下のような需給マッチングサービスを行うことにする。
オンライン
1、需要者&供給者リストをウエブで公開
2、 DB 連動オプトインメール配信&入札システムの利用
オフライン
1、カタログ配付
2、市民市場の創設
商品 の 流動性 を 高 める
 貨幣と商品をめぐる矛盾の根本をなすもの、それは流動性(交換可能性)の違いである。貨幣はいうまでもなく、い
つでもどこでもどんな商品とも交換できる。すなわち、その流動性はきわめて高い。それに対して商品はどうだろう。
商品の種類にもよるが、その流動性は貨幣ほど高くない。とくに鮮魚などは、時間とともに商品価値を失っていくこと
もあり、その流動性はきわめて低いといえるだろう。
 この貨幣と商品の間にある流動性格差が問題なのだ。すなわち、一方では貨幣の流動性が高すぎること、そして一方
では商品の流動性が低すぎること、それこそが現代の貨幣システムが抱える問題の根源をなしているといっても過言で
はないだろう。
 その点、地域通貨、とりわけ消滅貨幣という考え方は、貨幣の高すぎる流動性を低下させようという試みであり、一
方、この需給マッチングシステムは、商品の流動性を高めようとする試みであるといえよう。

51
10 取引促進策

(2)需要者&供給者リストをウエブ上で公開
売ります(供給者)リスト

買います(需要者)リスト
技術系

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デザイン系

技術系

売りたい人
買いたい人は
ウエブを閲覧して
個別に取引してもらう

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デザイン系

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バナー

● 検索機能
●業種別・サービス別ディレクトリ
● 上場組合・事業者・一般別ディレクトリ

● 検索機能
●業種別・サービス別ディレクトリ
● 上場組合・事業者・一般別ディレクトリ

DB
● リスト掲載は無料
●バナー、太字掲載は有料

52
需給 リストを HP で公開
 これは、需要者のニーズと供給者のシーズをリストアップ、それらを HP 上で公開する方法である。
1、買います(需要者)リストと、売ります(供給者)リストをそれぞれ別ページ立てで構成する。
2、取引される商品・サービスを整理して利用しやすいようにする。
3、分類方法は、種類別、業種別、さらにサービス提供者の場合は上場組合、種類毎、業種毎、毎に分類する。
4、可能であれば、すべてのデータを DB に格納し、キーワード毎に検索できるようにする。
 なお、この HP を広告媒体とみなせば、ここからの収益も期待できる。
 たとえば、
 1、リスト掲載は無料
 2、太字リストおよびバナー広告は有料
 といった料金体系が考えられる。
※ 掲載料は円貨でもいいし、地域通貨でもよい。
※ 掲載料を基礎所得としてメンバー全員に再分配するという方法もある。

53
10 取引促進策

(3) DB 連動オプトインメール配信&入札システム

応札

入札
一斉メール配信

買いたい or 売りたい

A社

HP

応札登録

B社
応札情報

C社
D社

DB

E社

取引依頼登録( A 社)→一斉メール配信( HP)→ 応札 ( 応札企業)

HP

指名

A社

B社
C社
D社

DB

E社

応札登録(応札企業)→ A 社用応札情報ページ作成( HP )→指名( A 社 )

入札の例
プログラムの外注先募集、有機野菜セールの告知等々

54
DB 連動 オプトインメール配信&入札 システム
HP 上での需給リストの公開は、需要者が連絡してくるのを供給者がただひたすら待っている、という意味でいわば
「待ち」の営業である。これに対して、供給者が需要者の元へ積極的に PR する、という「攻め」の営業があってもいい
はずだ。 DB 連動オプトインメール配信&入札システムは、こうした攻めの営業を支援するツールである。
その仕組みは以下の通りである。 ※供給者の情報はあらかじめ DB 化されている。
1、取引(売りたい or 買いたい)を求める A 社は HP にアクセスし、取引条件を入力する(入札管理用ページが A 社の
ために自動作成される)。
2、 A 社が入力した情報は、あらかじめその情報に対してオプトインすることを承諾した供給者(応札企業)のもとへ
自動配信される。
3、応札企業は、配信されたメールを読み、取引条件に納得した上で応札する(応札は HP 上から可能)。応札情報は
、 A 社の入札管理用ページに自動的に反映される。
4、 A 社は、入札管理用ページをみながら、どの業者に発注するかを決定する。
なお、使用料を有料とすることで、このシステムからの収益も期待できる。ただし、有料にしてしまうと利用頻度が
減ってしまうおそれがある。そのため、たとえば、
 1、「買いたい」入札は無料。
 2、「売りたい」入札は有料。
とするのも一法であろう。
※ 使用料は円貨でもいいし、地域通貨でもよい。
※ 使用料を基礎所得としてメンバー全員に再分配するという方法もある。

55
10 取引促進策

(4)カタログ配付
紙媒体による需給リストを作成し、参加者が容易に入手できるようにする。

入手方法
● 店頭などに置いてもらう
● 町の広報誌などと一緒に各家庭に配付する。

展開方法
● 参加者同士の連帯感を培うインナーツールとしての利用も可
● 有料の広告スペースをつくり、独立採算が可能なコミュニティビジネスへ成長させる

56
11 取引促進策

(5)屋台マーケットの創設

BASIC が使用できる屋台マーケットを創設、
フリーマーケット感覚で気軽に出店できる場を提供する。
● 屋台は出展者に有料で貸し出す。
● 屋台なしのフリースペースもあり。
● 休日などを利用して定期的に開催する。
● 取引が想定される商品は、農産物、料理、古着、古道具、古本、他一般商材
● トライアルショップとして起業の訓練にもなる。
● 代用紙幣の発行所およびネット決済代行サービス窓口を近くに設置する。
● 公民館など、常時開放されたスペースであれば、
 一種のカタログショップとして訪問者が気軽に手にとれるよう需給リストを展示する。
● 出店料は原則として有料(円貨 orBASIC )とする。
● 出店料、屋台レンタル料などの利益分は基礎所得基金に組み込む。

  BASIC は、 BtoB 型の地域通貨であり、その中核となるのは何らかの財・サービスを生産できる事業者である。
しかもその取引がより活発になるためには、高い商品力をもった魅力的な事業主が、できるだけ多く「上場組合
員」あるいは「事業主」として参画してもらう必要がある。そのためには、既存事業者の参画を促すことはもち
ろん大事だが、それと同時に将来の事業者を育成することもまた重要な課題といえるだろう。そこで、ここでは
『屋台マーケット』の創設を提案したい。これは、複数の屋台が集まって創る一種のショッピングモールであり
、形式としてはフリーマーケットの延長線上にあるものと考えてさしつかえない。だが、屋台という道具立てを
使うことで、現実のショッピングモールに近い存在感と信頼感を打ち出すことができるし、また話題としても取
り上げられやすいため、町の PR にもなるというメリットがある。

57
12 おすそわけドットコムとの連携
白鷹地域通貨圏

(一種の FTA =自由貿易協定)

DB

おすそわけ
ドットコム

円+ CC

円+ CC
野菜提供

有機農家
CC 使用

東京会員

コピーライティング

CC 獲得

イベント

おすそわけドットコムと地域通貨との連携のメリット

・東京会員のリピーター化(販売先市場の拡大)
・東京会員(外部資源)の有効活用(資源調達先の多様化)

58

白
鷹
地
域
通
貨
(
本
国
)
 域通貨という視点からみた場合、「おすそわけドットコム」は、 FTA (自由貿易協定)にたとえられるだろう。
 そもそも地域通貨 BASIC は、マネーの域外流出をくいとめることで、町内産業を保護・育成する役割をはたす。これ
は外資との競争を回避することで国内産業を育成しようとする国家の保護貿易政策にたとえられる。それに対して、おす
そわけドットコムには、ふたつの役割がある。ひとつは販売先市場の確保である。これは、具体的には余剰農産物の販売
先としての東京市場に対するアクセスの提供ということになるだろう。もうひとつは外部資源の有効活用である。とくに
白鷹町の場合、人材に限りがあることからマーケティング等における知識・ノウハウはどうしても不足しがちになる。お
すそわけドットコムは、こうした不足する資源を町外から調達する有効に機能するだろう。
 地域通貨はその性格上、ややもすれば保護貿易主義的で閉鎖的な経済モデルに陥りやすい。一方、グローバル市場に対
するアクセスルートをすべて遮断してしまうのは「外貨獲得」の面からいっても得策ではない。その点、域通貨とおすそ
わけドットコムとの連携は、きわめて理想的なものといえよう。それはいわば車の両輪として、閉鎖的な地域主義にも、
またいきすぎた自由競争主義にも傾くことなく、よりバランスのとれた発展戦略をもたらすことだろう。

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