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Legalization of digital textbooks and future issues.
- 1. 「デジタル教科書」の法定化と今後の課題
Legalization of digital textbooks and future issues.
井上 芳郎 Yoshiro INOUE
埼玉県立入間向陽高等学校 Iruma-Kouyou Highschool, Saitama Pref. Japan.
【要旨】学校教育法などの改正により「デジタル教科書」の法定化が実現したが、残された課題
は多い。アクセシブルな「デジタル教科書」の在り方について、昨年の富山大会に続き「合理的
配慮」提供に係る、「基礎的環境整備」の観点からの検討を試み具体的な提言を示したい。
【キーワード】 デジタル教科書 合理的配慮 読書バリアフリー法 アクセシビリティ DAISY
1. はじめに
2019 年 4 月 1 日「学校教育法等の一部
を改正する法律」が施行され、「学習者用
デジタル教科書(以下デジタル教科書)」
と従来の「紙教科書」の併用が正式に認
められることとなった。さらに 6 月 28 日
には「学校教育の情報化の推進に関する
法律」が施行され、デジタル教科書その
他のデジタル教材を活用した学習の推進
や、国として障害のある児童生徒の教育
環境の整備を図るため必要な施策を講ず
ることなどが示された。
また同日には、いわゆる「読書バリア
フリー法」も施行され、国としてアクセ
シブルな電子書籍の普及や利活用のため
の環境整備の推進に係る、財政措置を含
む必要な措置を講ずるべきものとされた。
このように法整備については一定程度
の進展を見てはいるものの、はたして実
効性のある制度設計や具体的な施策、特
に財政措置などにつながっていくのか、
今後に残された課題は多い。
2. デジタル教科書の発行状況
文科省は各教科書発行者(出版社)に
対して、2019 年 1 月時点でのデジタル教
科書の発行予定状況について調査した。
この結果をもとにしてデジタル教科書を
発行予定の発行者数及び、発行予定タイ
トル数の概要を下表にまとめた。
発行者のデジタル教科書発行に対する
取り組みは、必ずしも積極的であるとは
いえない。2020~2022 年度にかけ小中高
の順に新教育課程が実施され、教科書も
全面的な改定が行われる。これに合わせ
てデジタル化が進むことに期待したいと
ころだが、今後の文科省の施策により、
どれだけ教科書発行者のインセンティブ
が高められるかには疑問が残る。
3. デジタル教科書使用の費用負担
2018 年 12 月に策定の「学習者用デジ
タル教科書の効果的な活用の在り方等に
関するガイドライン」では、「義務教育諸
学校については、紙の教科書が無償給与
され、学習者用デジタル教科書は無償給
与されない」としている。
特に問題なのは、障害等により通常の
紙教科書での学習に困難のある児童生徒
についても「無償給与」の対象としない
ことと、国会答弁での文科省見解で、デ
ジタル教科書や閲覧用端末の費用負担に
ついて、「各自治体において(学校)設置
- 2. 者として適切にご判断いただく。」として、
責任の所在を不明確にした点である。
しかしその一方で同ガイドラインでは、
「教科用特定図書等である音声教材や
PDF 版拡大図書については、学習者用デ
ジタル教科書に該当しないが、特別な配
慮を必要とする児童生徒等の様々な学習
ニーズを満たすため無償提供されており、
年々その需要が高まっている。」としてい
る。「無償提供」と書かれてはいるけれど
も、少なくとも DAISY 教科書に関して
は、そのほとんどの製作を「ボランティ
ア団体」に依存しているのが現状である。
国会答弁での文科省見解では、あくまで
も「調査研究の成果として無償提供して
いる」ものであり、その製作のための直
接的な財政支援はされていない。このた
め「ボランティア団体」による自助努力
も限界に近づいている。
4. DAISY 教科書の普及状況
日本障害者リハビリテーション協会で
は 2008 年度よりボランティア団体等と
協力して、義務教育段階の児童生徒を対
象にして DAISY 教科書の製作と提供を
続けてきている。文科省の 2012 年調査
によると義務教育段階の通常の学級に在
籍する児童生徒のうち、2.4%程度が「読
み書き」に著しい困難をもつと推定され
る。これ以外にも様々な障害や日本語以
外を母語とするなどの理由により、通常
の紙教科書での学習に困難のある児童生
徒は、義務教育段階だけでも数十万人規
模で存在すると推定されている。
このような児童生徒に対して DAISY
教科書による学習支援が効果的であるこ
とは、文科省自らも認識しているところ
であり、2016 年施行の「障害者差別解消
法」を根拠とした、公立学校での「合理
的配慮」提供の義務化により年々その利
用者数が増加している。グラフ(リハビ
リテーション協会作成)に示すように、
最近では各自治体の教育委員会や学校図
書館による一括使用申請数の増加が特徴
的であり、2018 年度の実績では利用者数
はついに 1 万名を超えている。
5. まとめにかえた提言
「障害者差別解消法」の施行により、
国として「合理的配慮」提供のための「基
礎的環境整備」に必要な施策を講ずる義
務が生じた。「検定教科書」はその使用が
義務づけられているのだから、まさに国
の責務としてアクセシビリティ確保に取
り組まねばならない。最後に喫緊の取り
組むべき課題として、以下三点につき具
体的な提言を示しまとめに代えたい。
① DAISY 教科書等を「音声教材」とし
ての位置づけを変更し、「学習者用デジ
タル教科書」と「見なす」、あるいは「読
み替える」こととする。これは法改正せ
ずとも、文科省の判断で可能である。
② DAISY 教科書などアクセシブルなデ
ジタル教科書閲覧用端末(ノートパソコ
ン・タブレット等)を公費で貸与する。
③ 製作ボランティア団体の負担する製
作経費については、公的支援をする。
以上の施策に要する当面の財政措置と
しては、単年度で十数億円程度と見積も
ることができる。教科書無償給与のため
の予算措置が約 450 億円なので、その 3%
程度を追加することで可能である。